【完結】『侵胎迷宮を抜けて』二次創作 作:サーデェンス・ロー
(というか、苗字がまだ無いようなんですよね、この可愛い人……)
「……なるほど、この大穴は下の階層で見たゴミ捨て場に繋がっている訳ですね」
下層よりも整備された通路を進む白い少女は、その先に現れた大穴の前でそんな呟きを零す。
この場所が自然に出来た洞穴の類ではない事は予想の範囲内であったが、利便性を考えた運用が今も成されている事を鑑みれば社会性のある『何か』がこの場所を支配しているのが明確となる。
そして、どう考えても人間が住むには不適格な毒気の存在も考えれば、国元のあの人よりも凶悪な『何か』の住処に自分が放り込まれた可能性があると推察した白い少女は静かに踵を返す。
「…………弾や装備は、今後も節約しながら進んだ方が良さそうですね」
そうして元居た階段室へと立ち戻る中、下層で思い立った最悪の予測が現実に近しい物であると推定した白い少女は、自分に言い聞かせるように言葉を洩らす。
ここに居る『何か』があの人と同類かつ同等の力を持っているのならば、自分の敗北は必至。
そして、負けた先が下の階層の惨状なのだと思えば、考えただけでも震えが走るが――流石に予測だけで命を断つ程弱くもない白い少女は先程通り抜けたばかりの階段室で足を止める。
右手には下層へ向かう為の階段と、壁のような敵性生物に塞がれた通路があり、左手には先が長そうな通路がある。
「…………」
この妙な毒気に晒され続けるのは危険と考えていた白い少女は、先程の大穴を確認する前までは弾倉1つを消費してでも右手に居る動かぬ敵性生物を突破し、階段がある可能性の高いその先を調べようと考えていた。
しかし詳細の判らぬ『何か』――これだけの施設を作れるだけの存在が弱い筈がない――の実在を察した白い少女は壁の様な敵性生物を一旦無視し、もう1つの分岐へと足を踏み入れる。
毒気による身体の不調が気にはなるものの、先ずは情報を。
そんな思惑を持った白い少女がこの階層の探索を進めようとした矢先――。
「…………っ、何か居る?」
足を踏み入れた通路の先にある分岐に差し掛かった彼女はこれまで感じた事の無かった魔力の反応を感知し、警戒しようと視線を振った先に現れた『影』が未知の魔術を放ってくる。
「……くっ――なんですか、今のは」
白い少女が晒された魔術の威力はその身に纏う布鎧の刻印と竜の加護で防げる程度だったが、使われていた魔力は国元で普及している『火・水・風・土』の4大属性ではなく――ましてや自分が使える『希少(ひかり)』属性でもなかった。
「……っ!」
国元に存在しない魔術に混乱しつつも、反撃しようと『影』に銃口を向けた白い少女は様子見がてら数発の魔石を投射するものの――『影』の背後に新たな気配を感じた彼女は攻撃を中止し、“風舞”を行使して大きく後退する。
敵側の増援と思しき気配に警戒を強める白い少女に対し、魔石弾を受けた事で身体(?)の随所が炎上している『影』はただ静かに佇んでおり――。
「つ、使い魔ちゃんストップ! そのひと敵じゃないみたいだからストップですー!」
その後ろから聞こえた随分と可愛らしい声に呼応するように『影』が霧散し、その後ろから黒衣を纏った女性が現れる。
「ご、ごめんなさい。魔物だと思ったので……」
「…………人間の魔術師さん、ですか?」
「あ、はい。暗黒魔導師のサラって言います」
白い少女の事を真っ直ぐに見つめながらサラと名乗った女性は、黒と紫を基調とした術士らしい衣服を纏った黒髪の人間であり――白い少女からすると、同性の術士であるだけに片方だけの髪に縫い留められた赤いリボンが強く印象に残った。
「…………」
同時に、自分(ぎんぱつ)を見ても表情を変えなかった事も気にはなったが――。
「(……おっきいですね…………)」
今の白い少女は、その言動より目に映るもの――サラと名乗った女性が軽装な事、そして相手の背が自分よりも高い事が重なり、その言動に集中しようとすると視界の下半分が胸で埋まってしまうような錯覚が気になってしまっていた。
「(……私も結構ある方ですので、下着に掛ける“干渉”の刻印が結構大変――――ん?)」
「――――」
「…………失礼しました。……私はラフィーア・フィフトメルと言います。……エクス――いえ、辺境出の魔術師です」
自分の思考と視線が妙な方向に傾いている事と応えを待つ視線に気付いた白い少女は、そんな自分の気付きと相手の名乗りに応えなかった無礼を詫びながら可能な限り丁寧な会釈を返す。
