【完結】『侵胎迷宮を抜けて』二次創作   作:サーデェンス・ロー

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前作共々、原作でサラが○○されていたのは一月以上と仮定。

そして、前作と本作では実証実験と各種想定により安定運用で1日6~10回、時間単位効率最大=命の危機までいって1日20回を想定していたが、史実の自称によると1日60回、客を取らされた事があったらしい。

……いや、どうやって?



引き入れる(後)

 清浄である筈だが酷く沈み込んだ空気の中、ラフィーアは命と尊厳のどちらかしか選べないという最悪の選択において、生き長らえる事を選んだ人間の言葉に耳を傾けていた。

 

「――この迷宮に潜入した私は、途中で上の階層を仕切っているオーガに捕まってしまって。そいつから、『取引』を持ちかけられたんです」

 

 その言葉は、ラフィーアであれば選べないであろう未来を選んだ女性の言葉であり――。

 

「……イレスと呼ばれる存在に通報しない、代わりに女型の亜人を産め――と言った所ですか?」

 

 自嘲気味に語られるその口調にすら感じてしまう怒りを抑えている祭服の女性は、努めて冷静に情報だけを仕入れようと心を殺していた。

 

「――――女型の亜人という存在は知りませんが、相手をしろというのは……確かです」

「…………」

 

 その最中に得られた事――判ってはいたものの、聞きたくなかったサラの足跡と共に知らされたのは、違っていて欲しかった現実。

 

 この場所が自分の居た世界ではない証拠を、他でもない才女の口からも伝えられたラフィーアの意思はどん底にまで落ちていた。

 

 しかし、その下がりようがない状況であるからこそなのか、酷く冷めていく思考の中――そうでなければ聞いていられないサラの吐露を、ラフィーアは聴き続ける。

 

「私は、応じるしかなくて……それでも隙を見て反撃しようと思って、ゴブリンやオークの体について調べて、薬を作ってました」

「(…………検体は、多そうですものね)」

 

 調合や薬学といった人の役に立つ分野では本当に敵わないと思いつつ――否、努めて情報として考えていなければ旦那様の剣を持って上層へ殴り込んでしまうであろう自分が居る事を理解しているラフィーアは、自分を律しながらその言葉を聞き続ける。

 

「でも、私の考えは読まれてて……いつの間にかオーガは私の魔法を防ぐ装飾品を用意していて。結局。ずっと――」

「…………」

 

 だが、そこまで凍り付いていても尚――そこから先の数秒間を、ラフィーアは認識できなかった。

 

 事実はもう手の届く所にあり、続く言葉は聞きたくもない女の末路である。

 

 誰が悪いといえば救助等の次善の策もなく潜入部隊を派遣した聖都と呼ばれる組織であり、そんな状況下で無理をしてオーガに捕捉されてしまったサラ自身であり、死を前にして尊厳を売り払ったのは才女自身である。

 

「(…………どうして、世界はどこも――こんなにも……)」

 

 そんな閉じた思考の中、ラフィーアを熱のある現実に引き戻してくれたのは『同じような行き止まり』に居た自分を引き上げてくれた旦那様との思い出であり――。

 

 『自分はこうならなくて良かった』と思ってしまっている事に罪悪感を抱きながらも、祭服の女性の意識は現実へと戻ってくる。

 

「そんな風に、私は生き延びてきたんです。みっともないですよね、私」

「………………そう、ですね」

 

 そうして、罪や不徳を告白するような独白の終わりと飛んでいた意識が戻る瞬間とが重なってしまった事で、ラフィーアは感情ではなく理論に寄った答えを零してしまう。

 

「――――」

 

 その失言によって、寂しさと悲しさが折り重なったような視線を向けられたラフィーアは、その青い瞳から逃げ出したいと思うものの――。

 

「…………持論を1つ、よろしいでしょうか?」

 

 言葉を発してしまった以上、理を説かねばならないと踏み留まる。

 

