【完結】『侵胎迷宮を抜けて』二次創作 作:サーデェンス・ロー
ご拝読、ありがとうございました。
後半は流れと台詞こそ完成していますが、時の文が7割程度となりますので1~2ヵ月ぐらい掛かるかと。
お気に入り登録等で掲載待ちをして頂ければ幸いです。
↑嘘吐きました。半年ぐらい掛かりました。
まだ若干の悪臭が残るオーガの元住処――新装した事で中央拠点と存在を改めた工房の中、寝床としても使用する敷物に座るラフィーアは軽く掲げた右手の中で緻密な魔術を組む。
「…………ふぅ」
そうして魔術を発現させたと同時に強烈な脱力感に襲われた祭服の女性は、創りあげた魔石に衝撃を与えない事にだけ意識を集中し――。
「……ん」
どのぐらい気絶していたのだろか、失った魔力の幾分かが回復した事で意識を取り戻した彼女は、今し方創った魔石が無事である事に安堵してから霊薬(マジックウォーター)に手を伸ばす。
イレスから与えられた本業はオーガでもこなせた事からも判る通りの閑職であり――亜人どもの支配さえしくじらなければ何の問題も起こらない平淡な日々を過ごす事が出来た。
勿論、目的も責任もある身でそれに溺れる事は許されないものの、サラの脱出が完了してない以上、イレスの内情に切り込むような動きを取れないラフィーアは時間を持て余し気味だった。
そんな停滞の中、瘴気の毒気が根深く食い込んでいたサラに“浄化”を多用しなければならない現実に差し迫られたラフィーアは、『この施設においては、この使い難い魔術を継続的に使用せねばならない状況に陥る可能性が高い』と考え、新たな魔術を組み始めていた。
そうして造り上げられたのが“浄化”の魔術を刻印したこの魔石であり、ラフィーアがこれまで組んだ術式の中でも一二を争う密度の術式が彫り込まれた魔石を確かめるように透かした彼女はソレを静かに仕舞い込む。
「……サラさんに試した限りですと、きちんと効力を発現出来ていると思われますが――どの程度の深度までを再現出来ているのか判らないのが困り所ですね」
保有魔力の全消失という衝撃によって気絶する心配が無く、任意のタイミングで自由に“浄化”を発現させられるこの魔石の有用性は確かだが、術式が緻密過ぎて衝撃に弱い事は問題として残り続けており、内包された魔術が何処まで保持されるかも検証中となる。
同時に、懇切丁寧に説明したとはいえ“浄化”の魔石の実験を二つ返事で了承を返してくれたサラの人の好さを心配してしまうラフィーアであったが――。
「…………もしも無事に帰れたら、国元での序列が変わってしまいますね」
この魔石が自分の創り出した魔術の中でも歴史に名を残せそうな位の品となっているのは確かであり、第5位以上(そんなもの)よりも欲しいものが出来た身ではあるが、自分の才が成した業に対してラフィーアの顔は知らず知らずのうちに笑みを形作る。
ちなみに、サラに関する状況にも進展があり、“浄化”――ラフィーア自身が施術する方――を続けた事により、施術後に才女を苦しめていた薬物からの離脱症状がようやく発生しなくなっていた。
これによりオーガの手によって飲まされていた瘴気の圧縮毒(?)をサラの身体から抜き切る事に成功したと考えていい筈であり、この村を制圧する前から残したままとなっていた魅了の魔眼による才女との魔力の線(つながり)も、先日解呪した。
「……瘴気自体が未知の存在でしたので、治せるかどうかは不安がありましたが――他の症状を疑う必要が無いのは重畳でしたね」
亜人どもの生態や保菌率は判らないものの、相手をさせられていた数が数だけにサラが置かれていた状況で罹りえる病の事もラフィーアは警戒していた
内容が内容だけにラフィーアとしても言い難い事柄であったが、サラの未来の為にも思い当たる症状が出ていないかの聞き取りも行ったのだが――。
「…………国元では治療法がない病を、ああも簡単に根絶出来る術が存在するとは思いませんでしたね」
しかし、その示唆だけでラフィーアの意図を察したサラは自分が置かれていた状況で罹りえる病の治療法を詳らき――話が話だけに最後は頬を赤らめながらまくしたてる形となったが『取引』に挑む以上、可能な限りの対策と治療法を準備していたとの事だった。
「…………」
それ故に瘴気の圧縮毒(?)が残っている事にこそ驚いたというのはサラの言であるが、1つの抜け穴があれば他の穴を疑ってしまうのがラフィーアの性分であり、彼女は知りうる限りの症例を述べ、才女がその治療法を答え尽くす事で漸く警戒を緩める事が出来ていた。
