「―――臨気激装」
開始とほぼ同時に展開される技、鎧を身に纏いながらもその隣にはゲキリンビースト、ライガーが出現し唸り声を上げている。
『おっと無月、いきなり轟戦で見せたゲキリンビーストを召喚したぞ!?これはそれだけ本気って事で宜しいかぁ!?』
その言葉を否定はしない、爆豪がそう望むのであるならば全力をもって獣拳の力を見せ付けてやろうと思っただけの事。この身から溢れる激気と臨気で力を見せ付けてやる、と思いながらもライガーをその身に纏う。
「ゲキリンライガーゼロワン、バーニングアップ!!」
「そうだ、それでいいんだ。テメェは此処に立った、俺と戦う事を決めた、だったら全力で俺と戦う事だけに頭使えやぁ!!」
両手から爆破を繰り返し、凄まじい勢いで迫ってくる爆豪。そのまま腕を差し向けて来るが零一はそのまま一歩深く踏み込むとその腕を掴んで投げ飛ばそうとするがそれに途轍もない反応速度で片手で爆破を行って無理矢理空へと跳び上がると逆に零一を地面へと向けて投げ落とす。
「んの位分からねぇと思ったかクソが!!」
「だろうな、この位出来ないなら―――拍子抜けだ」
投げ飛ばされたのにも拘らず、空中で体勢を変えて着地すると両手から臨気弾を放ち始める。性質上、爆発的な勢いで増幅する臨気の方が上である為に其方を使って行く。
「ハッ!!こっちの台詞だぁ!!」
相手が強い、だから何だ、強ければ強いほどいいじゃねぇか!!それを叩き潰して自分の強さを証明できる、より完璧な勝利になる。そう思いながらも好戦的な笑みを更に強めながら爆破で攻撃を回避し、回避不可な物は片手で薙ぎ払うような爆破を起こして迎撃する。
「なんと爆豪君、空中で回避しながらも片手爆破で臨気弾を迎撃ぃ!!何というバランス感覚、そして個性の制御!!これで本当に1年生なのか!?」
『戦う度にセンスが光る、唯戦うだけじゃなくて相手の攻撃を分析しながら戦っている』
「雷剛弾!!」
「死ねぇ!!」
互いの一撃が激突し大爆発を引き起こして爆炎が巻き起こる、それを突き破るかのように突貫する爆豪は零一の背後を取ると両手を合わせるようにしながらも爆破の方向を一点にする事で威力を倍増させる。が、それを突き破るかのように零一が突進し拳が深々と腹部へと突き刺さる。
『ボディッ!!諸に行ったぁぁ!!!』
「いえ違います!!爆豪君は咄嗟には爆破で後ろに飛んでダメージを殺しております、なんという判断力、いやこれは反射というべきなのでしょうか!?」
「ぐっはぁ……利かねぇなぁ!!」
「強がりを……!!」
「―――……」
その戦いを見つめている轟、勿論応援しているのは零一。そもそも体育祭自体に乗り気ではなかった事は理解しているが、でているのならば応援する。爆豪と獣拳武装を行って戦っている様子は様々な意味で勉強になるので自分の戦闘の参考にもしている。
「ホッホッホッ勉強熱心じゃの」
「マ、マスター・シャーフー……さん」
「シャーフーで良いぞ」
自分の後ろにやって来たのはシャーフーだった、もう一人誰かを連れ立っている。
「シャッキーンの中に修行あり、兎に角頑張るシャーク拳!シャーキー・チェン、これでも拳聖の一人なんだ。宜しくね」
「よ、宜しく……」
テンションが高めなシャッキーに押されているが、獣拳において重役も重役な拳聖が二人も目の前に居る事にやや緊張気味。そんな中で歓声が上がったので其方に目を向けるとラッシュの速さ比べと言いたげな真正面からの殴り合いを繰り広げている二人があった。
「ッゥゥゥウウウオオオラアアアア!!」
「ダダダダダダダダッ!!!」
