誰かの救世主   作:スココLU

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ウタの思い

ライブ会場から逃げ出したコビーたちはルフィとバルトロメオ、ローがいる旧市街の民家に戻っていた。

ドアドアの実からコビー、続いて小さくなったブルーノが出てくる。バルトロメオは小さくなったブルーノに驚いていた。

そんなブルーノを気にもせず、ルフィはコビーへと聞く。

 

「コビー、ウタに会えたのか?」

「それが…」

 

コビーは言葉を濁すと、ブルーノがローたちに仲間は集められたのか、と聞く。バルトロメオが顎を民家の外へしゃくると、そこからはウタによって五線譜に貼り付けにされていた海賊とビックマム海賊団の一員が現れた。

 

「おい、協力することには賛成したが、麦わらと手を組むとは聞いていない。死んでもごめんだ」

 

オーブンがルフィを見てそう言うと、ビックマム海賊団はブリュレの鏡へと消えていった。

協力者が消え、ウタの対策が分からないままの状態にローとバルトロメオ、ブルーノは浮かない表情をしていたが、ルフィだけはいつも通りだった。

 

 

数十分後、再び空間に鏡が現れた。

ブルーノとローはとっさに警戒態勢をとるが、中から現れたのは麦わらの一味だった。

 

「おまえら無事だったか!」

 

仲間たちが次々と現れたのを見て、ルフィは嬉しそうに立ち上がった。麦わらの一味はルフィに会えたことに喜びつつ、かわいらしい姿になったサニー号に各々異なる反応を示していた。

麦わらの一味に続き、ビックマム海賊団のメンバーも現れ、全員がその場に集まると、コビーはロビンに声をかけた。

 

「ロビンさん、ウタを倒す方法は何かわかりましたか?」

「昔の記録によると、ウタウタの世界に取り込まれたものは自分の力で脱出することはできない。絶対に」

 

ロビンの言葉に絶望的な表情を浮かべるものもいた。しかし、彼らに構うことなく、ロビンは話を続けた。

 

「ただし、二つだけ助かる方法はある」

 

ローが「その方法は?」と聞く。

 

「一つ目はウタウタの実の能力者がトットムジカを使った場合。そうすればチャンスは訪れる」

「トットムジカ?」

「古代から続く、怒りや寂しさ、辛さなどの負の感情の集合体。“魔王”とも呼ばれる存在よ」

「そのトットムジカとやらを使った場合、どんなチャンスがあるんだ?」

「記録によると、呼び出されたトットムジカはウタワールドだけでなく、現実世界にも姿を現すみたい。その時、現実世界とウタワールドから同時に攻撃すれば、魔王を倒しウタワールドを消すことができる」

 

ロビンの言葉に希望を感じたものはロビンへと詰め寄る。

しかし、ウタワールドから攻撃するのは自分たちがいるが、現実世界で攻撃するものがいないことにその場の皆が気づく。

海軍もサイファーポールも一般市民がいる以上無理であった。そのことに皆が絶望する中、聞きなれない声が聞こえてくる。

 

「一人いる」

 

そちらを見ると、ベポが椅子に乗ったゴードンを引っ張り、ルフィたちの下へ向かっていた。

ローが「ベポー!」と嬉しそうな声を上げる中、バルトロメオがゴードンをみんなに紹介していた。

 

「こちらウタ様の育ての親、ゴードンさんだべ」

「おい、一人いるって誰のことだ」

「…シャンクス」

 

ゾロの問いにゴードンは短く答えた。

四皇の一角の名を聞いて、その場の者が息をのむ。ただ、ルフィだけいつもと変わらないテンションだった。

 

「シャンクスが?」

「シャンクスが来れば現実世界のウタを止めてくれるはずだ」

「おっさん。ウタとシャンクスにやっぱ何かあったのか?」

 

ルフィの問いにゴードンは「それは…」と呟いたきり、押し黙った。

その沈黙にシャンクスとウタの間に何かがあったことをルフィは悟った。

「おっさん̶̶」

 

