戦姫絶唱シンフォギアSpirits 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
「うあー、早く明日にならないかなぁ」
机に突っ伏しながら、私は心からの声を漏らした。
周りは既に放課後でそれぞれクラスメイトたちが思い思いに寮に帰ったり、部活に行ったり、街に繰り出したりとそれぞれの行動に移っている。普段だったら私も一日の授業から解放されたことでテンションを上げて未来に注意されているところだろう。ほぼ毎日のように私に起こることだ。
けれど今日に関してだけ、私の心は優れていなかった。
授業が終わるのと同時に机に上半身崩れ落ちるくらいには。
「もう響? みっともないよ」
「うーん、だって未来ぅ」
私の痴態に隣にいる幼馴染の未来が呆れたように言う。結局うるさくしても項垂れていても注意されるのだから笑えることだがやはり今の私は笑う気にはなれなかった。
そんなことより明日になってほしい。
「あー!」
「響! 叫ばないの叫んで明日になるわけないでしょ?」
それで時間が飛んだらどれだけいいだろう。
いやほんとに時間が飛ばれても困るけど。
とんだタイムスリップだ。
「はっ! もしかしたら早売りしてるかも……!」
「ひーびーき? もう明日行けばいいじゃない」
「……はーい」
若干声のトーンが低くなってきたので素直に引き下がる。普段人一倍温和な未来でも、怒るとさらに人の数倍怖いのだ。あとルームメイトだから普通に怒らせると夜が気まずいし。
いずれにせよ私が悩んでいることは、まぁ実際そこまで深刻じゃない。
単純に明日好きなアーティストのニューシングルが発売されるというだけ。
現役高校生ならばよくあるような話だと思う。いや今回の話に関しては私だけに限ったことではないはずだ。私だけじゃなく、全国の人たちが似たような思いで明日を待ち望んでいるはずだ。
風鳴翼。
それが私が頭抱えながら発売を待ち望んでいるアーティストの名前で、今日本で最も有名な歌手の一人だ。ちなみにこの私立リディアン音楽院の生徒であったりもする。最も、私は全然顔を合わせたことがないけれど。
ともあれそういうわけだから頭を抱えていたのだ。
「もう、仕方ないなぁ。帰りにふらわーでも行ってお好み焼きでも食べよ? 気分も紛れるでしょ?」
「おー、未来あったまいいー! 早く行こう行こう!」
「あ、ちょ、響待ってよぉ!」
「早く早くー!」
ふらわーの言葉に私は教室を飛び出した。
私立リディアン音楽院高等部は丘の上にあるから街商店街に行くまでにはそこそこの距離があるのだ。あまり遅くなると寮の食事が入らないしちょっと急ぎ目で行って小腹をすかせておいたほうがいい。
単純に早く行きたいだけ、というのもあるけど。
私の通う私立リディアン音楽院は結構変わっている学校だ。小中高一貫教育というのも多くはないだろうし、その一貫教育も高等は小中等部とは地理的に大きく離れている。それに名前通りに音楽のカリキュラムに力を入れていたり、一般科とは別にタレントコースがあるのも有名だ。翼さんがその生徒でもあり、彼女に憧れてこの高校に入学した娘も珍しくない。
かくいう私もその一人だ。
流石にタレントコースに入らなかったあたり自分のことはわきまえているつもりだ。
「響! 廊下を走らない!」
「あはは! 未来だって走ってるじゃんかー!」
「こーらー!」
後ろから少しづつ近づいてくる未来の声に背中を押されながらも足を動かしていく。元陸上部の未来なので軽い気持ちで走るとすぐ追いつかれるから頑張らないといけない。下駄箱で合流するにして怒られるにしたって今は走りたい気分だし。
●
立花響。
それが私の名前。
年齢十五歳。誕生日九月十三日。血液型O型。身長一五七センチ。体重は人によって教えたり教えなかったり。趣味は人助け、好物はご飯&ご飯。彼氏いない歴年齢と同じ。
結構どこにでもいるような女子高生だ。といってもこの春リディアンに入学したばかりで高校生の自覚なんて全くない。基本的にあまり精神年齢が高くない方だと思う。いつも一緒にいる未来がしっかり者だから気が緩んでいるというのは否定できないし。
「全く、響が調子に乗って走るから先生に怒られちゃったじゃない」
「あはは……御免御免。でも、説教とかじゃなくて注意でよかったね」
「響は何時も言われてるからでしょ? 高校入って何回目よ」
「うーん……解んない!」
「威張らないの」
走りだしてから思いっきり先生に見つかって案の定に注意された。実際未来に応えた通りよくあることなどで一々悔やんでられない。
「とにかく、早くふらわー行こう? 私お腹減っちゃったよ」
「はいはい」
ふらわーというのは商店街にあるお好み焼き屋だ。値段も安い上に量もあれば結構ヘルシーなのでリディアンの生徒にも結構人気だったりする。私や未来、それにクラスの仲がいい子たちとは放課後によく足を運んでいる。
