誰かの救世主   作:スココLU

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ウタワールドでは未だにウタはバリアボールの中に閉じ込められたままであり、バリアボールから出ようと何度も手を打ち続けていた。その手から血が出ていてもなお。

 

「ウ、ウタ様。そんなことしても無意味だべ。俺のバリアは解けないべ。だからそれ以上殴るのは…」

「うるさいッ!私は作るんだ、新時代を!みんなが望んでる幸せな時代を!」

 

ウタはバルトロメオの忠言に耳を傾けることなく、一心不乱に叩き続ける。

 

「どうしたのでしょうウタは。何であんなになってまで…」

「やっぱりネズキノコを食べていたか」

「ネズキノコ?サンジ君それって一体何なの?」

 

サンジが何か思い出しながら呟くとナミが疑問を口にする。サンジはいつものような態度は取らず、真剣な表情で答えた。

 

「あれを食べると眠れなくなるだけじゃない。感情のコントロールが制御できなくなってしまうんだ」

 

ウタが自身の身を顧みず、新時代を作ることに固執しているのはネズキノコのせいだった。

サンジの話を聞いていたルフィはゆっくりと前へ出る。

 

「ん?おいルフィ」

 

ゾロの言葉に耳を傾けもせず、ルフィはウタの下へ向かっていった。

 

「…ロメ男、バリアを解いてくれ」

「麦わら屋なにを!」

「麦わら何を言ってやがる」

 

ルフィはウタの前に来ると、バリアを解除するよう告げた。

ロー、オーブンに続き、せっかく捕らえたウタをみすみす解放するような行動にでたルフィに麦わらの一味以外が非難の声を上げる。

ビックマム海賊団がルフィを捕らえようと動き始めた。

しかし、

 

「おっとうちの船長の邪魔はしないでもらおうか」

「これは二人の問題だ」

 

ゾロとサンジがビックマム海賊団の前に立ちはだかり牽制する。二人に続いて他の一味も集まってきた。

 

「やっと会えた幼馴染なんですもの、二人っきりにさせなくちゃ」

「二人の邪魔はさせねぇ!」

「ヨホホホ、人の恋路はじゃまするものじゃありませんよ」

「アーウ!船長が漢を見せようとしているんだ。野暮な真似はよしな」

「このままじゃ二人ともお互いのことを何も知らずに終わりそうだもの」

「そんなの俺は絶対嫌だぞ!」

「これ以上ルフィから大事な人を失わせはせん」

 

ナミ、ウソップ、ブルック、フランキー、ロビン、チョッパー、ジンベエが各々の思いを口にする。思いは全員同じで、ルフィとウタの邪魔をさせないことだった。

ビックマム海賊団とルフィを覗いた麦わらの一味は両者とも睨み合ったまま一歩も動かずにいた。

一方、ルフィは後ろで起こっていることを感じ取りつつも意識は前方へと向いていた。

バリアボールの中にいて、周りからの音が聞こえないバルトロメオだったが、ルフィの表情とその後ろで起こっていることを見て、ルフィが何をしたいのかを感じ取り、バリアを解いた。

 

「きゃっ!?」

 

突然バリアが解除され、前のめりに地面へと倒れるウタ。視界に見覚えのあるサンダルが入ると即座に立ち上がった。

 

「何で私を解放したのか分かんないけど、今度は失敗しない。ルフィ、あなたたちを倒して私は新時代をつく̶̶えっ!?」

「わぁお!?」

「まぁ!」

「フフ、ルフィらしいわね」

「うおぉぉぉルフィ!いいなぁお前はよぉぉぉ!」

「流石に空気読めよサンジ」

 

ウタは驚きで言葉が出なかった。なぜならルフィが抱き着いてきたからだ。再会した時とは違い、手は腰ではなく、肩と頭に当てられていた。

その様子は近くにいたバルトロメオだけでなく、後方にいるナミたちも目撃し、驚きの声を上げる。

ウタはルフィの突然の行動に少し頬を赤らめる。

 

「ルフィ一体何を̶」

「ごめんなウタ、側にいてやれなくて。さびしかっただろう」

「っ…」

 

ルフィの言葉にウタの心は揺さぶられる。それはウタが欲しかった言葉であった。

今まで繋がりがあった人たちと突然別れることになり、何もないエレジアで暮らしていたウタにとって、ルフィの言葉がウタの心に響く。

 

