「2位通過……いや、本当に、彼は無個性なのか……!?」
「地面を掘り勧めたりあれだけの絶壁をやすやすと登ったり競技用とはいえ地雷を踏み越えて行ったり……」
「獣拳……それが彼の強さの秘密なのか」
障害物走の上位が完全に決定し続々とゴールが決まっていく中で話題は矢張り上位、いや零一に集中していたと言ってもいい。緑谷の見事な追い抜きも素晴らしかったがそれ以上に無個性であるのにも拘らず此処までの成績を上げている異常性に途轍もない戦闘能力、話題にならない方が可笑しい。
「そうだ直ぐに情報を集めろ、獣拳だ!獣の拳と書いて獣拳!!」
「ああっ何も分からないだと!?ふざけるな調べ直せ!!」
その強さの秘密とされる獣拳をプロヒーロー達は必死に調べ上げようとしている動きも既に出来始めている、だがそれは上手くは行かない事だろう。それをシャーフーは横眼で眺めながらもたこ焼きを頬張るのであった。
「見事だよ~零一~!!!思わずシャッキンキーンだよ!!!」
「うむうむ」
そんな中で次の種目が発表された、それは―――騎馬戦である。個人による順位の奪い合いが行われていたと思いきや今度は協力を求めての団体戦。参加者は2〜4人のチームを自由に組んで騎馬を作り、障害物走の順位で得られたポイントを合計した鉢巻を装着しその鉢巻を奪い合い、合計ポイントの上位4チームが本選勝ち抜けるというルールになる。
『そしてポイントだけど最下位43位が5ポイント、42位が10ポイントと言った感じに徐々に増えて行く。そして……一位に与えられるポイントは、1000万!!!!』
「バランス調整へたくそか」
と思わず口に出してしまった零一、そう言う彼も2位なので205Pを課されている。まあ自分よりも圧倒的な視線を集めているのは当然緑谷だった、何せ1000万P。この騎馬戦のポイント、2位から43位を全て集めたとしても遠く及ばない。つまり彼のポイントさえ奪えば勝利が確定する一発逆転の切り札。それは逆に言えば緑谷からすれば自分のPさえ守り抜けた本選勝ち抜けは確定―――但し、ちゃんとした騎馬を組めればの話なのだが……何せ、一緒に守るよりも奪い取る方が圧倒的に楽。
『因みに個性による攻撃も当然ありよ!!但し、あくまで騎馬戦なので悪質な崩し目的は一発退場とします!!』
その辺りの最低限は確りとルールで保証するのか、バランス調整は酷いのに……と勝手にツッコミを入れていると騎馬を組む15分が与えられた、早速誰かを探そうとしたのだが―――誰も近くにいない。
「ある種当然か」
「あれあれ、なんでみんな零一から離れるんでしょう。ポイント的に魅力だし戦力としては十分な筈なのに」
チーム組の時間になって直ぐに零一は避けられていた、まるで虐めの現場を見ているような気分になって来たのかシャッキーは何故なのかと首を傾げているとシャーフーは水筒の中に入れてきて温かい緑茶を啜りながら言った。
「無個性と宣言しておきながらもあれだけの力を発揮しとるんじゃ、警戒されてるんじゃよ。逆に分からないからチームとして組むのは危険性があるとおもわれてるんじゃよ」
「あ~……そう言われたら納得ですね」
現代において個性というのはあって当然という認識が強い。だが零一にはそれがないのに獣拳という訳も分からない力を持っている、故に敬遠されている。
「でもこのままじゃ組めないですよ騎馬」
「大丈夫じゃよ、ほれっあやつには友人が居る故な」
と言った先には一人に話しかけられている零一の姿があった。
「零一、良かったら組まないか?」
「尾白か」
そう、話しかけてきたのは尾白であった。尾白からすれば零一は無個性であるのに自分達を圧倒する者ではなく対等な友人にして獣拳の手解きをしてくれる兄弟子なのである。
「獣拳を修める者同士、組むのも一興だと思ってさ」
「ああ良いだろう。マスター達にも良い報告が出来そうだ」
視線を向けるとそこではシャーフーは微笑み、シャッキーは応援の為なのかポーズを取っている。兎も角これで二人にはなったので最低限の騎馬を組む事が出来る。まあ騎馬というか唯の肩車に過ぎないような気もするのだが……。
「人数、空いてるか?」
其処に声が掛けられた、二人しかいない状態で声を掛けてくるのは誰なのだろうかと振り向いてみるとそこに居たのは体育祭前に宣戦布告をしに来た普通科の生徒、心操であった。
「空いてるなら入れて貰えるか」
「意外だね、あんな事言ったのに声掛けて来るなんて……」
「聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥だ」
頼みながらも挑発も交えている物言い、だがその瞳には真剣さが溢れていた。零一は僅かに視線をズラして身体を見てみると手や腕に傷が見えた、そしてあの時に比べて覇気も強い、自分の言葉を真面目に受け取って今日までしっかりとした鍛錬を積んできたいい証拠だろう。信頼出来ると踏んで尾白を見るとそっちが良いならと肩を竦められる。
