誰かの救世主   作:スココLU

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ウタには幸せになってほしい。


それはそれで曇っても欲しい。



ウタの配信

二年半前、ウタが配信を始めて半年のエレジアの沿岸。

 

「今日もみんな聞いてくれてありがとう!」

『すごかったよウタ!』『ウタの歌を聞くと元気になれるよ』『次の配信が楽しみだねぇ』

「ハハハみんなありがとう!それじゃあまたね!」

 

今日も今日とて配信を行っていたウタは疲れが出始めたので配信を終えることにした。

日はまだ高く、影の長さは自身と同じくらいだった。疲れはあるが、歩けない程ではなかったので、ウタは沿岸を散歩することにした。

配信を行うまでは毎日のように散歩していたため、どこに何があるか、どんな生物がいるかを知っているウタとしては目新しいものはなかった。

しかし、もしかしたら半年前の電伝虫のように面白いものが流れ着いているかもしれないと思い、ウタは足を進める。

 

沿岸には流木や貝殻、どこから来たのか分からないゴミであふれていた。

いつもと変わんないなぁと思いながらウタは海を眺めていると、視界の端に船らしきものを捉えた。

ウタは何か入っているかもと思い、足を弾ませながら船へと向かう。

ある程度近づいたウタはその船が小舟で、傷が複数あることに気づく。どこからか流れ着いたのかなぁと首を傾げていると、小舟の方からうめき声が聞こえてきた。

ウタは誰かいるのかと驚きながらも慌てて駆け寄り、船の中を見ると、灰色のコートを着た自分よりはるかに年上であろう男性が横たわっていた。

男性はどこか具合が悪いのか、それとも悪夢を見ているのか、苦痛の表情を浮かべている。

ウタは初めての状況に困惑し、右へ左へとうろうろするが、しばらくすると両手で頬を叩き、お世話になっている人物を呼びに城へと走っていった。

 

 

 

 

「う、うぅ……ここは一体」

 

男が目覚めるとそこは知らない場所だった。あたりを見渡しても自分の記憶にあるものは何もなかった。

男がこれまでの記憶を掘り起こそうと頭を押さえていると、ガチャッと扉が開く音が聞こえる。

男は突然の音にバッと体を扉の方へ向け、何が起こっても対処できるように身構えた。

 

「おや、起きたのかね。目覚めはどうだい?」

 

扉から入ってきたのは縮れたグレーの髪を肩まで伸ばした年老いた男性だった。何かの絵本で見たことのある怪物のような見た目をした男性は自身を警戒している男に事情を説明した。

 

「君はこの島の海岸で漂着したいたんだよ。それを私の教え子が見つけたんだ」

 

男は目の前の男性が自分を救ってくれた恩人であると理解すると頭を下げた。

 

「失礼な態度をとって申し訳ない。そして、助けてくれてありがとう。私の名前はポベウス、しがない浮浪者だ」

「ポベウスか。私はゴードン、この島エレジアの国王だ。…元、だがね」

 

エレジア、その名を耳にしたポベウスはゴードンへとあることを尋ねた。

 

「エレジアというと…十年前に海賊に滅ぼされた国か?いや、ですか?」

「敬語は大丈夫だよ…その認識であっている。今は私と教え子の二人しかこの島には住んでいない」

「分かった。自分のことは呼び捨てでかまわない…私はエレジアに流されてきたのか」

 

ポベウスが考え事をしているのを見て、今度はゴードンが質問する。

 

「君はどこからきたのかね?船の中に物資はほとんどなかったが…」

「私は南の海のしがない島出身だ。とある事情で偉大なる航路にいてね…航海していたら嵐にあって目が覚めたらこうなっていた」

 

両の掌を上に向けて首を少し傾けるポベウス。ゴードンは何か言いたくない事情があるのだろうと察し、これ以上聞くことはなかった。

 

「それより、私を見つけたのはあなたの弟子といっていたが、来ていないのか?そちらにも礼を言いたいのだが」

「あぁ…彼女なら部屋にいるよ。呼んでこようか?」

「いや助けてくれた恩人なんだ。自分から出向くさ」

 

ポベウスは先程まで寝込んでいたとは思えないほど軽やかに立ち上がる。ゴードンはもう大丈夫そうなポベウスに安堵し、彼を弟子の下へと案内した。

 

 

