【完結】『侵胎迷宮を抜けて』二次創作   作:サーデェンス・ロー

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注意:
本作は改変した二次創作の先という事で、サラさんの立場(現時点では明示されていない)が大きく変わっています。

あと、本作では唐突な登場となりますが、この話で主観張っている彼女こそハソユア様の作品の代名詞にして、現在判明している状態にあっては素手で簡単に夢ラフィーを拘束(=殺害などよりも遥かに難しい)できるであろう英雄さんです。

黙っていても彼女の未来は見れるのでしょうが、某作品のようにその片鱗が見れるだけでも嬉しい事です。



幸福≠幸い

「――もう、随分と前の事ね」

 

 それなり以上の調度品で形作られた部屋の中、質という点で明らかに劣っている剣を見上げた金髪赤眼の女性は、親友との思い出の品でもあるソレに纏わる記憶――これまでの経験の中でも最悪な部類に入るものに想いを馳せる。

 

『あなたは?』

『暗黒魔導師のサラっていいます。……貴女がミーナさんですか?』

 

 イレスに捕まり、無数のローパー達によっていいように嬲られていた自分を探しに迷宮の最下層まで降りて来てくれた恩人。

 

 それがミーナとサラの縁の始まりであり――。

 

 あの才女はミーナが感謝を伝えても『地上で生き残っていた騎士の要請に応えただけ』と謙遜し、『助けに向かいながら逆に助けられてしまったのは情けないので内密に』と今でも自分を立ててくれている彼女との関係が深まるのは当然の結果といえた。

 

 後で聞いた話だが、あの時のサラはイレスを撃破してから休む間もなく自分の救助に動いたらしく――心身共に無理をしていた才女は最下層から登った辺りで倒れ、動けなくなってしまった。

 

 そんな経緯から早々に役割が反転してしまったものの、サラが以前使用していたという結界部屋に彼女を運んだ自分は迷宮をよく知る才女の情報を元に薬や使えそうな品を集めながら探索を進め――。

 

 ある程度回復したサラと共に迷宮の踏破を進めた自分は、『汚点は自らの手で晴らします』と言う才女と共同でゴブリンやオークを殲滅したり、安全な陣地を確保した所で最下層に捕らわれている女性の処遇で衝突したり、最上階に巣食っていた白衣単眼を命からがらに撃破したりしたものの――。

 

『どんな力を持っていようとも、どんな過去を持っていようとも――その人の価値は、その人の行動によって示されるものです』

 

 『誰か』を引き合いに出すように自分のこの力をなんでもない事のように認め、悩む自分を救ってくれた大切な恩人。

 

 それがミーナから見たサラという女性であるが、連戦に次ぐ連戦の影響によるものなのか情緒が不安定だった事と聖都の政治的な思惑により、リモートスノーでの功績は全てがミーナのものとされてしまった。

 

「……ほんとうに、頭が上がらないわね」

 

 その後、療養を終えた後も任務から距離を置き始めた事で聖都に軟禁されていたサラと再会したミーナが『その顛末』を伝えると『私には必要の無い物ですから』と笑ってくれたが――。

 

『荒事から離れ、普通の暮らしをしたいと考えています』

 

 ミーナはその時に聞かされたサラの願いに尽力する事で恩を返そうと心に決め――その行動は今も続いている。

 

「――あの頃は大変だったわね」

 

 とは言え、サラの新たな願いは『普通の人』であれば取るに足らない夢であったが、彼女の立場にあっては困難を極めた。

 

 聖都直属の諜報部隊に所属していたサラは内外に敵が多く、雇い主(?)である聖都自体からも睨まれていた彼女はそれらからの有形無形の妨害を跳ね除けながら内勤へと転向し、魔導具の開発を始めたのだが――。

 

「――――本当に、大変だったわね」

 

 その頃のサラの周囲に居た人間の大半が聖都の暗殺部隊や諜報部隊の息が掛かった者達であった事を思い出したミーナは、疲れたような吐息を零す。

 