「…………魔術的な治療方は『クリン』と言いましたか……会得するなり、術式を解析出来れば一大革命ですね」
“塔”の端末が言っていた「かんえん」なる症状に当たる内臓疾患は流石に治せないらしいが、そちらは霊薬(ポーション)や『ヒール』という霊薬や驚異の回復魔法による力押しで持ち直させるとの事で――この悪辣な世界に抗ずる為か、隙がない。
「…………あの『夢』が知っていれば、『彼女』は『夢』にさせられるような事もなく生き永らえられたのでしょうか」
その頼もし過ぎる治療技術を前に、ラフィーアの思考は自分に薬学の概念を植え付けた『夢』へと逸れる。
あの人が見せた『夢』はその全てが人生における教訓を教えてくれる稀有な存在であったが、『彼女』はその中でもラフィーアの考え方に大きな影響を与えた女性だった。
『彼女』の生まれはそれなりの立場にある令嬢であったが、その身からあふれる好奇心を抑えきれず、型に填められる事を良しとしなかった『彼女』は家を出奔し、野に下った。
安全や教育といった権利を享受しておいて義務を果たさないのはどうかと思うラフィーアであったが、才能が有りつつも努力を怠らなかった『彼女』は若くして地方医療の顔役となり、その人生が終わる寸前には出奔した家の枠に実力で入り込んだ女性だった。
「…………」
だが、個人としての力を持たなかった『彼女』は、南方の跳扈を切っ掛けとして、その生涯を手折られる事となる。
「……『彼女』の最期は本当に酷いものでしたね。――本当に」
南方での政変に敗れた将兵による、西方や中央への略奪行動。
資金も人望も厚い『彼女』であったが戦う力を持たなかったその人は南方の暴虐に成す術なく飲み込まれ――貴族の出であった事で容姿にも優れていたのも災いし、殺される事なく『使えなくなるまで』生かし続けられてしまった。
恥辱の果てに治せない病に侵され、医術に名を遺そうとした者が病を治す事も出来ず、失意のまま人生を終える。
「…………」
『夢』にも何人か居る女騎士の1人のように、魔狼の爪牙によって生きたまま自分の腸(はらわた)を食われるのを見せられるような最期に比べればマシと言えるかもしれないが、普通(あこがれ)の生活をしていた人に降り掛かった不幸は、不運という言葉で済ませるにはあまりにも悲し過ぎた。
「…………貴女の無念は、ここに」
他人を助ける事は願いを叶える事に繋がり、それを大切にし、絶やさなかった『彼女』はソレを果たした。
同時に、旦那様の寵愛(しあわせ)を受け続ける為には、自分を守れるだけの備え(ちから)を持ち続けなければならない。
そんな大切な事を教えてくれた『夢』を悼(いた)みながら、ラフィーアは随分と逸れてしまった思案を振り戻す。
「…………もうすぐ、お別れですね」
そうしてこの悪辣な施設において唯一の良い縁であるサラに焦点を戻したラフィーアは、才女に関わる状況を前にして嫌な事から目を背ける猫のように目を瞑る。
その身に残っていた毒気を抜いた以上、才女に対してこの施設で出来る事はなく――ただただ名残惜しいという一念しかない。
旦那様の近く(じぶんのいばしょ)で会ってしまったらと考えてしまうと怖いと思ってしまうのは今も変わらないが、そうでないのであれば時間が許す限りいつまでも語り合っていたい稀有な女性というのがラフィーアにとってのサラという存在である。
しかし、こんな場所ではそんな余分に浸る事は許されず、過酷という言葉で表すのも生易しい状況に晒されていたサラには清浄な空気と栄養状態の回復が必要であり、引き延ばした分だけ完治が遅くなる。
「…………もっと違う形で、出会いたかったですね」
自分が勝負を挑めるだけの身体を維持できているのであれば、負い目を感じる事無く堂々と向き会えていたであろうし、踏み込んで仲を深める事も出来たと思う。
もしくは、こんな地獄のような場所ではなく、たまたま立ち寄った喫茶店やどこかの発表会で出会えたのであれば、何の気兼ねをする事なく語り合い、夜を明かすまで互いの技術を披露し合う事も出来たであろう。
だが、そんな『もしも』は詮無いことであり――――。
「――恐らく、明日の工程で岩盤を突破できるかと」
「………………そう、ですか」
それから数時間後、いつもの会合にて――限りがある事が判っていた『終わり』が訪れる。
「…………脱出路が開口したら、そのまま移動を開始しないと危険ですよね?」