爆豪はパンチに織り交ぜる形で爆破を、零一は激気と臨気を込めた拳によるラッシュ。何方も一歩も引かない殴り合いに轟は素直に感嘆の息を漏らした。
「凄い……まだあんな力が……」
「零一は既に大分消耗しておるが、それを激気と臨気を増幅させる形でカバーしておるんじゃよ」
「激気ってそんな事も出来るんですか」
「うんまあ出来なくはないけど……零一のそれはあんまり褒めちゃいけないモノなんだよね」
シャッキーの物言いに首を傾げてしまった、体力の減少をカバー出来るのに何が褒められないのだろうか。獣拳に触れてまだ時間が浅い轟には理解が出来ないのでシャーフーは説明を行う。
「臨気はマイナスの感情で増幅する、じゃが零一の行っておる方法は一つ手を誤れば廃人となりえるかも知れぬ方法なのじゃ」
「廃人……!?」
「零一は過去に酷い目にあってね……その記憶を使って激気と臨気を高めているんだけど……その方法は邪法に近いんだ」
臨気を使う激技、臨技には暗黒咆と漆黒咆という技がある。暗黒咆は相手の深層心理や普段は心の底に封じ込めている絶望を呼び起こし、漆黒咆は相手が心の底に封じ込めている記憶を呼び起こす技。零一はそれらを応用して自らの記憶へと潜り、絶望などを引き出している。だが、一つでも間違えば自分で自分の心を壊しかねないような危険な物。
「それ程の体験って、何が……」
「すまんが儂らの口からは言えんな」
「ゴメンね、流石に勝手に話せないんだ」
「あっいえ、そういう事だったらしょうがないと思います」
どんな事かは分からない、だが自分にとっての男装をしたかの理由に近い何かではある事を察する。勝手に話されるのは零一だって嫌な筈、故に轟は理解して深入りを止める……だが逆にそんな事がありながらもそれで臨気だけではなく激気を高める事が出来る零一を素直に凄いと思ってしまう。
「その辺りについては追々当人から聞いて欲しいかな、きっと君になら話してくれると思うから」
「そう、ですかね」
そうなのかな、という不安もあるが本当に話してくれるのであればそれだけ信頼してくれているという事なのかもしれないと思うと僅かに頬が赤らむのであった。
「チェエエエエエストォ!!!」
「ぁぁあっ……!!」
絨毯爆撃のような爆破を越えて今度は後ろに飛ばれる事も無く爆豪へと蹴りを喰らわせる。力を込めて蹴り飛ばして場外を狙うが、地面を転がりながらも爆破で制動を掛けて場外を回避。本当に咄嗟の行動の素早さには舌を巻くしかない。
「……ソがぁ……!!!」
もう既に何度も爆豪の身体には激気を込めた拳に臨気を込めた蹴りなどを浴びせている、中にはクリティカルヒットしているのもあるというのにまだまだ立ち上がってくる。肉体と精神の双方が極めて頑強、それ故のタフさ。戦う者として此処まで厄介な相手もないだろう。
「ハァハァハァハァッ……!!」
だが、肝心の爆豪はこの苦しい状況であるのにも拘らずに何故か―――高揚し続けていた。本気の零一に対して自分は戦えている、渡り合えている、その事実は紛れもなく零一もかなり本腰を入れて此方を叩きに来ているのに未だにそれが成就しない事に驚きを覚えている筈。
「ざまぁみやがれ……!」
勝利にはまだほど遠い、それなのに笑みが零れて来る。それは―――格上であろう相手が自分の実力を認めて潰しに来ている、その喜びを知ったから。これまでライバルも居らず文字通りの爆発的なスピードで登り続けて来た爆豪、その彼の前に立ちはだかるのは無個性というハンデを背負いながらも上へと登った零一、つまり本気で勝ちたいライバル……まあ爆豪的に言わせれば本気で叩き潰して上に立ちたいと思う相手なのだろうが……シンプルに捻じ伏せたい相手が零一なのである。