 とは言え、今ではそれも昔の話であり――それら監視役だった内の1人と懇意になったサラはそいつと結婚し、完全に篭絡されたそいつは聖都に対する二重スパイのような事をしながら聖都と自分達とを繋ぐ調整役をこなしている。

 

 ちなみに、そいつによるとサラが内勤に下がって魔導具の開発を始めた頃に近付いた人間は聖都から『監視を厳とし、必要ならば暗殺してもよい』との命令を受けていたらしく――今でも多くのメイドにその命令が引き継がれているという所までは裏が取れている。

 

「……無駄な事を、いつまで続けるのやら」

 

 ミーナがこうして聖都に戻る度にサラの邸宅に滞在しているのも聖騎士である自分とサラが懇意である事を周囲に見せ付ける事で彼女を守る意図があり、最近では昔のような危うさも下火となっているものの、2人目の出産が無事に済むまでは滞在したいとミーナは考えていた。

 

 尚、サラ自身がそれらの政治的な問題に対して無力であったかと言えば、そんな事はなく――。

 

 ララフィナを身籠っていた頃に聖都で立ち上がった次期装備に関する評議会に潜り込んだ彼女は試作中だった魔導銃でシェイドの20連発を実演させた後に件の得意(ドヤ)顔を決める事で評議官達をドン引きさせ――。

 

 その後の正式化を決める際の審査会には戦闘力を持たない施設職員に同じ事をさせ、立ち会った騎士団を青ざめさせたりする事で聖都に自分の有用性を知らしめ――幾つかの制約を受け入れる事で平穏を手に入れていた。

 

「――あれから、戦い方も随分と変わったわね」

 

 聖都直属であるミーナの隊には量産された魔導銃が優先的に配備され、瘴気に耐性がない事から騎士に向かず、魔法も編めない人員も戦力として数えられるようになった。

 

 その代わりに有能な騎士を引き抜かれる事もあったが――その彼等を頭とした聖都直属の部隊が増えた事により、ミーナの隊もまとまった休みも取れるようになっていた。

 

「――――?」

 

 ミーナがそんな思い出を頭の中で転がしている中、部屋の扉が開く。

 

「――お帰り。ララフィナちゃんは見つかった?」

「はい。……スリーブで倒れた使用人達を追って行く事で、ようやく」

 

 ミーナの楽しげな問いに遠い目をした黒髪青眼の妊婦は「ハイドを掛けたまま力尽きて眠るなんていうのは危ないので本当に止めて欲しいのですが」と続けながら席に着く。

 

「私は当分逃げないのにね」

 

 前に会ったのは3才になる少し前だったが、覚えていてくれるどころか大脱走までして会いに来ようとした親友の娘の行動力にミーナが呆れたような笑みをこぼすと、当事者である妊婦は心底疲れたような吐息を零す。

 

「子供にそういう理論は通用しませんから。……お久しぶりです、ミーナさん」

「ええ。――元気そうで安心したわ、サラ」

 

 

 

 

 

 それから暫くして、通常業務を再開できるようになった使用人達によって茶の用意が整い、娘の捜索に歩き回っていたであろうサラも一息付いた頃――ミーナは親友へと話を振る。

 

「あいつが『俺の娘は天才だー』とか『3歳でもう魔法が使えるー』とか言ってたけれど、ホントだったのね」

「え~と…………他に変なこと言ってませんよね、あの人」

 

 ミーナの意味深な言動を前に時折見せる可愛らしくも面白い表情を見せたサラに対し、ミーナはいろんな意味でぶん殴れない親友の旦那(そいつ)の言動を思い返す。

 

「――『俺の妻は世界一の美女、娘は天使。ははは、一人身の羨む視線がたまらないねぇ』とかいって他の騎士に睨まれてたり?」

「あの人は、もう……」

 

