『待たせたな諸君!!!二回戦第一試合は目玉カードの一つ、一回戦では瀬呂を文字通り凍り付かせる程の強さで圧倒!!これは期待しちゃってもいいんじゃねぇか!?ヒーロー科、轟 焦凍ォォォっ!!!その対戦相手はこいつも注目株だぁ!一回戦は此方も中々に熱い戦いを繰り広げてくれたファイター!!同じくヒーロー科、緑谷 出久ぅぅぅ!!!』
大歓声が上がるスタジアムの中心地に立つ轟はそれらを一切気にする事も無いような顔をしながらも向け続けている、何事もなく唯々ルーティーンをこなすかのような落ち着きを見せ付けて来る轟に緑谷は喉を鳴らしながらも気を引き締める。
―――ウチの焦凍にはオールマイトを超える義務がある。君ならば恐らくあいつは左を、炎を使わなければいけない所まで追いこむ事が出来る筈だ。
脳裏で何度も何度もリピートされるエンデヴァーの言葉、忘れられずに刻み込まれている。如何しても考えてしまうのだ、その言葉から相手のこれまでの事を。その顔の火傷の後ももしかしてと考えてしまうんだ……だが頬を叩いてそれらを無理矢理掻き消して前を向く。
『レディー……スタート!!』
真っ先に飛び出したのは緑谷。瞬時にフルカウルを発動させると轟の直線状から退避した、だが轟は何もせずにそれをジッと見つめていた。
『おっと緑谷いきなり動いたけど轟は何もしなかったぞ?』
『恐らく轟の氷結攻撃を警戒したんだろ、ある意味では正しい』
轟の戦法は緑谷の知る限りでは力押しの物ばかりだった、戦闘訓練ではビルを丸ごと凍結させたりも出来るほどの超高出力個性。故に開幕でのブッパを警戒したのだが肝心の轟はそれをせずに敢えての静観。
「間違ってはない、当てが外れたな」
「っ……」
だが第一回戦では新しい情報もあった。これまでの力押しとは全く真逆の個性の出力を絞ったテクニカルな戦い、掌のみという極小規模で相手を攻撃しつつも不意に相手を攻撃も出来る繊細さに緑谷はどう攻略するべきなのかを考え続けたか思いつかない、故に彼はこの戦いで情報を獲得して戦略を組み立てるしかない。
「だからと言って何もしない訳じゃない」
「来るっ!!」
フルカウルでスピードを維持したまま高速移動をして狙いを絞らせないようにするが、轟は地面を凍結させていく。来たかと思いながら跳躍して回避するが、狙いは地面その物を凍らせる事。これで機動力を奪うつもりだったが……それは既に想定済みだと言わんばかりに凍った地面を砕くようにして無理矢理走って行く。
「緑谷君なんと凍った地面を砕いて走っております~これは身体能力を強化しているが故の力技だ~!!そしてそのまま一気に距離を詰めて遂に懐に飛び込んだぁ!!」
「SMASH!!!」
「っ……!!」
凍った地面で滑る事もなく、逆に進んでくる彼に僅かに驚いたのか動きが鈍った隙を突いて緑谷の拳が轟へと突き刺さった。猛烈な一撃によろめく―――よろめくがそれを確りと受け止めてみせた。緑谷はスマッシュが利かない!?と思ったのだが……直後にそんな思考は吹っ飛んだ。何故ならば……
「冷たっ!!?」
拳に霜が降り、どんどん凍り付き始めていったからだ。音を立てて凍り付いて行く腕に恐怖を覚えつつも地面を蹴って後ろへと跳びのくが……その時には左腕は肘の辺りまで凍り付いていた。
「カ、カウンターだぁぁぁ!!!轟君が緑谷君の腕を凍らせましたぁぁぁ!!」
『マジかぁぁ!?完全に入ったと思ったのに!!?』
『さっきの動揺も恐らくワザとか、緑谷の攻撃を誘ったんだろうな。だがそれでも緑谷の攻撃を受け止めたのは意外だったな……』
ダメージは覚悟の上だっただろうが、それ以上に緑谷のパワーを考えれば分の悪い戦法である筈なのに迷う事もなくそれを選択し、氷を盾として使う事も無く受け切った轟の肉体の頑強さには流石の相澤も驚きしか生まれない。
「うぅぅぅぁぁぁぁ……!!!」
