『ヘイガイズ、アアアァァユゥレディィィ!!?色々やってきましたが結局これだぜガチンコ勝負!!!頼れるのは己のみ!!ヒーローでなくともそんな場面ばっかりなのはわかるよな!!?心・技・体に知恵知識!!!総動員して駆け上がれ!!!!』
レクレーションの時間も恙無く終わり、遂に本選の始まりとなった為か実況にも今まで以上に熱が入っている。これから最大級の盛り上がりが始まるトーナメントの初戦が始まるのだ、テンションが上がってしょうがないのだろう。そんな実況を受けながら遂に互いに拳を交える生徒がステージ上へと上がった。同時に観客席から沸き上がる声が血流を加速させていく。
『成績の割にどうしたその顔?ヒーロー科緑谷 出久!バァアアサス!!唯一の普通科よりの参戦、普通科心操 人使!!』
最初は緑谷と心操の対決、身体能力の差では個性によって圧倒的な開きが生まれている。故に心操の取る手は限定されている、勝機はそこしかないだろう。だが……心操は酷く余裕そうにしている、というよりも何処か笑みを作っている。
「緑谷、だっけ。この前は悪かったな」
「この前?」
思わず、その言葉に返事をしてしまった時に緑谷は思わずハッと口元を抑えてしまった。それを見て心操はマジかと言いたげに笑った、何故ならば彼は自分の個性の事を把握している事を意味する行為だからだ。他者を分析する能力は相当な物で評論家や事務所の経営方面に行った方が確実に大成と零一から言われるだけはある。
「宣戦布告の事だ、俺は確かにお前達の事を舐めてた。だけど今は違う、ああ違うとも」
自分の中で既にこの体育祭でのリザルトなんて如何でも良くなっていた、自分はもうかけがいのない物を手に入れる事が出来た。だから今此処に立っている自分とあの時の自分は全く違う。零一と尾白のやっていた構えを真似するように演武を行いながらも緑谷を睨みつける。
「こっからはアドリブだ、今の俺を簡単に倒せると思うなよ―――普通科、舐めんじゃねぇぞ」
「そんな瞳をする人を下に見るのは完全な馬鹿のする事だ」
またもや言葉を返してしまったが洗脳されなかった、試合開始の合図がなされているのにも拘らずだ。個性を使えば確実に自分に勝てるのにそれをしてこなかった、これも戦術なのかと思う中で緑谷は余計な考えを捨てる事にした。どんな考えがあるにしろ、自分はただその決意を侮辱しないように本気で戦うだけ。
「ワン・フォー・オール……フルカウル!!!」
全身に力が漲っていく、全身が許容出来る個性出力7%で全身を包んで強化する。そして地面を蹴って一気に懐に飛び込んで殴り掛かるのだが心操はそれを真っ直ぐ見据えていた。
「(何もしない、これもブラフ!?)」
騎馬戦の時、周囲を気にしていた時に見た心操が相手から容易く鉢巻を取る光景。それによって心操の個性を見抜いた緑谷は兎に角シンプルに攻めようと思っていた、無駄な返答をする事もなく唯々真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす。それだけがプランだったのだが……洗脳という搦手の個性を自分ならどう活かすか、という思考も相まって疑心暗鬼を自分で陥りながらも拳を振るった時―――
「っ!!此処だぁっ!!!!!」
「し、しまったカウンター狙いだったのか!?」
拳が到達する時、心操は声を張り上げながらもパンチに合わせて身体を回転させながらもその腕を掴んだ。そして緑谷の圧倒的な推進力を逆に利用して背後へと投げ飛ばした。
「な、なんと心操君、緑谷君の圧倒的な飛び込みを利用して逆に投げ飛ばしたぁ!!柔よく剛を制すとはよく言った物です!!あっ実況は引き続きバエがお送りします!!空中に投げ出されたぞ緑谷君、しかしあっと体勢が崩れている、そのまま弾着~……今!!と言わんばかりに地面に突っ込んだぁ!!これは
『こいつはいてぇぇぇぇ!!!顔面から突っ込んだなぁ!!』
『心操は心操で動きを決め打ちしていたのか、カウンター狙いだな。合理的だ』
「いったぁぁぁっ……あ、あれ僕何を……」
地面から突っ込んだ緑谷は顔を上げつつも痛がっていると何やら正気に戻ったような反応をしていた、それを見た心操はしまった!!と思いつつも走り出して追撃を加えようとして飛び蹴りを放った。
「えっとそうだ!!フルカウル―――返しぃ!!」
「がぁぁぁ!!?」
理解してからの行動は著しく早かった、再度フルカウルを発動させつつも先程心操が行ったようなカウンターを実行。脚をガッチリと掴むとそのまま渾身の力で投げ飛ばした。心操はそのまま場外へと飛ばされて壁へと叩き付けられてしまった。
「心操君場外!!緑谷君の勝ち!!」
主審ミッドナイトの判断により心操はバトルフィールドから出てしまった事による場外負け、スピーディな攻防による勝敗に歓声が上がった。
「決着ぅ~!心操君功を焦ってしまったのか詰めが甘かったです、しかし緑谷君の反応速度も素晴らしかったです!!」
『心操の個性、洗脳で緑谷を洗脳しつつ投げたはいいが空中で脱力されて体勢が崩れた事で飛距離が落ちたか。それで解除されたのは惜しかったな』
『一回戦目から中々に熱いバトルで俺は満足だぜぇぇぇぇ!!』