「――え~と……自分で言ってて何ですが、暗黒魔導師と聞いても驚かれないのですね」
「…………暗黒魔導師なる職業は存じ上げませんが、こんな場所ではこうやって話が出来るだけでも貴重な――」
そんな白い少女(ラフィーア)の反応に何故か驚いたような表情を見せるサラに、ラフィーアは首を傾げつつも自分の意思を伝えようとするものの――その言葉は自身が発した咳によって遮られて続く事はなかった。
「っ、大丈夫ですか!?」
「……この毒気の中ですと、話し合いも出来ませんね」
「それなら大丈夫ですよ。ついて来てください」
魔石銃を取り落とす程では無かったが流石に対抗策を考えなければ厳しいかもしれないと思うラフィーアに対し、サラは事も無げに応えてから踵を返す。
「(…………警戒は、しておきましょう)」
強くて綺麗な人は『怖い』というのがラフィーアの経験則であり、武器の類は収めたものの途切れた“風舞”を服に付与し直した彼女は非武装を装いながらその背を追った。
「……空気が綺麗ですね」
「この階の物置に、私の魔力を流しているんですよ。私、暗い所で結界を張るくらいは簡単にできますし、迷宮の瘴気も防げますから。――維持し続けるのはちょっと疲れますけど」
ラフィーアの純粋な驚きが気に入ったのか、サラは同性からみても可愛らしいと感じる得意顔を見せ――それに視線だけを向けて微笑み返したラフィーアは、その隙に張り巡らされている術式を読み取りに掛かる。
「(……見た事も無い術式――魔力の感覚は……力の強弱はともかくとしても、この属性はやはり見た事がありませんね)」
「――では、改めまして。私は暗黒魔導師のサラと言いまして、聖都の命令でここに来てます。……命令はイレスという人物の調査、できれば捕縛か暗殺となります」
「…………?」
そんなラフィーアの内情を知ってか知らずしてか、サラは自己紹介の焼き直しと共に盛大な爆弾を放り込んでくる。
聖都やイレスという聞き覚えのない言葉はまず置いておくとして、捕縛や暗殺といった用語は『そういった任務』に従事した事もあるラフィーアにも聞き覚えのある単語だったが――。
初対面の自分に対してそんな事を話しても大丈夫なのだろかとラフィーアが困惑する中、その沈黙を傾聴と捉えたサラは説明を続けていく。
「そうして調査を続けた結果、最終的に辿り着いたのがこの迷宮でして――任務のため複数人で行動していた事や、ちょうどイレスが迷宮を空けた事もあって私は地上から潜入しました」
「…………」
「ですけど、内部の魔物や罠で仲間と離れ離れになって……浅い階層に何とか陣地を作った頃には、もう私一人」
「……魔物と言うのは、この場所にいる敵性生物の事であっていますか?」
そんなサラの経緯を聞いていたラフィーアは、話が確かであるならば彼女は国元における特務のような人なのだと認識しながら自分が知り得ぬ情報を仕入れに掛かる。
「魔物を、ご存知ないのですか?」
「……小鬼や魔狼ならば記憶にありますが、植物のような魔物は見た事も聞いた事もありません」
先程までの話の中でも何度か辛そうな表情をしていたサラであったが、ラフィーアの問い掛けを前にした彼女は驚きと不審さを混ぜ合わせたような表情を見せ、その変化を前にした白い少女は逆に戸惑ってしまう。
「むぅ……ローパーの事も知らないとなると、ラフィーアさんの出身がどこなのか気になる所ですが――答えはイエス、です」
「……判りました。……話の腰を折ってしまい、申し訳ありません」
「――では、私の都合に戻りますが……条件こそ厳しいものの、陣地を確保した私は偵察と仲間探しのために下の階と陣地を何回か往復していたんですけど……悪いタイミングでイレスが戻って来てしまって」
「…………下の階層で道を塞いでいた植物系の敵せ――魔物や、近くの階段横の道を塞いでいた壁のような魔物はそのイレスという人物の仕業ですか?」
「はい。あの魔物は魔法に強い耐性があるみたいで……壊す前に私が瘴気で動けなくなってしまうんです」
「…………」
人を襲う魔物を使役する存在。
サラからの説明から察するにこの毒気に溢れた施設を運用している存在。
そして、彼女のような人物――国元における特務を派遣されるような存在となれば、イレスというのは生かしておいてよい存在ではないのだろう。
「……偵察で下層に潜っていたとの事でしたが、ここより下の階の情報は必要ですか?」