しばらく雑談をしながら街を歩いて、
「はい到着! 早く入ろ!」
「解ったから落ち着こうよ」
店から漂うソースの焦げた香りにテンションを上げながら暖簾を二人で潜る。
「いらっしゃいませー!」
出迎えたのは――二人分の声だ。
一人はカウンターの鉄板でお好み焼きを焼く店主の叔母ちゃん。寮生活の学生が多いリディアンの生徒からしたら母親みたいに接することができる気前のいい人。
それに、もう一人。
「やぁ、いらっしゃい響ちゃん、未来ちゃん。いつものでいい?」
笑顔の似合う青年。カラフルなエスニック風のゆったりとした私服の上からふらわーのエプロンを掛けている。
「こんにちわ、映司さん。いつものでお願いします!」
「りょーかい! 席に座って待っててね」
はにかみながら注文を取ってくれるのが火野映司さん。一年半前からこのふらわーでアルバイトしているらしい人だ。あまり詳しいことは知らないけれど、二年くらい前に店の前でパンツと少しの小銭片手に店の前に行き倒れているのを叔母ちゃんに拾われて、いろいろあった後にここでバイトを始めたらしい。
あまり詳しいことは知らないが、私からしたら優しいお兄さんという感じ。偶にリディアンの生徒に告白される辺り隅に於けない。全部断ってるらしいけど。
鉄板備え付の座敷未来と向かい合わせに座り
「ようし、今日は食べるぞぉ」
「あんま食べ過ぎるとお夕飯食べれないんだから気を付けてよ」
「解ってるよぅ」
「はい、いつものね。ご機嫌だね響ちゃん」
お好み焼きの種が映司さんに運ばれてくる。ここは大体鉄板で自分で焼くスタイルだから種が来るのは早い。今はそれほどお客もいないようだし猶更だろう。
「いやぁご機嫌というか無理してテンション上げてる感じなんですよねぇ」
「へぇ、何かあったのかな」
「大したことないですよ。CD欲しくて我が儘言っているだけです」
「CD……あぁ。もしかして明日出る翼さんの新しい奴?」
「知ってるんですか!?」
驚いてなんだけれど、翼さんの有名さからすればそんな驚くことでもない。ただ映司さんが歌手とかに興味があるとは思わなかったのでそれに驚いて、
「まぁね。……実は顔見知りなんだ」
「ええぇぇ!?」
「うっそぉ!?」
心の底から驚きの声を上げた。吃驚したのは未来も同じだったらしく声を上げている。
「いや別に仲がいいわけじゃないよ? ただ偶に仕事で一緒になったりするだけで……」
「仕事って、まさかふらわーのバイトじゃないですよね!? 映司さんここ以外になんおバイトしてるんですか!?」
「え、あー、えっと……なんて言ったらいいかなぁ。はは……」
口が滑ったと言わんばかりに冷や汗を流し、頭を掻いて答えに困っている映司さんだがまさかここで見逃せるはずもない。同じ学校に通ってる私や未来ですら遠目に見たことがある程度で直接喋ったことは皆無なのに。
羨ましすぎる。
我ながら我を忘れて我欲に支配されて血眼になって映司さんに問い詰めていく。
「ちょ、目力凄い……あ、お客さんだ。あはは、それじゃあ二人とも、ゆっくりしてってねー!」
「あ、後で話聞かせてもらいますよ!」
仕事の邪魔はできないが話を聞くのを諦めるつもりはない。おばちゃんに急かされて忙しそうに動く映司さんを睨み付けるが完全に無視されている。
「ちょっと響。私だって気になるけどあんまり詮索しちゃダメでしょ」
「でもさでもさ、未来だって気になるでしょー? 映司さんの過去とかさ。結構謎の多い人じゃん? ココのバイトする前何してたとかあんまはっきりしないしさぁ」
「それは……まぁ、そうだけど」
「私は結構すごい学者さんだったって聞いたんだよね」
「え? 私は世界中回ってた旅人だったとか聞いたよ?」
「えー、旅人って仕事じゃないじゃん」
「じゃあ……無職?」
「あー、ありえそう」
失礼な話だが、そもそも此処に行きついた時点でパンツと小銭だけで行き倒れていたのだから中々信憑性がある。
『少しの小銭と明日のパンツがあればいい』
そんなことを常日頃から言ってるから大したものだと思う。ちなみにふらわーでバイトしながらもこのあたりをしょっちゅうフラフラしているらしく人助けが趣味の私としてはよく遭遇していた。だから、それなりの親交があるのだ。
「ま、今は食べようか! 私お腹減った!」
「はいはい。さっきから何回も聞いた」
小言を言いつつ率先して作業をしてくれる未来は本当に優しい。
鉄板と種から生まれる香ばしい匂いや音に腹の虫が勝手になってしまう。明日は放課後来れないのだから今日一杯食べておかないと。
「ようし今沢山食べて、明日は学校終わったらダッシュで買いに行くぞー!」
シンフォギアとライダーの空気を取り入れるのが難しい。