ウタとルフィが十二年ぶりに再会してから数十分が過ぎた。
その間、ウタは自分の幼馴染が海賊になっていることを知り、海賊を辞めさせようとルフィたちと敵対する。
ルフィ以外は反撃をするが、その甲斐むなしく船長であるモンキー・D・ルフィ以外は捕らえられてしまった。
ウタは唯一逃げ出したルフィを見つけに観客たちを連れて島を歩いていた。
一方、追われる身となったルフィとルフィを助け、共に行動することになったバルトロメオとトラファルガー・ロー、その部下ベポはとある人物の案内の元、島にある聖堂に身を隠していた。
男性は頭頂が禿げあがり、両脇の髪だけを伸ばし、サングラスをかけていた。
「私の名はゴードン。かってこの国エレジアを治めていたものさ」
「国?国と言っても人は誰もいねぇべ」
「かってここは世界一の音楽の都として栄えていた。しかし、一夜にして滅んでしまった。ある大物海賊に襲われたという噂だが…」
バルトロメオの疑問にローが答えると、ゴードンは重い口調でウタの話をした。
「ウタはこの島で私が育てた。当時、この島には私とウタの二人っきりだった。彼女はまだ幼かった。私の前では気丈に振舞うが、一人になるといつも歌を口ずさんでいた。私は彼女を励ますために音楽を教え、苦手な料理を練習して「カタン」…」
ゴードンは何か固いものが落ちた音がしたため、そちらを見るとルフィが石を積み重ねて遊んでいた。
ゴードンはその行為に文句を言うが、バルトロメオに先を促され、しぶしぶ続きを話した。
「あの子の歌声はまさに天からの贈り物だった。彼女の歌を世界に届けばそれだけで人々が幸せになるものだった。ただ、彼女の歌を世界に届ける方法が当時の私には思いつかなかった。
だが、それは唐突に表れた。二年ほど前、エレジアの海岸に映像と音声を不特定多数に配信できる新種の電伝虫が漂流した。偶然か、それとも神からの贈り物か。それを拾ったウタは解き放れたかのように自分の歌を外に発信していった…しかも奇跡はそれだけではなかった。半年後に同じく沿岸に漂着してきた人物がいた。それがライブの初めに出ていたポベウスだ。彼はどうやって手に入れたか知らないが、様々な国や組織に伝手があった。それのおかげで今まで以上に彼女の声が世界に広まり、より多くの人々を魅了していった。
だが、世界を知るうちに彼女に新たな自覚が芽生えてしまった。大海賊時代は争いや血が絶えない。最初は歌を聞いてもらえればよかったのに、いつの間にかウタを救世主と崇めるファンが増えてしまっていた。それらを聞いたウタは̶̶」
アラバスタ、ウォーターセブン、魚人島、各海の名もなき島々̶世界中の人々がウタに感謝と賛辞の声が、さらには手紙も届くようになっていた。
それらにはさまざまな思いが込められていた。海賊に村を焼かれた怒り、国が守ってくれない虚しさ、海軍や世界政府、天竜人に家族を殺された悲しみが書き綴られていた。しかし、ウタの歌を聴いている時だけは忘れることができる、楽しく感じることができると記されていた。
ウタはその時初めて外には残酷な世界が広がっていることに気づいた。
そして、決意したのだ。
自分の歌を愛してくれる人々のために“新時代”を作ることを。
「頼む、ウタとポベウスの計画をとめてくれ!ウタの友人であるルフィ君ならできるはずだ!」
ゴードンの悲痛な叫び声が聖堂に響き渡る。しかし、ルフィはろくすっぽ聞いていなかった。
「計画というのはこのライブのことか。それとポベウスというやつは何故協力している」
ローが一歩前に出て聞く。すると、後ろにいたベポから陽気な音が聞こえてきた。ローはまたかと思い、後ろを振り向くとそこには小さくなったベポがいた。
ローたちがその姿に驚いていると、聖堂の入り口から声が聞こえてくる。
「動かないで。私に勝ち目はないって理解できてるよね」
ウタは低い声で言いながらルフィたちの方へと歩いてくる。ウタはルフィたちの後ろにゴードンがいるのに気づくと目を細めた。
「ゴードン。何で海賊と一緒にいるの」
「ウタ、お前、なんで船を降りたんだ?」
代わりに応えたのはルフィだった。ルフィはウタに赤髪海賊団シャンクスのことについて聞く。
「ッ!シャンクスの話はしないで‼」
ウタは一瞬傷ついた表情をすると激高し叫んだ。
ウタの声により空気が震え、衝撃波が巻き起こる。その衝撃波により、ルフィの麦わら帽子が飛ばされ、くるくると回るとウタの頭上で停止した。
ウタはその麦わら帽子、シャンクスの帽子を手に取ると、ルフィに海賊を辞めるように説得する。しかし、ルフィはウタの話を全く聞かなかった。
ウタはそんなルフィにがっかりすると、次の攻撃を仕掛けようと手を掲げる。
バルトロメオはルフィを押さえると、ローが能力を使い、その場から消える。観客たちはウタの提案により、逃げたルフィたちを追い、外へと出た。
