激獣ライガー拳。その言葉の意味を深く理解出来る者はその場にいたのだろうか、獣拳は超常黎明期よりも以前から伝わる武術に。今ではそれを伝える者は久しくおらず、絶滅危惧種と言える程に小さいものになってしまっていた……だが、それを見て一人だけ、それに感銘を受けていたものが居た。
「凄い、凄い!!凄いよ俺獣拳を観られた凄い感激してるよ!!」
「んっ?」
呼吸を整えていた零一の元へとやって来た一人の男子、彼は太く立派な尾を持っていた。いわゆる異形型の個性である事が伺える。だがそれ以上に獣拳という言葉を確りと発音していた事が零一の興味を引いた。
「獣拳を、知っているのか?」
「勿論!!昔アメリカに行った時あるんだけどその時に獣拳の人に助けられて凄い憧れたんだ!!」
「アメリカ……まさかニューヨークか?」
その言葉を聞いて思わずニューヨークの名前を出してみると更に強く反応した。どうやら本格的に獣拳を知っていてくれるらしい、しかも現代で此処まで興味を持ってくれるのは正直嬉しい限りだ。
「獣拳を見られて感動だよ俺!!ああゴメン、俺ばっかり話しちゃって、俺尾白 猿夫って言うんだ」
「激獣ライガー拳の無月 零一だ。まさか同門に会えるとは、光栄だ」
「ど、同門なんてとんでもないよ!!アメリカには短期間しか居なかったから初歩の初歩しか手解きしか受けられなかったんだ、だから激気のゲの字も使えないし……」
まさか雄英に獣拳を知ってくれている人がいた事に零一は強い喜びを覚える、しかも自分の勘が正しいのならば尾白があった獣拳の人というのは自分にとっては偉大な人の一人に他ならない。兎も角、話はその場を離れてからにすることにする。零一は自分のソフトボール投げを終えている、その記録はライガーによって15キロになっている。
「あ……あの、僕も聞いても良いかな」
「えっと君は緑谷、君だっけ?指大丈夫?」
「あっうん、大丈夫、だよ……!?」
「全然大丈夫そうに見えないけど……」
改めて話をしようとした時に一人の少年も近寄って来た。彼は自分の前に個性を発動させながらも指に大ダメージを負っていた緑谷 出久、彼は何やら爆豪と因縁があるのか先程から凄い睨みつけて来る。まあ其方は気にしないでおこう。
「その、獣拳って一体何なの?個性とは、違うの?」
「全然違うよ個性なんかと一緒にするなんて失礼な位だよ!!獣拳って言うのは自分の内側の獣を感じて、その力を手にする拳法だよ。地球上に存在する様々な生物の動きと能力を己の技や術に応用し行使する、いわゆる"象形拳"の一種だよ。古代中国にて誕生して4000年もの古い歴史を誇る由緒正しき武術さ!!であってる……よね?」
「ああ、合ってるから安心しろ」
本来は自分が言うべき事なのだが、何やら尾白は獣拳に熱心なのか心酔しているのか分からないが熱くなりながらも語っていた。その気持ちはとても正しく説明も正しいので何も言わずに肯定するが少し苦笑してしまう。
「じゃああれは武術の技の一つなの!?その、姿が変わったのも!?」
「ああ。獣拳には激気という気がある、それを高めれば様々な事が出来る―――例えば……ハァッ!!!」
『ゴオオオォォォォォッッッ!!!!』
気合を入れながらの裂帛、直後に零一の背後には先程の巨大な白いライガーが姿を現して雄たけびを上げた。それを見てA組の反応はそれぞれ、腰を抜かす者もいれば声を上げて驚く物、ライガーの姿に感激する尾白やその存在感に圧倒される者、敵意を示すように目つきを鋭くする者と全く異なっている。そしてライガーは飽きたかのように欠伸をすると消えていく。
「いいいいい、今のはぁ!?」
「さっき尾白が言ってただろ、獣拳は己の内に宿す獣の力を手にする拳法、こんな事も出来るって事さ」
