【完結】『侵胎迷宮を抜けて』二次創作   作:サーデェンス・ロー

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魔眼

「……なるほど、あれ程強固な魔導防壁がこうも簡単に――」

 

 命令を与え、散開させた小鬼が成果を出すまでの暇に先程撒いておいた集魔の成果を処理する事で戦力を拡充させたラフィーアは、再び足を踏み入れた大階段で思わず声を洩らしていた。

 

 まだ通れる状態ではないが大階段を塞いでいた防壁の幾つかは目に見えて欠けており、それはこのまま順当に進めば通れるようになるという希望を持たせるには十分な進捗だった。

 

「……この階層の構造を予測するに、ここから少し前の交差路が全ての経路への要衝のようでしたね」

 

 思考の逆流による汚染を防ぐ為、魅了の魔眼で繋げた魔物との魔力の線(つながり)はラフィーアから発信を伝えるだけの一方的な物となっており、魔物側から現状を拾う事は出来ない。

 

 加えて、小鬼等の言葉で指示できる亜人型に至ってはラフィーアからの発信すら届かぬ簡素な線しか繋げていない事から、連中の進捗状況を把握するには言葉を交わす以外に方法がない。

 

「……果報は寝て待てとも言いますし、その交差路で――?」

 

 そう方針を定めようとした矢先、髪の毛を引っ張られたような感覚を覚えたラフィーアはその原因を探る。

 

「…………小鬼の内の1体と繋がっていた魔力の線が切れた?」

 

 元々が細い線しか繋げていなかった事もあり、把握するまでに時間が掛かってしまったものの――状況を理解したラフィーアは警戒を強める。

 

 この階層で加えた小鬼の護衛に付けていた陸上目玉型は十分な戦力であり、あの素早いだけが取り柄の怪物が逃げる間もなく殺されるのは只事ではない。

 

「……方向は――西側ですか」

 

 先程も述べたように小鬼に繋いだ線は細く、ソレが死んだ事以上の情報は得られなかったものの、護衛として付けた陸上目玉型に繋いでいた魔力の線も途切れた事で方向を把握したラフィーアは対策を考える。

 

「……下手人は、サラさんの言っていた魔眼を使う魔物でしょうね」

 

 思案の中、東側から戻って来た小鬼と接触したラフィーアは西側の追加情報を収集し、そこ以外の解除を徹底するように命令した彼女は西側を守る難敵の方へと歩き出す。

 

「…………なるほど、此方もこのような動きが」

 

 大階段に戻る前までは存在していた巨大な触手型――3つ下の階層で爆殺した個体よりも密度の高い物体――が消えており、その先に道が出来ている事に驚いたラフィーアは素直な感嘆を洩らす。

 

「……しかし、こうも触手に纏わるモノを使っているのは何故でしょうか」

 

 上澄みに近くなればなるほど変人の度合いが増していくのが魔術師という人間の性であるが、いくらなんでも趣味で形状を揃えるような非効率な者は居ない。

 

「(……私が魔眼で魔物を制御しているように、イレスという存在は触手型を主軸とした魔物を操っている? ……でも、どうやって外の情報を得ているかも判らぬ存在を……?)」

 

 そう思いながら斥候代わりに主力の陸上目玉型を先行させたラフィーアは、残りの陸上目玉型と浮遊目玉型を引き連れてその後を追おうとするも――。

 

「……っ」

 

 今し方先行させた陸上目玉型と繋がっていた魔力の線が切れたと感じた瞬間に躍り出た黒衣の単眼型と目が合ってしまう。

 

「――――くぅ」

 

 接触の可能性は十分考慮していたものの、流石にこんなに早くに遭遇するとは思っていなかったラフィーアは先に『その目』を直視してしまい――自分の中にある何かが急激に書き換えられた違和感を覚えながらも、自分の魔眼に通せるだけの魔力を通す事で押し返しに掛かる。

 

『――――っ!?』

 