「はい。――ラフィーアさんがどうしてここに居るのかも、併せてお聞きしたい所です」
『話が確かであるならば』という前提条件はあれど、協力体制を敷く事を前向きに検討する方向へと舵を切ったラフィーアはサラが気を引きそうな話題を振り、重ねられた問いも併せて誠心誠意知っている限りの事を開示する。
もちろん、先程も暈(ぼか)した通り国交が無い国に対して国名を明かす事は危険である事から自分の国籍の類は伏せたままとし、あの人の手によって『今の様な体験(あくむ)』を何度も体験しているといった荒唐無稽な話も伏せたものの――。
「(……それらを省いたとしても、「気が付いたら下層に居ました」は流石に厳しいでしょうか?)」
説明を続けるラフィーア自身が信じられない内容(それ)も混じっていたものの、ラフィーア自身も困惑している事が伝わったのか、それともサラの人柄によるものなのか、「――所々で記憶が飛んでいるのは瘴気による記憶障害の影響でしょうか?」と好意的な相槌を得られた事で話は滞る事無く進んで行き――。
「……構造の見解としては、掘削中の通路とゴミ捨て場がありました。……あとは――多くの女性が植物型の魔物に組み伏せられていました」
下層に残されている人命への処遇にまで、話が届いてしまう。
「…………」
「……可能であれば救助したいと私は思っていますが、どうでしょうか」
「――—―—―残念ながら、今の状況から鑑みるにそれは難しいかと」
そのどうしようもない情報の共有を受けたサラは静かに目を伏せ――長い沈黙の後、彼女もまたラフィーアと同じ結論を下す。
サラが編んだこの場所も、安全性は高そうであるが長期的な療養を行うには不向きであり――下層に居る彼女等を助けるには条件が全く足りていない。
「…………判りました。……ごめんなさい、嫌な判断を押し付けてしまって」
「――見捨てたくないのは私も同じですが、状況がソレを許しません」
この結界内に入って間もないラフィーアでも判っていた事を委ねてしまった事を謝罪すると、サラは寂しそうな目で応じながら言葉を切り、幾分かの間を置いてから口火を開く。
「――今後の事ですが、私としてはやっぱり上の階に敷いた陣地まで戻りたいな、と考えています」
「……道を塞いでいる魔物はどうしましょうか? ……外皮は堅そうですが所詮は非装甲の生物ですので、魔石弾を1弾倉分叩き込めば焼き尽くせると私は考えていますが」
「先程拝見した限りですと、その武器の性能は高いようですが――あの魔物は炎にも耐性があるようなので温存した方がよろしいかと。時間を掛ければ爆弾を調合して魔物を吹き飛ばせますから、ラフィーアさんはこの部屋で休んで下さい」
「……こんな設備で、爆発物が作れるのですか?」
「調合の心得もありますから、素材があれば用意できます。使い魔ちゃんに探索させた所この階は物置みたいなので、たぶんなんとかなります」
「…………すぐに、というのは厳しいですが――階層内の探索をするならば、それは私の役目でしょうか」
そうして続けられた淀みのない説明の中にある微かな不安を感じ取ったラフィーアは、そんな提案と同時に自分の身体の内へと意識を向ける。
光属性の魔術を使わなかった事から魔力は充足状態にあり、あの妙な毒気による影響――今にして思えば靄の掛かっていたような思考――も、今ではだいぶ見通しが良くなってきている。
「い、いえ、そういう意図で言った訳では……」
「……私にはこの結界は作れませんが、使い魔の性能を見るにサラさんよりも私の方が戦闘向きです」
「――そういえば、使い魔ちゃんのシェイドが直撃しても平気な顔をしていましたね……」
ラフィーアの身を守っている竜の加護によってあっさりと弾かれてしまった魔術であったが、サラとしては自慢の魔術だったのか苦虫を嚙み潰したような顔を見せるものの――聡明な才女はすぐにそれを窘めるような表情に変え、ラフィーアの事を見据える。
「ですが、私は役目があってこの場所に居ますが、ラフィーアさんは能力こそあれど迷い込んだだけの人でしょう? そこまでする必要は――」
「……ここから出るという目下の希望を達成する為には、サラさんの知識と魔術が必要です。……それに対して、私が提供できるのは戦闘力しかない」
「先に言っておきますけど……あんまり無茶をするようなら、私もフォローしません。あくまで情報を持ち帰るのが私の任務なんですから」
サラの真摯な忠告に対してラフィーアが理論で応えれば、今度は威嚇する事でその本心を試しに掛かり――。
