「此処か」
漸く着いたと言い含めるような言い方をしながらも到着した雄英高校、元々住んでいた場所からは随分と遠いので暫くは此方で家を借りる事になる。何とも勿体ない事だが師曰く
「暮らしの中に修行あり、じゃよ」
とトライアングルを鳴らしながら窘められた。まあそう言われてしまったら弟子の自分は何も言えなくなるので従う事にする、そのまま校舎へと入って自分の教室へと向かって行く。雄英の敷地は広いがそれは校舎にも適応されるらしく豪く広い、しかも金が掛かっている。流石はヒーロー科最難関校にして多くの有名ヒーローを輩出してきた超エリート校と言った所か……そう思いながらも漸く到着した教室、1-A、此処が自分の教室―――の筈なのだが、教室の入り口では何やら男子と女子が話をしていて入れそうにない。
「入れない―――」
「お友達ごっこがしたいなら余所へ行け。ここは……ヒーロー科だぞ」
そう言おうとした時、背後から何やら声がして来た。そこには余りにもズボラすぎる風貌をした男が寝袋から顔を出しながら忠告めいた事を呟いていた、警告なのだろうか……しかし高校にいる人間としても相応しくない恰好では説得力が余りにもないと言わざるを得ない。それは男子と女子も同じなのか言葉を失っている。
「ハイ、静かになるまで八秒かかりました。時間は有限。君達は合理性に欠けるね」
その男は自分が担任である相澤 消太であると伝える。それに思わず先生で担任!?と驚きの反応が出来るがそれを切り捨てるかのように新しい言葉を飛ばす。それは酷く簡単な指示だった、体操服に着替えてグラウンドに出ろというものだった。余りにも突然すぎる指示に皆は戸惑いを隠せない。
「質問宜しいでしょうか!?」
「却下、指示に従え」
「分かった。指示に従おう」
が、その中でただ一人だけその言葉に素直に従う事を表明したものが居た、零一である。彼は直ぐに自分に机を見つけるとそこに荷物を放り投げると体操服を手に取ると更衣室へと向かって行く。その姿に相澤は
「合理的で結構、お前らもさっさとしろ」
とだけ言い残した。困惑しながらも自分達もと体操服を手に取って更衣室へと向かって行く、そして更衣室では既に着替え始めている零一に対して質問をしようとした眼鏡男子、飯田は零一に声を掛けた。
「君は何とも思わなかったのかい、これはいきなり過ぎると思うが!!」
「……いきなり、ね……」
話し方や立ち振る舞いからきっと良い教育を受けて来た事が伺える、故に硬く常識に縛られ続けている。
「いきなりに対処する、そう言うのを目指して此処に来たんじゃないのか」
着替えも終わったのでそう言い残して一足先に更衣室を出る。良くも悪くも自分とは違い過ぎている、まあそれも悪い事ではないが……兎も角グラウンドに出てきた全員、告げられた次の指示は……個性把握テストを行う、という趣旨のものだった。
「テ、テストっていきなりですか!?あの、入学式とかガイダンスは!?」
「ヒーローを目指すならそんな悠長な行事、出る時間ないよ。雄英は自由な校風が売り文句。それは先生達もまた然り」
雄英は自由な校風が売り、常軌を逸した授業も教師によっては平然と行われる。そしてそれがいきなり自分たちに適応されるという事に皆戸惑っているが、ヒーローが立ち向かう災害やヴィランだって何も待ってくれる事はない。こんな事で戸惑って如何すると言わんばかりに、自分達の動揺なんて知らんと無視するかの如く、相澤が爆豪を見た。
「個性禁止の体力テストをお前ら中学にやってんだろ。平均を成す人間の定義が崩れてなおそれを作り続けるのは非合理的、まあこれは文部科学省の怠慢だから今は良い。爆豪、個性使ってやってみろ」
促された爆豪はそのまま軽いストレッチをこなした後にボールを投げる体勢に入った。
「んじゃまあ―――死ねぇッ!!!!!」
『……死ね?』
本当にヒーローを目指す気あるのか、と言いたくなるような掛け声と共に投げられるボール。それには同時に彼の手から起きた爆発の爆風が乗せられて通常の投擲ではありえない勢いが加算されて吹き飛んで行く、爆豪の個性が名前が示すかのような爆破。爆風を利用してソフトボールが投げられる、一瞬にしてボールは見えなくなっていくが落ちた瞬間に相澤は持っていた端末を見せる。そこには705.2mと表示されている。
「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの筋を形成する合理的手段だ」