 ラフィーアと対峙した黒衣単眼も、まさか自分に魔眼を通されると思っていなかったのか彼女の反撃によって多くの認識を奪われ、動揺しながらも白い少女の事を見つめ返す。

 

私を愛しなさい。

我に尽くせ。

 

「………………」

 

 同種の魔術をかち合わせた結果、魔眼自体の性能は自分に分があるとラフィーアは理解したものの、人間よりも大凡全ての点で勝る黒衣単眼の方が出力と精神構造からくる耐性に優れているとも理解できてしまった。

 

私を愛しなさい。

我に尽くせ。

 

 互いが互いの与える認識変更に悶え、苦しむ中――ラフィーアはこの拮抗が長くは続かない事を理解し、考える事を阻害する火照りでふやけた思考の中、サラを苦しめていた魔物の所業がふと脳裏を掠めた白い少女はソレをなぞる事で打開を図る。

 

「……っ」

 

 力の入らない自分の身体ではなく、布鎧に掛けていた“風舞”を頼りにラフィーアは黒衣単眼へと跳び寄る。

 

 その唐突な動きに黒衣単眼も迎撃の為に鎌を振り上げるものの、ラフィーアと同様にその動きは緩慢であり――。

 

「(…………気持ち、悪いですが――これぐらいなら……)」

 

 その刃をすり抜けたラフィーアは黒衣単眼の体にぶつかるように抱き付き――黒衣の奥に蠢く触手の内の1本を掴む。

 

 そのまま半歩離れ、ラフィーアからの体当たりによって途切れた互いの魔眼を重ね、自分が成そうとする事に嫌悪感を抱きながらも、彼女は手に持ったソレに頬擦りをする。

 

私を愛しなさい。

我に――好意?

 

「…………捕った」

 

 そのほんの些細な行動に大きく動揺した黒衣単眼の隙を付いたラフィーアは魅了の魔眼による認識変更を大きく滑り込ませ、大凡全てを制圧しきった彼女は相手に離れるよう命じながら可能な限り距離を取り、その視線から自分の“目”を引き剥がす。

 

「…………」

 

 下の階層でサラを見る亜人型の目は、まるで自分達が彼女に愛されているような目をしていた。

 

「(…………サラさんは、それに苦しんでいたというのに)」

 

 恐らくだが、亜人型はまぐわって錯乱していたサラの言動からそう錯覚したのだろうとラフィーアは推察していた。

 

 そして、魔物の思考がそんなにも単純ならば簡単な所作によって動揺を誘えるのではと考え、その結果として彼女は勝利を引き寄せる事に成功したのだが――。

 

「…………本当に……嫌な話」

 

 そんな亜人型の凶行をなぞってしまった自分自身の行動に嫌気を覚えながらも、黒衣単眼に魔力の線が繋がっている事を確認したラフィーアは自分の勝ちを確信し、緊張を解く。

 

「……っ、近づかないで!」

 

 そんな中、ラフィーアを愛しているように認識を歪められた黒衣単眼がぬるりと近づき、手を繋ぎたがるように触手を伸ばしているのを横目に捉えた彼女はそれを制止しながら距離を取る。

 

「…………ごめんなさい。……気分が悪いの」

 

 愛していると認識している者に拒絶され、視線すら合わせられなかった事で落ち込んだように萎んでいく黒衣単眼に対し、何故か酷い罪悪感を覚えたラフィーアは思わずそんな言葉を零してしまう。

 

「……私の代わりに、西側の装置を解除してきて頂けますか?」

 

 自身の言葉に動揺しながらも、自分の益になりつつ『彼に自信を取り戻させる』案を思い付いたラフィーアがそう願うと黒衣単眼は嬉々とした様子で西側へと立ち戻っていく。

 

 その背を何故か『名残惜しい』と感じている自分が居る事に疑問を覚えながら、ラフィーアは他の目玉型を魅了した後のように鎮静剤へと手を伸ばそうとし――。

 

『どうして、そんなものを飲むの?』

 

 そんな声が、頭に響いた。

 

