【完結】『侵胎迷宮を抜けて』二次創作   作:サーデェンス・ロー

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異形の戦闘集団

 次の日と言えるだけの休みを経てから準備を再開したラフィーアは、ここに来るまでに随分と軽くなってしまった布鎧の内側に整備し終えた装備とサラから預かった回復アイテムの類を仕込んでいく。

 

 対オーガ戦でも使用した緑色の短刀は2本とも再使用が可能な状態であり、昨日の内に刻印の補修と魔力の充填を済ませて左腰の方に仕込んである。

 

 それに対し、オーガに引きちぎられた魔導鋼線は再利用できる程の長さが無かった為に全て外しており、足止めや索敵には少々不安がある。

 

 残っている弾倉は100発入の未使用品が1つと、半分程消費しているものが1つ。

 

 半分程の物は右側の布飾り(リボン)と併せた“炎息”の為に残しておかなければならない事から、今装填しているのが最後の弾倉となる。

 

「(…………結局、この“目”を使わないと生き残れない訳ですね)」

 

 自分が持っている通常兵器だけでは上層の突破も難しい事を再認識したラフィーアは、最後にサラから預かった誰かの遺品である剣を抜く。

 

「…………満足に扱えなくて、ごめんなさいね」

 

 “構造強化”は常に掛けている事から歪んで鞘に収まらないような事にはなっていないが、その反動によって剣身には普通では有り得ないような所にまでヒビや欠損が生じており――どう強化しても、折れるのは時間の問題だろう。

 

「……もう少し、付き合ってくださいね」

 

 労うように剣の樋を撫で、“構造強化”と“干渉”、“風舞”の魔術を再定着させたラフィーアはソレを鞘へと収め、剣帯に止め直す。

 

 最後に通信符と脱出の際に使う『サラ特性ぱらしゅーと』なる魔法(まじゅつ)の布を背中の外衣の裏に仕込んだラフィーアは、自分の支度を眺めていたサラへと視線を向ける。

 

「…………出ます」

「はい。……お気を付けて」

 

 ここで『行ってきます』と言えないのが私のダメな所ですねと思いつつ、ラフィーアはサラから預かった術具を腕にはめる事で才女が使うハイドの魔法(まじゅつ)を発現させる。

 

 ここを離れ上層へ向かう自分には関係のない事だが、この場に留まり脱出の準備を進めるサラがこの場にいる事を周囲の亜人型に察知される事は避けなければならない。

 

 故に、この小細工はイレスや万が一逃げ帰った亜人型への対策であり――気配を消したまま階段室に戻ったラフィーアは迷宮から戻った体を装う為にサラの術具を外し、“浄化”を掛けておいたオーガの装身具を首に掛け、村へと立ち戻る。

 

「――鬼女?」

「……今からイレスの元に向かう。案内をなさい」

「はィ?」

「……褒美をくれてやっても良い。対象はここに居る全匹――早う伝えて戦支度をなさい」

 

 言葉だけの示唆と共に魅了の魔眼の魔力強めた事で村の入口に居た亜人型は嬉々として走りだし、味方を集め始める。

 

「……そんなものを与える心算も、生かして返す心算はありませんが――あんな連中を従えて行くのが判ってしまったら、嫌われてしまいますものね」

 

 ラフィーアは生きて帰る事を諦めてはいないが、サラには伝えなかった隠し事も幾つかある。

 

 その1つが、恐らく自分が無事では済まない事――この先でイレスと接触しないで済む事は無いと『夢』によって鍛えられた経験則は断言しており、それを打破する心算のラフィーアはどんな外道も通す事を決めていた。

 

「…………諦めませんよ、私は」

 

 50に届く数の亜人型が、隊列なども組まずに集まってくる。

 

 それらに魅了の魔眼を掛け直し、手駒としたラフィーアはその異形の戦闘集団を伴って上層へと乗り込んだ。

 

 

 

 

 

「…………弱い」

 

 大型のすらいむ型に丸呑みにされてもがいている小鬼。

 

 小型のすらいむ型の操る魔法(まじゅつ)に翻弄されている豚顔。

 

 ここにも居た触手型や葉っぱの山、初見となる動く花のような魔物相手には比較的善戦しているものの、連れて来た亜人型は初戦の段階で半壊しており――次の一戦で壊滅するだろう。

 

 こんな無能どもに尊敬できる人がいいようにされていたと思うだけでも、村より下層の亜人型を皆殺しにしてから来るべきだったと気色を荒くするラフィーアであったが、そんな彼女の溜飲を下げるだけの援軍がこの場所には居た。

 

「…………目を持つ魔物が、これ程居るとは思いませんでしたね」

 

 どういう意図をもってそう進化したのは不明だが、触手で出来た身体の中心から1本だけ飛び出た単眼を持つ陸上目玉型。

 