激痛と冷たさのダブルが襲い掛かって来る、凄まじいものに顔が歪み切る。完全に誘い込まれていた、制御出来るならば其方を優先し自損覚悟で攻撃なんてしない、故に受け切れると思って攻撃をさせて逆に此方の戦闘能力を奪って行く見事な戦法だと分析して平常心を保とうとする。痛みで思考を止めてはいけない、止めた瞬間に自分はやられると思いながら頭を回転させ続ける。
「悪くはない攻撃だった、少し痛かった」
「す、少しっ……!?」
僅か7%とはいえ、それでも常人であればまともに喰らえればノックアウト出来る一撃を少しと言った轟に緑谷はこれだけの差があるのかと思う。ブラフとも考えたが全く身動ぎ一つしないで殴られた部分を軽く払っている姿に虚偽は見いだせない。
「さてと……そっちが攻撃したんだ、こっちも行くぞ」
「っ!!」
身体を反らせてから思いっきり右手を地面へと叩き付けた、そして同時にバトルフィールドを揺るがす地鳴りが起こり始めた。それは瀬呂の時と同じと素早く見抜くと咄嗟に転がると自分の顎の真下から氷柱が伸びた。あのままだったら確実に顎に命中して意識が定まらなかっただろう、だが一度避けられたからなんだと言わんばかりに次々と地面から氷柱が伸びて来る。
「凄まじい攻撃だぁ!!地面から次々と氷柱が生えてきますぅ!!無数の氷柱が緑谷君を狙う狙ぅ!!必死に避けているが左腕の事もあるのか動きが鈍いぞ、避けきれるのかぁ!!?」
『氷結を地面から行えば何処から攻撃が来るのかが分かる、だが地面の下からならば解らない。相手を常に警戒させつつの奇襲も可能、合理的だ』
「次は―――左ぃ!!」
常に警戒を強いらせる事で緊張状態を継続させて消耗を狙いつつも相手の意識の外からも攻撃する事が出来る。この戦法を轟は気に入っていた、何故ならばこれは尾白と共に零一と戦う修練の時に思い付いて実践してみたら零一から地中からの攻撃も防ぐ事が出来る良い攻撃だと褒められた。実際にモール拳で潜っている時に零一はこれを喰らって凍結しかけた。
「良く避ける、だけど―――分かってねぇな」
「っ―――しまった!?」
「あ~っと緑谷君氷柱の牢獄に閉じ込められたぁぁ!!?」
何の為に緊張状態を維持させ続けたのか、それは思考力を奪う為でもある。何処から来るのかも分からない氷柱、警戒と注意にばかりに意識が行くが故に何処に氷柱を生み出したのかは忘れやすい。それは長引けば長引くほどに顕著になっていく。そして気付いた時には……氷柱が檻となる牢獄に囚われる。
「氷結牢獄、これでお前は逃げられない」
「クッ駄目だ、通り抜けられない位に狭い……!!」
「んじゃ―――とどめ!!!」
間髪入れずにアンダースローのようなフォームで腕を振るうと巨大な氷の塊が全てを飲み込まんと迫って来る、氷の津波が迫って来る。このままでは確実にやられる、そしてその時に緑谷は迷う事もなく―――左腕を捨てる選択をした。
「SMASH!!!!」
「っ……!!」
咄嗟に轟は自分の背後に巨大で分厚い氷を生み出した。直後に氷の津波が一瞬で消し飛びながらも自分にも爆風が迫って来た、それを背中に作った氷で耐える。
「なんという事でしょう!!?途轍もない一撃が大氷結を大大大粉砕ぃぃぃ!!!轟君も咄嗟に氷を壁にしてしのぎましたが何という爆風なんでしょうかぁあ~!!!私も空を舞い続けておりますぅぅぅぅブブブブブブブブゥゥゥウウン~!!!!!??」
『無茶するなブラザァァァァ!!?』
バエもそれに巻き込まれつつも実況をし続ける、なんという根性だろうか。そしてそれを行った緑谷は氷の牢獄から脱出こそしたが、左腕は酷い有様になっていた。氷も消し飛んでいるが腕全体が酷い状態になっていた、あれではもう左腕は使い物にならないだろう……追い込み過ぎたかと轟は冷たい息を吐いた。
「無茶するもんだな」
「こうでも、しないと勝てないからね……」
「いざって時は迷うことなく選択するか、そういう所は尊敬する。だけど―――それだけやっても俺には勝てない」
