「「「「「保須での巨人の事聞かせて!!!」」」」」
「予想はしてたが、圧が凄いな……」
職場体験を終えて、通常授業が再開されるのだが教室で話されるのはやはり職場体験についての話ばかり、自分の事務所ではどんなことをした、こんな事を倣ったなどなどの話で盛り上がっている。中にはヒーロー活動というよりもヒーローが副業にしている活動がメインだったり家政婦的な扱いを受けて憮然としている者も居るのだが……そんな中、保須市に行っていたメンバーに特に人は集中しており話を聞こうとしていた。そしてそれは大肝心の零一が来ると爆発するのであった。
「取り敢えず、荷物を置かせろ。邪魔だ」
そんな状況に陥ったとしても極めてマイペースにしながら席に着く。そんな零一に最も食いつけていたのは尾白だった。
「零一、あの激技は一体何なんだ!!?俺も出来るようになるのか!!?」
「轟と似たような事聞きやがって……だから敢えて同じ答えを返してやる、出来るかで言えばYES、今出来るかといえばNOだ」
「という事は何れ出来るようになるんだな!!?はぁぁ……目指すべきは先は果てしないなぁ……」
「ねえねえっあれって此処でも出来るの!?」
「出来るが、なんだやれっていうのか」
『勿論!!』
ほぼ全周囲から憧れを見つめる輝きのような視線を向けられるのだが、そんな風に観られてもハッキリ言って困るだけ。
「あれはあれで消耗が激しい技だ。それにあれはこれから修行してもっと質を上げなければいけない技だ」
「えっアタシ動画見たけどさ、あんなに凄い戦いが出来てたのに?」
「出来たからこそだ、戦い終わった後に俺はまともに動けなかった。初めての技だったとはいえ、あれでは話にならない」
それを聞いて皆は驚いた、あれだけ凄い技を初見にも拘らず成功させたうえでヴィランと戦えたのだから。それだけ獣拳が凄まじい……いや、この場合は零一の獣拳の技量が飛び抜けているという事になるのだろう。
「んじゃ、あの技はもうやらないの?」
「一人ではもうやらん、やるにしても緊急事態のみだ」
「一人では……って事は今度やる時は尾白とか轟とやるってこと?」
「それが望ましいな」
それを聞いて尾白と轟はやる気を燃やした、絶対にその域にまで到達しなければならない。あの戦いを見て真っ先に抱いた思いは、そこに立ちたいという羨望だった。零一はずっと憧れだった、そんな彼に獣拳を習い、己の獣を感じて激気を引き出せるようになり、獣拳使いとして認められて隣に立てたような気分になっていたがまだまだだった。零一はもっともっと先に立っていたんだ、だったら自分達はそこに立てるように修行を積まなければならない。
「そんな事より俺は心配な事がある」
「心配な事って、何かマスターに課題出されたの?」
「まあ課題と言えば課題だな……」
珍しく零一が深い深い溜息をついた、それに悩みがあるのかと皆が興味津々になった。
「悩み事があるのでしたら、お力になりますわ。是非お話しくださいませ」
「あ~……本当は俺と一緒に雄英を受ける筈だった奴が居るんだ」
「一緒って事はもしかしてその人も」
「ああ、獣拳使いだ。だけど、自分の個性と獣拳を合わせた技を試したせいで入試に間に合わなかったんだ」
一体どんな事をやらかしたのだろうか……と言ってもこの超人社会では個性の煽りを受けて受験出来なくなるという話は珍しい話はない。突然個性が暴走して昏睡状態になった、高熱が出て動けなくなったなどの事情も考慮して編入試験なども雄英は行っている。その難易度は半端ではないが……。
「マスターから編入試験まで俺の家に置いてくれって言われちまってな……」
「へぇっ~じゃあ居候が出来たってこと?」
「まあ、そんな所だ」
それを聞きつつも緑谷はどんな獣拳を使うんだろうと思いながらも、やはり興味が引かれるのか耳を澄ましてしまっていた。