「――なんでしょうか」

「……相手が人であるのならば、不本意な契約であってもそれが履行された事に正しさを見出し、庇護下を脱した後にも恥を未熟と認めて飲み込むのもいいでしょう」

「――――」

「……ですが、相手がどうやっても手の取り合えない相手であるならば――自分の全てを賭けてその屈辱と恥辱を雪ぐ自由は、常に残されています」

 

 同時に、それが『取引』であるというのならば『解約』する選択肢は常に残されており、「……反撃する意志は、まだ残っていますか?」とラフィーアが続けると、サラはその摩耗した心から諦めを零す。

 

「魔法を防がれる装飾品がオーガになくても、亜人全てを相手取る事は出来ませんし――出来たとしても、消耗した状態でイレスと真っ向から事を構える事になります」

「……サラさん1人であれば確かにそうなのでしょう。…………ですが、この場には亜人どもを掌握し、オーガの立ち位置になり替わる事でイレスと接触し――彼女から情報を仕入れ、故あらばそいつを殺そうと考えている身勝手な魔術師が居ます」

「――――」

 

 ラフィーアが発したそれは彼女の計画の全てだが、サラが見せる表情に変化はなく――確かに言葉だけなら信じられないのも致し方ないだろう。

 

「…………それと――オーガへの細工は、既に済ませてあります」

 

 よって、ラフィーアはその計画が既に走っている事を告げる。

 

 サラの状況を引き出す際に加減をしなかった事から、あの巨躯の意識の7割程は既に砕いており――才女の正気を確かめる時間を得る為に身体は残しているものの、放っておいてもアレは衰弱死するだろう。

 

「――え?」

「…………私の計画は既に走っており――自分の意思と関係なく帰れるような事態にでもならなければ、ここに居る亜人どもを1匹残らず駆除してから帰ろうとも考えています」

 

 だが、オーガの死をサラの精神的な区切りとするべく動き始めているラフィーアは何もしなくてもソレが死ぬという事実を伏せ、自分が思うサラの未来の為に――尊敬するその人を唆(そそのか)しに掛かる。

 

「――そんな事が、本当に出来ると?」

「……ええ。……現時点において、イレスと接触する所までは出来ると確信していまして――そんな中、サラさんは2つの方針を選ぶ事ができます」

「――――何を?」

「……私の行動の結果、上の階層で作られているという脱出路の作成に注力できるようになる事に変わりはありませんが――私がオーガを殺し、ソレに従う亜人どもを削るのをただ見ているのか。……それとも、自分の手でオーガを殺し、自分の手で自分の選択に唾をかけるのか、です」

 

 言葉だけを取れば、確かに荒唐無稽な事だろう。

 

 だが、サラの目の前に居る女性が成した経緯の一端を知る才女は微かに身を震わせ、思わず半歩引いてしまった彼女に対し、ラフィーアはその分の距離を詰めながら右手を差し向ける。

 

「……どうしますか?」

 

 ラフィーアのそれはいつぞやに迷っていた旦那様の手を取った時と同じものであり――自分の事を利用して欲しいと願っている指に、相手の細い指がゆっくりと絡められた。

 

 

 

 ――――そうして、その選択の結果はすぐに訪れる。

 

 指針を定めた2人の魔女は結界部屋での小休止と装備の点検を済ませると速やかに上層階へと赴き、亜人の巣窟へと忍び込んでいた。

 

 とはいえ、この場所に真面な思い出のないサラの身体は目に見えて強張っており、村の中央のテントに入り、静かに佇んでいるオーガの巨躯が視界に入った時には緊張のあまり動けなくなってしまったのだが――。

 

「――――」

 

 オーガもまた自らの領域に入り込んだ2人の存在に気付くものの、その動きはひどく緩慢であり――サラに対しては幾分強めの反応を示したものの、自分達に向けられた視線にラフィーアが魅了の魔眼を合わせればその巨躯は何の反応も示さなくなる。

 

「……這い蹲って、この人に首を垂れなさい」

 

 そうして魔眼の深度を強めればヒビを入れていたオーガの意識は容易く砕け、サラを苦しめていたイレスの手駒は瞬く間に陥落した。

 