個性を用いる轟自身の判断力に応用力、機動力、様々な物が飛び抜けている。今の自分では勝てないかもしれないと思うが……だけどまだ何かある筈だ、激痛に震える中でも思考を止めなかった時に見たのは轟の身体に霜が降りている事。それを払うかのように腕を強く振ってそれを飛ばすが……それを見て漸くエンデヴァーの言葉の意味が理解出来た。
「そういう事か……君は、まだ全力ですらなかったのか……!!」
「手加減はしてない」
霜が降りる、個性を使う身体も冷えて行く、そして炎を使う事を強要させ続けるエンデヴァー……そう、轟は個性を使う事で生まれるデメリットを自ら解決する手段を持っている。氷には炎を、そして炎には氷で体温を調節する事で常に最大の力を発揮し続けられる事が出来る。それなのに轟はそれを一切しない、エンデヴァーとの確執……それがそうさせないのだと緑谷は察した。
「―――っなら、如何して本気を出さない……こういうことが出来る僕にはそんな価値がないって事かぁ!!」
「っ!!」
瞬間、再び凄まじい爆風が迫ってくる。それに合わせて轟は咄嗟に氷結を放って相殺する、それでも何という威力なのかと言わざるを得ない。これだけの力を待出すのかと思いつつも、安定した力を捨てた事に驚いた。視線の先には無事だった右手の指を犠牲にしている緑谷の姿があった。
「右側、が震えてるよ……それって左側の炎を使えば解決、出来るんだろう……」
同時に思い出すのは爆豪と必死に戦った麗日の事、心操の事。この体育祭に様々な思いを乗せて挑んできた人たちの事。思いは色々あるけれどもみんな必死の思いで此処まで来て戦っている。我儘かもしれない、身勝手な事かもしれないけれども、全力でぶつかって欲しい。
「何で、やらないんだ……!!」
「好き勝手な事を言うな、緑谷」
言いたい事は分かる、全力で戦って欲しいんだろう、その気持ちはよく分かる、分かるが―――今の自分が全力を出していないと思われるのは正直言って腹が立った。その時、轟の身体から激気が奔出した。まるで凍土に吹き荒れる吹雪のような猛烈な勢いの激気が。
「お前が俺の何を知ってる、何も知らねぇお前が俺の中に入ってこようとするんじゃねぇ……今の俺が本気じゃねえだと?本気だよ、本気で―――今日までの修行で培った事を実践してんだよ!!」
今日まで零一に教わった事を実践している、本気でそれをやってこれからの自分の課題に繋げようとしている。それを真面目にやってない、全力を出せ?勝手な事を言うなと怒りと共に溢れ出させた激気を個性に込めながらも最大の力と共に放つ。
「激技、吹吹氷!!」
「っ!!!SMASH!!!」
放たれたのは強大な氷結だけではない、激気が込められた事によって氷は雪へと変化しながらも猛烈な吹雪となりながらもその中に無数の氷塊が紛れている。それを打ち消すべき緑谷は再び指を弾いてスマッシュを放って相殺を狙うが……吹雪が加わった事でスマッシュの威力が押さえられて完全に相殺し切る事が出来ずに氷結が迫って来る。
「くっ!!SMA―――」
それを必死に回避して再度指を弾こうとした時、真下から氷柱が伸びて完璧に顎を捉えた。身体が宙に舞い上がり、そのまま背中から落ちた緑谷は辛うじて意識を保っていた。必死に身体を起こそうとするが……
「緑谷君場外!!!」
無情にもミッドナイトによる場外判定が下った。氷柱の一撃で完全に場外へと出されてしまっていた、それに緑谷は愕然としながらも意識を手放してしまった。それを受けて轟は息を吐きながらもそのまま入場口へと戻っていく、そしてそこには零一が立っていた。
「キレたのによく冷静さを保ったな」
「先生が良かったから」
「フッ……おめでとう轟、次は俺の番だな」
「ああ」
そう言いながら二人はハイタッチをした。その時に轟の心の中には怒りなんて消え去っていた、出せる範囲での全力を出していた自分の事を理解してくれる零一に心から感謝するのであった。