エンデヴァーの事務所での日々は間違いなくこれから役立つ者になるという確信があった。どれをとっても超一流、№2ヒーローというのも納得。その上に立つ№1ヒーローであるオールマイトは基本的に自己完結させてしまう
「保須市か……」
二人がやって来たのは東京の保須市、ヒーロー殺しの名を轟かせているヴィラン・ステインが潜伏しているとされる地区だった。此処でヒーロー・インゲニウムは倒されてしまっている。彼のサイドキックは留まっているが、それでも保須市からは不安の声も聞こえている、それ故か多くのヒーローが保須入りを行っている。目的は一つ、ヒーロー狩りを行っているヒーロー殺しを逆に狩る為である。
「つってもやる事はあまり変わらないな」
「だな」
保須市入りをしたとて、やる事はあまり変わらない。パトロールを基本としたものばかり、場所が変わろうとも基本が変わる事などは無い。№2ヒーローがやってきている、それを知らしめるだけでヴィラン達は犯罪を起こす気持ちにブレーキが掛かる。それについては轟も認めている、あくまでヒーローとしては。時折、それでも暴れる者はいるが、自分達に手番が回るまでもなく鎮圧される事が大半である。
「もう夕方か……」
「今日も収穫は無しか」
保須入りをして数日、ヒーロー殺しの足取りは掴めていない。そこは行動をしていない、つまり犠牲者が出ていない事に喜ぶべきなのだろうか……何とも言えないもどかしさに言葉が詰まる。
「何も起こらない、それが一番だ。それに文句などを付けようとするなよ」
「分かってる」
サイドキックのキドウからそのような声を掛けられるが、掛けられるまでもない事は分かっている。平和を望む事こそがヒーローの本懐なのだから……何もないならばそれが一番なのだ……だが、それを乱す者がいるのもヒーローが存在する理由でもある。突如として、轟音と共にそこいら中に何かが出現し始めた。それは手に槍や棒などといった武器を所持しながらもまるでキョンシーのような動きをしながらも近くにいる人々を片っ端から攻撃し始めた。
「な、なんだあいつら!!?」
「いきなり現れた……!?」
キドウと轟は思わず声を上げたが、零一は言葉を失っていた。そこに居たのは……リンシー。嘗て、獣拳が二つの流派に別たれていた時代、臨気を扱う臨獣殿、道半ばで命を落とした古代の臨獣拳の使い手達が秘術によって仮初の命を与えられてこの世に蘇った存在……それがリンシー。臨気を扱う零一には分かる、あれは本物のリンシーなのだと。
「リンシー……いや、なんだこの違和感は……ゾワゾワ、いやもっと変な感じがする……ズシズシのゾワゾワ……?」
上手く言語化する事は出来ないが、あのリンシーは唯のリンシーではないという事は理解出来た。金縁の黒い服に目元を帽子と目隠しで覆ったリンシー……聞いていた物とはどこか異なるのもそのせいだろうか、兎に角このままにしておけない。
「キドウに轟、あいつらを、俺は知ってる」
「知ってるって何でだライガー!?」
「あれは……道半ばで命を落とした太古の獣拳の使い手、言うなればゾンビみたいな奴らだ」
「ゾ、ゾンビって……そんなオカルトがあるのか!?」
「ハァッ!!」
信じないキドウに対して零一は実力行使と言わんばかりに一般人に槍を突き刺そうとしていたリンシーに向けて臨気弾を発射した。臨気弾は槍を圧し折りながらもリンシーの顔面に直撃して吹き飛ばし、地面へと叩き付けると石化して砕け散っていった。
「ホ、本当に……ゾンビ……?」
「あいつらを安らかに眠らせてやるのも獣拳使いとしての俺の使命……とにかく、被害を抑える為にも俺は行く!!」
「零一!!俺も!!」
「ああ待て二人ともって言ってる場合じゃないか!!戦闘を許可する、そして俺も行く!!」
兎に角被害を抑えなければ!とキドウも戦闘に参加する為に飛び込んでいく、それに反応するようにキョンシーのように跳び跳ねながらも迫ってくるリンシー達。キドウは個性の軌道で攻撃の軌道を反らしながらも反撃に移ろうとするのだが―――
「ハッ!!」
「―――」
「何!?」
リンシーはキドウの一撃を容易く受け止めるとそのままカウンターで殴り付けて来た、それに負けじと攻撃を仕掛ける。今度は個性を併用しつつ攻撃の軌道を読ませないようにしている筈なのにリンシー達はそれを見事に受け流して防御を行っている。
「な、なんだこいつら!?」
「油断するな!!」
