毎日ウタのことばかりで辛い。
たすけて
世はまさに大海賊時代。
富や名声、力を求め、野望ある者たちは海へと繰り出した。
海賊たちにとっては夢の時代̶しかし、弱き者たちにとっては地獄の日々だった。
世界政府にも国にも守られない人々は強き者に財産・家族・命を奪われ、暗闇の中を生きるだけだった。
そんな人々の前にある日、一人の少女が現れた。
少女の歌は人々の苦しみを受け止め、日々の生活へ不安を覚える人々に希望を与えた。
人々は少女に希望を見出し、少女は苦しむ人々の願いを叶えようとした。少女は救世主としてみんなを導く。
そんな少女の傍には一人の男性が付き添っていた。彼の手には謎のキノコが握られている。
「…ウタ、そろそろ時間だ。始めよう̶みんなが望む新時代を」
「うん…わかってる。わかってるよ、みんな。みんなが幸せになる“新時代”を̶私が…私たちが作ってあげる」
【エレジア】。元々は音楽が栄え、十年以上前にとある海賊に滅ぼされた島。
まだ、復興の兆しが見えず、廃墟となった家が数多く見えるこの島で、今日とあるライブが行われることになった。
海上に設置されたライブ会場では多くの人々がごった返ししており、物販ブースでは様々なものが売り切れとなっていた。
その会場にとある海賊も参加していた。
「楽しみだな~!ウタが初めて行うライブ」
「今まで目の前で歌を披露することはなかったからね」
ウソップとナミが歩きながら言う。
その後ろにチョッパー、フランキー、ロビンが続いていた。
「生でウタの歌を聴ける日が来るなんて…しかもこんないい場所で…おれ…おれぇー!」
チョッパーは体をくねらせながら、感極まっていた。
【ウタ】。それが今回のライブを行う少女の名前だ。
ウタは特殊な電伝虫を使い、世界中に歌を届けている。今や世界で知らないものはいないほどの有名人だ。
「それにしてもよくここでライブができたな。まだ復興も進んでおらんようだし、船の往来も少ないはずじゃろ」
ジンベエが海で泳いでいる人魚たちを確認すると、疑問におもっていたことを口にする。
それに答えたのはピンクのパーカーを来たブルックだった。
「それはポベウスさんのおかげですね。彼が手回しをして物資や船を用意したそうですよ」
「なんでお前がそれを知ってるんだ?」
「ウタちゃんがライブで言ってたんだよ。お前も配信を見やがれクソマリモ」
「何だと鼻血コック!」
額を突き合わせてにらみ合うゾロとサンジをよそに、麦わらの一味船長モンキー・D・ルフィはバーベキューに夢中になっていた。
「!おいそろそろ始まるぞ!」
ウソップの声に一味全員がステージへと目を向ける。
観客全員がライブの開始を感じ取ったのか、ステージへと注目している。会場は静粛の空気に包まれていた。
しばらくすると、奥から一人の人物が現れてきた。その人物は齢50とみられる白髪が目立つ男性だった。
「あぁテステス…えぇ、みなさんこんにちは。私の名はポベウス。この度はライブにご参加いただき誠にありがとうございます。…いつもであれば何か世間話をするところですが、今日は歌姫ウタの初生ライブ。みなさんも待ちきれないでしょうから、今回は私の話は割愛させていただきます」
ちらほらと不満の声があがる。ポベウスと名乗った男性は頬を少し染めながら、話を続けた。
「みなさん、本日はライブを存分に楽しんでください。それでは登場していただきましょう。本日の主役、歌姫ウタです!」
ポベウスが横へそれ、ステージ上から消えると観客たちの歓声が聞こえる。
人々の歓声に迎えられ、赤白色の髪の少女がステージ上に姿を現す。ウタだ、と誰かが呟く。ウタは息を深くすると、まっすぐ前を見据えたまま歌い始めた。
「新時代はこの未来だ 世界中~全部かえてしまえば~ かえてしまえば…」
ウタの代表曲【新時代】。日々の苦しみを打ち消してくれる希望の歌。
ウタの重量感のある声が響くと同時に空が青く晴れ渡った。歌声は麦わらの一味を含め会場にいる観客、ローグタウンやアラバスタ、魚人島、フーシャ村、世界中へと電伝虫を通して届く。