「…………サラさん、どうぞ」

 

 ラフィーアの言葉に従い、断首を待つ罪人のように這いつくばったオーガはそのまま身動き1つしなくなり、その異様を前に呆然としているサラの眼前に、祭服の女性は抜き放った旦那様の剣を差し向ける。

 

「――――」

 

 オーガと『取引』を交わした後にサラが立案・実行した脱出計画は、茨の道という表現が生温い程に過酷な内容だった。

 

 確かに、捕まってしまった時点で命運が尽きたと言えばそれまでの話になってしまうものの、それでも諦めずに屈辱的な『取引』を受け入れ、任務の完遂を目指して脱出路を形成するなど誰にでも出来る事ではなく――。

 

 それを続けたサラが幾度かの『取引』を終えた頃、才女は亜人に察知されない陣地の構築とある程度の偵察を終える所まで計画を進める事に成功していた。

 

 しかし、この施設が発する力場によって脱出路の進捗は難航し、陣地が在っても尚『取引』を続けなければイレスに存在が露呈する事から恥辱の日々に終わりはなく、先の見通せない状況に追い込まれていた。

 

 それが今日までのサラの現状であり、下の階層でラフィーアが詰問に移る前までは自らの意思でその地獄に戻ろうと考え、歩みを進めていた事を想えばその意志力(つよさ)は既に狂人の域に達していると祭服の女性は考えていた。

 

 とはいえ、その常人では耐えられないであろう状況はラフィーアがこの場に居り、独自の判断で動いていた事で一変する。

 

 サラの視点で見れば、ラフィーアがオーガの代わりとなる事で自らの尊厳を犯される事なく陣地に引き籠る事で計画を進める事が出来――。

 

 ラフィーアから見れば、この悪辣な施設で出会った真面な術者と強力な縁を持ちつつ、オーガとの連絡が途切れた事を調査しに来るであろうこの施設の主――自分を呼び付けた可能性のある存在と接触する事が出来る。

 

 ラフィーアがサラに提示し、現時点で継続しているこの行動は才女にだけ利のある話のように見えるが、何の情報も持っていない祭服の女性にとっては公正な『取引』だと考えていた。

 

「――――」

「…………こいつを殺す事は必須事項です。……そして、どうせ殺すなら私よりも貴女がやった方が有意義です」

 

 そんな中、オーガの状態に戸惑っているのか、それとも破格の状況を信じられないのか動こうとしないサラに対し、ラフィーアは言葉を重ねる。

 

 その言葉の根幹には理を優先する旦那様ですら復讐に固執し、それが果たされた後になってから漸く自分を含めた『外』の事を考えるようになったという経験則が強く反映されていた。

 

 『報復の意思が弱くとも、機会があったのならば逃さない方がいい』

 

 そんな押し付けがましい独善がラフィーアの結論であり、事態の急変に一時は戸惑っていたサラもすぐに自分を取り戻し、差し出された剣を掴む。

 

「――――」

 

 その細腕に握られた長大な剣は、サラの魔力を受ける事で付与された魔術群を発動させ、“干渉”の刻印魔術によって重さを失ったソレは軽々と振り上げられ、剣身に刻まれた概念魔術は才女と同じ黒と紫の光を帯び始める。

 

「――っ!」

 

 そうして、短い吐息と共に振り下ろされた剣は、竜の鱗ですら易々と斬り通す概念魔術の威をもって、オーガの野太い首を容易く寸断する。

 

「――――――」

 

 その抵抗もない最期を前に、剣を振り落としたまま動きを止めてしまった才女の表情に変化はなく――それを前にしたラフィーアは『全てがお膳立てされた結果ではそんなものか』と思い、『まだ足りませんね』とも考えた彼女は次の行動に移る。

 

「……では、次に参りましょう」

「――――次、ですか?」

「……物事には、区切りが必要です。……相手が人間なら躊躇もしますが――怪物であるならば、徹底的に行いましょう」

 




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