体育祭後初めての登校日となったその日、零一は普段通りに制服を纏って登校をしていた。住んでいる家は雄英から程々に近い距離にある為、毎朝ランニングを行いながら通っている。早朝のランニングも終えて、朝食を取った後に走っていく。生憎の雨だがそんな事は関係ない。何時も通りに走っている時、信号待ちになったので止まってスポーツドリンクを飲んでいると隣何やら目を輝かせた視線を此方に向けられていた事に気付く。いや、隣だけではなく周りから向けられている。一瞬何かと思ったのだが……
「たっ体育祭優勝おめでとうございます!!」
「本当にカッコよかったぞ!!」
「無個性なんて信じられない大活躍っぷりだったわね!!」
と称賛の声に溢れていた。先日のスクラッチ社の事で完全に頭から抜けていたが自分は雄英体育祭で優勝したのだった、オリンピックの代わりとも言われる大イベントで優勝したのだから注目を浴びるのは当然すぎる事だった。
「傘差さなくて大丈夫か?ホラッ一本余ってるから使ってくれ!!!」
「必要ない」
そう言うと零一は身体の周囲に纏っていた激気を少しだけ強めた、身体の周囲に見えない程度に薄く激気を纏う事で激気の精密さを維持する修行を行っている。同時に激気が膜の役割をしてくれるので雨などに濡れる事もないので傘などは全く必要ないのである。
「それが激気って奴か!俺も武術やってたけど全然知らなかったよ!!」
「ねえねえそれって私達も使えるの?」
「……答えてやりたいのは山々だが、悪いが遅れたくはないのでな」
そう言っていると信号が青に変わったので零一はそのまま軽い足取りでそこから脱出し、横断歩道を渡った後に軽くポーズを取る様にしてから去っていく。背後からは頑張れヒーロー!!という声が聞こえてくるのだが、自分は別にヒーローは目指していないのだがな……と内心で想うのであった。
「あっ零一おはよう」
「おはよう」
「ああ、おはよう……激気だし過ぎだぞ」
「いやこれ結構きつくて……!!」
「ムゥッ……ちょっと濡れた」
雄英を前にした最後の坂、その途中で同じように激気で雨を防いでいる尾白と轟。スクラッチで激気のコントロール修行の一環として、滝などに打たれながら精神統一をしながら激気で水を防ぐ修行を試したばかりだからか、丁度雨になったので試しているのだろう。
「難しいなら、もう一枚服を着てみろ。其処に激気を纏わせて慣らせ、それで激気を服のように纏うというイメージを持て」
「ふ、服か……」
「成程レインコートみたいに……こんな感じか?」
そう言われて納得したように轟は直ぐに激気の放出が安定し始めていき、激気が服のようになっていった。たった一言で此処まで判定するのは流石としか言いようがない。
「マ、マジかよ……」
「気にするな、お前のペースで良い」
「分かってるけど、これは流石に来るよ……」
相変わらずの才覚っぷりを発揮している轟に劣等感を感じてしまっている尾白を励ましつつも教室へと向かって行くのであった。教室では矢張り声を掛けられたや凄い見られたなどの意見が多い。それだけ雄英体育祭の影響は大きく強いという事になるのだ。
「それにしてもまさかこんな早く許可が下りるなんて思わなかったね……」
「まあ、その辺りはスクラッチ社のネームバリューだ」
スクラッチ社はサポート業界でも超大手、雄英との繋がりもある為か申請は恙なく進んでいき直ぐにコスチュームへと組み込む許可は下りたのであった。なので既にゲキチェンジャーはそれぞれのコスチュームに組み込まれた、特に零一は申請などは一切していなかったが漸く埋まった事になる……まあコスチュームと言ってもゲキチェンジャーだけなのだが。
「無月君!!!やはり改めてお礼を言わせて―――」
「しつこいぞ駄メガネ」
「駄メガネ!?」
のんびりとしている零一の元を訪れたのは飯田だった、来て早々に頭を下げようとするので額を少し強めに指で押した。好い加減にしつこいのである。
「もう聞き飽きたぞ、感謝の押し売りでもしているのか貴様」
「だが、君のお師匠様に兄さん、インゲニウムは命を救われたんだぞ!?感謝当然じゃないか!!!」
その気持ちは分かるが好い加減に感謝し続けるを止めろと言いたい、したいならスクラッチ社に紹介してやるから直接やってくれと言いたい位である。
「飯田君、インゲニウムが助けられたってどういうことなの?ニュースでヒーロー殺しと戦ったってやってたけど」
飯田の兄はプロヒーロー・インゲニウム。多くのサイドキックを持ちチームでのヒーロー活動を行っている実力も人気も高いヒーロー、だがそんなインゲニウムが体育祭のトーナメント中に病院に搬送されたと聞いて飯田は閉会式を欠席していた、そしてニュースでインゲニウムが病院に運ばれた事は知っていたのだが……
「ああ、兄はヒーロー殺しと戦っていた。危うく命すら危なかったところだった、だが其処に一人の人が現れて助けてくださったというのだ。その人というのがなんと獣拳使いで無月君のお師匠様だったんだ!!」
「ええっ!?零一君のお師匠様!?」
「師匠の一人、だな正確には」
それを聞きながらも尾白は何処か尊敬を胸に抱いていた。何故ならば……インゲニウムを救ったというのはゴリー・イェンなのだから。来日して体育祭に来ようとしていたのだが、その途中で遭遇して結果的にインゲニウムを救う結果となった。
「それで、お兄さんは大丈夫なの飯田ちゃん」
「入院こそしているが元気にしているよ」
「良かったね飯田君」