楽しそうに歌を歌うウタを見てポベウスはこぼした。
「ようやく…ようやく新時代が誕生する」
その声はウタの歌声と観客の歓声にかき消される。
違う場所ではライブ会場を一望できる場所から肩まで伸ばした縮れ髪とサングラスをかけた一人の男がライブを眺めていた。
【新時代】の歌唱を終えたウタは、観客たちに向けて笑顔で呼びかけた。
「みんな、やっと会えたね!ウタだよ!」
会場が歓声に包まれる。その中にはウソップやナミ、チョッパーの声も混じっていた。
ウタはその歓声に感動し、目元をぬぐい、表情を引き締めた。その目には力強い決意が宿っていた。
会場はウタの生歌を聞けて喜んでいる観客の声であふれていた。しかし、中には不敵な笑みを浮かべているものもいる。
観客のみんなが熱狂する中、ルフィだけは歓声を上げることなく、まじまじとウタを見ていた。そして、ふいに手を伸ばして照明を掴み、地面を蹴った。
それに気づいたウソップたちの静止の声もむなしく、ルフィはウタの前へと着地する。
突然現れたルフィにウタは目を丸くし、ポベウスはファンの乱入と思い、ウタの下へと駆けていく。観客たちも現れたルフィに騒ぎ始めていた。
観客たちから野次が聞こえるが、ルフィは気に留めることなく、ウタと視線を合わせた。
「あ、やっぱりウタだ!俺だよ、俺!」
「ん~?俺?」
ウタは数秒きょとんとし、ルフィを見つめると、見覚えのある顔にハッと目を見開き、特徴的な髪をぴょこんと上げる。
「…もしかして、ルフィ?!」
「久しぶりだな!ウタ!」
「ルフィ~!」
ウタとルフィはお互いに両腕を広げて抱き合う。二人の行動に観客だけでなく、麦わらの一味とポベウスも驚いていた。
ポベウスは呆然としながらゆっくり歩いて二人の下へたどり着くと、みんなを代表してあることを聞いた。
「二人は、知り合いなのか?」
それに続き、ウソップとチョッパー、サンジも二人の関係について問いていた。
「だってこいつシャンクスの娘だもん」
「あっ」
ルフィがあっけらかんに言うと、ウタは不意を突かれた表情をした。一瞬会場が鎮まると、空気が震えるほどの驚愕の声が響き渡る。ポベウスはどこか険しい表情で二人を見ていた。
【シャンクス】赤髪海賊団の大頭で、四皇の一人。そんな大物に子供がいる、しかもそれがウタだとは誰しも思っていなかった。
観客たちのざわめきはなかなか収まらず、ライブは完全に中断されてしまった。すると、突如ステージに上がる不届き物が現れた。
彼らは海賊であり、狙いは歌姫ウタだった。ルフィとポベウスはウタを庇うように立ちはだかる。
海賊がウタに近づこうとすると、「熱風拳!」という声と共に猛烈な熱風が吹きあふれ海賊たちを吹き飛ばす。
攻撃を仕掛けたのは四皇ビックマム海賊団の一員、オーブンだった。オーブンは鏡を手に持つと鏡からやせ細った背の高い女性が現れた。彼女もビックマム海賊団の一員であり、名はブリュレ。
彼らも先程の海賊と同様ウタがねらいであった。彼らに続き、続々と海賊が現れ、ルフィたちを囲い始める。
騒動を遠くから見ていた海軍ヘルメッポは慌てて飛び出そうとするが、コビーに制止されてしまう。コビーはルフィたちが何とかしてくれると信じているのだ。
そして、期待通りルフィの仲間たちが動き始めた。彼らは各々海賊たちを打倒していく。しかし、海賊たちも黙ってやられるわけではなく、反撃を開始した。
徐々にヒートアップしていく戦闘に観客たちが怯えていると、突如ウタが声を上げる。
「はーい、そこまで!喧嘩はもうおしまい!ルフィたちも守ってくれてありがとう」
海賊同士の戦いを喧嘩と呼ばれ、不快になるオーブンたち。しかし、ウタは彼らのことを気にもかけなかった。
「みんな私のファンなんだから仲良くしよ!海賊何てやめてさ。私の歌を聞いて楽しもうよ。私の歌があればみんなが平和で幸せになれる!」