観客たちがいなくなり、聖堂にはウタとゴードンの二人きりとなった。
「ねぇゴードン怒ってる?相談もしないで勝手にライブを開いたこと」
「…ただのライブじゃないんだろ?」
「気づいてたんだ。なら応援してくれるよね、ポベウスみたいに」
ゴードンは「私は…私は…」と詰まらせるだけだった。ウタはそんなゴードンを細目で見る。
ゴードンにはライブを辞めてほしい、でもウタが楽しんでいることを中止したくないという気持ちがあった。ゴードンは別の方法を探そうと提案するが、ウタによって五線譜に拘束されてしまう。
「海軍や政府が黙っていないぞ!」
「大丈夫だよ、私とポベウスの力。そして…これがあるから」
「それは…トットムジカ…。どうしてそれを…」
ウタが取り出したのは古びた楽譜だった。余白には骸骨が描かれており、禍々しくも美しい雰囲気を醸し出していた。
「ポベウスが教えてくれたんだ。お城の地下にあったってね。ポベウスはこれが何か知らなかったみたいだけど…ねぇゴードン、何で捨てなかったの?」
ゴードンはその楽譜を見ると、大きな声で「使ってはいけない!危険なものだ!」とウタに叫ぶ。
しかし、ウタはゴードンの訴えに耳を傾けるどころか、視線すら合わせようとせず、聖堂を出て行った。
ウタが聖堂を出て、数秒もしないうちに今度は別の場所から足音が聞こえてくる。ゴードンがそちらへと目を向けると、そこにはポベウスがいた。
その姿を確認したゴードンは彼へと叫んだ。
「ポベウス!お願いだ、ウタを止めてくれ!あの歌を歌えば取り返しのつかないことに、世界が滅びてしまう!だから̶̶」
「あぁ知っているよ。彼女に渡す前から」
「̶知っている?」
ポベウスの口から出た言葉にゴードンは唖然としていた。知っているといったのか彼は…ならばなぜウタにそれを、と頭の中で考えていると、ゴードンの思っていることが分かっているのか、ポベウスは先に答えた。
「【トットムジカ】…古くから存在する歌であり、世界を滅ぼす魔王。ウタウタの実の能力者が歌うことで真価を発揮する呪われた楽譜。たしかそうだったか?」
ゴードンは何も反応を示さなかったが、ポベウスはそれを肯定の意味と受け取った。
「あの楽譜を渡したのは単純だ…ウタウタの実の能力者だから、ただそれだけだ。あの子と私の望みである新時代の誕生…それにはあの楽譜が必要だった。ゆえにあの子に託した。世界を変えてもらうために」
ゴードンはポベウスが言った内容に頭が追い付いていなかった。そして、ようやく内容を理解した彼は声を荒げた。
「なぜそんなことを!あの楽譜を、あの歌だけはウタに歌わせてはいけないんだ!それを君は̶̶」
「̶エレジアを滅ぼしたのがウタだからか?」
「なぜ、それを…君には世間に公表したことと同じことしか伝えていないのに」
ゴードンはエレジアの過去の真相を知っているポベウスに驚いていた。ポベウスはそんなゴードンを余所に話を続けた。
「一年前、私はある電伝虫を拾った。その映像に映っていたんだ。トットムジカに囚われているウタとそれに立ち向かう赤髪海賊団が…あぁ、安心しろ。彼女には電伝虫を渡していない」
「…なぜ彼女を巻き込んだ。なんでこんな残酷なことをウタにやらせるんだ!このためにエレジアに来たのか!」
「…エレジアに漂流したのは全くの偶然だよ。ウタはこの理不尽な世界を変えることができる力を持っている。人々を救う救世主となる運命なんだ!…それに彼女は自ら私の計画に賛同した」
一年前、ポベウスがエレジアに漂流してから二年が経ったころ。
ある日、ポベウスは配信を終えたであろうウタの部屋へと向かっていた。扉の前まで到達すると、ノックをする。
いつものなら直ぐに許可が下りるはずが、その日はいつまで経っても返事が来なかった。
もしかしていないのかと思い、ドアノブに手をかけるポベウス。しかし、鍵はかかっておらず、簡単に扉は開いた。
ポベウスは年頃の娘の部屋を勝手に覗くことに罪悪感を感じつつ中に入る。
部屋の中は年頃の少女らしくピンクで彩られており、ベッドや壁にはファンからの贈りものが飾られていた。そして、窓の傍にある机にウタはいた。
ウタは扉の音にも気づかず、ファンから貰ったであろう手紙を読んでいた。それを読んでいる時のウタは何か思い詰めた表情をしていた。
「…ウタ、配信は終わったのかい?」
「!?ポベウス!いつからいたの!?」
突然の声に驚いたウタは扉の方へとバッと体を向ける。
「つい先程だよ。それより何か考え事をしていたようだけど、どうしたのかい?」
「!え、えーと、その~」
ウタは理由を言うのに戸惑っていた。ポベウスは腰を下ろし、ウタの視線に合わせる。
「ウタ、何か悩んでいることがあれば話してくれないか?これでも私は君の倍以上の年を生きている。もしかしたら何か力になれるかもしれない…もちろん無理に話す必要ないが」
