【完結】『侵胎迷宮を抜けて』二次創作   作:サーデェンス・ロー

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書きたかった所、その1。


探索

 これまでの触手型に加え、すらいむ(?)型なる未知の敵性生物――否、魔物と対峙する事となったラフィーアの対応は――結論から言って、これまでと変わらなかった。

 

「……不定形の所為か、それとも魔術に類する存在に寄った物体であるが為なのか――触手型よりも魔石弾がよく通るのは幸いでしたね」

 

 これが騎士剣による接近戦を主体とする魔導騎士の類であれば手こずる事は必至であったのだろうと思うラフィーアであったが、魔石銃が主兵装である彼女は快調に歩を進めていく。

 

 しかし、時折接触する魔物は兎も角、ただ居るだけで身体を蝕んで来る瘴気と呼ばれる毒気は脅威以外の何物でもなく、サラに付与してもらった防護魔術が無ければこうも順調には行かなかっただろうとも思う。

 

「……サラさんと出会えたのは、本当に幸運でした」

 

 周り道を選ばずに上への階段を塞いでいる魔物を強引に突破していれば、結界による休息も防護魔術による残り時間の延長も得られずに迷宮を進んでいた筈であり――。

 

 瘴気の危険性すら知らなかった自分は、そのまま『私』という意識が居なくなった事も判らずに彷徨い続ける事になったのであろうと改めて考え至ったラフィーアは、そのあり得た未来に静かに身を震わせる。

 

「…………服や装飾品から見るに、文化レベルはエクスリックス王国と大きな差は無いように思えますが――」

 

 そんな夢想から歩みを再開するまで少々時間が掛かったものの、探索を進めた先にあった倉庫と思しき場所を前にしたラフィーアはそこに並べられている雑多な物品から現状について思いを馳せる。

 

 休憩の合間にサラから仕入れた彼女の母国の略歴から考えるに、この場所が国元の東にある連邦のよりも先にある未知の国家という可能性は無いとラフィーアは推察していた。

 

「…………そうであるならば、私はどうやってここに――?」

 

 そんな思案を身の内で転がすラフィーアであったが、その腕は魔石弾を撃つ機械のように次の倉庫の入口にたむろっていた魔物群を正確に焼き殺し――警戒しながら歩みを進めた彼女は入口の奥から魔物の気配が全くしない事に気が付く。

 

「……これも未知の魔術体系ですね」

 

 おそらく足元にある蓋の開いた容器が関係していると思われるものの、人間よりも生命力が旺盛に見える魔物だけを寄せ付けない忌避剤の類には見当も付かなかったラフィーアはその中身への詮索を一旦諦め、探すように頼まれている物品の捜索に移る。

 

「……薬品の類も大凡習っている心算でしたが――殆どが知らない薬品ですね」

 

 似ている効能の薬品は幾つか思い浮かぶものの、指定されたのは魔術で変質させた物品に類する変化薬なのか彼女の知識の外にあるものばかりであり――。

 

「…………でも、言語や文字は同じなのですね」

 

 と、今更ながらに思い至った疑問を次の脳内議題としながら、ラフィーアは指定された薬品を集めて行く。

 

「……後は――氷結の実、ですか」

 

 基本的に温度が高い傾向にある地中に氷なんてあるのだろうかと疑っていたラフィーアであったが、この階層の南側の探索を始めた彼女はすぐにその考えを改める事になる。

 

「…………もう、何があっても驚きませんね」

 

 通路を抜けてその区画に入った瞬間、まるで結界か何かで仕切られていたかのように降り掛かってきた冷気を前にしたラフィーアは自分の中にある常識から距離を置く事を心に決めながら探索を再開する。

 

「……何らかの魔力による影響なのか、それとも“搭”で聞いた『れいきゃくざい』なるモノに類する存在が流れ込んで来ているのか――まぁ、詮索しても仕方のない事ですか」

 

 区画内に満ちる冷気は床や壁面が凍り付かせる程であり、体毛すら持たない触手型等の動きが鈍ってくれれば都合が良いと思うラフィーアであったが、そんな幸運には巡り合う事はなく――氷結した床と接しているというのに変わらぬ速さで突っ込んでくる触手型やすらいむ型を魔石弾で焼き払いながら、彼女は進み続ける。

 

 そんな中でラフィーアが思案を転がしているのは身に迫る脅威である触手型の襲撃方法であり、2種類に大別出来るそれらに対し、彼女はそのどちらもが「詰めが甘い」と結論付けていた。

 

 片方はラフィーアの事を見つけ次第積極的に襲いかかってくる方であるが、これらの動きは単調に過ぎ、小癪にも壁や天井で待ち伏せている方は、その周辺に体液が残っている事からその存在を簡単に看破出来る。