ウタは自分の思いを伝えるが、オーブンを含め海賊たちは誰一人ウタの発言を信じることなく、馬鹿にしていた。
せっかくのライブが台無しになり、ウタが危険な目にあっていることに観客は海賊たちへ怒りをあらわにする。
ウタはちっとも自分の理想を理解しようとしない海賊たちに落胆し、「…残念」と視線を落とした。
「なら歌にしてあげる!」
海賊たちがウタの言葉を不思議に思っていると、ウタは今まで黙って傍にいたポベウスへと視線を向けた。
ポベウスはウタの伝えたいことを理解したのか頷き、前を見据えた。それを確認すると、ウタはにっこりと目を細め、歌を歌い始める。
【私は最強】。己を、聞いたものを鼓舞させるような歌が響き渡ると、ウタの体が光に包まれていく。着ていたワンピースが鋼鉄の鎧へと変わる。
「服が変わった!?」
ナミがウタの様子に驚いていると、ウソップとチョッパーも驚愕の声を上げた。
「おい!なんだあれは!」
「うぉぉぉ!?なんか出てるぞ!」
ウソップとチョッパーが指さす方を見ると、ポベウスの足元に渦ができ、渦からは様々なものが飛び出していた。ユニコーンや竜、キマイラなど空想上の怪物が現れ、海賊たちに襲いかかる。
それら怪物はウタと連携し、海賊を次々と倒していく。倒された海賊たちは五線譜に捕まり、上空へと打ち上げられ、宙に張り付けられていた。
劣勢になったオーブンは妹のブリュレを逃がそうと、音符や怪物に攻撃するが、音符にははじかれ、怪物たちには逆に返り討ちにされていた。
そして、遂にビックマム海賊団全員が捕まり、宙へと打ち上げられ、一つの譜面が完成した。
「みんなー!悪い海賊は私たちがやっつけたから安心してねー!」
観客はウタの強さに興奮し、歓声を上げる。ウタが海賊の娘でも、海賊側ではないことに安心していた。
ルフィたちは脅威が無くなったのに気づくと、元の場所へと歩いていく。途中ウタとポベウスの能力について議論するが、納得いく答えは出なかった。
ルフィが席へ戻るのを確認すると、ウタは変身を解き元の姿へと戻る。客席の方へと向いたウタは今回のライブがエンドレス…永遠に続くと告げる。
それを聞いた観客たちは喜び、「U!T!A!」と声援を送った。
ウタは歓声の中、さらに世界中へと向けて「ライブを邪魔するものは自分が許さない」と言葉にすると、最後に決意を込め高らかに宣言した。
「私は新時代をつくる女、ウタ!歌でみんなを幸せにするの!」
観客は今まで以上に盛り上がっていく。ポベウスはその様子を見て笑みを浮かべる。
ウタは自信に満ちた顔で次の曲を歌う。
あれからいくつもウタは歌を歌ったが、いつもの配信のように疲れている様子はなく、音符に乗りながら元気に空を駆け回っていた。
ウソップやチョッパーがウタを目で追っていると、ルフィたちがいる場所にポベウスが現れる。
「やぁ君たち、ライブは楽しんでいるかな?」
「あぁもちろんだぜ!こんな楽しいことは他にねぇよ!」
「俺…ここにこれて…ほんとによかった!」
ウソップとチョッパーは感激のあまり涙を流していた。他の仲間もウソップ達ほどではないが、それぞれ楽しんでいるとポベウスに伝える。
「そうかそうか。そう言ってもらえるだけで私は嬉しいよ。もちろんウタもね…それはそうと、自己紹介がまだだったね。私はポベウス、ウタのマネージャーさ」
ポベウスに続き、麦わらの一味も自己紹介を交わす。すると、肉に集中していたルフィがポベウスへ振り向いた。
「ハムハム…そういやよハムハムおっさんは…ガツガツウタと知り合ってゴクンなげぇのか?」
「喋るか食べるかどっちかにしなさいよ!」
「いってぇ!!」
ルフィはウタとポベウスがどう知り合ったのか気になるらしく、肉を頬張りながら尋ねるが、ナミに怒られてしまい、頭の上にたんこぶができる。
ポベウスはその行動に少し笑うと、ルフィの問いに答えた。
「そうだね。私とウタが出会ったのは二年半前ぐらいかな̶̶」
もうラスト直前まで書いてあるため、今週の金曜までには全部投稿する予定です。