「…………え?」

『その熱は女の喜び。貴女も、あの『夢』の終わりに立った全ての貴女がそれを感じているのを知っているでしょう?』

「……………………」

 

 それは、間違いなくラフィーアの知らない声だった。

 

『『夢』の終わりのように、全てを諦めて与えられるものだけを享受すれば、何も苦しむ事はないのよ』

「…………私は、それが嫌で――」

『どうして? あのサラさんだって任務に殉じて身体を売った。なら、世界の習わし通りに才ある者を増やすべく身体を差し出さない貴女は――』

「…………それは人の生き方じゃない。……私は、普通に人のように、誰か1人を愛したくて――」

『でも、その願いはこの世界でも叶わない。周りを見て……人では実現不可能なものを与えてくれる彼等に近しくなった貴女は、もう人間には愛されない。さぁ、愛しい彼らに――』

「…………っ!」

 

 そこで薬を掴んでいた自分の右手が高く上げられている事に気付いたラフィーアは、その薬を抱くように自分の身を抱きしめる。

 

「…………なんですか、今のは」

 

 その状況にえも言われぬ恐怖を覚えたラフィーアは自分が支配下に置いた魔物と繋げている魔力の線を再確認するも、黒衣単眼も含めて全て逆流が出来ないようになっている事に変わりはなかった。

 

 それが既に自分が乗っ取られている事による錯覚だとすれば、ラフィーアは既に周囲の魔物に組み伏せられている筈だが――彼女の身体に不調はない。

 

 それでも懸念を捨てきれなかったラフィーアは無意味に手足を伸ばして身体の反応を確認するも幻術に掛かっているような引っ掛かりは無かった。

 

「…………」

 

 だが、気配がする――自分のすぐ近くに。

 

「…………我は咎人、なれど光と命を識る者なり」

 

 その状況に、ラフィーアは無意味と判りつつも自身が知る最大の癒しの術である“浄化”を自身に向ける。

 

「……っ」

 

 この魔術はラフィーアの保有魔力の大半を使用するであり、自分の世界で行使すれば暫くの間動けなくなってしまう程に扱いの難しい魔術であるもののこの世界にはマジックウォーターという常軌を逸した霊薬があり――。

 

「…………我は咎人、なれど光と命を識る者なり」

 

 布鎧の下からその薬を取り出し呷ったラフィーアはその術を繰り返し、魔力切れで遠のく意識を次の薬を呷る事で繋ぎ止める。

 

「………………」

 

 自分と相手との違い、自分と相手から見て不要なモノを光と化す魔術である“浄化”は、施術者自身に掛けても効果は薄い。

 

 そんな事は、この魔術を組み上げたラフィーア自身が一番よく判っているが――3度目の行使によって、あの声の気配は遠のいた気がする。

 

「…………失敗、したかな」

 

 瘴気による意識変調にしては侵食速度が速すぎる事から、ラフィーアは黒衣単眼に自分の内にある何かを書き換えられたのだと予測する。

 

 判るのはそれだけであり――先程の攻防が『薄氷の上の勝利であった』事と、魔眼を知っているが故に『自分と同等の、善意を持った魔眼使いが居なければ治せそうにない』事は、現状ではあまり意味がない。

 

「……極刑では生温い業ですね、これは」

 

 使われてみて初めて実感した魔眼の本当の意味。

 

 それを知った白い少女は、西側の装置を解除した黒衣単眼が戻るまで座り込み、頭を抱える事しか出来なかった。

 




本作では夢ラフィーの魅了の魔眼がかなり無双していますが、対雑魚兵装がぶっ刺さってるだけで実際の所はそこまで強力な魔術ではありません。
原作主人公ズだと操魔の方(対人はえぐいが対魔が低い)が刺さりそうで、理の異なる最新がもしかしたら? といった程度です。
サラさんにも通ると言っていますが、出会ってすぐの時では通らない事からも判る通り本当に弱者(もしくは親しい人)殺しの嫌な魔眼です。






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