ゴードンとポベウスがいくつか会話を交わしながら廊下を歩くこと数分。ポベウスの耳にどこか聞いたことのある心地よい歌が聞こえた。

ポベウスは隣を歩くゴードンにこの歌は何なのかと聞く。

 

「あぁ、これは彼女が歌っている歌だね。半年前に新種の電伝虫を拾ってね。ウタはそれを使って世界中に配信しながら歌を届けているんだ」

 

ポベウスはゴードンの説明に驚きながら徐々に大きくなっていく歌に耳を傾ける。その歌は聞いたものの心を落ち着かせるような歌だった。

そして、ある扉の前につくとゴードンは人差し指を唇の前に上げ、ポベウスを見るとゆっくりと扉を開けた。

ポベウスは静かに扉の隙間から中を覗くと、そこには赤白のツートンカラーと二つの輪が特徴的な髪型の少女が電伝虫に向かって歌を歌っていた。電伝虫からの映像には様々な場所にいる人々が映し出されている。

 

「今日も応援ありがとう!みんなの応援で今後も頑張れるよ!」

『こっちこそありがとうウタ!』『今日の配信もすごかったよ!』『いつでも聞いていたいの~』

「ヘヘヘ、ありがとう!じゃあ次回も楽しんでいってね!」

 

どうやら終わったらしく、ウタと呼ばれた少女は電伝虫を切っていく。

 

「…いい歌だな。聞いてるこっちが元気になる」

「あぁ、彼女の歌声は天使の歌声さ…彼女の歌は人々を幸せにし、世界を平和にする力を持っている。それが世界に届くようになって私は嬉しく思うよ」

 

ゴードンはウタの姿を微笑みながら見ていた。ポベウスはそんなゴードンを一度見ると、ウタへと視線を戻した。彼女はまだ片づけを行っている。

 

「さて、そろそろ彼女を紹介しないと」

 

ゴードンは一度扉を閉めると、ノックをした。すると中から慌ただしい音が聞こえてきた。

数十秒後に音が止み、「は、入っていいよ」と許可が下りる。ゴードンが「失礼するよ」と中に入るとポベウスも続いた。

 

「どうしたのゴードンさんって、あっ!よかった、目覚めたんだ!」

 

ウタはゴードンの後ろに自分が見つけた男性がいるのに驚きの声を上げる。ゴードンはお互いを紹介した。

 

「ウタ、こちらはポベウス。ポベウス、こちらはウタ」

「はじめましてウタ。この度は助けてくれてありがとう。お嬢ちゃんが見つけてくれなかったら今頃私はこの世にいなかった。本当にありがとう」

「そ、そんなに感謝されることじゃないよ。それに困っている人を助けるのは当たり前だから」

「ハハハ、優しいお嬢ちゃんだね」

 

ポベウスはウタにこれ以上ないほどの感謝を示すと、ウタは両手を振りながら応える。

ゴードンはそんな彼らを微笑みながら見ていた。

 

「お互いに自己紹介も済んだことだし、そろそろ食事にしよう。今日は珍しく客人がいるんだ豪勢にしないとね」

「あ、じゃあ私手伝うよ!」

「私も手伝おう。こう見えて料理は何度かしたことがある」

 

窓から見える空は赤く染まっており、太陽が地平線スレスレに存在していた。ゴードンとウタは新しい客人ポベウスを迎えてその日を終える。

 

 

それから数か月が過ぎた。

ポベウスは戻る場所も行く当てもないらしく、ゴードンの手伝いをしつつ、忙しいゴードンの代わりにウタの相手をしていた。

ウタは自分のわがままを叶えてくれたり、様々なことを教えてくれたりするポベウスを祖父のように感じていた。

ゴードンはそんな二人を微笑ましく眺めていた。

 

そんなある日。

その日もウタは配信を行い、世界中へと歌を届けていた。その後ろではポベウスが目を閉じながら配信を聞いている。

 

「それじゃあみんな、今日もありがとう!またね~!……う~ん、どうしよっかな~」

 

通常なら配信が終わるとどこかへ向かうウタであったが、その日は配信を終えてもその場にとどまり、何か考え事をしていた。

そんなウタにどうしたのかと聞くと、ウタはポベウスへと体を向けた。

 

「ん~、いつも配信を始めたらすぐに歌を歌うんだけど、歌う前に何かやった方がいいかなぁと思って。もっとファンに楽しんでもらいたいんだよね~」

 