ゴリー・イェン曰く、不闘の誓いがあるとはいえ、拳聖たる者が命の危険にある人を捨て置く事は出来ない。あくまで威嚇と牽制程度にしかヒーロー殺しとは立ち会わなかったらしい……ヒーロー殺しが此方の実力を知り、ヒーローではない事を把握したからか撤退を選択したとの事。そんな話をしていると何時の間にか予鈴が鳴る時間になってしまったので急いで席に着く。直後に相澤がやって来た。包帯も取れたようで安堵する生徒も多い。
「ヒーロー情報学はちょっと特別だ」
『特別?』
ヒーロー情報学、ヒーローに関連する法律や事務を学ぶ授業で個性使用やサイドキックとしての活動に関する詳細事項などなど様々とを学んで行く。他のヒーロー学とは異なり苦手とする生徒も多い、特別というので小テストでもやるのかと身構えるが、いい意味でそれは裏切られる事となった。
「コードネーム、いわゆるヒーローネームの考案だ」
『胸膨らむヤツきたあああああ!!!』
ヒーローネーム、即ちヒーローとしての自分を示す名前の決めるという事。自分の事に関する故にヒーロー足る者として絶対的に必要な物にクラス中からテンションが爆発して行った。相澤が睨みを利かすと一瞬で静かになる辺り本当に慣れてきているというか、調教されている。
「ヒーローネームの考案、それをするのも先日話したプロからのドラフト指名に密接に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積んで即戦力と判断される2年や3年から……今回の指名は将来性を評価した興味。卒業までにその興味が削がれたら、一方的にキャンセルなんてことはよくある。勝手だと思うがこれをハードルと思え、その興味を保たせて見せろ」
幾ら体育祭で素晴らしい力を見せたと言ってもまだまだ経験も足りない物を採用などはしない、これから力を付けていかなければ今の評価など簡単に引っくり返る。そして相澤は手に持ったリモコンを押してある結果を黒板に表示した。それはクラスの各生徒に来ている指名の件数、本来はバラ付きを見せるらしいが今回が豊作という事もあって偏っている。
「うおっやっぱに上位に固まってんなぁ……」
「無月、轟、爆豪が全員2000オーバーだぜ」
「あれでもなんで轟の方が上なんだろ」
「そりゃ拘束されてたからだろ」
『ああ成程』
「納得してんじゃねえクソがぁ!!」
矢張りトップは零一、無個性という事もあって票数は低いのではという事も考えていたが獣拳の事もあってかそんな心配は無用だった。そして次に轟、爆豪、尾白、常闇と続いて行く。自分に票が入っていない事に落ち込んだり、入っている事に安堵したりと様々な様子が見受けられる。
「(1,14件……来てるぅ……!!)」
緑谷は自分にも来ている事に酷く安堵しつつも感動を覚えていた。自己分析を行って途中から自損攻撃を行っていた事はマイナスなのでは……と思っていたがその前の攻防などを評価しているヒーローもいる模様。
「これを踏まえ、指名の有無に関係なく職場体験に行ってもらう。お前達はUSJでヴィランとの戦闘を一足先に経験しちまってるが、本来は此処でプロの活動を実際に体験、より実りある訓練をという事だ。職場体験と言ってもヒーローの現場に行く。そこで必要になって来る、まあ仮ではあるが適当なもんを付けたら――」
「付けたら地獄を見ちゃうよ!!この時の名が世に認知されてそのままプロ名になってる人は多いからね!!!」
『ミッドナイトォ!!!』
教室に参上したのは18禁ヒーロー事ミッドナイト、ヒーローネームのチェックなどは彼女が受け持つとの事。相澤はその辺りは出来ないらしいので適材適所という奴だろう、寝袋を取り出して寝始めた。各自にボードが配られ、そこにヒーローネームをかき込んで行く事になるらしい。一生を決める事になる決断、時間を掛けてたっぷりと考えていいとミッドナイトが言う。
「ヒーローネーム、か……」
そもそも雄英に来た目的自体がヒーローになる事ではなく、修行がメインになっている零一には何とも辛い課題となった。マスター達が見ていたという伝説のチームから取る事も考えたのだが、あれはチームの名前であって個人の名前には適していない。
「……良いか、別に」
難しく考える事を止めてシンプルに行こうと思って、名前を決めた。そして名前を書いた時、ミッドナイトが声を上げた。
「そろそろ時間的にもいい頃かしらね、それじゃあ出来た人からレッツ発表!!」
『!?』
まさかの発表形式に驚きの声が上がる、流石にこれは予想していなかったのか皆及び腰になっているので挙手をする。
「はい無月君!!トップバッターが優勝者ってのもいいわね!!さあ勢いよく頼むわよ!!」
ボードを掲げる。其処にあるのは自分の象徴とも言える獣拳、そして自らが修得しているライガー拳の名前がある。其処に己を込めて……このような名前にした。ライガーゼロワン。それが彼の名前。
「確かライガー拳だったかしら、それに自分の名前、零一をゼロワンにしたのね」
「ええ。どんな道だろうと始まりはゼロ、それをワンに出来るように」
「とってもいい名前ね!!トップバッターとして申し分ないわ!!」
こうして零一のヒーローネームはライガーゼロワンに決定するのであった。因みに―――
「獣拳武闘・テイルマン!!」
「分かりやすいわね、素敵!!」
「ショート」
「あら、名前で良いの?」
「ポラリスも考えましたけど、自分の道は自分で行くためには自分の前で行くのが良いと思って」
尾白はテイルマン、轟はショートに決定した。