「――はい。……ですので、これがこの迷宮で話せる最後の機会になるかと」
「…………」
予想は出来ていたものの、いざ現実となれば感情を冷え込ますには居られなかった結果に、ラフィーアは地上を見据えるように視線を上げる。
そうして冷え切ったラフィーアの思考は、この土壇場において将来必要になるモノに考え至り――別れる前に思い付けて良かったと自画自賛しながら、その要望を口にする。
「……別れる前に、血か体液を頂けると都合が良いのですが」
「い、いきなりなんでしょうか!?」
自分で言ってても唐突に過ぎるという事は判るものの、これから創るモノにはその要素が必要不可欠であり、次善の策を巡らせなければ安心出来ない性分であるラフィーアは、迷うことなく言葉を続ける。
「……聖都と呼ばれる所からの討伐部隊が来る前にイレスが此処を離れようとした時、あいつが逃げた先を残した資料をここに封印しようと考えています」
「……その鍵に使いたいのです」とラフィーアが続けると、何か勘違いをしていたらしいサラは顔を赤くしながら宝石を突き出してくる。
「私の魔力を込めた宝石です。上手く使えば、私にしか開封出来ない魔導具も創れるかと」
「…………はい、これならば可能ですね」
受け取った宝石を透かし、内包された魔力の流れを確かめたラフィーアは紫色の触媒を祭服の裏へと仕舞い込む。
「――――報告書をまとめるのに使えると思いますので記録用の水晶はこのまま置いていきます。――それと通信符を」
「……通信符?」
「盗聴に使うのを少し改造して通信用にしたものです。――その関係で通信を切ることができないので、聴かれたくない事は喋らないようにお願いしますね」
「…………サラさんも、無線式の連絡手段を持っているのですね……」
国元では手掛かりすら掴めていない術をサラも使えた事に衝撃を受けたラフィーアであったが、それを知る由もない才女は取り出した符を手渡しながら説明を続ける。
「私が脱出を始めたらすぐに通じなくなってしまうと思いますが、援軍と共に戻って来た時に使用して頂きたいので正・副・予備の3枚をお渡ししておきます」
その言葉と共に手渡された符を祭服の裏に仕込んだラフィーアは『少し前から決めていた』通り、目の前に居る自分よりも優れた女性(ひと)を抱き締める。
「な、なんでしょうか……?」
「…………サラさんの内情が判った後、動揺していたサラさんを突き放したのは――わざとでした」
自分の唐突な行動に驚いていたサラの身体が、続いた言葉によって震えたのを感じたラフィーアは「……私の経験則ですが、あそこで慰めたりしたらサラさんが弱くなってしまう。……そう、考えました」と、思いを続ける。
「――――」
「……元凶であるオーガを殺す手筈は整えました。……ですが、そんな事だけで晴れる筈がなく、取り巻きだった亜人どもの多くを殺しても尚、辛かったと思います。……それでも――強く、立ち上がれる人であるサラさんには、そのままでいて欲しかった」
「――どうして、今になってそんな事を?」
「…………人間は元より、竜ですら死から逃れられません。……そうなってから、話せなかった事を後悔しても遅いのです」
内面を吐露するラフィーアの背に手を回したサラは、震えた猫を落ち着かせるように静かにその小さな背に手を当て、その暖かさを受け取ったラフィーアは自分の動機を素直に白状する。
ラフィーア自身はそのような経験を受けていないものの、彼女の旦那様は父であり師父でもあった存在に感謝を伝えられなかった事を今でも苦しんでおり――褥を共にした後、未だに魘される時があるのを見ていた。
「……必ず、無事に聖都へ辿り着いてくださいね? ……頑張ったサラさんが幸せにならないと、世界の算盤が釣り合いません」
故に、ソレを知っているラフィーアは離れてしまう相手に伝えられる限りの事を伝え、サラの身の安全を願う自分の本心を言葉とする。
「――――ありがとうございます。ラフィーアさんも、どうかご無事で」
そうして思いを受け取ったサラは相手の感情を落ち着かせるように撫でていた手でその身を強く抱き締め、最後になるかもしれない会合の中に後悔が混ざらぬように身を寄せる。
――――数時間後、聖都直属の諜報部隊である暗黒魔導師は自らが作り出した脱出路を使用する事によってこの悪辣な施設から脱し、聖都へと歩み出した。
方向性の指針となりますので、評価、感想、お気に入り登録など、お待ちしております。