ウタの悩みにポベウスはウタの歌だけで十分なのでは?と考えるが、そこがファンに愛される所以なのだろうなと納得した。

ポベウスはウタと一緒に配信をより良くする策を考えるために思考を回転させた。ポベウスとウタが悩むこと数十分、ある案が思いついた。

 

「なら何か世間話とかしたらどうだい?」

 

ポベウスは歌う前に何かを語ることでファンのみんなが嬉しがるのではないかと提案する。また、曲にあった話をすることで歌にもっと感動してくれるのではないかとも話した。

説明を聞いたウタは名案と言わんばかりに目を輝かせる。

 

「うん!それいいかも!早速次回からやってみよう!でも、私が話してもなぁ。かといって忙しいゴードンさんにやらせるわけにもいかないし。ん~…あっ!そうだ!」

 

ウタは独り言をぶつぶつというと、突然ポベウスの方を見た。ポベウスはそんなウタにどうしたのかと尋ねる。

 

「ポベウス!私の代わりにお話ししてよ!」

「…え?」

 

ウタはこの数か月間ポベウスからいろんな話を聞いていた。十二年間ゴードンのみしか相手がいないこともあり、外の話をほとんど知らなかったウタ。

そんなウタにとってポベウスの話は興味深いものばかりだった。また、ポベウスは多くの島を訪れた経験があるのか、話のネタが豊富であり、興味が尽きることもなかった。

そのことを思い出したウタはポベウスに代わりに話をしてもらうように提案した。まさかの提案に驚きの声を上げ、固まるポベウス。

ウタがポベウスの目の前で何度か手を振ると、それに気づいたポベウスは行動を再開した。

 

「いや、それは…大丈夫なのか?突然君の配信に知らない人が現れたらファンのみんなは驚くんじゃないのか?それに男が現れたらファンのみんなが嫉妬しないか?」

 

至極まっとうなことを聞くポベウスだったが、ウタは気に留めなかった。

 

「う~ん、大丈夫じゃない?ファンのみんなも喜んでくれるよ!それにポベウスだったら嫉妬もしないでしょ!おじいちゃんだし!」

「おじい…ちゃん…」

 

ポベウスはウタのさりげない一言に傷つき、両手と両膝を地面へとつけた。自分が年を取っている自覚はあったが、まさかおじいちゃんと呼ばれるとは思いもしなかったのだ。

ウタは突然地面に伏したポベウスに疑問符を浮かべる。その状況はゴードンが呼びに来るまで続いた。

 

 

一ヵ月後、ウタの配信はかってない盛り上がりを見せていた。

 

「みんなウタだよ!今日も配信を見に来てくれてありがとう!」

『うおぉぉぉ!ウタちゃぁぁぁん!』『今日も最高の歌を聞かせてくれぇ!』『あぁ今日も一日頑張れそうだ』『ウタかわいいぃぃぃ!』

「ヘヘヘ、嬉しいな~」

 

ウタは少し頬を染め、照れていた。しばらくして、ウタは横にそれ、ポベウスの名前を呼んだ。

 

「それじゃあ、今日もいつものやっちゃうよ!ポベウス!」

「はいよ。全く、ウタもみんなも何でこんなおっさんを待ち望んでいるのかね」

 

一ヶ月前とは違い、自分からおっさんと呼ぶポベウス。ウタに代わり、電伝虫の前に来ると、ファンのみんなから歓声が聞こえてくる。

あの後、ウタの説得により、早速次の配信から参加することになったポベウス。最初はいきなり見知らぬおっさんが出てきたことに困惑していたファンだった。

しかし、人生経験が豊富故かポベウスの話にファンたちは魅了され、配信を行うごとにポベウスのファンが増えていった。

今ではウタの歌の次にファンたちの楽しみとなっていた。その配信を偶々見ていたゴードンは飲んでいたコーヒーを噴き出していたが。

 

「それじゃあ、今回はとある村の勇気ある青年の話でもしよう」

 

ポベウスは青年が村の仲間と協力して海賊を対峙する物語を話し始める。

大海賊時代の今、海賊によって大切なものを奪われるものは多い。ファンの中には実際に経験する者もいた。そんなファンにとってポベウスの話はなじみ深いものでもあり、青年が海賊を倒す場面では強い喜びを感じていた。