「分かった、なら何が出来る?」
「個性の事か。なら今実践してもいいか、説明するよりもそっちが分かりやすいと思う」
「ああその方が俺としても有難い―――」
受け答えをした時、意識が唐突に薄れていく感覚がした。意識の混濁、いや意識が乗っ取られていくような……そんな物を感じた。
「零一?」
唐突に静かになった彼を心配して声を掛けるが一切反応しない、が直後に零一は顔を上げると後ろへと跳んだ。空中で回転しつつも着地するが、その体勢は四足獣のそれであり低い唸り声を上げている。臨気激装の姿も相まってライガーが此方を威嚇しているようにしか見えなかった。
「グゥゥゥゥゥゥ……ゴォオオオオオオオオ!!」
「なっ……如何なってんだ……!?」
「いやそれは俺が聞きたいんだけど!?」
上げられた雄叫びは完全に獣の物だった。それには心操も予想外だったのか完全に取り乱していた。周囲も何が起きているのかと動揺していると、ゆっくりと零一は立ち上がって胸にあるライガーの顔を撫でながら優しい声色で語り掛けながら此方に歩いて来た。
「俺なら大丈夫だライガー、そんなに警戒するな……悪いライガーが驚かせた」
「い、今のは……」
先程の荒々しい獣のような振る舞いから一転、元の零一に戻った様子に困惑する心操。尾白は何かを察したのかもしかしてと問いかけた。
「今のって零一の中にいる獣、ライガーなのか?」
「ああそうだ。心操、お前の個性は精神干渉系か?」
「あ、ああ。所謂……洗脳だ、返事をした相手を操れる」
洗脳と言われて零一は納得したような声を上げた。
「成程な。ライガーとは長い付き合いでな、気難しい性格なんだ。自分が嫌な事は意地でもしないし命令される事も大っ嫌いだ。きっとお前の洗脳も命令だと思って拒絶したんだろうな。済まない気を悪くさせたな」
「ああいや……その」
心操は困惑していた。自身の個性は洗脳、返事をした相手を操る事が出来る個性。故か今までヴィラン向きやら酷い事を言われて続けて来た、だが……目の前の零一は嫌悪感を出すどころか自分に謝罪してくれた。余りにも予想もしてなかった反応に言葉が見つからない。
「それにしても洗脳か、かなり強い個性じゃないかなそれ。パニック状態の相手だって落ち着かせる事も出来るしヒーロー向きだと思う」
「俺は
「あっそれいいね、人質とかいても直ぐに解決できる」
尾白と個性の活用方法を話し合っている、あれだけヴィラン向きだと何だのと言われて来たのに……それが堪らない位嬉しかった。
「なんか、有難う……ヒーロー向きなんて初めて言われたよ」
「洗脳だからヴィラン向きってか、安直な発想だな。思考しない馬鹿の話なんか気にするな」
「相澤先生だったら合理的な個性だとか言うよね」
「ああ、寧ろ心操自身が周囲からの言葉で軽い洗脳状態だったんだろうな。ヒーロー向きではないと思い込んでいる」
それを聞いて思わず笑えてしまった、自分が洗脳状態?する側である筈の自分が?なんて滑稽な事だろうか……だが同時に晴れやかな気持ちなって来た、自分の個性を此処まで認めてくれる人が居る事が堪らなく嬉しかった。胸で使えていた物を吐き出しながら心操は笑って言った。
「心操 人使だ。個性は洗脳、上手く使ってくれ」
「尾白 猿夫。個性は尻尾」
「無個性の無月 零一だ」
三人は揃って硬い握手を交わす。そんな様子にミッドナイトは思わず身震いをしながらも恍惚とした表情をしてしまった。
「それで他の奴も探すか?」
「いや、三人で十分だ。尾白、俺と騎馬だ」
「分かった、んじゃ心操君に騎手は預けるよ」
「お、俺で良いのか?」
「何言ってるんだ、お前の個性は騎手でこそ輝ける。存分に輝け」
洗脳という余りにも凄まじい初見殺し性能を秘めた個性、それこそ思考に力を割ける騎手であった方がいい。
「動きは獣拳使いに任せておけ」
「そうそう、俺の尻尾も活かせるしね」
「ハハッ……何だろうな、負ける気しないなこのチーム」
「その意気だ心操、後でお前をバエさんに紹介してやるよ。激獣フライ拳はお前の個性と相性抜群だ」
「あっそれ私も思いました、お望みであればお教えしますよ?」
「うわあっ!?」
突然やって来たバエに声を上げて驚いてしりもちをついてしまった心操を見て思わず尾白と零一は笑ってしまった。それに釣られるように心操も大きな声で笑った、騎馬戦の前とは思えない程に和やかで楽し気な空気がそこにはあった。
洗脳って呼び方がまずいですよね、他の名前にすれば印象も変えられたでしょうに……。
ほら、マインドなんちゃらみたいにすれば……あれ、大して変わってない?
後10連一回でアストンマーチャンが二人きました。というかマーチャンなんか重くね!!?ホントにウマ娘のキャラか!?なんかこんな設定のキャラ他作品で見たぞ!!!