「さっき、ゴードンのおっさんから聞いた。エレジアを滅ぼしたのはシャンクスじゃねぇ。悪いのは全部トットムジカというやつだ!」

 

ルフィはみんながウタを捕らえようとしている時にゴードンからエレジアの過去を聞いていた。そして、シャンクスがウタをエレジアに置いて行った理由も。

ルフィはウタの目を見てエレジアの真相を話す。しかし、ウタの表情は暗いままだった。

 

「ウタ?」

「…知ってるよ、とっくの前にね」

 

ウタは微笑し、ルフィから視線を外す。

 

「…シャンクス、赤髪海賊団の皆のことをずっと憎んでた。私を利用してエレジアに赴き、エレジアを滅ぼした。用がなくなった私をこのエレジアに捨てていった。ずっとそう思ってた…でも違かった。本当は私がやった」

「違う!あれはお前じゃ̶」

「私が!私がエレジアを滅ぼしたの!…私がトットムジカを呼んでエレジアに住む人々を殺した」

「ウタ…」

 

ルフィはウタを見つめる。ウタは後ろ髪を下ろし、悲しそうな目でルフィを見ていた。

 

「私は海賊を嫌いだってみんなには宣言してる。けど、そんな資格何て元々私にはなかった…だって昔から赤髪海賊団が好きだから」

 

ウタは笑ってそうルフィに告げた。ルフィは何も言わずにじっとウタを見ていた。

 

「でもファンのみんなが望んでいるのは“海賊嫌いのウタ”。たとえ自分に嘘をつくことになっても私はファンのみんなを裏切れない。私を見つけてくれたファンのためにも、みんなが望む“新時代”を!私は作らなきゃいけないの!」

 

ウタはキッとルフィを睨みつけて宣言する。自身の心を偽ってでもファンのためにあり続けようとしている。

そんなウタにルフィは怒鳴り声をあげる。強い感情が表に出たためか覇気が少し漏れていた。

 

「それが本当にお前がしたいことかよ!」

「ル…フィ?」

 

ウタは今まで一度も見たことのないルフィの様子に驚いていた。十二年前はいつも笑うか、泣いていた幼馴染が怒りの感情をあらわにしていることに。

ルフィは目を吊り上げ、歯を食いしばってウタへと近づく。

 

「お前がやっていることは誰も幸せにできねぇ!」

「ッ!だったらどうすればいいの!」

 

ウタは叫んだ。その時に衝撃波が放たれるが、ルフィは一歩もひるまなかった。

 

「みんなの望みを叶えるにはこうするしかなかった!誰も苦しまない、誰も悲しまない新時代を作るためにはこうするしかなかった!みんなを幸せにしたいと思って何がいけないの!?」

 

ウタは自分の思いをぶちまける。ファンのみんなを幸せにしたいという思いを踏みにじられたことに反撃の声を上げた。

 

「なら何で泣きそうな顔をしてんだよ!」

「…え?」

 

ルフィの言葉にウタは疑問の声を上げる。その時、自身の頬を何かが伝っていることに気づく。両手を開いて下を見ると、手のひらにぽたぽたと水滴が落ちてきた。

ウタは自身がいつのまにか泣いていることに気づいていなかったのだ。

 

「なんで…グスッ!私は、みんなのためにグスッ…新時代を…」

 

ウタは袖で顔を拭うも涙はとめどなくあふれてくる。これでみんなが幸せになる、そう思っているはずなのに、涙は止まらない。

そんなウタをルフィは真剣な表情で見ていた。

 

「ウタ、本心を言え。お前がしたいことはなんだ」

「私が…したいこと…」

 

ウタは視界に入った左手のハンドカバーに描かれたあるマークを見つめる。昔、二人の新時代のマークとしてルフィがくれたもの、不格好な雪だるまのような麦わら帽子。

そのマークをウタは自分のマークとして使っていた。みんなを新時代に導く、歌姫ウタのシンボルとして。ルフィとの記憶がウタの脳裏には蘇っていた。

 

「他人に押し付けられるな̶自分の人生ぐらい自分で決めろ」

「私は̶」

『私の歌をたくさん届けて世界を幸せにする!私は、新しい時代を作るの!』

 

幼少期にルフィへ伝えた夢がウタの脳裏に蘇る。ウタが本当に叶えたかった“新時代”。

 

