「ゴムゴムの~獅子・バズーカ!」
「魂のパラード、アイスバーン!」
「悪魔風脚、焼鉄鍋!」
ウソップの指示を受け、サンジとブルックが障害を蹴散らし、ルフィがトットムジカへと大技を放つ。
数度目の攻撃でようやく再度手の破壊に成功する。しかし̶
「九輪咲き、ツイスト!」
「柔力強化!ホアチャー!」
「一刀流、厄港鳥!…クソッ!また邪魔が入りやがった!」
ロビンやチョッパーが怪物や黒い手足を撃退し、そのうちにゾロがトットムジカへと攻撃するが、突如空中に巨大な壁が現れ、斬撃がそれえう。
そうして次の手足を破壊するのに戸惑っている間に、先程破壊した手足が元に戻ってしまう。
「早く何とかしないとこっちの体力が先に尽きちゃう!」
「だが何とかするったって、こいつらが邪魔でまともに出来ねぇ!かといってむやみに攻撃してもバリアで弾かれてしまう」
「それに上手くいっても次には再生されてしまうからのぉ」
ナミ、フランキー、ジンベエが解決策を探すが、中々見つからない。
ユメユメの能力により、いくら破壊されても修復することができ、無数の怪物やモノの存在によって同時攻撃を防ぎ、頭部への攻撃を手で庇うことができるようになったトットムジカ。
そんなトットムジカに手も足も出ない海賊や海軍にポベウスは笑う。
「ハハハ!これが救世主の力だ!世界が新時代を望んでいるのだ!」
高らかに笑いながらトットムジカの中へと沈むポベウスをルフィは睨みつけ、上空へと駆けあがる。
「うるせぇ!早くウタを放しやがれ!ゴムゴムの~大猿王銃!」
ルフィは蒸気を体から発し、覇気を纏った巨大な腕をトットムジカへと放つ。それと同時にトットムジカも腕を後ろに引き、ルフィへと放った。
両者の攻撃がぶつかり、周囲へと衝撃波が放たれる。お互いの攻撃は少しの間拮抗するが、ルフィは押し負け、後方へと吹き飛ばされてしまう。
ルフィは地面へと激突し、土煙を上げるが、すぐに立ち上がって再びトットムジカへと向かう。
その光景をゴードンに支えられながらウタは麦わら帽子を抱きしめて見ていた。現実世界ではシャンクスが着せてくれたコートを強く握って。
ウタは自分のために戦ってくれる幼馴染と父親を見て、目頭が熱くなっていた。
十二年とは違い、自分より強くなったルフィに。十二年前と同じく、自分を救おうとしてくれるシャンクスに。
そんな彼らに立ち塞がるのは自分を二年以上支えてくれたポベウスである。
しかし、ウタは彼を憎めなかった。自分を利用していることを知っても、過去のトラウマを見せつけた張本人だとしても、彼に怒りを向けることはできなかった。
なぜなら彼も自分のファンなのだから。彼も日々の苦しみを抱え、ウタの新時代を願っていた一人なのだから。
ウタはポベウスに恩返しをしたかった。彼が自分を利用していたのだとしても、ウタにとってポベウスがいた二年間は楽しい日々だった。
何も知らない自分にいろんな物語を聞かせてくれた。海賊を倒す物語、一組の男女の恋物語、離れ離れとなった家族との感動の再会、各島の伝統など、様々なことを聞かせてくれた。
精神が幼少期で止まっていたウタにとって、それは目を輝かせるものだった。大切な思い出の一つとなった。
「ゴードン…私は結局誰も救えなかったのかな。私の歌は…何の力もないのかな」
ウタはか細い声で隣に居るゴードンへと話しかける。ゴードンは弱っているウタを優しく抱きしめる。
「そんなことはない。君の歌声は世界の宝だ、聞いたものを幸せにする力を持っている…ポベウスも君に感謝していたよ」
「ポベウスが?」
ゴードンは過去にポベウスとした会話をウタに伝える。
一年半前、その日ゴードンはいつもと同じく救援物資の資料を整理していた。
一段落付き、椅子に腰かけると、扉が開かれ、ポベウスが中へと入ってくる。その手には珈琲が入ったカップを二つ持っていた。
「やぁ、ゴードン。お疲れ様」
「あぁ、ありがとう」
ゴードンはカップを受け取ると、一口付ける。いつも通り美味しい味だった。
二人は珈琲を飲みながら談笑していると、開いた窓から歌声が聞こえてくる。
「今日も歌っているね、ウタは…」
「何度聞いても素晴らしい歌声だ」
ゴードンは歌声を褒めていると、ポベウスが窓に視線を集中していることに気づく。