 

「̶こうして青年は海賊を倒し、村に平和が訪れました」

 

ポベウスの話が終わるとファンたちは歓声を上げる。ポベウスはファンのみんなに感謝を伝えると、ウタを呼び横にそれる。

ウタはファンの歓声の中、笑顔で前に出る。

 

「ポベウスありがとう!海賊がやられる話を聞くと心がスカッとするよね!今日はその気持ちを盛り上げるために【逆光】を歌うよ!」

 

【逆光】。人々を虐げる存在への怒りを表現した歌であり、歌詞にはそれに屈せず戦っていくことの内容が込められていた。

ウタはすうっと息を吸うと、元気よく歌う。その歌を聞き、ポベウスとファンのボルテージは上がり始める。

 

さらに一年後、ウタの人気は留まることを知らなかった。ファンは爆発的に増え、今まで以上に配信に参加する人は増えていった。

単にウタの歌声が人伝に広まっていった、ポベウスの話が面白いというのもあるが、それ以上にファンが増えたのはとある理由があった。

それはポベウスがウタの歌をもっと世界に広めるための行動をしていたのだ。ポベウスはどこから入手したのか分からないが、各国や様々な組織への伝手があり、それを使用してウタの素晴らしさを広め、配信が多くの人に見られるようにしていた。

以来、ポベウスはウタのマネージャーとしてファンから認識されるようになり、ウタはみんなから望まれるようになった。

 

 

 

 

 

 

「̶̶以上が私とウタの出会いさ」

「へー、そんなことがあったのね」

「流石ウタちゅあ~ん!心も美しいぜ!」

「それじゃあ、おっさんはずっとエレジアに住んでんのか」

「そうだね、ゴードンとウタにはいつも世話になっているよ」

 

ポベウスの過去話に麦わらの一味が耳を傾けていると、上空から観客にお菓子やぬいぐるみなどを配っていたウタが音符に乗ってやってくる。

ウタは上空で音符を消すとスタッと地面に着地した。

 

「ルフィ!みんな!楽しんでる?」

「はひ!プリンセス・ウタ!」

「食材が豊富だし、コックにとって天国だよ」

「酒もたくさん飲めるしな」

 

ウタの登場に麦わらの一味は各々違う反応をするが、どれもウタに感謝するものだった。

ウタはその感謝に照れ、顔を横に逸らすと、ポベウスがいるのに気づいた。

 

「あれ?ポベウス、どうしてここに?」

「なに、ウタの知り合いらしいからね。どんな人物なのか気になったのさ。いい人そうだし、そこの麦わら帽子の子はどこかウタに雰囲気が似ているね」

「え~ルフィと一緒にしないでよ~。私はルフィみたいに子供じゃないもん!」

「おいウタ!どういうことだよそれ!」

「そういうところだよ~」

 

ウタが幼馴染に似ているといわれ、文句を垂れるがその顔はどこか嬉しそうだった。一方、ルフィはウタの発言を真に受け、反論する。

ポベウスがウタが子供のようにはしゃいでいるのを微笑んでいると、そろそろ時間が来ていることに気づいた。

 

「ウタ、そろそろ時間だから私は戻るよ。ルフィ君たち、存分にライブを楽しんでくれ…大丈夫かいウタ」

「うん、大丈夫…またねポベウス」

「またな!おっさん!」

 

ポベウスはウタの肩に手を置き小さくささやくと、その場から移動する。

その時、ポトンと何かが地面に落ちた。ポベウスはそれに気づかなかったが、近くにいたロビンが気づき、地面に落ちたそれを拾い上げる。

ロビンは手に持ったそれを見ると、ロケットペンダントであることに気づく。そのペンダントは黒と白で彩られており、表面には牙が生えた鼻の長い四足歩行の動物が描かれていた。

ロビンはどこかで見たことのあるその絵を不思議に思いながら、持ち主に声をかける。

 

「ポベウスさん落としましたよ」

「ん?あぁすまない」

 

ポベウスはロビンからロケットを受け取るとポケットへとしまい込んだ。

 

「…これは私の大事な物なんだ。拾ってくれてありがとう」

 

ポベウスはロビンに感謝し頭を下げると今度こそ階段を降り、ルフィたちがいる場所から離れていく。足を進めるポベウスの耳にはウタと麦わらの一味の賑やかな声が聞こえていた。

 




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