ルフィはゴードンを見続けると、突如走り出し、ゴードンの横をすり抜けて外へ向かっていく。

突然のルフィの行動にバルトロメオを含め数名が狼狽えるが、麦わらの一味は動じなかった。

 

「行かせとけ」

「止めても無駄だ、うちの船長は」

「どっちみち行動しないと時間がないんだしね」

「しかしどうやって?」

 

コビーが首を傾げるとゾロは鉢巻を頭に巻き、その疑問に答える。

 

「同時攻撃が必要なんだろ?なら簡単じゃねぇか。…ひたすら攻め続ければいい。こっちと向こうのタイミングがそろうまでな」

 

さらっとすごいことを言うゾロにバルトロメオは圧倒され、感極まって膝をついた。その後ろではオーブンやローたちがロビンへと近づく。

 

「それよりニコ・ロビン、もう一つの脱出方法は何だ」

 

オーブンがロビンに二つ目の方法を聞いた。ロビンは周囲を見渡し、何か言いたげなゴードンの見ると、もう一つの方法を語る。

 

「もう一つは̶̶」

 

 

 

 

ウタワールドのライブ会場。

多くの観客が水の中を漂う中、ウタは水上に寝そべっていた。そこへ、ゆっくりとルフィが歩み寄ってくる。

ウタはルフィに気づくと、ゆっくりと立ち上がる。

 

「何しに来たの?何度やっても私には勝てないよ」

「まだ負けてねぇ」

「出た、負け惜しみ~!…それじゃあ昔みたいに喧嘩で勝負する?」

 

ウタはパチンと指を鳴らすと、音符の戦士が現れ、ルフィに襲い掛かる。

ルフィは“ゴムゴムの銃(ガト)乱打(リング)”“ゴムゴムの暴風雨(ストーム)”で戦士たちを蹴散らす。音符の戦士が消えると、ダッと走りウタへと詰め寄る。

足を大きく蹴り上げ、“ゴムゴムの斧(おの)”を放とうとするが、ウタの横へとそれる。

 

「当てる気ないくせに」

「お前は間違ってる!」

「それはルフィだよ」

 

ルフィは“ギア2(セカンド)”の態勢を取るが、ウタの力により水柱が立ち、ルフィの体が浮いてしまう。

 

「いい加減わかりなよ。大海賊時代は終わりなの」

 

ウタは麦わら帽子を取り出し、ルフィを見つめる。ルフィは見っともない姿になりながらもウタを睨んでいた。

 

「だいたい何でそんなに、海賊王を目指すの?」

 

ウタの問いにルフィは力強い声で答える。

 

「新時代を作るためだ!」『俺も新時代を作る!にししし』

「!…ルフィ!」

 

一瞬苦しげな表情を取ったウタは苛立たし気に足を踏み鳴らし、目を見開いた。衝撃波が放たれ、ルフィは吹き飛ばされ、水面へと倒れこむ。

二体の音符の戦士がルフィの下へ行き、槍を突きつけた。その姿は海賊王ゴール・D・ロジャーの処刑シーンと同じだった。

ウタはルフィに近づき、麦わら帽子を持った手に力を入れる。麦わら帽子は徐々に横へと伸び、ブチッという音共に裂けていく。

 

「ウタァァ!!!お前あんなに赤髪海賊団が好きだったじゃねぇか!シャンクスが好きだったじゃねぇか!なんで海賊が嫌いになったんだ!」

『さぁ、うちの歌姫が歌うぞ!』『なぁウタ、もう一曲歌ってくれよ』『よーし!みんなで歌うぞ!ハハハ』

「っ!」

 

ルフィが激昂して叫ぶ。それと同時に、過去の…幼少期の赤髪海賊団との楽しい日々がウタの脳裏に蘇る。

ウタは一瞬戸惑うが、頭を振ると冷ややかにルフィを睨み、感情を爆発させた。

 

「シャンクスの…シャンクスのせいだよ!私はシャンクスのことを̶実の父親のように思ってた!」

 

