「職場体験は一週間。肝心の職場だが指名のあった者は個別にリストを渡しておく、その中から自分で選択しろ。指名のなかった者は予めこちらからオファーした全国の受け入れ可のヒーロー事務所、40件の中から選んでもらう。それぞれ活動地域や得意なジャンルが異なるから良く考えてから選べよ」
ヒーローネームを考える時間もぼちぼちにして、詳しい職場体験についての話に移行する。取り敢えず零一は数多くの指名を受けているのでその中から選ぶ事になったのだが……どれもこれも獣拳についての興味が大半でその情報を求めているのだろう、それを踏まえつつも自分の行きたい場所を決めなければならない……そうなると何処になるのだろうか。生憎ヒーローに詳しくはないので名前を列挙されてもピンとこないのが素直な所である。
「……」
2000件を超えるオファーが来ているので体験先候補となるヒーロー事務所のリストは50枚以上。これから一つを選ぶのは極めて大変だ、もうこれをそのままスクラッチの夏希辺りに転送してお勧めで教えて貰おうかな、ということまで考えてしまっている。それは昼休みまで続いており、シンプルに悩み続けている。
「零一は何処に行くか決めた?」
「全然。何処が良いのかも全く分からん」
「なんか、らしいなぁ……」
雄英に来ているのも修行の一環と公言する程なのでプロになる事もそこまで興味はない、故に職場体験もそこまでの興味がないのだろうなぁと思っていた尾白だったが、如何やら的中だったらしい。
「どうせ大半は獣拳目当てだろうからな」
「まああれだけの事をやればそうだと思うよ、ねえどんな人から来てるのか見てもいいかな」
「好きにしろ」
そう言われながらも手渡されたリストを見てみると……そこにはトップヒーローの名前がずらりと勢揃いしていた。自分ならばこれだけ有名なヒーローに指名を受けたのならば嬉しさで震えそうなものだが……そんな素振りすら見せない零一は彼らしいなぁ……とすら思える。
「お前は如何するんだ」
「俺?俺はまだ検討中、拳法ヒーローの名前が幾つかあったからそこにしようかなとは思ってるけど」
「そうか」
結局、自分がどんなヒーローになりたいかがこの体験先に直結するような物。だとすると……自分がなりたいもの、それはあの日の惨劇をもう繰り返させない、ならばそうさせない為に積むべき経験とはどんな物なのだろう……災害救助、いや……ヴィランによる大規模凶悪犯罪、それに該当するだろう。ならば選択肢は一気に狭まっていく。
「零一、何処にするか決めた?」
「……」
「零一?」
「……対ヴィランで実績を積んでるヒーローって誰だ?」
「えっ零一、それマジで言ってる?」
轟が如何するかを聞きに来た所にそう聞いて来た零一に思わず尾白は顔を引きつらせてしまった。
「なんだ心当たりあるのか?」
「いやいやいや……零一、エンデヴァーって事件解決数史上最多って実績持ちだから」
「なんだあいつそうなのか、唯の缶コーヒーのCMヒーローとしてしか見てなかった」
「如何言う認識してるの!!?」
「ブフッ……」
「轟も笑ってるところなの!?いや笑えるのは分からなくないけど!!」
スクラッチ社でのゲキハンマーの一件で轟が女性である事を知り、如何して男装をしているのかの経緯も確りと聞いた尾白。まさかあのヒーローが……と驚愕する一方で轟より、というよりも中立的な立場で物事を見る事を決めたからかエンデヴァーのヒーローとしての側面は普通に評価している。まあその辺りは轟も一応分かっているつもりで入る……感情が乗って評価しづらいが。
「零一……あいつの所に行くのか?」
「やりたい事がある、それの為の経験を積めるのが一番近いのがエンデヴァーかもしれないからな」
「やりたい事って……修行以外に何をするんだ」
「……俺が如何して臨気を扱えるか、考えた事あるか」