ウタは少しの間俯くと、顔を上げた。
「…ポベウス私どうすればいいのかな」
ウタは悩んでいることをポベウスに全て話した。
ファンが感じる日々の苦しみ、期待に対する責任感、とある少女からの悲痛な思い。ウタは人々の願いを叶えたいと告げる。
ポベウスは彼女の優しさに感動し、頬を緩ませる。
「…ウタは優しいね。自分のファンが幸せになれるように必死に考えているのだから…すぐに解決策は出せないけど、必ず何か思いついてみるから少しの間待っててもらえるかな」
「…うん、ありがとうポベウス。私も考えてみるよ」
ウタは頷くと部屋からゆっくりと出ていく。その背中はどこか哀愁が漂っていた。
しかし、ポベウスはそのことに気づくことなく、笑顔でウタを見ていた。
数日後。
ポベウスは手に数枚の紙を持ち、再びウタの部屋へと向かっていた。以前ウタから相談されたことの解決策をいくつか紙にまとめ、それを渡すためだった。
部屋の前に着いたポベウスはノックをするが、中からの返事はなかった。
どこかにいったのかな、と思いながらドアノブを回すと鍵は開いていなかった。また何かに集中しているのかと考え、中へ入ると、そこにウタの姿はない。
ウタがいないことに気づいたポベウスは紙だけを置いておこうと机に向かう。すると机の上に見かけない映像電伝虫があった。
不思議に思ったポベウスは映像電伝虫に触ると、壁に映像が映し出される。
映像には炎に包まれた町とこのエレジアで見たことのある建物が映っていた。その後ろには新聞や手配書で見たことのある赤髪海賊団と禍々しい怪物が周囲を破壊している。
ポベウスはその怪物が何なのかは知らなかった。しかし、映像から聞こえる声から怪物がエレジアを滅ぼした真犯人だということが分かった。
ゴードンから聞いていた話と違うことに驚いていると、映像では赤髪が怪物を倒していた。
そして、ポベウスは見逃さなかった。̶赤髪に倒された怪物からウタが現れたことに。
「なぜ怪物からウタが…もしかしてウタがこのエレジアを?」
ポベウスはまさかの真実に後ずさり、呆然とする。まさかの真実に頭が混乱していたのだ。
しばらくそうすると、ポベウスは映像電伝虫を切り、部屋を出た。彼の頭にあるのはウタのことだけだった。
その日の夜。
夕飯も終え、後は就寝するだけとなったポベウスはゴードンだけには映像で見たことの確認を取ろうと、月の光だけが照らす薄暗い廊下を歩いていた。
ウタはもう真実を知っているのだろうかと考えながら足を進めていると、何かの気配を感じた。その気配は不気味さを感じたが、同時にどこか親近感を覚えるものであった。
ポベウスはその気配を辿ると、たどり着いた先は図書館だった。そこは何年も掃除がされていないのか埃だらけであり、そこかしこにぎっしりと本が詰まっている本棚が立っていた。
初めてくる場所にあたりを見渡していると、中央にぽつんと置かれた譜面台が視界に入った。譜面台に近づくと上には古びた楽譜が置かれており、その楽譜からは先程感じた気配が発せられていた。
楽譜は余白に骸骨があしらわれ、ところどころシミがついている。ポベウスは何の楽譜だろうと思い、楽譜を手に取った。
その瞬間、手に取った楽譜が何であるかに気づく。それと同時に自分の心の奥底にあった様々な感情が沸き上がってくるのを感じた。
「ハハ、ハハハハ!これだ、これがあればあの子の願いは叶う!この世界を変えることができる‼ハハハハハ‼‼」
ポベウスは狂気に満ちた笑い声をあげる。もう彼には今まで考えていたことなどどうでもよかった。ただ救世主の誕生に歓喜の声を上げ続けていた。
「そしてとあるキノコを発見し、今回のライブを思いついた…ただ懸念点はあった。ウタにその気がなければ計画自体が意味をなさない。だから今まで使用しなかった各国や組織への伝手を使い、多くの人に見てもらうように誘導した。そのおかげで多くのファンがウタを救世主として崇めるようになり、彼女はファンの思いに応えたいと強く思うようになった。彼女はファンのためなら、と私の提案に賛成した」
ゴードンはポベウスの話を聞き、言葉を失っていた。今まで共に暮らしてきたポベウスがとんでもないことを計画していることの衝撃、そのして計画からウタを守れなかった自分の愚かさを悔やんでいた。
ポベウスは何も言わないゴードンに興味が無くなったのか、「ゴードン、今までありがとうございました。あなたはそこで新時代の誕生を祈ってくれ」と言い放ち、ウタと同じく聖堂を出て行った。
ポベウスがいなくなり、ゴードンは落ち込んでいると白いフワフワとした生き物が目の前に現れる。
小さくなったベポだ。今までの話をすべて聞いていたベポは困ったように「アチョー…」とつぶやいた。
ルウタ、ウタルは至高