「どうしたのかね?」
「いや…この歌声を聞くと娘を思い出すなと」
ポベウスは首にかけたペンダントをいじりながらそう口にする。ゴードンは子供がいたのかと少し驚いていると、ポベウスが過去について話した。
「娘は吟遊詩人になって世界の人を幸せにしたいって言っててね。私は娘ならなれると信じていた…でも、二十年前に亡くなってね」
「そうだったのか…」
ゴードンは自分の子供も十年前に亡くなったことを思い出す。家族と過ごした日々が脳裏に浮かんだ。
「でもウタに会って、彼女の夢を聞いて私は思った。彼女なら娘の夢を叶えてくれるとね」
「それは…」
「…分かっている。彼女は娘ではない。彼女に押し付けるつもりはない…でも、ウタは世界を幸せにしてくれると思っているよ」
ゴードンはその意見には反対しなかった。ゴードンもウタの歌声にはそれを叶える力があると思っていたから。
「私はウタに救われた」
ポベウスは雲一つない青空を見ながら、そう呟いた。ゴードンも彼と同じように窓へと目を向ける。
歌声は未だ止むことはなく、響いていた。
「…」
ウタはゴードンから話を聞くと黙り込んだ。ゴードンはそんなウタを見て、聞かせないほうが良かったかと内心焦る。
すると、ウタは立ち上がり、みんなが戦う方へ体を向けた。
「ウタ?」
「…ゴードン。私、行くよ。みんなを救ってくる」
ウタは覚悟を決めた顔で宣言した。ゴードンはそんなウタを心配する。
「しかしウタ、君は…」
「大丈夫。だって私は世界の歌姫だよ。こんぐらいなんてことないって!」
ウタは笑顔でゴードンへと告げる。その顔に苦痛や疲労は感じられなかった。
ゴードンはウタを心配しつつも彼女の背中を押す。
「…分かった。行ってきなさいウタ。君ならやれる」
「うん!見ててゴードン!私が活躍するところ!」
そう言ってウタは駆ける。ルフィたちの下へ、シャンクスたちの下へ、一人のファンの下へ。
ゴードンはたくましく育った娘の背中をじっと見つめていた。
現実世界では赤髪海賊団、カタクリ、海軍が協力してトットムジカへと攻撃をしている。しかし、戦闘が始まった時と何一つ進展はなく、むしろ体力と時間だけが奪われていた。
「クソッ!早く何とかしないと妹がッ!」
「あっちとは連携取れないのか~い」
「やってるよ!ただ向こうが大変なだけだ!」
「あれが少しでも弱れば勝機が見えるんだが…」
シャンクスはトットムジカを攻略する方法がないか模索するが、襲いかかる手が邪魔をし、考える暇を与えない。
そんな時、シャンクスの耳に聞きなれた声が入ってきた。
「シャンクス!」
「!…ウタ!お前何でここに!下がってろ!」
シャンクスは戦場に来た娘に叱責の声を上げる。隣に居たベックマンは何も言わないが、その目はシャンクスと同じだった。
しかし、ウタは従わない。
「いやだ!もう私は逃げない!私だって戦うんだ!だって̶」
ウタは一息つき、すうっと息を吸うと、大声で宣言した。
「私は!赤髪海賊団の音楽家、ウタだよ!」
「ウタ…分かった。なら援護頼むウタ!」
「!うん!」
ウタは元気よくシャンクスに返事をすると、歌い始めた。
【世界のつづき】、柔らかな旋律が、人を信じることへの思いが、人々の心を包み込む。
歌を歌い始めたウタを中心に光が発せられる。赤、青、黄色と様々な色の光が発せられ、白い世界を鮮やかに染めていく。
ウタワールドでも現実世界と同じ光景が広がっていた。ウタの歌声がウタワールドにいた人々に届いて行く。
「…天使の歌声だ」
その様子を見て、ゴードンはそうつぶやいた。ウタの足元から音符が現れ、戦場へと向かっていく。
「これは…傷が癒えていく」
「なにこれ。力が、湧いてくる」
音符がルフィたちの周りを回ると、負っていた傷を癒していく。それだけでなく、トットムジカとの戦闘で減っていた体力が回復していった。
その光景にルフィたちは驚いていると、ドカンという音が響いた。咄嗟にそちらを振り向くと、今まで苦労していた手足が二本破壊されていた。
「おい誰か攻撃したか!?」
「いや、誰も手は出してねぇ…どうなってんだ」
フランキーが周囲へ呼びかけるが、サンジが否定する。サンジが煙草に火をつけ、破壊された手足を睨んでいると、ウソップが驚きの声を上げる。
