【完結】『侵胎迷宮を抜けて』二次創作   作:サーデェンス・ロー

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探索(一人)

 上層への道を塞ぐ魔物を排除した事で道は開けたものの、「治療の為に戻ります」と言ってラフィーアを結界部屋まで引っ張ったサラは、当然のように祭服の女性の身に残る麻痺毒の治療を始めた。

 

「…………」

 

 その真摯な心遣いは信用しきれないでいたラフィーアの心をそれとなく抉っていたのだが――。

 

「――――あの竜は、いったい何ですか?」

 

 そんな雰囲気の最中、サラは至極当然な質問をラフィーアに投げかけてくる。

 

「……私の『盟友』――判り易く言い直しますと、私を見守ってくれている竜の力の一部……と言えばいいでしょうか」

 

 そう応えながら触媒であり竜から賜った術具でもある赤い宝石――首飾りとしている竜血石を判り易いように祭服の内側から引き出すと、サラの目付きが変わる。

 

「…………先程の魔術は竜血石(これ)の本来の用途ではないのですが――私の魔力を光源に見立てて、竜血石に刻まれたベネイアの記憶を『影』として世界に表したのが先程の魔術です」

 

 その油断ならない探求心を前にしたラフィーアは『やはり優秀な魔術師さんなのですね』と、自分が同じ立場にあれば似たような事をしたであろうサラの行動に親近感を覚えながら説明を続ける。

 

「……ちなみに、サラさんの使い魔の魔術を弾いたのもこの竜血石の加護です」

 

 とはいえ、ラフィーアが竜血石の機能を完全に使いこなせるようになったのはつい最近の事であり――。

 

 1年程前――旦那様と出会うより前に今のような事態に陥っていれば、『影』を呼ぶ事はおろか瘴気を防ぐような真似も出来なかったであろうと背筋を震わせた祭服の女性は、その感情を宥めるように目を瞑る。

 

「――――」

「……ん」

 

 そんな中、自分――というよりも竜血石――を見つめるサラの熱い視線が収まらない事に気が付いたラフィーアは、自分が同じ状況ならどうされるのが最適なのだろうかと黙考する。

 

「…………使ってみますか?」

「いいのですか!?」

 

 借り物とはいえ竜を使役するという行為が恐れられるのは致し方なく、過度に警戒されるよりも『誰しもが使える可能性がある』と思わせた方が無難であると考えたラフィーアは呼び出す起点となる術具を首から外す。

 

「……どうぞ。……概念は先程お伝えした通りですので、それをイメージしながら魔力を通してください」

「――先程は呪文のようなモノを唱えていましたが?」

「……あれは術式の構築とか精神的負担を軽減する為の自己暗示の類ですので、サラさんにそういう順序立てが無いのであれば必要ありません」

「では。……むぅぅ――――」

 

 そうして受け取った竜血石をサラが両手で包み込み、集中を始めると――程無くして竜の輪郭が浮かび上がってくる。

 

「…………」

 

 同時に、同性から見ても無駄に可愛いらしいその所作に、ラフィーアが嫉妬や憧れに近い感情を抱きながら経過を見守っていると――。

 

「――っ、ひゃぁ!?」

 

 『竜の影』からの魔力吸収が始まった事に驚いた才女は魔力供給を切ってしまい、顕現しかけていた『影』が霧散する。

 

「……とはいえ、慣れは必要ですよ」

「むぅ……失敗すると、魔力を吸われただけになってしまうのですね」

 

 要点としては最初に現れる輪郭を自分の扱える魔力の範囲内に抑える事にあるのだが、手の内を晒す心算の無いラフィーアはサラが取り落した竜血石を拾い上げ、そのまま自分の首に掛け直す。

 

「……では、ここで一旦お別れでしょうか」

「――――どういう事でしょうか?」

「……私は、この施設から脱出するよりも――自分がここに迷い込んだ理由を探す事を優先したいと考えています」

 

 ラフィーアの唐突な提案にサラは怪訝そうな表情を見せ、その疑問に対して祭服の女性は出会った時から話していた自分の目的を伝え直す。

 

「……その可能性を取り零すのは避けたいので、差し当たってはこの階層の探索をしたいと考えています」

 