 今思い出しても火種しか撒かない頭の痛い言動だが、口ではそう言いながらも満更でもなさそうなサラが少し羨ましいと思ったミーナは、頭の中で頭痛の種(そいつ)をぶん殴っておく。

 

 とはいえ、平時の言動に難のあるそいつも役職等々から判る通り非凡な部類の人間であり――。

 

 鬱憤晴らしにミーナが手合わせしようと言っても色々と口実を付けて逃げられてしまっているが、時折見せる仕事の顔はミーナの背中を粟立たせる程の空気を纏っており――そいつが『出来る』人間だと言うのは彼女の中で結論付いている。

 

「――サラがあいつともっと早くに出会っていれば、あの時も楽が出来たのかしらね」

 

 サラが帰ってくる前に思っていた迷宮での記憶に引っ張られているのか、ミーナの口から彼女らしからぬ言葉が出る。

 

 ここはサラの私室であるのと同時に、彼女の立場を支えている研究室でもある。

 

 サラの最初の発明である魔導鋼線――ちなみに当時はあまり評価されなかった――と同じ機能をもった短い鋼線の束。

 

 魔導銃の元となった、金属と見紛う程に硬い未知の木材(そざい)を多用した魔導銃のような魔導具。

 

 そして、まだサラの手では形となっていない、魔導鋼線を束ねた白い布地の切れ端。

 

 それらはミーナと出会う前のサラが迷宮で収集した未知の魔導具であるらしいが、それらを持ち帰る前の彼女が迷宮で想像もしたくないような苦労を越えて来た事を、ミーナはなんとはなしに察していた。

 

「――そうですね。……ミーナさんと出会う前のあの迷宮では、良い事なんて無かった筈ですが――何故か、そんなに思い出せないんですよね……」

 

 そう言って寂しげ笑うサラの表情に大きな曇りはないものの、その左手は『無くした何かを掴もうとする』ように、彼女の左耳の後あたりを触れている。

 

 ミーナも薄っすらとしか覚えていないが、迷宮に居た頃のサラはその場所にリボンか何かを留めていた。

 

 しかし、それを外した後にも『そこに何かがある』ように手を伸ばす癖が彼女にはあった。

 

「――――」

 

 そして、ミーナはサラの事を信用しているものの――迷宮に関する事で今も不審に思っている事が幾つかある。

 

 その1つがミーナ先程見上げ、迷宮で預かった事もある剣――付与された魔法が解けないように厳重な封を掛けられた上で壁に飾られたソレ――である。

 

 迷宮で預かった事もあるこの剣はサラと同行した騎士が使っていた物らしいが、聖都内での立場が上がった事でリモートスノーでの顛末を調べられるようになったミーナが確認した限り、剣を軽くしたり強度を上げたりするような魔法剣を扱える者は居なかったとされていた。

 

 それ以前に、派遣された人員の中ではサラが最も優れており、他も無能という訳ではないがオーガと単身で切り結べるような人材はおらず、『同僚がオーガの足を止めている間に私が魔法で仕留めました』という才女の言葉にも矛盾が発生する。

 

 しかし、顔を影によって溶かされた上で身体を焼かれたオーガの死骸や破壊された魔力炉など、サラが迷宮を踏破した証拠は確かにあるものの――『本当にサラと派遣された人員だけでそれらを成したのだろうか?』という疑問がミーナの中に揺らめき続けていた。

 

「それに――たぶん、あの場であの人と出会えていても、篭絡できる前に逃げられてしまったでしょうから。……素敵な旦那様を捕まえる為には、あれも仕方のないことだったと考えています」

「随所で惚気てくるわねぇ……」

 

 考えていた事に引っ張られたのか少し意地悪な返しになってしまったと思うミーナであったが、サラは少し考えた後にポンと両手を合わせる。

 

「――では、心証を害してしまったお詫びの品として、ちょっとしたお土産を渡しちゃいますね」

「あら、なにかしら?」

 