「凄い……!!凄いよこんな事も出来るんだ獣拳って!!」
個性ではなく、単純な技術としてここまでの事が出来る。その事実に皆は呆気に取られている、個性ならばまだ理解できる、だがそれを介す事も無く自分という体一つで完結している事がこの時代の理解を超えている事でもあるのだ。
「興味深い話だが、今は個性把握テスト中だ。話がしたけりゃ後にしろ」
相澤も聞いていたい話だが……今はもっとやるべき事がある、それを行わないのは合理的ではない。今の段階では無個性の少年が扱う不可解な力の正体が獣拳という武術である事が分かっただけでも相澤としては収穫なのである。
「失礼しました、そしてこれで俺の力は御理解頂けましたか」
「……まだまだだな」
それはどういった意味なのか、それは相澤にしか分からないが零一は少なくともある程度驚かせる事が出来たので少し満足していた。
「あの無月君、放課後とかにもっと話とか出来ないかな!?俺、獣拳をずっと学びたいと思ってたんだ!!」
「無論。初歩とはいえ学びがあるならば同門と変わりなし」
その後もテストは行われ続けて行く、持久走では飛び抜けた記録を出す事は出来たが流石に長座体前屈や上体起こしではそこまでの記録は出す事は出来なかった。そして全てのテストの結果発表を行われるのだがその際に放たれた言葉は思わず全員が驚愕した。
「あっ因みに除籍は嘘だから、君たちの最大限を引き出す合理的虚偽」
『……はぁっ~!?』
このテストで最下位を取ったものは除籍されると脅しを掛けられていたのだが相澤はあっさりと嘘だと白状した。確かに除籍させられると言われたら全力を出すだろうが、よくもまあ抜け抜けとそんな事を言う物だ……零一は総合2位だった。1位は八百万 百という女子生徒、創造という個性で万力やら大砲、果てはバイク迄生み出してテストで好成績を叩きだしていた。
「(個性込みならばある意味正しいか……当人自体はどうか知らないけどな)」
兎も角、個性把握テストを無事に潜り抜けた零一。雄英では獣拳繋がりで思わぬ友人も出来た、悪くない学校生活になるかもしれないと少しばかりの喜びを浮かべるのであった。
「根津校長、無月の持つ力は獣拳という物らしいです」
「獣拳……その言葉を聞くのは何年振りだろう、今の今まで忘れていたよ」
相澤は個性把握テストが終わった後、校長室を訪れていた。それは入試から話題になっていた零一の事が僅かながらに分かったので報告する為だった。それを聞いたネズミ……校長の根津は漸く思い出せたと言わんばかりにスッキリしたような表情で答えた。
「ご存じなので?」
「と言っても概要だけさ、詳しくは全く。超常黎明期には一部地域でその使い手達が治安を守っていたという話があったのさ」
「そうですか……奴に対しては如何しますか」
「問題はないと思うよ、何せ―――獣拳を扱う事が出来るのは正義の心を持つ者だけと言われているからね」
その言葉に相澤は怪訝な表情をするが、兎も角自分が見極めれば良いだけだと思い直しながらもこれからの事を考えるのであった。
「そうか、尾白が会ったというのは矢張りゴリー・イェンだったのか」
「そうゴリーさんなんだ。だから僕も激獣ゴリラ拳を体得したいって思ってるんだけど出来るかな!?」
「きっと出来るさ、お前からは獣拳に対する真っ直ぐな思いを感じる。心を司るゴリラ拳は会得できると思うぞ」
尾白と話に花を咲かせる零一は様々な意味で注目をされていた、それは獣拳に対して、そして彼に対しても……。
という訳なので、武闘ヒーロー・テイルマンこと尾白君にも獣拳要素を組み込みました。
元々なんかピッタリだし、適任な方が七拳聖にいますので組み入れました。