「でもどうして入試に間に合わなかったんだ?」
「北極で修行してて氷漬けになったんだと」
『氷漬け!?』
「そ、それって大丈夫なの!!?」
「ああ大丈夫だった。半年以上も氷漬けだったのに風邪引いた程度だったらしい、マスターの手を煩わせやがってあの駄犬が」
どうにも零一はその友人に対してかなり辛辣になっている、言葉自体は極めて厳しい物だが当人はかなり心配していたのだろう。きっとその言葉は心配の裏返し―――
「だから、今朝軽く手合わせしたんだがボコしてやった」
「れ、零一それ相手大丈夫なの?」
「大丈夫だ。胸から下を地面に埋めただけだ」
『犬神家!!?』
いや、きっとこれが零一の平常運転なのだろう。
「それで俺の家に来る気か」
「うん、同門の先輩に御挨拶しておくのが筋かなぁって」
「あいつに挨拶なんざぁいらないと思うが……まあ好きにすればいい」
「好きにする」
放課後、尾白と轟は零一の跡に続いていた。目的は当然先輩に当たる獣拳使いに会う為である。一体どんな人なのか気になるし、どんな獣拳を修得しているのかも是非とも知りたいと思っている。様々な想像を膨らませていると到着した零一の自宅、ごく普通の一軒家、強いて言うならば庭が大きめ所だろうか。
「此処が零一の家かぁ……ご家族と一緒に?」
尾白が何気なく聞いた言葉に鍵を開けようとしていた零一の手が止まった。しばし沈黙が続いた後、自分一人だけだったと答えながら鍵を開けた。玄関を開けるとそこには既に先輩がいた。
「おっお帰り零一、にしても雄英って随分遅くまであるんだな。普通の高校よりも多いんじゃないか?」
「そういう所だからな、お前もそういう所の編入試験を受ける事を自覚しろ」
「分かってるっつの……んで後ろの御二人さんは?」
先輩は何処か鋭い瞳を投げ掛けながら此方を見据えていた、威圧感を纏ったそれに二人は思わず喉を鳴らしながらも自分から名乗る。
「お、尾白 猿夫です!!零一とは同じクラスで獣拳を教わってます!!激獣クロコダイル拳を使えます!!」
「轟 焦凍。クラスメイトで激獣ポーラベアー拳」
「へぇっ……じゃあ随分と覚えが良いって事だな、紫道 狼我だ、零一とは長い付き合いだ。かれこれ10年になるか?」
「10年になる前に北極で氷漬けになった馬鹿だけどなお前は」
それを言われて思わずズッコケる紫道、それを言うなよ……と言わんばかりだがその瞳は未だに険しい。まるで何を目指すのかを問うかのような……。
「俺は零一と一緒に居たい。何れは獣拳合体も出来るようになる」
「俺も、同じです!!零一と同じ所に立ちたいって思ってます!!」
「……ほう」
それを言った二人を紫道は低い声を出した、更に鋭さは極まっていく。重苦しい空気に包まれる中で紫道は言った。
「それを目指したいなら好きにすればいい、だけどそれは俺の役目であってお前達の役目じゃない。お前達は身の丈に合った目標を掲げろ」
自分達の夢を否定するような言葉だった。零一と一緒に戦うのは自分であってお前達ではない、そんな言い方に思わず二人は怒りを抱いてしまった。零一とどんな修行を乗り越えてきたのかは知らない、だけど自分達だって零一に修行を付けて貰った、その際に抱いた気持ちを其方は知らない筈。何も知らず一方的に否定されて黙っている訳には行かない。
「聞き捨てならねぇな」
「事実を言ったんだ、お前達を零一が戦った相手と戦わせる訳には行かない」
「俺達は如何言われようが修行し続けて、零一の隣に立ちます!!!」
「口だけでは幾らでも言える、零一いいよな」
許可を貰うような言い方に零一は肩を竦めながらやり過ぎるなよと言い含めながら許可を出した。
「だったら俺がテストしてやるよ、零一の親友である紫道 狼我がな」