 こちらもどういう理をもって宙に浮いているのかは定かではないものの、肉塊で覆われた単眼を中心として触手を垂れ下げている浮遊目玉型。

 

 双方ともこの階層に入ってから初めて遭遇した種類の魔物であり――。

 

 ラフィーアが最初にその姿を捉えた時こそ『警戒する必要がある』とサラが言っていた『鎌を持った目玉の魔物』の近縁種かと最大限の警戒を敷いたものの、魅了の魔眼をもって支配下においたそれらは亜人型に変わる主力として彼女の役に立っていた。

 

 とはいえ、イレスといつ接触するか判らないラフィーアは自分の装備は温存しつつも支配下に置いたそれらには徹底した殲滅戦を指示するという相反した行動を強いられており、磨り潰した亜人型の死骸に集魔の薬を振りまいた彼女は前進を再開する。

 

 そうして繰り広げられる無慈悲な進行――前には魅了の魔眼によって戦力とした魔物、後には従属させられない魔物の死骸だけを残すラフィーアの行軍は都合よく最短経路の発見に至る。

 

「……上へ向かう大階段は炎を模した循環型の魔導防壁によって通れなくなっており、多くの道は目の無い触手型によって塞がれている――か」

 

 しかし、その先に現れたのは力押しではどうにもならない壁であり、その難問を前にした白い少女は思案を巡らせる。

 

「…………熱が邪魔ですね」

 

 その黙考の中、目玉型と視線を合わす度に身体に溜まり、思考を乱している熱を抑えるべく布鎧の内側から鎮静剤を取り出したラフィーアはそれを呷り、微かな頭痛を代償によく見通せるようになった思考で方針を挙げていく。

 

「……強力な魔導現象である事から通常戦力での力押が不可能な事は明白。……ですが、まさか時間制限がある状況で隅々まで探すと?」

 

 先程まで居た亜人型からこの魔導防壁を解除する手段が階層内にある事は聞き出せていたが、実際に此処での作業に従事した奴が居なかった事からその詳細は拾えていない。

 

「…………ここで“私の杖”を使う? ……時間の節約にはなりますが、突破できる方法が判っているのに使うのは論外ですね。…………となれば、致し方ありませんか」

 

 時間を掛ける事自体が得策ではないと重々承知しているラフィーアであったが、時間と予備戦力とを天秤に掛けた結果、彼女は嫌々ながらも別ルートへと足を踏み入れ――。

 

「…………声?」

 

 封じられている大階段の東側から届いた場違いな言葉に活路を見出したラフィーアが足を早めると、その先の小部屋でたむろしている数体の小鬼が視界に入る。

 

「……情報源ですね」

 

 その獲物を前に、付き従う目玉型に後方の通路を警戒するよう命じたラフィーアは“目”に通す魔力を強め、堂々とした足取りでその小鬼達の前へと歩み出る。

 

「ナンだ……?」

「――女?」

「……私はラフィーア・フィフトメル。貴様らの纏め役であるオーガを倒した鬼女である」

 

 その大胆な行動は当然のように気付かれるものの、魅了の魔眼とオーガ殺害の証である趣味の悪い首飾りの相乗効果は絶大であり、ラフィーアはただ一言によって小部屋でたむろしていた小鬼の全てを支配下に収める事に成功する。

 

「……イレスと話を付ける為に上層に向かう。大階段の魔導防壁を解除せよ」

「防壁――装置の事カ?」

「……出来るのであれば早々に操作せよ。――私の配下も付けてやる故にな」

 

 そう言ってラフィーアは一方的に繋げている魔力の線を通じて陸上目玉型を呼び寄せ、大群をもって小部屋に侵入してくる陸上目玉型の姿に小鬼達がびくりと震えたものの、それらは目玉型が整然と並ぶ様に慄(おのの)きながらもカクカクと頭を上下に振る。

 

「デも、目玉ノ旦那に出会ったらドウするので?」

「旦那はあっしらの都合ナンて考えない、イレスの姉御の駒ですゼ 」

「(…………サラさんの言っていた魔物はソレですね)」

 

 小鬼から新しい情報を得たラフィーアは、しかし、万感の殺意を持って言葉を紡ぐ。

 

「……今刃向かって死ぬのと、そいつと交渉して生き残る可能性――どちらを選びたい?」

 




前回とは真逆に、筆者が思うハソユア様の作品で『幸い』が薄いのは――
ぶっちぎりの1位はいろいろ直撃して本作が書き終わる頃まで苛まれていたサラさん。次点は「操魔の器」の童女(山に居る方)となります。
出生からその未来まで、どうなってしまうか気になる所。
筆者がロリコンであったら危なかったでしょう。





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