「おぉ!?マジか!?」
「どうしたウソップ?」
チョッパーがウソップに聞くと、驚愕しつつ喜びの声を上げる。
「聞けみんな!もう同時攻撃をしなくてもあいつに攻撃は当たる!」
「どういうことだ?」
「親父の視界に映ってたんだよ!向こうで親父たちが手足を破壊してたんだ!もうあいつのバリアを恐れる必要はねぇ!」
「ウタ…」
ウソップの声に皆が驚きの表情をする。しかし、次の瞬間には笑みを浮かべた。
ゾロは刀から光を反射させ、サンジは足を赤く染める。
「ならもう出し惜しみをする必要はなさそうだな」
「これであいつをジューシーに焼き上げることができるぜ」
不敵な笑みを浮かべるゾロとサンジの上でルフィは声を張り上げる。同時刻、現実世界でもシャンクスが仲間たちに叫んだ。
「「いくぞ野郎ども!これが最後の戦いだ!」」
「「「「おう!」」」」
ルフィとシャンクスを合図に各々トットムジカへと向かう。彼らは己の全力を発揮した。
「いくわよゼウス!」
「ランブル!」
「巨大樹!」
「フランキー!」
「フルーズダルム!」
ウタワールドでナミは雷雲を空に浮かべ、チョッパーはランブルボールを嚙み砕き、ロビンは巨大な二本の腕を生やし、フランキーは両手を構え、ブルックは仕込み刀を抜く。
彼らに続き、コビーがとヘルメッポ、オーブンたちビックマム海賊団も攻撃態勢に入る。
「ゼウスブリーズ、テンポ!」
「刻蹄 椰子!」
「スパンク!」
「アイアンBOXING!」
「管弦楽!」
ナミは雷を、巨大化したチョッパーとロビンは平手打ちを、フランキーは連続パンチを、ブルックは黄泉の冷気を纏った剣を怪物たちへと奮う。
コビーたちの攻撃も加わったことでその場にいた怪物たちは全て消え去る。
現実世界でもライムジュースやガブ、スネイクたちが音符の戦士や黒い手を消し飛ばしていた。
怪物や音符の戦士などの障害が無くなると間髪入れずに、ゾロたちやベックマンたちが残った七本の手足に攻撃を仕掛ける。
「鬼気九刀流、阿修羅抜剣!」
ゾロの気迫を受けたトットムジカの目に九本の刀を構えたゾロが映る。
ゾロは勢いよく駆け寄ると、襲いかかる黒い手を回転しながら切り捨て、トットムジカの手へたどり着く。
「亡者戯‼」
ゾロの攻撃を受けた手が一刀両断される。その反対側にあった手もベックマンの銃弾によって破壊されていた。
「空中歩行!」
サンジは空中を蹴り、空高く駆け上がる。
ある程度の高さまで上がったサンジはトットムジカを見下ろし、残った左手へと狙いを定める。
左手めがけて落下し始め、空中を蹴りながらスピードを上げる。
「悪魔風脚…」
衝撃波が起こるほどまでスピードを増したサンジは体を縦に回転しながら落下する。
サンジは回転による遠心力と落下スピードから驚異的なパワーを得た足をトットムジカへと振り下ろした。
「粗砕!」
サンジの技を受けたトットムジカの左手は粉砕し、全ての手を失った。
「魚人空手̶」
トットムジカが全ての手を失ったことに驚いている間、後ろ脚にて瞑想をしたジンベエが正拳突きの構えを取っている。
ジンベエは閉じていた目をカッと見開き、拳を放った。
「鬼瓦正拳!」
ジンベエの正拳が脚に当たる直前で止まる。次の瞬間、空間にひびが入り、衝撃が脚へと伝わる。
衝撃を受けた脚は粉々に砕け、同じタイミングでホンゴウとラッキー・ルゥが反対側の脚を破壊したことでトットムジカが後ろへと傾く。
「これで終いだ!必殺、火の鳥星!」
ウソップがスリングショットから弾を撃ち放つ。同じ頃ヤソップも銃の引き金を引いた。
ウソップの弾は火の鳥の姿を取り、ヤソップの弾は赤黒い輝きを放っていた。それぞれの弾が空中を走り、トットムジカの残った二本の脚を打ち抜く。
ほとんど同じタイミングで全ての手足を失ったトットムジカは、悲鳴のような声を上げながら、大きく姿勢を崩した。
「「「行けぇ!ルフィ!」」」
「「「行け!お頭!」」」
仲間の声を受けたルフィとシャンクスは空へと駆けあがる。
すると、今までトットムジカの中にいたポベウスが姿を現した。ポベウスは自分の邪魔をするルフィたちへと苛立ちをぶつける。
「なぜ邪魔をする!なぜ拒む!」
ポベウスは自身より高い場所にいるルフィとシャンクスへ問いかける。彼らの後ろでは赤色と白色の空が混ざり合っていた。