「爆豪君まだ立ちます、既に限界に近い筈なのに何というタフネスでしょうか。ですがそれに半比例するように爆破の勢いは増しているように見えます!!まだ続けるのか、それとも最後の一撃が近いのか!!?」
「(っそがぁ……あのクソハエの言う通りなのが腹立つ……だけど今なら最高最強の爆破が出来る……!!)」
爆豪の爆破は掌の汗腺から爆破性の汗のような物を分泌しそこに引火させて爆破させる、戦いが長引き尻上がりに爆破の規模、勢いは増して行く。既に肉体はフルボルテージを越えたMAXボルテージ、これならば最高の爆破を出せる……それで零一を仕留める!!とゆっくりと両手の爆破で浮き上がると後ろに下がって距離を取った。
「ならばっ此方も……!!!」
それに零一も気付く、次が最後の一撃だと―――ならばそれに自分も応えるのみ!!獣拳武装をした零一の瞳とライガーが遠吠えを上げる、ライガークローを展開し両手に激気と臨気を集中させていく、右手には激気を、左手には臨気を、それぞれに収束していくと眩い光を放ち始めそれを同時に放出してぶつけ合い、スパークさせる。
「行くぞ、爆豪!!」
「これで終いだぁぁぁぁぁ!!!!」
身体を軸に回転させるように爆破を右、左と爆破を連発させて風を纏いながら突っ込んでいく爆豪。まるで竜巻でも纏ったように突撃していく爆豪に零一は両手の間に生まれたエネルギーを球体へと変えながらそれを構えた。既に退路は無し、互いの最強の一撃をぶつけ合うのみ。
激臨威砲が放たれる、不規則な軌道を描きながらも爆豪へと向かって行く光球。それを避けるつもりは毛頭なし、真正面から向かって行く爆豪は自身が出せる最大火力に回転と勢いを上乗せした渾身の大爆発を叩き付けた。エネルギーの塊の光球と大爆発の激突は更なる爆発を引き起こした。
「な、なんだぁ!!?」
「何事故かなんかですかあれぇ!!?」
それは警備をしていたヒーロー達にも見えていた。スタジアムから伸びた巨大な巨大な火柱となって天へと駆けあがっていた、スタジアムには超大型の台風の暴風域に晒されているかのような猛烈な爆風に見舞われて誰もがその嵐に耐えていた。
「ななななななんという事なんでしょうかぁぁぁぁぁ零一君の激臨威砲と爆豪君の渾身のハウザー・インパクトの激突の凄まじさをどう表現すればいいでしょうか!?というかこの火柱見れば伝わりますよねぇぇぇぇぇ!!!!」
『ブラザー今はとにかく耐える事に集中するべきだぜぇ!!?』
「御尤もぉ!!!」
流石のバエもこの状況ではまともに実況も出来ない、というか飛ばされないように適当な場所にしがみついていた。そして一体何秒登り続けたであろう火柱が収まり、爆煙が薄くなり始めた時……見えてきたのは戦闘フィールドが爆心地のように大きく抉り取られたクレーターになっていた光景だった。
「なんて威力なの……」
「これほどとは……」
その余波によって吹き飛ばされていたミッドナイトとセメントスは何とか状況の確認に勤しむのだが……バトルフィールドそのものが完全に消し飛んでいる為に判断が難しい。何とか記憶を基にフィールドの大きさなどを計るが……完全に煙が晴れた。そこにあったのは……壁へと叩き付けられて意識を失っている爆豪、場外に吹き飛ばされながらも身体を引き起こして頭を振るって意識をハッキリさせようとしている零一の姿であった。即ち―――
「ば、爆豪君、無月君ともに場外!!よってこの試合はDRAW!!引き分けとします!!」
両者痛み分けという結果となった。何方かと言えば爆豪よりも吹き飛んでいなくて意識もある零一を勝利するべきと思うかもしれない、何方も場外。この場合はこの判断をすべきとミッドナイトは決定した。