放課後、早速獣拳の手解きを受ける事になった尾白。基本的な部分は粗削りではある物の掴めている上に自分の獣も見えている、故にやる事は単純明快で瞑想による精神統一で集中力を高める事で獣を更に強く感じ取れるようにする事。
「フゥゥゥッ……何となくだけど、見えているようで見えないような……微妙」
「そんなもんだ。いきなりはっきり見えました、なんて言われたら何年も獣拳の修行を続けている俺の立つ瀬がない」
見えるようにはなっているが如何にもそのイメージが薄い、というよりかは弱く激気自体も出ているが微弱。だが先達である零一からすれば拳聖に僅かな期間教わっていただけで此処まで出来るのは才能がある証拠という他ない。
「元々武術をやってたんだろ、それが良い方向に行ってるな」
「ちょっと照れるな……」
「さてと、そっちも始めるか轟」
「ああ頼む」
瞑想している尾白の傍らに立つ轟。彼も彼で獣拳を学ぶために此処に居る、と言ってもまさか今日から始める事になるとは思わなかったが……
「せめて明日が良かったんだがな……まあ時間が出来ちゃったからしょうがないけど」
昼休みの時間帯、彼らが昼食を取る時刻に雄英ではある事件が起きた。突然雄英のセキュリティが破られた、生徒は避難しろという緊急放送が入った。結局それはマスコミが雄英のセキュリティを突破して校内に入って来た、という何ともふざけた理由でこの事に関しては雄英はそれぞれのマスコミの会社を既に特定しているらしく訴える予定らしい。
兎も角、それによって雄英では授業を一部短縮する事が決定したので早めに授業は終わった。その時間を利用する形で零一は二人に獣拳の手解きをする事になった。メニューなども考えたかったので前述の通りせめて明日が良かったのだが……こうなったのだからしょうがない。
「と言っても獣拳も武術、基本的な部分は他の武術ともに通っているところは多い。獣拳の極意は心技体のトライアングルだったりするからな」
「心技体、じゃあ俺は何をするんだ」
「まあそこだよ一番の問題は」
零一が時間を欲しがったのもそこである。ハッキリした事を言えば零一は轟の事を全く知らない、尾白にはゴリー・イェンに初歩的な手解きを受けた事とこれまで武術を習って身体を鍛えていたという事から自分と照らし合わせて予測は付くが轟にそれを適応は出来ない。
「後、轟お前近接苦手だろ」
「……いやそう言う訓練もしてたが」
何やら苦虫を噛み潰したような表情で極めて嫌そうに答える、苦手と言われる程自分は弱くないと言いたげだが如何にも得意には見えない。
「なまじ個性が強いせいもあって個性による力押しが強い」
「……そうか?」
「格下はそれで如何にでもなるが同格相手だとそれは通じない」
如何やらあまり自覚はないらしい、だが思えば彼にはそう言う傾向があると尾白は思う。戦闘訓練でもいきなりビルを完全に凍結させたり、その後の零一との戦闘でも氷の勢いはかなり強い。見極めというか搦手やフェイント、ジャブを使わずに個性の力で一気に押し切ろうとしているようにも思える。
「それらの矯正をしつつ、基本をやっていくしかないな」
「……そうか、激気とか臨気とは何時覚えられるんだ」
「そんなの知るか、お前次第に決まってる」
話を聞いてみれば轟はこれまでやって来たのはメインは個性の訓練で身体は鍛え込まれている、だが其処に技術は余りない。それでも他を圧倒できるだけの個性がある故に力押しになっている。
「後一応言っておくけど、臨気はやめとけ」
「何……?」
取り敢えず基本的な事から始めようとした轟は思わず動きを止めてしまった、自分が是非とも覚えたいと思った臨気を止めておけと言われたのだから止まらない方が可笑しい。自分が行きたい道をいきなり遮られたな気分になり、思わず声を荒げそうになりながら問い返す。
「如何言う事だよ」
「単純な話だ、臨気は人間の負の感情で増幅する。人間って奴は正義感やらよりもずっと負の感情が強くなりやすい、怒りや悲しみ、絶望とかの方を抱き易いしそれは根深くなりやすい」
絶対的な正義感を持てる人間は極めて限られる、それこそオールマイトなどはその典型例で仮に彼が獣拳を修めたらその激気は途轍もなく膨大な物になる事だろう。だが其処まで人間は高潔になれない、それよりも負の感情の方が強くなる。
「激気は扱いやすくて臨気は扱いづらいって事でいいのかな零一」
「大体はな。臨気は扱いづらい故に負担もデカい、増幅されやすいから身を滅ぼしやすい」
「うっわぁ……」
「対して激気は情熱やら正義の心で大きくなる、だから意図的に増幅させる必要があるから制御もしやすい」
そう言われて轟は何処か納得したようなしていないような表情を作る、扱いづらくて負担もデカい、だがその分得られる力は非常に大きいという事だろう。だからこそ臨気を身に着けたいと轟は強く望む、自分の中にある物を使えば自分は大きな飛躍をするという確信がある。
「でも、零一は激気と臨気の二つを使ってるよね」
「俺は俺で師匠に確りと修行を付けられたからな、自分の中にあるマイナスを制御するって大変だぜ」
自分の中にある負の感情、臨気を扱う事が出来ているという事は零一の中にもそれはあるという事。それに比べたら自分のそれは取るに足らないと言いたいのかと思わず拳を握り込んでしまった。
「まあ兎も角、激気にしろ臨気にしろまずは基本から入らないとそこに入門すら出来ない。まずは己の中にある獣を感じる、だ」
「具体的に如何やるんだ」
初日から随分と大変な事になったと思いつつも零一は彼らに対して獣拳の手解きを続けていく。尾白は順調そのもので近々確りとした激気を出す事は出来るだろう、だが問題は轟の方。何やら臨気の方に執着しているのでこれからの指導は慎重にやっていかなければと思いつつも必要になったら師の助けを借りる事を心に誓うのであった。
「……俺の中に何かいた、あれがそうなのか」
「えっ轟まさかもう見えたの!?自分の獣!!?」
「ああ、なんていうか……デカい奴が見えた……」
「お、俺よりもずっと……!?」
ショックを受ける尾白、が二人とも零一よりもずっと早く獣を感じられている。なので零一は内心で尾白よりも大きなショックを受けている。
「……俺、もっと苦労してたのに……」