「歌でみんなを幸せにしたい…誰も傷つかない、私の歌でみんなが̶“笑顔”になれる新時代を作りたいッ!」

 

ウタは大きな雫を流しながらルフィへと告げる。ルフィはそんなウタを再び抱きしめる。

 

「止まれ、ウタ。こんなのは自由じゃねぇ。こんなのは新時代じゃねぇ̶お前がだれよりも分かってんだろ…それに、お前の新時代はもう始まってる。なら最後まで俺に見せてくれよ。ずっと傍で見てやるから」

「…ぅ、うわぁぁぁルフィ!」

 

ウタは泣きじゃくった。

十二年分の思い̶シャンクスに捨てられた時の絶望を、一人で過ごしてきた寂しさを、ファンの期待に応える苦しさを、エレジアの真相を知ったときの恐怖を、シャンクスに謝りたいことを、誰かに助けてほしかったことを、いつのまにか自分より大きくなったルフィの胸元でそれらの思いを吐いた。

ルフィは幼子のように泣くウタをより一層強く、ウタの気が済むまで抱きしめた。

 

しばらくして、泣き止んだウタは少し頬を紅潮させ、ルフィから離れる。ウタの顔は再会したとき同様笑顔で、しかしどこかすっきりした表情で、ルフィを見つめていた。

もうウタの心には自己犠牲の精神は無くなっていた。

 

「…ありがとうルフィ」

「にししし、気にすんな。しかし、ウタがあんなに泣きじゃくるとはな」

「なっ!?し、仕方ないでしょ!…こんなこと話せるような人いなかったんだから」

「にししし、そうか」

 

ルフィは嬉しそうに笑う。

ウタはそんなルフィを見てまた少し笑うが、再び暗そうな顔に戻った。

 

「でも…本当にこれでいいのかな。これがみんなを幸せにする方法なのに」

「だから言ったろ、だれもこんな新時代望んじゃいない。前みたいに歌を届けるだけでみんなは幸せだったんだ。それにお前が一番幸せにならなきゃ意味ないだろ」

「ルフィ…でもこれが終わったらみんな私を憎むかもしれない。世界から狙われるかもしれないんだよ」

「にししし、大丈夫だ。お前の思いをしっかり伝えればみんな分かってくれる。それに…」

「ルフィ?」

 

突然に黙り込み、こちらを見るルフィにウタは首を傾げる。ルフィは笑顔で話す。

 

「もし狙われるようになっても俺が守ってやるよ」

「っ!…あ、ありがとう」

 

ウタは突然のことに顔を赤く染め、ルフィから顔をそらす。ルフィは顔をそらしたウタの不思議そうに見ていた。

そんな二人に近寄ってくる人物たちがいた。

 

「よぉルフィ。話は終わったか」

「あっ、お前ら!おう終わったぞ!」

 

ゾロから話しかけられ、ルフィとウタはそちらを見る。その後ろには麦わらの一味とゴードンがいた。

彼らはルフィとウタの二人を心配そうに見ていた。

 

「…ごめんなさい!」

 

ウタは自分たちを見る麦わらの一味に頭を下げる。こんなことに巻き込んだこと、彼らに攻撃したこと、それらに対する謝罪をした。

突然のウタの謝罪に麦わらの一味はきょとんとした顔をすると、各々笑って許した。

 

「別にいいわよ、何もなかったんだし。このあとちゃんと元に戻してくれるんでしょ?」

「俺は生のプリンセス・ウタの歌を聞けて満足だぜ!」

「俺も俺も!」

「とてもいいライブじゃった」

「スーパード派手なライブだったぜ!」

「ヨホホホ、お二人の青春が見られて目の保養になりましたよ。私、目ないんですけどヨホホホ!」

「いろんなものが見れて楽しかったわ」

「酒もくれたしな」

「お前はそれだけかよクソマリモ…いろんな食材があって楽しめたよウタ」

 

麦わらの一味は今回のことなど大したことがないといった様子だった。

ウタはそんな彼らの態度にあっけにとられる。

 

「にししし、面白いだろ?俺の仲間たち」

「…うん。本当に面白いねルフィの仲間たち」

 

ルフィとウタは笑い合う。昔みたいに無邪気に、されど昔とは違い、成長したお互いを見ながら笑った。

すると、ゴードンが二人の下へと近づいてくる。

 