そう言われて二人は特に考えた事は無かったが、轟は爆豪との試合の時にシャーフーとシャッキーから言われた言葉を思い出した。零一の過去、詳しくは聞けなかった、唯―――その過去を使って激気と臨気を高めている、とは聞く事が出来た。
「俺にとって、過去は力だ。そして他者にそれが及ぶのであれば止めたい」
そう思って零一は体験先を決めるとそのまま教室から出て行った、そこに書いてあったのはエンデヴァーヒーロー事務所の文字。
「零一……轟は何か知ってる?」
「いや……マスターも本人から聞けとしか、だから俺は聞く為に行動する」
轟も続くように体験先を掻き込むとその後に続いて行った。本当に行きたくはないがヒーローとしては超一流の男、そう言う意味では確りと評価出来るし自分の糧にも出来る。零一がそうしているのであれば自分もそうしようと決めて自分もエンデヴァーの事務所に行く事を決めるのであった。それを見届けた尾白は
「俺もそっちに行けたらなぁ……しょうがないか、俺は俺に出来る事をしよっと」
生憎自分にはエンデヴァーからのオファーは来ていない。だから今自分に出来る事を精いっぱいにやる事を決意しながらも候補を決めようとするのであった。
「おや、済まない二人とも。決めたのかい体験先を」
「そう言うお前は決めたのか」
「勿論、今提出する来た所さ」
職員室に体験先を提出した二人が、出た先に飯田がやって来た。如何やら飯田も体験先を定めたのか提出しに来たらしい。
「俺は兄さんの事務所、インゲニウムの所に行くつもりだ」
「だけど兄さんは入院中だろ」
「ああ、だからこそ行きたいんだ。兄さんの代わりになる、なんて自惚れを言うつもりはない。でも兄さんと同じ目線で物事を見るチャンスだと思うんだ」
飯田の瞳には復讐と言った色は浮かんでいない。ひょっとしてヒーロー殺しに対する敵意などがあるのではと邪推したが、そんな事は無かった。兄は無事であると冷静に受け止めている、だからこそ兄と同じ空気を感じたいと思ったのかもしれない。目標としているヒーローと。
「そうか、なら行ってこい」
「ああ、おっと二人は何処に行くんだい?」
「一応エンデヴァーの事務所だ、珈琲でもご馳走になろうと思ってな」
「確かに缶コーヒーのCMに出ているが、そんな事の為に行こうとするんじゃない!!?」
「察しろクソ真面目、ジョークだ」
それを見た轟は何処か零一が変わったような印象を受けた、以前から軽いジョークを言ったりはするようになっているが体育祭前と比べると何処か自分や尾白以外に取る態度が軟化しているというか、変化している気がする。彼の中で意識が変化した、というべきなのだろうか……。
「放課後は武器の修行をするか」
「分かった、ゲキハンマーに慣れないと……あんま使いたくないけど」
「一応武器としてみれば優秀なんだ。まあ問題はあるが……」
「―――」
『―――』
暗闇の何処か、宵闇の中にボンヤリと浮かび上がる煌びやかな光を崇拝するかのように崇め奉る者どもがそこに居た。その輝きは何処か不安定、消えかけたかと思いきや急激に強くなったりを繰り返し続けている。
「……新たな嘆きを捧げなければならぬ、全ては偉大なる方の為に」
『全ては尊き御方の為』
魅入られているかのように祈りを捧げ続ける者共から一人が立ち上がった、その瞳は妖しく揺れ動いているがその奥に金色の光が宿ると急激に生気を取り戻して行く。
「お任せください、嘗ての貢ぎ物……とまでは行きませぬが、己が使命に心血を注ぎし者が道半ばで朽ち果てるなど良い物になると思います」
「良いだろう、任せよう」
「ハハッ」
頭を下げた後に金色の光と共に消えていくそれを見送った後、再び祈りを捧げる。それらが捧げる物には嘗て捧げた物が封じ込められた宝玉が未だに残っている、それ程までに深く、大きい貢ぎ……それに等しい物を再び作り出す為の準備が始められようとしていた。