「全ての人が何もしなくていい!夢を持たなくてもいい!ウタが私たちのために歌い続けれてくれる!そんな誰も苦しまない世界の誕生をなぜ妨げる!」
ポベウスの言い分にシャンクスは何も言わない。それはポベウスの言葉に言い返せないわけではない、自分の思いを代わりに伝えてくれる友達に任せたのだ。
「お前が俺たちの…ウタの人生を勝手に決めんじゃねぇ!俺の未来は̶」
ルフィはポベウスを強く睨みつけて宣言する。
「俺が決める!ゴムゴムの~」
ルフィは腕に空気を送り込む。腕は大きく膨れ上がり、さらに覇王色の覇気を纏っていた。
シャンクスは目をつぶり、刀を構える。
「借ります、ロジャー船長…」
目を見開いたシャンクスも刀に覇王色の覇気を纏わせた。二人の覇気によって赤黒い稲妻が周囲に走る。
ルフィとシャンクスは空からポベウスへと向けて下降し、技を放つ。
「“覇猿王銃”!」
「“神避”!」
迫りくるルフィとシャンクスに、ポベウスはユメユメの実の能力を使い、トットムジカの手を二つ修復させ、対抗する。
ポベウスのサポートを受けていたトットムジカだったが、二人の攻撃を抑えるだけで精一杯だった。
徐々に押され始めるトットムジカに焦ったポベウスはトットムジカが弱体化した原因、歌を歌い続けるウタに目を付ける。
黒い手がいくつもウタへと襲い掛かる。それに気づいた麦わらの一味や赤髪海賊団は阻止しようとするが、突如現れた音符の戦士や怪物たちに足止めされてしまう。
その間もウタに迫る黒い手。ウタはそれに気づきながらも歌うことをやめない。
黒い手がウタの目前まで迫った瞬間、黒い手は何かに阻まれ、弾かれてしまう。
「バーリアだべ」
バルトロメオが印を組み、ウタの前へと立つ。彼のバリバリの実の能力によって、黒い手がウタに届くことはなかった。
黒い手はバリアに阻まれてしまったが、全方位から攻撃しようとウタとバルトロメオを囲む。
しかし、二人の人物によって黒い手がウタに襲いかかることはなかった。
「ROOM、切断!」
「ナグリ餅!」
ローとカタクリによって黒い手は切り刻まれ、粉砕され、消える。
二人はルフィとシャンクスに届くように声を上げた。
「これは貸しだぞ麦わら屋!」
「これは貸しだぞ赤髪!」
ルフィとシャンクスはウタを救ってくれた二人に笑みを浮かべる。
対照的に、ポベウスはまたしても邪魔が入ったことへ怒りの表情を浮かべた。
「私の、新時代の誕生の邪魔をするな!喜びがあるから悲しみがある!希望があるから絶望がある!」
ポベウスの脳裏に妻を失った日のこと、殺された娘の表情、夢のせいで苦しむ人々の様子がなだれ込んでくる。
「なら最初から何もなければいい!何もなければ誰も苦しまない!あんな世界、なくなってもいいじゃないか‼」
ポベウスの感情が力を与えたのか、トットムジカの力が増す。先程まで押されていたはずの両手がルフィとシャンクスを押し返そうとする。
しかし、ルフィは負けじと力を込める。トットムジカを倒すため、ポベウスを殴り飛ばすため、ウタを救うため。
ルフィの心臓が音を響かせ始める。ドンドットット、と鳴り始めるとルフィの体が白くなっていく。さらに腕はより一層大きく、トットムジカより大きく膨らんでいった。
「俺はこんな世界いらねぇ!ウタが幸せにならないこの世界何か̶」
ルフィは心に思ったことをそのまま告げた。
「俺がぶっ壊してやる!俺は、海賊王になる男だ‼」
「ルフィ…」
ウタは巨大な腕を振り下ろすルフィを見つめる。
巨大な腕がトットムジカの両手を粉砕し、ポベウスへと迫る。それと共にシャンクスの刀も振り下ろされ、トットムジカを両断した。
ポベウスの視界に迫りくる拳。彼が最後に見た光景は自分の夢を語る娘の姿だった。
「オー…ニラ…」
ルフィの拳がポベウスに直撃し、地面へと激突する。トットムジカは操る存在がいなくなったためか、再び黒い音符となり、今度こそ完全に消え去った。
トットムジカが消え去ったことにより、ウタワールドが徐々に崩壊していく。ウタワールドの崩壊と共に、囚われていた人々は目を閉じていき、眠りについた。
彼らが最後に見た光景は様々な色で染まった鮮やかで美しい空だった。
ワノ国編ラストバトルはかっこよかった