「ゴードン…」

「すまないウタ。私が情けないばかりに君に辛い思いをさせた…私は失格だ。シャンクスに合わせる顔がない」

 

ゴードンは俯きながらそう言った。

 

「ううん、そんなことない。ゴードンさんは私を一生懸命育ててくれた。ゴードンさんが育ててくれたから私はここまでこれた。私にとってゴードンさんはもう一人の父親だよ」

「ウタ…うぅ…」

 

ゴードンはウタの感謝の言葉に涙腺が崩壊し、袖で涙をぬぐう。そんなゴードンをウソップとサンジが慰めていた。

ウタはその様子を眺めていると、ルフィが真剣な顔でこちらを見ていることに気づく。

 

「ウタ、シャンクスが来てんだろ?なら伝えて来いよ、ウタの気持ちを」

「…うん、行ってくるね」

 

 

 

 

現実世界。

赤髪海賊団はもう観客たちに襲われていなかった。赤髪海賊団を襲っていた観客たちは依然と変わらず、気持ちよさそうに眠っていた。そんな彼らに今も雨が降り注ぐ。

そんな中、ウタは赤髪海賊団、シャンクスの目の前に立っていた。

 

「ねぇシャンクス。どうしてあの時私を置いて行ったの…」

 

ウタはシャンクスと顔を合わせない。視線を下に向けながらシャンクスに問いかける。

シャンクスは目を合わせようとしてくれない娘が悲しいのか、少し暗い顔をしていた。

 

「…余計な苦労をかけたくなかったんだ。当時のウタは小さかった。そんなウタに真相を伝えるのはあまりにも酷だ。それに…これ以上お前の歌を俺たちが囲うわけにもいかなかった」

 

シャンクスはウタがエレジアの真相を知っている前提で話した。ウタの態度からゴードンからすでに聞いたのだろうと察したのだ。

ウタはやっぱりシャンクスは私を助けてくれたんだと嬉しく思いつつも、言葉ではシャンクスを責め立てた。

 

「勝手に決めないでよ!私がこの十二年間どれだけ寂しかったか!みんなに裏切られたと思った。みんなが…今まで家族のように接してきたのが嘘だと思ったんだよ!」

 

ウタの目から涙がこぼれ、ぽたぽたと地面へと落ちる。

シャンクスたちは自分たちが行った行動が娘をどれだけ苦しめてきたかを理解する。

 

「私は置いてほしくなかった。何があっても一緒に旅に連れて行ってほしかった…私を置いて行ったみんなを憎んだ!嫌いになろうとした!でも!…嫌いになれなかった、真相を知ってどうすればいいかわからなかった」

 

ウタは今まで俯いていた顔を上げ、シャンクスを見る。

 

「…ねぇシャンクス。私はもう、いらない子なの?」

「「「「それは違う!」」」」

 

ウタは苦しそうな表情をしながらシャンクスたちへ問いかける。自分はもう娘じゃないのかと。

しかし、彼らは̶シャンクスは即座に否定した。シャンクスはウタの下へ駆け寄り、片腕でウタを抱きしめる。

 

「お前は俺たちの仲間だ!どんなに離れても、いつになっても。一生、俺の娘だ…」

 

シャンクスの後ろではウタを知るもの全員が頷いている。

ウタはいつまでもどこまでも自分の娘だと呼んでくれるシャンクスたちに涙を流しながら口角を上げる。

 

「シャンクス…わたし…会いたくなかった。でも…会いたかった」

 

ウタは悲しそうな、しかし嬉しそうな、どちらの感情も混じった声で話す。そして、シャンクスに抱きしめられながら涙を拭い、明るい声と笑顔で彼らに告げた。

 

「…ただいま、シャンクス」

「!あぁ、おかえりウタ」

 

シャンクスとウタはお互いに抱きしめあう。その姿はまるで実の父娘のようだった。

ウタは笑顔で涙を流し、それらを見ていた赤髪海賊団も涙を流していた。ルゥやガブのように声を上げて泣くもの、ホンゴウやヤソップのように笑って泣くもの、と様々だった。

静かに涙を流すベックマンはそんな仲間を一見すると、ウタを抱きしめる自分たちの船長を見つめる。

シャンクスは一度も後ろを振り向くことはなかった。

 




ルフィがしっかりウタと話せてたら救えたと思う。
だってルフィだもん…
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