『如何じゃの高校生活は?』
「まあ、楽しい部類……何じゃないですかね」
『そうかそうか』
洗濯物を畳みながらも携帯に掛かって来た電話に応える零一。相手はマスター・シャーフー、別に自分の事を心配している、という訳でもないが一応保護者としての役割をこなす為に電話を寄こしてきている。
『友人は出来たかの?』
「一応一人は、驚く事に獣拳の事を知っておりました」
『獣拳に関わる者以外で知っていてくれる者がいるとは……今時珍しいの』
「と言っても彼もアメリカでゴリー・イェンにお会いしたからとの事です」
『成程のぉ~』
シャーフーは自分の話を我が事のように嬉しそうに聞き続けている、そうしている内に時間は随分と進んでいきそろそろでなければいけない時間にもなって来た。
「すいません、そろそろ登校時間です」
『そうか長い時間喋ってしまったの』
「いえ、私も声が聞けて嬉しかったです」
其処に嘘はなく本心からの言葉。シャーフーには心からの感謝しかない、故に声を聞きたいというのならば喜んでそれに応える。そして彼はシャーフーの弟子である事を誇りに思っている。
『零一よ、お主の友人が獣拳を学びたいというのならば手解きをしてあげなさい。お主の為になるならば本望じゃ』
「分かりました、それではマスター……まだ何れ」
『うむ、それではまた声を聞ける日を楽しみにしておるぞ。そして忘れずにな、暮らしの中に修行あり……じゃ♪』
最後に茶目っ気タップリに言葉を告げながらも電話は切れた。暮らしの中に修行あり、些細な出来事の中に修行を見出すというのがシャーフーのモットー。それを心にしながら生活していると毎日の事も修行に置き換える事も出来る。故に師の元を離れても零一は毎日修行をし続けている。
「さて……今日も修行だ、行くか」
まるで自分に言い聞かせるように呟きながらも借りている部屋を出て雄英へと向かうのであった。
「ハァッ……」
そんな風に自分に言い聞かせていた零一は朝、教室に姿を現してからいきなり溜息を零したのであった。そんな姿に早めに来ていた尾白が声を掛ける。
「如何したのなんか疲れてるみたいだけど」
「いや、疲れてるというか……これからもあんなのと付き合わないといけないと考えると面倒だなと辟易してるだけだ」
それを聞いて納得したような困った笑いを浮かべてしまった、雄英の校門前には凄い数の報道陣が集まっていた。目的は当然№1ヒーロー、オールマイト。そんなヒーローが教師として雄英の就任したのだから少しでも情報を得ようと生徒達へのインタビューを行っていた、唯々登校の邪魔でしかなく零一もその例に漏れずにしつこくインタビューを迫られたがガン無視した。
「報道の自由は人の自由を侵害して許されるモノなんだろうな」
「ア、アハハハハッ……」
零一の言葉に込められた力は極めて強かった、単純なマスコミ嫌いなのか、それともマスコミ関係で嫌な思い出があるのか……取り敢えず聞く事はやめておく事にしようと思う。そんな時にやってきたのは緑谷だった、彼も彼で早めにやって来たらしい。
「あっおはよう尾白君に無月君!」
「ああっおはよう緑谷、腕はもういいの?」
先日の戦闘訓練で緑谷は自らの腕を犠牲にするような戦法を取った、如何やら彼の個性は超パワー過ぎる為か力を出し過ぎると自らをも傷付ける類の物らしい。彼は直ぐに保健室へと運ばれていった程の怪我だった筈。だが既にギプスなどは取れていた。
「あっうん、リカバリーガールに治癒して貰った所でもう完治だって」
「そっかよかったな」
「うんっ!!それでなんだけど無月君獣拳について僕にも教えてくれないかな!?」
本題はそこか、と零一は思うがそう言えば戦闘訓練の時に語った時に彼は保健室送りになっていたので分からないのかと勝手に納得しつつも改めて説明をする。獣拳には激気と臨気がある事、その二つの性質、そして自分は無個性である事を話した。
「あ、あれだけの事が出来たのに無個性なんて……僕、信じられないよ」
「お前が信じようが信じまいが事実は変わらない、俺は無個性だ。社会的に弱い存在が強いのは容認できないか」
「い、いやそう言う事を言いたい訳じゃないよ!!」
「冗談だ、そう声を荒げるな」
零一としては軽い自虐ギャグのつもりだったのだがまさか此処まで強く言い返されるとは思いもしなかった、だが唯の否定とは思えない。緑谷の表情的に縁者に無個性で苦労している者がいるのかもしれない、そう思うと悪いのは此方だ。