「くそぉっ……やべぇっうっかり個性使っちまった……使い所じゃなかった、というか掛かると思わなかったのに……」
心操は壁に叩けつけられた事による痛みに顔を歪めつつも自分を振り返って反省を行っていた。カウンター狙いは成功した、だがその時にうっかり個性を使ってしまった。緑谷の事を考えて相手が思っても見なかったタイミングで個性を発動させようと思っていたが、うっかり使ってしまった。使わなければあのまま緑谷が場外だった可能性もあったのに……落ちた痛みで洗脳が解除された事で功を焦ったのも敗因だ、あそこで攻めずにいれば別の結果も……
「いや、もしとかたらとかればとか言うのはダサいか……あいつが強くて俺が弱かっただけか」
これまでの自分だったら考えられないような台詞に自分も驚いてしまった。こんなキャラだったっけ……と自分でも思う。
「取り敢えず……一から鍛え直す所か始めないとな……やる事はたくさんあるか」
勝敗は彼の敗北で緑谷の勝利、それなのに心操の表情は何処までも晴れやかな物だった。対する緑谷は何とか勝てた……咄嗟の制御も上手く行った……と何処か驚きに満ちている、二人の表情だけ抜き出せばどちらが勝ったのか誤解しそうな程の差がそこにあった。
「醜態だな」
続く第二試合、それを行うのは轟と瀬呂のA組同士の対決。その為に入場口に向かっていた轟を待っていたのは……実の父、フレイムヒーロー・エンデヴァーだった。そんな父は自分の個性を引き継いで置きながら使わないからこうなっているんだと言わんばかりの言葉を掛けて来る。
「左を使えば、障害物走でも騎馬戦でも他を圧倒出来ていただろう」
「なんで圧倒する必要がある、合理的じゃないな。だから何時までも№2ヒーローなんだろ」
「……!!」
轟はエンデヴァーの言葉を真っ向から否定する、圧倒する事が出来たのは恐らく正しいだろうがする必要があったかと言われたらない。相澤に言わせれば余計な力を使うのは合理的じゃない、故に自分は無駄な体力を使わずにいられる。そして№2ヒーローのままなんだろうという言葉はエンデヴァーの心を抉る、だが大人としてそれを飲み込む。
「……子供じみた拘りはやめろ、左を使え。お前にはオールマイトを超えるという義務がある、分かっているんだろうな」
「分かってる、お前は娘にこんな事させてれば満足なんだろ」
「っ……」
言葉に詰まった。その姿に僅かに愉悦する。
「でも私はオールマイトを超えるつもりはない、超えたきゃ勝手に超えてよ」
「焦凍お前!!!」
思わず怒りの感情を乗せたまま左肩を掴む。
「お前は最高傑作だ、そのお前がそれを果たさないだと、ふざけるな!!!」
「離せよ―――エンデヴァー」
「何ッ!?」
その時、不思議な事が起ったのだ。娘の個性は半冷半燃、右で凍らせて左で燃やす個性だ。それなのに左肩に置いた筈の手が凍て付き始めた、そして轟はそのまま腕を弾きつつも左手でエンデヴァーの腹部に掌底を放った。鋭い痛みだがこの程度何ともない……と言いたかったが、掌底を受けた部が冷たくなっていた。
「焦凍お前、今何をした!?何故左で冷気を扱える!!?」
轟はその言葉に応えずに母から受け継いだ白い髪を触れながらも振り返る、好い加減に試合が始まる時間だから急がなければならない。これだけは言っておきたい。
「私に言ってくれた、慰めてくれた、優しくしてくれた……あの人と一緒に居たい」
「なっ……!!?」
驚愕に目を見開きながらエンデヴァーは言葉を失った、娘はそのまま去っていくがその表情は絶対に忘れる事が出来ない。頬を赤く染めながら恥ずかしさと嬉しさを同居させたようなあの顔は……まるで、まるで恋をしているような―――
「許さん、許さんぞ……俺は認めんぞ焦凍ぉ……!!!」
それは炎を使わない事をさしているのか、それとも別の事なのかは誰にも分からなかった。
「クソックソクソクソッ!!!勝てるなんて微塵も考えてなかったけど、なんだよこれ!!?」
続く第二試合、瀬呂と轟の対決。実力差は明白だが簡単に負ける訳には行かないと必死に戦い続けている瀬呂だが……圧倒的な強さを発揮する轟に防戦一方であった。個性:テープ、肘の先からテープのような物を発射するという個性で相手を拘束したり高速移動や3次元的な移動にも使える汎用性が高い個性、なのだが……
「てぇや!!」
「フッ……!!」
迫って来る轟がテープを掌で殴るように弾く、そう弾いた。粘着する訳でも無く瞬時に凍結してボロボロと崩れていく。その凍結が自分に及ばないように即座に切り離すが勢いが留まる事を知らない轟はそのまま加速し続けて行く。連続でテープを放つが―――それらも全て凍結していく、しかも両手で。
「お前の個性って炎も無かったっけ!!?」
「ある。使わないだけ」
「くっそぉおおおお!!!」
「悪いが、これで終わりだ―――はぁぁ!!」
勢いよく両手を地面へと叩き付けると地鳴りが起こり始めた、瀬呂は一体何が起きるのかと困惑していると自分の足元から巨大な氷柱が伸びて来て自身の顎を的確にクリティカルヒットした。完全に不意を打ったアッパーに意識を刈り取られてしまい瀬呂はそのまま倒れこんでしまった。ミッドナイトの勝利判定を受けながらも轟は空を見上げながらも口角を持ち上げながら小さく呟いた。
「勝ったよ、零一」