 サラからの前振りは少々あからさまではあったが、引け目を感じていたミーナがそれに乗ると才女は椅子から離れ、部屋の隅の棚から比較的大きな布(?)を取ってから戻ってくる。

 

「魔導鋼線を防具として使うべく試作した外套1号ちゃんです! お腹が大きくなった頃から始めた編み物代わりとして完成させたのですが――インディケイト程度ならば無力化。シェイドでも9割減に出来る優れものですよー」

「いや、もう――」

 

 聖都に戻ったタイミングで渡してくる事からも判る通り、明日からの挨拶回りの時に喧伝して臨月辺りの最も危ない時期を乗り切る為の牽制材料にして欲しいという事なのだろうというのはミーナにも察しが付いた。

 

 だが、こうも簡単にこれまでの常識を簡単に乗り越えてくる品を出してこられるのは心臓に悪い。

 

「というか、自分の魔法を無力化するような物を作ってどうするのよ?」

「多分、創り手の魔力が反映されるのでしょうね……ミーナさんが編んだら炎の魔法を無力化できる物が作れるかなーと予想してます」

 

 見せつけるように大きく開いた外套をたたみ直してから渡してくるサラの表情に、ミーナは静かに安堵の息を洩らす。

 

「(――――まぁ、それでも……これでいいのかな)」

 

 迷宮の攻略に関する不可解な事や自分と出会う前のサラに不審な点はあれども、それはミーナの関わっていない過去の出来事であり――ミーナから見るサラは頼れる親友であり、恩人であり、自分が守らなければならない日常の代名詞とも言える存在だ。

 

 そして、生き延びたサラの手によって作られ、量産された魔導銃は聖都の力を強大なものとしており、これまでは聖都が独占的に運用していたものの、今手渡された防ぐ手段を聖都が独占すれば魔物の脅威に晒され続けている辺境にも魔導銃は配備され、人々の安寧を確かなものとするのだろう。

 

 そこに問題はない。それが創る未来に不都合もない。

 

 あの迷宮で誰かが聖都の記録以上に奮戦したのかもしれないし――もしかしたら潜入組に何らかの問題が発生し、サラが誰かに手を下したのかもしれない。

 

 だが、そんな事はどこにでもある現実であり――今、目の前にある幸福な姿もまた現実である。

 

「――? ミーナさん、どうかしましたか?」

「…………サラが幸せそうでよかったなと思っただけよ」

 

 目の前にいる彼女だけの成果であるならば、困難を乗り越えた才女に惜しみない称賛を。

 

 道半ばで倒れた見知らぬ『誰か』が居るのであれば、彼女と自分を出会わせくれた事に感謝を。

 

 その何度も転がした事のある結論を思い返したミーナは、この得難い平穏な時間に目を細め――その中心にいる彼女に笑いかけた。

 




以上、夢ラフィーの呪いは自分の願う幸福を押し付ける事でした。
自分の存在を材料に、あった事による負い目を薄め、赤いリボンに秘められた約束も薄め、サラに普通の幸福(ラフィーアの思う幸い)を成就させる。
前回でも述べたようにサラの約束がなんであるか判らない事から深く入り込めなかった事でこのような終わり方となりました。

幸いはそれぞれの世界で、それぞれ自身が叶えるべき物です。
どうか、サラさんにもそれが訪れる事を切に願っています。


――ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。


方向性の指針となりますので、評価、感想、お気に入り登録など、お待ちしております。



別記:投入する隙間がなかったネタ。
「――あぁ、そうでした。その内、私とあの人とで精査したお見合いリストが届くと思いますよ」
「え”」
「聖都からの肝入りで押し付けられたのを頑張って厳選しました。えっへん」
「いや、そこで胸を張られても困るんだけど!?」
「リモートスノーの後継を聖都なりに考えているんでしょうね……それを断るなら人里離れた場所に隠した『あの子』を据えるのも視野に入れ、この家で勉強させるとかも考えていただかないと」
「勘弁して……」
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