そんなキドウをフォローするように跳び込んできた零一は強烈な飛び蹴りでリンシー達を吹き飛ばしつつも、激気と臨気を溢れ出させながらも迫り来るリンシー達の攻撃を捌きながらも的確に攻撃を命中させていく。
「道半ばで倒れたとはいえ、こいつらは獣拳を学んだ者。本気で掛からんと此方が首を取られるぞ!!」
「っすまん!!」
そう、リンシー達は臨獣拳を学んでいた者達。達人とは言えないが、それでも並の武芸者よりも技術という点で言えば優れているのである。零一の攻撃で簡単に倒された光景で舐めていた自分を戒める、キドウは今度は本気で立ち回っていく。
「だが、此方―――だぁりや!!」
相手の攻撃の軌道を反らす事で隙を作り、カウンターで拳を叩きこむ。それを受けたリンシーは石化、消滅する。油断しなければ勝てる、そう分かれば全力で対処していく。それを見て零一は頷きながらも剛勇雷迅波でリンシーを蹴散らして行く。
「激技、氷柱乱!!!」
轟も数多くのリンシーを相手取りながらもポーラベアー拳の豪快なパワーで圧倒しつつも氷結攻撃で相手を飲み込んでいく。だがそれでもまだまだリンシーはいる。
「くっそ切りがないぞ!!」
「だったら、切り終えるまで!!激技、剛勇咆弾!!」
『ゴオオオオオオォォォッ!!!』
激気と臨気によって具現化されたライガーは大きな遠吠えを上げながらリンシーへと向かっていき、次々とそれらを薙ぎ倒して行く。最後に一際大きな咆哮を上げると周囲のリンシーを一掃してしまう。
「凄いな……だけど、このリンシーってのは一体何なんだ……?」
一先ず暴れ回っていたリンシー達の対応を終えたキドウは息を吐きながらも、粉々になったリンシーの残骸を見つめながら言った。戸惑うのも当然だ、獣拳に身を置く自分ですらリンシーの出現には驚愕させられた。悪しき獣拳使いが現れてしまったのか……と考え込んでしまいそうになった時、仮面をつけた一人の男が此方に向かってきた。それは慇懃無礼に頭を下げた。
「これはこれは……ゲンリンシー程度では相手になりませんか……しかしまあよくもまあ私の余興を邪魔してくれたものです」
「余興だと!?今のは貴様の個性か!!」
「個性、個性ねぇ……まあそう言う事にしておきましょうか」
キドウの言葉にクックックッ……と薄気味悪い笑みを浮かべながらもその男は仮面を取り外した。その仮面の下に広がっていたのは……額に何かの動物のような像があった。それを見て益々零一は臨気を滾らせそうになってしまった。
「本来の目的の食前酒として人々の悲鳴、絶望を頂こうとしたのですが……その前に退治されてしまった、致し方ない……さっさと目的を果たすしかありますまい」
「何を言っている!!貴様を捕縛させて貰う!!」
「捕縛、私を……ヒーロー如きが何をほざくか。余り馬鹿にしないでいただこう」
瞬間、男から凄まじいプレッシャーが溢れ始めた。それは臨気、いや臨気よりも更に得体の知れないどす黒くありながらも煌びやかを纏った臨気に近い何かだった。これから何が始まるのかと三人が構えると男は叫びをあげた。
「―――邪身変!!!」
直後、男は激烈な変化を遂げ始めた。頭部と腕が身体の中へと引っ込んでいくように入っていく。そして膨れ上がった身体を突き破るかのように、背中から何かが羽化した。それはカマキリを連想させるような姿をしていた。両腕にはカマキリのような鎌を携え、胸部がカマキリの頭部で両肩がその目をしているという不気味さを纏っている。
「へ、変身した!?」
「れ、零一これって……」
「ああ、臨技……獣人邪身変……!!」
「チッやっぱりこれ止まりか、だから絶望を得ようとしたのによぉ~……まあいい、俺の目的はお前らじゃねえ。お前らはこいつらと遊んでな!!」
先程とは口調が変わった男は再びリンシーを繰り出すとその場を任せるように背中にある羽を広げて飛び立って行った。それを追いかけようとするが、瞬時に周囲をリンシーに囲まれてしまう。
「くそ、なんなんだ一体!!この保須で何が起きようとしてやがるんだ!?」
キドウのその言葉が、この状況の混沌加減を現していた。
夏希「リンシー。獣拳が別れていた時に、臨獣殿の下級戦士として扱われていた戦士達ね。と言っても全員が獣拳を学んでいたから厄介よ」
零一「唯の戦闘員じゃない、というのが厄介ですね」
夏希「更に、このリンシーが特別な修行を行うと更に強力な戦士になるというわ」
零一「やっぱり修行は偉大だな……」