たとえ血は繋がってなくてもウタにとってシャンクスは父親だった。

赤髪海賊団の音楽家として、みんなが望めば賑やかになるように歌った。辛そうだったらみんなが楽しくなるように歌った。

赤髪海賊団のみんなはウタの歌声を心から楽しんでくれた。̶̶みんながウタに、歌で誰かを幸せにできると教えてくれたのだ。

 

「私はみんなを本当の家族と思ってた̶̶でも、あいつらは私を捨てた!このエレジアに残してどこかに行ったんだ!」

「それはお前を歌手にするために̶」

「違うッ!」

 

ウタはルフィの言葉を遮り、興奮してまくしたてた。ルフィの知らない過去を、ルフィと最後に別れた後に起こったことを、ウタとシャンクスが共に過ごした最後の一日を、ウタは語る。

それはウタにとって人生で一番苦しかった日だった。

 

 

 

ウタから十二年前に起こったことを聞いたルフィは信じられなかった。

 

「シャンクスがそんなことをするもんか!お前だって知ってんだろ!」

「じゃあ私の十二年は何だ!」

 

ウタは叫び返すと、冷ややかな表情をし、手に持っていた麦わら帽子を音符へと変える。

 

「ルフィ、あんただってシャンクスにとっては道具なんだよ」

「シャンクスは来る」

「あんたを助けに?」

 

ウタは嘲笑する。しかし、ルフィは真剣な表情だった。

 

「違う。お前を助けにだ」

「…私を?何で?」

「̶娘が苦しんでるのにシャンクスが黙ってるわけねぇだろ!」

 

 

 

「あいつが来るわけないじゃん…私をこんなところに捨てたやつだよ」

 

現実世界のウタは眠り続けるルフィの傍でそう呟いた。降り続ける雨がウタの体を冷やしていく。

ウタは幼少期とは変わったルフィの顔を撫でながら麦わら帽子をルフィの胸の中央に置く。

 

「顔を合わせて会いたかったな…さよならルフィ、バイバイ」

 

ウタは手に持ったナイフを麦わら帽子に向け、勢いよく振り下ろす。

しかし、ナイフがルフィを突き刺すことはなかった。誰かがウタの手を押さえていたのだ。

邪魔者が入ったことに苛ついたウタは恨みがましく視線を上げ̶̶その人物に驚く。

 

「えっ…なんで、ここに…シャン、クス」

 

ウタを止めたのは四皇赤髪海賊団の大頭、ウタの親シャンクスだった。その後ろにはベックマン、ホンゴウ、ヤソップたち赤髪海賊団のみんながいた。

 

「久しぶりに聞きに来た。俺たちの娘の歌を」

 

シャンクスは穏やかそうな表情で言う。

ウタは唐突のことに「は?」と困惑する。やがて現状を理解すると顔をゆがめ、涙が出そうになる。ウタは何度も涙を押し殺し、顔をそらす。

そして、感情を押し殺すように髪をかき上げ、上半身をそらし、狂気じみた笑い声をあげる。

 

「ちょうどよかった!もうすぐ私たちが望む新時代が迎える!その前にあんたと決着を付けたかった!…みんなぁ!一番悪い海賊が来たよ!」

 

ウタは後ろに飛ぶと、ナイフをシャンクスたちに突きつけながらファンたちに呼びかけた。

観客たちはゆっくりと立ち上がると、シャンクスたちへと襲い掛かる。

 

 

一方、ライブ会場の外では黄猿たち海兵がウタの抹殺の命を受け、足を進めていた。

 

「辛いねぇ~、世界を守るために子供に手を出すのは。しかも、その子を止めるために何万人もの人々が犠牲になるとはね~」

 

黄猿はこれから行うことに悲しそうに言うと、海兵たちの前に誰かが立っていることに気づいた。

 

「ん~?君は確か~歌姫ウタの協力者ポベウスだったかい?なぜこんなところにいるのかね~」

 

黄猿が手を上げると、海兵たちが銃を構える。しかし、ポベウスは気にも留めなかった。

 

「…ウタの邪魔はさせないぞ海軍。君たちにはここで立ち止まってもらう」

 