 

「……もしも捕まったら逃げられませんので、油断は禁物なのですが――」

 

 天井や壁面に潜めるだけの能力があるのならば、それら全ての経路を使用した三次元的な突撃をされれば苦戦は必至となり、待ち伏せている方も自分が居る痕跡を消す努力をすれば簡単に捕まえられるだろうにと思うラフィーアは――ふと自分の変調に気が付く。

 

「…………一瞬とはいえ、そうならないかと期待してしまった?」

 

 最悪を想定し、それに備えるのが戦人の努めだが――警戒とは違う感情が今の自分の中には混じっている事を看破したラフィーアは、その危険性を正しく認識する。

 

「……なるほど、これが思考の変質ですか――厄介ですね」

 

 知らず知らずの内に変わってしまう。

 

 サラからの情報共有があった事で変質が軽い状態であっても気付くことが出来たが、再発したそれによってこの迷宮の怖さを正しく認識したラフィーアは『可能な限り急ぐ事』と『こまめにサラの結界に戻る事』を心に決める。

 

 そして、自身の変質を認めた白い少女が一度戻るべきかと考えた時、この区画の端に広がっていたソレを発見する。

 

 まるで氷っているかのような葉を生い茂らせ、茎の一部には求められている物と思しき果実を実らせた植物の群生地。

 

「…………メモに書かれた通りの形ですが――少し度胸が入りますね」

 

 この迷宮で見てきた植物は皆危険性に溢れており、眼前の群生地を見て真っ先に下層で焼き払った巨大な植物を連想したラフィーアは警戒を強め、すぐに退がれるよう服に“風舞”を付与し直した彼女は恐る恐る手を伸ばす。

 

 震えながら伸ばされた細い手はまずその葉に触れ、動きがない事を確認してから成っていた実を手折る。

 

「……これが、氷結の実ですか」

 

 凍ったまま成長し、その特性を強く示す果実を残す植物などラフィーアの理解が追いつかない存在であり――薄っすらと冷気を伝えるソレはこの迷宮で気が付いてから徐々に大きくなって来ている不安を強くさせる。

 

「……未知の存在ですが、巡っている魔力は国元と同じなのですね」

 

 しかし、迷宮と国元を比べても変わらぬ物もまた確かに存在しており、自分の掌に届く水の魔石のような反応を心地よいと感じながら、ラフィーアは帰路についた。

 

 

 

 

 

 それからは問題らしい問題に遭遇する事なくサラの結界内へと戻ったラフィーアは、部材を才女に渡して身体を休めていたのだが――。

 

「とうとう作れました! すみません、集めてきてもらって」

 

 そんな白い少女の耳に、子供のように楽し気な声が届く。

 

「……こうやって休める拠点があるからこそ、私も動けますので」

 

 大人になっても素直に感情を表す事の出来る素敵な女性は狡いなと思いつつ、仕事の速さと細やかな気遣いは自分も見習わなくてはと心に決めたラフィーアは出立の準備を始める。

 

「さっそく使いたいのですが、休憩はもう大丈夫ですか?」

「……はい。……下層で気が付いた時よりも、良い感じです」

 

 可能な限り迅速に動くのが戦場の鉄則であり、手早く残りの支度を済ませたラフィーアは先には準備を終えていたサラと共に結界を出る。

 

「…………改めて見ると、やはり異質な物体ですね」

 

 そうして立ち戻った階段室。

 

 そこにある上層へ向かう道を塞いでいる3体の魔物は幾つもの目玉で構成された傘を持つキノコのような物体であり、どんな進化の仕方をしたらこうなるのだろうとラフィーアが頭をひねっていると、横に居るサラから短い警告が届く。

 

「それでは使用します。下がって、目を瞑っていてください」

「……了解です」

 

 サラからの忠告には含まれていなかったが、ラフィーアは念の為にと国元で味方が榴弾砲を撃つ時のように口を開け、耳も塞いでおく。

 

 その次の瞬間に巻き起こったのは目を閉じていても届く程の閃光であり――。

 

 魔力の流れ方から投じられた爆発物の動きを探っていたラフィーアは氷結系の魔力の動きと火炎系の魔力の動きを察知し、集めていた部材の性質やそれらの魔力の流れ、調合の様子から使用された物の構造を推察する。

 

「成功です、えっへん!」

「…………」

 

 そんなラフィーアを他所に、あの可愛らしい得意顔に加えて愛らしい言動まで決めた才女に対し――やはり狡いとその才能を羨みながら、彼女は自分が至った推察の答え合わせを開始する。

 