 そうして当面の予定を伝えたラフィーアが「……私達の技量であれば、後れを取る事は無いでしょう」と続けると、サラは何故か神妙な顔で沈黙してしまう。

 

「――――瘴気は、どうするのですか?」

「……私の“障壁”――いえ、竜血石の加護を正しく使えば防げるようですので、問題にはなりません」

 

 サラから伝えられた瘴気の概要は遅効性の致死毒と言えるものであり、精神の変調から始まり、末期症状となれば人とは呼べぬモノへと変質してしまうと聞いたラフィーアは、内心その事実に震え上がっていた。

 

 しかし、術式の考察を重ねる事でサラが敷く結界と竜血石の“障壁”の効力が似通っていると判明し、自らの安全を確信したラフィーアは今後の方針をそう確定させていた。

 

「……上の階層で会う事もあるでしょうし、協力できる時は協力する。……そんな形でいいでしょう?」

 

 防護範囲が狭い事からサラの編み上げたこの部屋のように大人数に安全を提供するには向かないものの、防護を機能させたまま動き回れるのが“障壁”の利点であり――魔物の侵入を防げる場所が見つかれば、探索の途中で休む事も出来るだろう。

 

「――――判りました。私にも私の都合――情報を持ち帰るという任務がありますから、積極的なフォローはしませんよ?」

「……ええ、此方もそのように。……こんな魔境で出会った同性の術者同士ですので、縁は大切にしたいと考えていますが」

 

 そう言って先に席を立ったラフィーアは、サラに向けて手を伸ばす。

 

「……サラさんのような良識のある優秀な術者は希少です。……こんな場所ですが、どうかご無事で」

「ラフィーアさんも、自分の身体に不調がある事を忘れずに――先程の様な無理は避けてくださいね」

 

 握手を求められた才女は差し伸ばされた手を握り、祭服の女性に別れを告げる。

 

「(…………とはいえ――何か、妙な感じのする人でしたね)」

 

 そうしてサラの結界部屋を後にしたラフィーアは、ふと足を止める。

 

 例えるなら――そう、怪我を隠している時の旦那様のような気配に近いだろうか。

 

「……まぁ、悪い人では無さそうですが」

 

 なんとはなしに引っ掛かりを覚えるものの、言動や咄嗟の判断を鑑みればどう見積もっても自分やあの人よりも善人なのだろうと結論付けたラフィーアは、止まってしまった足を前へと進め直した。

 

 

 

 そうして探索を始めたこの階層は、予想通り最下層よりも遥かに広い空間であった。

 

 下の階層はまだ地下と言っても差し支えない範疇――ラフィーア自身、地下道に入った経験が無い為に空想の域を出ないのだが――であったが、この階層の西側は地下にある構造物とは思えぬ程に広く、そして崩れている場所も多い事から危険も多い場所であった。

 

「(……恐らくですが、最初に整備された区画だったのでしょうね)」

 

 広い事から魔石銃の射線がよく通ったものの、ひび割れたレンガ地の床や壁面は隙間が多く、そこからの奇襲を常に警戒しなければならない事から気苦労が絶えない区画であった。

 

「…………だと言うのに、成果は殆どありませんでしたが」

 

 最奥に安置された短剣の保管方法や下層に残されていた記録を鑑みるに、イレスという存在が几帳面な存在であるという予想を立てる事は出来たが――流石に得られたモノがそれだけとなれば労力に合わない無駄骨だったと言える。

 

「…………」

 

 そんな思案と共に構えた魔石銃――ここに現れてからは自分の魔力を籠める術具としてか使っていないのだが――を触媒に風の魔力弾を撃ったラフィーアは、ここに来て散発的になってきた魔物の襲撃を危なげない距離で仕留めていく。

 

「……南の氷結した区画も、大した成果はありませんでしたが――」

 

 比較的に恒温である筈の地中に氷があるというのは珍しい現象であり、この施設が『何か』によって照度が保たれている事と併せれば、幾つかの仮説がラフィーアの脳裏を過ぎったものの――目的とは無関係なソレ等を、彼女は思考の中から掃いて捨てる。

 

「…………此処は、少し期待が持てますね」

 