「済まん、気を悪くさせたな」
「えっ!?ああいや、僕の方こそ何か大声出しちゃってごめんなさい……」
一先ず素直に謝罪していく事にした、お互いに頭を下げる頭になったが水に流す事にした。
「今朝、師匠と話したんだが……尾白、獣拳を学びたいなら俺から手解きしても構わんぞ」
「えっ本当に!?」
「ああ、師匠からの許可は貰っている」
弟子のみではあったが、零一はシャーフーの元で修行に励んでライガー拳だけではなく、他の獣拳も修得している。そんな零一ならば指導を行っても問題ないとみなされてその許可は下りていた。それに、零一自身もゴリー・イェンとの縁もある。
「やったぁっ!!実は戦闘訓練の時に俺の獣を少しだけ感じられたんだ、それから何とか頑張ってるんだけど難しくて……」
「いきなり感じられるだけ才能ありだな、それとお前あの時に僅かだが激気を出したぞ」
「えっマジで!?」
彼が体験した事がある激気はゴリー・イェンに零一と言った獣拳に精通した使い手の物だけ。まだまだ未熟な自分の激気とは比べ物にならない程の巨大な物だったので尾白が自分の小さな激気に気付けなかったのも致し方ない。
「良かったぁ~……実はちょっと期待してたんだよね」
と笑っている尾白、憧れのゴリー・イェンに近づく事が出来る事が余程嬉しいのだろう。漸く獣拳への道を本格的に歩む事が出来るんだ!!と喜んでいると背後からもう一つの影が迫って来ていた。
「俺にも教えて貰えるか」
「と、轟?」「轟君!?」
その影は戦闘訓練で一戦を交えた轟 焦凍だった。彼も獣拳を学びたいと申し出て来た。
「意外だな、興味があると?」
「ああ。俺は今よりもずっとずっと強くなりたい、お前は俺の個性を一切寄せ付けなかった、それをもっと知りてぇ」
零一は此方を見つめて来る轟の瞳を見る。瞳に宿っているのはプライド、知りたいと言いつつも自分を破った力に対抗したい、その為に知識を得たいという事なのだろうか。だが……別の何かを感じる、唯知りたいという訳ではなく……力を求めているように思える。
「言っておくが獣拳は武術だ、唯学べば強くなれるなんて物じゃない。全て自分の努力次第だ、それでもやる気はあるのか」
「ああ、ある」
即答。硬い意志がある……と言うよりも何か固執しているような節を感じる。早く教えてくれと言わんばかりの焦りに近い何かを。正直悩み処ではあるが……零一は溜息混じりに引き受ける事にした。
「悪い、助かる」
一度頭を下げると轟は自分の席に戻っていった、もう話す事はないと言わんばかりだ。だがその表情は僅かに変化していた、口角が持ち上がり笑っているようにも見えた。だが笑っているにしてはどうにも歪んでいるように見えた……。
「え、えっと……無月君、僕も……駄目かな?」
「駄目だな」
「ええっ!!?」
緑谷も興味があるのか名乗りを上げるのだが、即答でNGを出した。だが意地悪で断っている訳ではない。
「お前はまず個性で身体を壊さない事を覚える方が先だろ。それなのに別の物にうつつを抜かしてる場合か」
尾白は零一の説明に納得する、確かにまずは自分の個性で身体を壊す事のを何とかしなければいけないのが先決。だが緑谷はそれでも何とかお願いしたいのか食い下がった。
「ぼ、僕の身体をもっと鍛えれば力は自在に使えるかもって、言われたんだ!!だからその獣拳を学びながら身体を鍛えれば―――」
「言いたい事が分からなく訳じゃないが……それならば益々基礎的な体力作りが先だろ、激気やらに反れるよりもずっと早く個性を扱えるようになる筈だ」
「俺も零一君の意見に賛成」
「そ、そうかなぁ……」
余程獣拳を学びたいと思っている……というよりも何処か緑谷は焦っているように見える、だが焦って獣拳に手を伸ばしてもきっと身に付かないし本来出来る筈の成長の妨げにも繋がるだろう。何を急いでいるのかは分からないが、急いては事を仕損じる、零一は緑谷への指導は断った。その時にチャイムが鳴る時間になったので話は強制的に終了してしまい、それぞれの机へと戻っていく。
「あっそうだ、零一君これからは先生とか師匠って呼んだ方がいい?」
「やめてくれ俺はまだそんな高みにいない。後俺の事は呼び捨てで良いぞ」
「獣拳……か」
緑谷 出久、彼は獣拳への興味を捨てきれなかった。何故ならば零一は無個性であるのも関わらずあれだけの力を発揮出来ていた。つまり自分も……そんな思いを捨てきれなかった。彼も、零一と同じように無個性だったが故に。