「……無理はしませんよ。……私も、好き好んで下層の――あんな目にはあいたくありませんから」
「――信じますからね」
その突き放すには優しすぎるサラに言葉にラフィーアが本心を返せば、才女は諦めたような言葉と共に席を立ち、白い少女の側に近付き、何らかの魔術を編む。
「防護魔法を掛けておきました。これで瘴気の影響はある程度軽くなると思います」
「……瘴気――先程も仰っていましたが、それは外を満たしている妙な毒気の事ですか」
「――? 瘴気をご存知ないのですか?」
「……寡聞にして。……良くないものである事は体験出来ましたが、致死性があるのか等を教えて頂けると幸いです」
「それだけの力と実戦経験を有しながらも瘴気も知らない――いえ、では――簡単に説明しちゃいますね」
また不審そうな顔をされたものの、流石に聴かない訳には行かない情報だったと心象の悪化を諦めたラフィーアは静かに続く言葉を待つ。
「致死性が有るか無いかで言えば、あります」
「…………あるのですか」
「短時間であれば先程のように咳き込む程度で済みますが、次の段階になると思考の変質が始まり――末期症状になると身体の変質が始まります」
「……可逆性は、どの段階まで許されますか?」
「耐えられる範囲は個人差による所が大きいですが、思考の変質までならば。――勿論、どこまでが戻れる範囲かなんて判りようがありませんから接している時間を少なくするのが一番です」
「…………」
話を聞くにこの場所――迷宮を満たす毒気はラフィーアが思っていた以上に危険な物であり、ここでサラと出会う事が出来なければ自分が何者であったのかも忘れた『物体』になっていた事を夢想したラフィーアは、サラと出会えた幸運に深く感謝する。
「一番の対処法は清浄な空気で瘴気を抜く事しかありませんので、変調を感じたのであればすぐにこの部屋に戻ってきてください」
「……判りました。…………サラさんが居てくれて、本当に助かりました」
そう感じたままの感謝をラフィーアが言葉として伝え、頭を下げると――色々と察したらしいサラは満面の笑みを浮かべてから言葉を続ける。
「素直なのは大変よろしいです。――それと回復アイテムをいくつかと、メモを。爆弾の調合に要るアイテムはメモに書いておきましたので、読んでおいてください」
「……回復アイテム?」
「えっと――ポーションもご存知ない?」
「……はい」
「う~ん――ここまで来ると、ラフィーアさんの出自が大変気になる所ですが……要約すると、怪我を治せる薬です」
「……痛み止めでも、体液の循環活性による治癒力の向上薬でもなく――怪我自体を治せる薬と?」
「はい。――というか、難しい言葉を知ってますね」
「…………」
天気を聞かれたようにその異常な物体の説明を受けたラフィーアはすかさず布鎧の下――スカート状に開いた外衣の裏面に仕込んだ緑色の短刀を抜き取り、自分の左手を浅く切り付ける。
「っ、何を――」
「…………」
そのあまりにも素早い動きにサラが驚く中、ラフィーアは血が流れ出た事を確認すると今さっき預かったばかりの薬を飲み込む。
「あ、そんな勿体ないことを……」
そんなラフィーアの奇行に若干怒ったような表情を見せるサラに対し、自分の左手を見て薬の効能を実体験として確認したラフィーアはその衝撃に耐え切れずに真正面に倒れこみ――俗にいう失意前屈状態でぶつぶつと呟き出す。
「…………こんな霊薬が、魔石を扱うような感覚で……毒気が渦巻く地獄のような環境ですが――もしかして、私は既に死亡していて、旧教が絵空事で言っている天界にでも来てしまったのでしょうか……」
「そ、そこまでですか!?」
奇行からの唐突な意気消沈に驚き、思わずその背を摩りだしたサラの暖かさを背中に感じたラフィーアはこれが現実である事と、彼女が信用出来る人間である事を認める事となった。
とはいえ、流石にポーションの実態を認めるのには幾分かの時間を要したのだが――その休息によって体力の回復と瘴気を抜いたラフィーアは、この迷宮に再び挑む事となった。
瘴気の性質は最新作(世界の卵)で感じた印象準拠。
別記:ポーション。
筆者の初接触はFFかな?
それから綿々と続いている雑な回復アイテムですが、この効力って異様だと思うんよ。
サラ嬢(現行最新鋭の自作二次創作イラスト)
【挿絵表示】
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