「……わざわざ氷結系の術式を組み込んだのは、爆発する前に対象の防御力を低減させる為ですか?」

「はい。凍らせて固まったところを、まとめて吹き飛ばしただけです。でも、そのためにルーズインクで混ざらないようにしたりとか……」

 

 そうして始まったサラの魔術講義はラフィーアにとって大変興味深いものであり――特に、刻印魔術を用いらずに多様な属性を混ぜ合わせる所などはかなり斬新だと感じていた。

 

「……ですが、固定しないままで複数の術式を入れ込むのは安全性の観点から難しくありませんか?」

 

 しかし、斬新である事と優秀である事は別であり、ラフィーアの指摘にサラは素直に落胆の吐息を零す。

 

「はい。実にその通りでして……複数の属性を混ぜる事が出来れば強力な魔法や道具を作れるのは判ってはいるのですが、それを区切る為の魔法が追いついていない状態です」

「……お気付きかと思いますが、私の魔術はサラさんのソレとは基本的に異なります。……ですが、参考になりそうな物を私は持っています」

 

 そう言って魔石銃に差し込まれた弾倉から魔石を1つ取り出したラフィーアは、サラにソレを手渡しながら説明を続ける。

 

「……魔石の表面に爆裂の刻印がされているのが判りますか? ……それがこの魔石銃――というより、魔石弾の威力の源です」

「ほうほう……つまり、この魔石というものはマジックウォーターのような魔力の塊でしかなく、この石球の場合には掘られている記号が砕ける事で魔法が形になる、と?」

「……はい。……ですので、サラさんが使った先程の爆弾も凍結と爆発の効果を及ぼすものに刻印魔術を刻めれば更なる威力向上が望める他、相互干渉を否定する刻印を間に挟めば『るーずいんく』? なる物も不要になるのでは、と……」

「ふむ……『こくいんまじゅつ』というのが私にとっては未知の魔法ですので、その全容を把握できないのが悔しい所ですが――夢のある話ですね」

 

 異なる魔術への予想に頭を悩ませながらも、しかし、とても楽しそうに手を口元に当てたサラは幾分かの間を思案に費やし――。

 

「――話は変わりますが、私は気配を消したりする魔法が使えるのですが――それを『こくいんまじゅつ』にする事が出来れば存在を察知されない爆弾を作ったりする事も出来たりするのでしょうか?」

「……サラさんの魔術に使われている魔力は私でも判るものでしたので、可能とは思いますが――まず、私が体系の異なる術式を彫れるようになり、それを見てサラさん達も使えるようになる。……そんな気の遠くなる時間が必要かと思います」

「――――夢はありますが、中々壮大な話になりますね。ちなみに私は暗黒魔導師の名の通り影や闇に関わる魔法が得意なのですが、ラフィーアさんが使える魔法はどんなものがあるのですか?」

「……私が使える属性は光と風ですね。……属性の特性上、光の魔術は使える場面が殆んどありませんので“風舞”や“干渉”といった魔術に風属性の魔力を通して使っています」

「――? その武器から出しているのは火の魔法ですよね?」

「……それは弾倉に入っているのが火の魔石だからです。……私自身は火や炎に類する魔術を使えません」

「ほうほう――」

「……ちなみに、私が使っている風の属性はこんな術式なのですが――サラさんでも理解できますか?」

 

 下層のように床が土であれば簡単なのにと思いつつ、ラフィーアはサラから返してもらった火の魔石に刻まれた刻印を無力化した後、魔石の欠片を擦り付けるようにしながらレンガ地の床に術式を描く。

 

「むぅ……私達の魔法は身体の内で練り上げる方が強いので、外見だとあまり――ですが、意外と簡素なのですね」

「……これは1番簡単な術式ですから。…………難しいのを描くと――――」

「うわ、なんですそのエグイ密度は」

「……私の国元ですと、新しい魔術を如何にして創るか、創られた魔術を如何にして刻印できるようにするかが魔術師達の命題でしたので――難しい術式はたくさんありますよ?」

「それを何も見ないで書けるラフィーアさんは何気に凄いのでは?」

「……まぁ、多数派ではない事は認めますが――凄さで言ったら先程の爆発物の方が凄いと思いますよ? ……私の国元であれ程の規模の物を作ろうとすれば、先程まで使っていた倉庫を全部埋めるぐらいの施設が必要になりますから」

「それはですね――」

 

 そうして才ある2人の魔術談義は大いに花が咲き、瘴気で満たされている事すら忘れて話し込んだ魔女達は互いの顔が青くなって来た所でそれに気が付き、道をこじ開けたというのにすぐに昇る事を諦め、這う這うの体で結界まで戻る事となった。

 




毎回毎回楽しそうに話をするのをスルーされるのは悲しいことだと思うのよ。


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