それを見て皆から歓声が上がる、何せこれまで自分達は個性を個性の使用が許可されている場所でしか使えなかったのだ。体力テストでも個性は原則禁止、だがこれは本当の意味での全力を出していい。そう言われたら滾るに決まっている。だがそんな面々を相澤は冷ややかな目で見つめていた。
「……面白そうか。ヒーローになるための三年間、君らはそんな腹積もりで過ごすつもりでいるのか。ならこのテストで最下位だった生徒は除籍する」
『ええええええっっっ!!?』
「改めて言おう、ようこそ雄英へ。此処はヒーローを目指す最高峰、並大抵の覚悟や才覚では淘汰される世界へ―――此処では生徒の如何は教師の自由、分かりやすく言えば俺がルールだ。さあ嫌なら死ぬ気で結果を出せ」
何という横暴なルール……だが、そうでもしなければ自分達がなりたいヒーローへの道なんて開けない、故に皆は気合を入れていく……が零一は何処かマイペースに構えている。特に何も気張らず、リラックスしている。例え相澤から睨まれようとも……
「(面倒な人だな、俺に言ってるようなもんか)」
分かりやすい警告だ、この中で唯一と言ってもいい無個性の自分。明確に他者より劣る自分を真っ先に落とすと言っているような物、そしてが嫌なら入試でも見せたあの力を見せてみろ、本当に個性でないか見極めてやると言いたげな瞳だ。だったら勝手にやるがいい、自分は自分のやりたいようにやるだけだ。
「あいつ、本当に無個性か……?」
思わず相澤はそんな言葉を呟いてしまった。現在進行形に続けられている個性把握テスト、此処でA組の力を見るつもりだったが……その中で全く個性らしい力を見せる気がない無月 零一、だがその記録はどれも飛び抜けている。現状では総合戦績は4位、時々自分の個性を発動させてみたが、その記録が衰える気配はない。つまりあれは自力の身体能力という事になるのだが……
「無月、次は本気でやれ。でなきゃ除籍だ」
『ええっ!?』
思わず周囲から驚きの言葉が溢れた。これまでも他を圧倒するような物を見せ付けているのにこれ以上の先があるのか、中には舐めプかと憤ってる者も居るが相澤は気にする事もなく警告し続けた。それを受けて零一は溜息をついた。折角だから自分が何処までやれるのかを試そうとしたのだが……まあしょうがないかと溜息をつきながらも一旦ボールを置いた。
「フゥゥゥゥゥ……スゥゥゥゥゥハァァァァァ……」
深く息を吸い、深く吐く。それを数度繰り返していく、それによって頭の中を空にする、忘我の中に自分を落としながらもリセットしながらも瞳を開くと同時に零一を中心に周囲に爆風のような物が溢れた。
「な、なんだこれ!?」
「風!?風があいつの個性なのか!?」
「じゃあ今までなんでそれを使わなかったんだよ!?」
「これって、風じゃなくて……もしかして―――!!」
その中心でまるで演武を舞うかのようにしながらも零一は己の中に眠る獣を開放する。
「轟け、獣の鼓動!!激技、臨気激装!!!」
全身から溢れ出して行くオーラ……いや激気、そしてもう一つ、彼からは圧倒的な圧迫感と力強さを感じさせるオーラ、臨気が溢れ出した。それは零一の全身を包み込んでいく。熱い激気と冷たい臨気。その二つが一つとなりながらその身を守る強固な鎧と化して行く。そしてそこにあったのは獅子の如き鬣を備えた白と赤が混じった戦士の姿だった。
「勇往邁進。魂から全身へ、猛る勇気の力―――
「激獣……」
『ライガー拳!?』
姿を変じた零一の名乗りに圧倒されながらもそれに見惚れる全員、そしてそのまま零一はボールを握り直すと力を込めながら叫んだ。
「激技、剛勇咆弾!!」
『ゴオオオオオッッ!!!』
練り上げられた激気を自らの内に宿す獣の形に変えて放つ一撃、それによって現れるのはライガー。ライオンとトラの混血の生き物、今の零一と同じ白いライガーはそのまま投げられたボールを加えこむとそのまま空を駆けて行く。余りの事に呆然とするも相澤は気を取り直して手元のタブレットを見つつも個性を発動させつつ零一を見る。だが距離はどんどん伸びている、つまり……個性ではない。
「な、んだよあれ……如何言う個性だよあれ……」
「個性じゃない」
思わず一人が呟いた言葉に零一は答えた。
「今のは獣拳、激獣ライガー拳だ」
そう答える零一は明るくも力強い声だった。その声はまるでライガーの雄叫びのようだった。
という訳で主人公、
そして分かるには分かる白いライガー、後名前。うん、つまりそう言う事だ。