ポベウスが手をかざすと一部の海兵が気を失ったのか、地面に倒れる。周囲にいた海兵たちは気を失った仲間に近づくと、突然倒れた海兵が立ち上がり、味方の海兵たちに発砲する。

それは黄猿も例外ではなく、弾が体をすり抜けていった。

 

「これはまずいね~。いったい何の能力なんだい~」

 

同じ組織の人物を殺すわけにはいかず、さらには覇気使いまでも襲ってくるため行動を制限される黄猿。前方を見ると、先程までいたポベウスはもうすでにいなくなっていた。

 

 

 

 

 

現実世界に突如現れたシャンクスに、ウタワールドのウタは目を閉じたまま黙りこくっていた。その頬には涙が伝っていた。

 

「シャンクスが来てんのか?」

 

ウタの状態から現実世界で起こったことを悟ったルフィ。ウタはハッとして、取り繕うように涙をぬぐう。しかし、その行為が仇となる。

 

「今です!」

 

ウタの隙をついてコビーが叫ぶ。その声と共に隠れていた者たちが攻撃を仕掛けた。ウタを誘拐しようとしていた海賊、ビックマム海賊団、ローや一匹欠いた麦わらの一味たち。

ウタは咄嗟に音符の戦士たちを出し、襲ってきたものと戦わせる。

麦わらの一味は音符の戦士たちを倒し、ウタを捕らえようとするが、逃げられてしまう。

 

「まだ戦うの?だったら…」

 

ウタは小さく口を開け、歌を歌おうとする。その時、すぐ近くにブルーノの“空間(エア)開扉(ドア)”が現れる。

 

「え?なにこれ?」

 

中からブルーノ、ベポ、サニーがウタを捕らえようと続々と現れる。しかし、ウタは驚きながらも冷静に音符を出し、弾き飛ばす。

だが、さらに背後からチョッパーが現れた。チョッパーも音符で弾き飛ばそうとするウタだったが、「毛皮(ガード)強化(ポイント)!」という声と共にチョッパーが大きくなると、驚き尻もちついた。

 

「あいたっ!?」

「シャンブルズ」

 

ウタが転倒した瞬間、ローがチョッパーとバルトロメオの位置を入れ替える。バルトロメオは入れ替わると即座にバリアを張った。

 

「バリアボールサウンド!」

 

ウタの声がバリアによって遮られ外に聞こえなくなった。音符の戦士たちは次々と姿を消していく。

声が届かなくなり、万事休すとなったウタは荒れ狂うようにバリアを殴り続ける。その目は何かに焦っていたようだった。

その様子を見ていたルフィはウタの左手に描かれている見覚えのあるマークが視界に入る。その後ろにはいつからいたのかゴードンもいた。

 

「あれは…」

 

それはルフィとウタしか知らない二人だけの秘密のマークだった。

 

 

 

現実世界では赤髪海賊団がウタによって操られた観客たちの襲撃を受けていた。シャンクスを筆頭に誰も観客たちに殴られ蹴られようが反撃をせず、大人しくしていた。

一部のものは頭であるシャンクスが滅多打ちにされているのを見て、反撃しようとするが、副船長であるベックマンにいさめられてしまう。

 

「…なんで!どうして反撃しないの!?海賊なんだから攻撃すればいいじゃない!」

 

ウタは何をされても一切行動しないシャンクスたちに憤っていた。シャンクスたちがそんなことをするような人間じゃないと頭で分かっていながらも叫んだ。

シャンクスは一般市民に殴られながらも穏やかそうな顔でウタを見る。

 

「…娘が久しぶりにかまってくれるんだ。それに怒る親なんていないだろ」

「ッ!…まだ私を娘だと思ってるんだ…」

「当たり前だろ。お前は俺たちの「ならなんであの時置いて行ったの!私を捨てたくせに今更父親面しないで!」…ウタ」

 

ウタは憎しみの目で睨む。自分を置いて行った仲間を、今まで一度も会いに来てくれなかったシャンクスを。

シャンクスは口を閉じウタを見続ける。

 




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