獣拳のヒーローアカデミア   作:魔女っ子アルト姫

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第23話

「成程……そう言う訳だったのか」

「……ああ」

 

何処か気まずくなってしまった二人、まさか轟が男装をしているなんて思いもしなかった。

 

「USJの時、葉隠が如何にも言い淀んでたがあの時って」

「……ちょっとバレそうになって」

 

如何やらUSJの一件でも危ない時があったらしいが、その時に見たのは葉隠のみだった上に彼女は内緒にしてくれると約束してくれたとの事。それはそれとして……個性によってそこまでの想い悩みを抱えているというのは正直零一からすれば意外な物だった。零一からすれば個性は絶対に手に入らない物の象徴的な存在、個性関係のコンプレックスはあるとは思っていたが此処までのものがあるのは予想外だった。

 

「それで獣拳を、臨気の事を聞いてきた訳か」

「……」

 

素直に頷く轟に零一は理解が出来た。そこまでの強い憎しみがあるならば臨気は間違いなく相当なものに増幅される事だろう、それを使ってエンデヴァーを越えたいと思っていただろう。

 

「如何して話した、俺は獣拳を学び続けるなら臨気を教えるつもりだった」

「……したくなかった、真面目に獣拳に取り組んでる二人を見てたら」

 

最初は確かに臨気目当てで激気の事なんて大して興味も無かった、だが獣拳との向き合っていく内に自分の中に獣を感じ、正義の心で生み出す激気を作り出せるようになっていく中で真面目に修練に励む尾白、自分達の指導に一切手を抜く事もなく懸命に指導をしてくれる零一に申し訳なさが生まれて来た。憎悪によって覆い尽くされていた正義の心が自分の行いは卑怯ではないのか、と自分に問いかけてくるような気がした。

 

「だから話そうって思った。話したかった」

「……そうか、もう立派な獣拳使いだな」

 

激気は正義の心を持つ者にしか使えない、だが獣拳使いが常に正義の側に立ち続けるとは限らない。時や環境によって揺れ動くのが人間、轟もその内の一人だったが修行で高めていた激気によって一度立ち止まって自分を見直した。それは勇気がいるし正しい事だ。

 

「零一は、如何思う……」

「何を」

「氷しか使わない、私を……」

 

その時、零一は初めて轟が女に見えた。弱弱しくも何処か救いを求める様な姿をして答えを求めてくる、轟の中にも悩みが生まれていた。激気が高まると共に今の自分で良いのか、皆が全力を出す中で自分は氷に拘り続けている、騎馬戦でも自分の我儘を通して氷しか使おうとしなかった。炎を使えばよかったと思う場面もあったのに炎を使いたくなかった。エンデヴァーと一緒になりたくない、父の言葉を認めるようで嫌だった。

 

「さあな、無個性の俺には個性の事は分からない。だがな―――お前がしたいようにすればいい、俺はそう思う」

 

零一からすれば個性の悩みというのは共感しづらい、感じた事もない。だが共感出来るものもある、それは大きな感情のうねり、自分も味わったそれにならば言葉を掛けて支える事は出来る。

 

「俺から言える言葉なんて限られてる、だけどお前のそれは俺のライガー拳のようにお前の物でしかない。だから使いたければ使えばいい、いやなら使わなければいいんだ」

「それで、良いのかな……」

「良いんだよ、それよりも―――」

 

そのままそっと轟を抱き寄せた、突然の事に目を白黒させる。だが不思議とその温かさが心地良く嬉しくなっている自分が居て困惑している。同時に零一は激気を出しながら彼女の身体を包む。

 

「良く話してくれた。辛かっただろ、悲しかっただろ、痛かっただろ、疲れただろ、今はゆっくり休んで良いんだ」

「れい、いち……」

「大丈夫だ、大丈夫」

 

自分に出来るのはこんな事でしかない、嘗て師たちが自分にしてくれたように優しさを込めた激気で包み込んで抱き締めてあげる事ぐらい……悲しさを癒す事は出来ない、だが寄り添って支えてあげる事位は出来る筈だ。そう思ってあの時の師のように優しく、彼女の背中を優しく叩いてあげる。

 

「俺にはこの位しか、俺もやって貰った事位の事位しか出来ない」

「……ぅぅん、有難う……」

 

彼女にとってそれは初めての体験だったのかもしれない、父親に抱きしめられて慰められる感覚。それが如何しようもなく心地良くて、嬉しかった。

 

「もう少しだけ、こうさせて……」

 

その我儘を零一は素直に受け止めた。出来るだけ彼女が温かくなれるように努めた、あの日の事を忘れられずに泣いていた夜を、眠れるまで抱きしめくれたマスターのように……。

 

「ごめん、その……」

「気にするな、何時でも貸してやるよ」

 

10分ほど経ったであろう頃、漸く轟は離れた。紅潮した顔は零一の優しさ故なのか、それともまた借りると思われている事に対してなのか。

 

「それよりも……トーナメントじゃ俺とお前は勝ちあがれば確実に当たる、その時は手加減してやらないぞ」

「分かってる、その時は―――私も激気で応えるから」

 

その言葉と共に激気を放つ姿は紛れもない獣拳使いの姿だった、見えている獣も何処までも力強く此方に喰らいつかんとする勢いがある。本気でのぶつかり合いが今から楽しみになって来てしまった。順調に進めば彼女とは準決勝でかち合う事になる、それよりも先に自分は第一回戦で尾白と激突するのだが……それはそれで楽しみでしかない。

 

「お前の気持ちは分かるつもりだ。俺もお前ほどじゃないが、怒ったし悲しかったし憎んだ」

「零一それって……」

「だから何かあったら相談に乗ってやる―――全ては自分の意思次第、激気も臨気も使い手次第で変わっていく。だからお前も負けるなよ」

 

そう言いながらも軽く頭を撫でてから去っていく背中を、小さな声を出しながらも手を伸ばそうとしてしまった自分に驚いていた。だけど今はそれをそっと胸にしまいながらも心に灯った温かさと一緒にそれを宝物にすることにした。

 

「零一……有難う」

 

その時、彼女は雄英では初めての笑みを浮かべていた。

 

 

「あっ遅いよ零一、何やってんだ?」

「悪い、轟の獣拳スケジュール管理だ。マスターに紹介しようと思ってな」

 

食堂にやって来た零一を尾白が迎える、食事を確保しながらも席に向かうと心操はバエの話を熱心に聞きながらもノートを取っている姿が見えて来た。

 

「如何ですかバエさん」

「いや~私も弟子を取った事はないんですが何とかなりそうです」

「本当に興味深い……言葉でそんな事も出来るなんて」

「言葉を侮ってはいけませんよ?言葉には言霊という力が宿っています、激獣フライ拳はそれを激気によって扱う技です」

 

洗脳というフィルターでしか言葉を操った事しかない心操にとってバエの話は何処までも新鮮で刺激的な物だった。出来る事ならば今すぐにでも獣拳を習いたいと思う程の魅力で溢れている。

 

「と言いましてもまずは自分の獣を感じないといけませんね、その辺りは私がフライ拳でお手伝いすれば早める事は出来ます」

「えっそんな事も出来るんですか!?」

「はい勿論、相手の心の内を実況するなんて朝飯前です」

 

それを聞いて益々心操、そして尾白は獣拳の奥深さを体感するのであった。

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