 そんな彼女が今居る東側の区画は比較的新しい、もしくはイレスがよく立ち入る場所なのかよく整備されていた。

 

「……魔物の数にも少ないように思えますし、もしかしたら――」

 

 イレスという存在は女性であり、狂人の類であろうとも此処に収納されている衣服や美術品が気になっているのかもしれない。

 

 脅威や警戒するべき瓦礫の類が少ないのをこれ幸いにと思案を進めるラフィーアは、そんな仮説を組みながら歩みを進めていく。

 

 尚、この場所でラフィーアが確立した基本戦術は自分の魔力を弾丸とする形で運用している魔石銃で数を減らし、肉薄して来た魔物を旦那様の剣で切断するという方式を取っていた。

 

 とはいえ魔術師であるラフィーアに剣技など望むべくもなく、可能であれば距離がある状況で片付けたいと彼女は考えているものの――本来の弾丸である魔石を温存している事から遠距離で殲滅出来る状況は稀であり、剣を振るう機会は多くなっていた。

 

「…………国元でしたら絶対に魔力が持たない所ですが――何なのでしょうね、この場所は」

 

 “障壁”を維持しながら魔石銃への魔力供給を行いつつ、剣や服の刻印に魔力を通す。

 

 魔力を読む事の出来る旦那様から『綺麗だ』と称された自分の術式に誇りを抱いているラフィーアであったが、それだけの技量を持っているが故にそれ等の同時運用を維持し続けるのには無理がある事を熟知していた。

 

「(……人間は、大気中に満ちる魔素を吸い……身体はそれを自身が扱える魔力(いろ)に変換し――魔術師(わたしたち)はそれを燃料として魔術を行使している。……であれば――)」

 

 その循環と現状の無理が罷り通っている事を合わせれば、この施設内の魔素が異様に多いという仮説が挙がり――魔力の回復量が底上げされているからこそ、こんな無理が通せているとラフィーアは考える。

 

「……国元との差異があるとすれば――――瘴気と呼ばれる毒素の存在。……その中で活性化する魔物が身体的な能力に優れている事実。…………そして、私の状況を合わせれば――」

 

 この施設に満る瘴気の中には魔素が含まれており、魔物の類は本能的に“身体強化(まじゅつ)”を走らせているが故に身体的に優れている。

 

「(…………ありえそうな仮説ですが、では何故魔素としても振る舞える瘴気に毒――?)」

 

 思案を回しながら歩みを進めていたラフィーアは通路の先にある扉を前に警戒を強め、意を決してから部屋へと踏み込んだ彼女はその部屋の内装に驚き、硬直してしまう。

 

 この階層のどの場所よりも手入れが行き届いている壁面に、整然と並べられた本棚。

 

「…………魔術師――いえ、読書家の書庫? こんな瘴気の中に?」

 

 加えて、部屋の中の壁面には強度こそ薄いものの防護や拒絶の術式が組まれているようであり、魔物が寄り付かないようになっていたのは気の所為では無かったらしい。

 

「…………」

 

 それよりも本。本である。それも部屋を埋め尽くす程の本である。

 

「……水場もありますし、出入口は1か所しかない上に部屋の造りは他よりも強固」

 

 その諸条件は『拠点として使って下さい』と言っているような充実っぷりであり、その意図に従ったラフィーアは壁に組み込まれていた術式を上書きするように刻印を重ねる。

 

「(……読めそうな情報を詰め込めるだけ詰め込んで休憩。……所蔵されている内容によっては、時間を定めないと長居してしまいそうですが――)」

 

 最後に扉を塞ぐ勢いで“強化”や“隠行”の刻印を施してソレを閉鎖したラフィーアは、眼前の宝の山へと手を伸ばした。

 




Q:狭い洞窟内で、剣士でもない者が長剣(というか大型剣)を振り回せば、ゴブ〇ンスレイヤーの駆け出し戦士(第1巻?)のような目に合うのでは?

A:旦那様の剣は刃が通ってなくても岩盤や障害物ごと切り抜けるので問題ありません(マテ)

遺物――切断の概念魔術の重ね掛けの恐ろしい所であり、ラフィーア自身、敵より施設の崩落の方を気にしています。




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