【完結】『侵胎迷宮を抜けて』二次創作   作:サーデェンス・ロー

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青、そして金と銀灰(銀灰編-後 完結)
吹雪の魔女のお気に入り


「……なにか、御用ですか?」

 

 中層に赴いた青髪の魔女――イレスが労使協定を結んだ同胞の元を訪ねると、目当ての女性はあからさまに不機嫌な態度で雇い主を迎え入れる。

 

「前回の実験材料の回収の際、良い食材が手に入りましたので――お裾分けをしようかと」

 

 教会の意匠とは明らかに異なる祭服を纏った彼女――銀髪の同胞(ラフィーア)の反応は雇用者を迎える態度としては赤点以下の酷いものであったが、イレスはそれを気にする素振りも見せずに同胞を食事に誘う。

 

「…………」

「貴女の技量であれば亜人の統率など片手間に済むのでしょうから、特に用事も無いのでしょう? ――今日の夕刻、6時間後に上層の私の部屋でいかがかしら?」

「…………私に拒否権は無いようですね」

 

 その物言いに対し、同胞はあからさまな溜息をついてから諦めたな言葉を零す。

 

「素直な子は嫌いではありませんよ」

 

 それが同胞に対する今回の試験の始まりであり、時間を指定したことから時計の借用を願いに来るかと思ったもののそんな要請は無く――かといって時間に遅れる事もなく、祭服の女性は魔法壁の前に訪れる。

 

「随分と時間に正確ね」

「…………」

 

 遺物(とけい)の類が無ければ出来ないであろう芸当にイレスが探りを入れてみるも同胞は黙して語らず、魔女はその態度に肩を竦めながらも相手を最上階に引き入れ、自分の私室へと迎え入れる。

 

「――此方へどうぞ」

「…………そちらは上座ですので、私はこちらで結構です」

 

 そうしてイレスが進めた席とは反対側に座った同胞の警戒心の深さに微笑を浮かべながら、魔女は自分が引いた席へと腰掛ける。

 

 この会食の理由が食事という名の労いである事に偽りはないが、イレスと同胞との間に裏が無い事など1つもなく――魔女は既に幾つかの策略を走らせている。

 

 今回の試験の主題はつい先日罠に嵌めた際に得られた情報の確認と捕縛に向けた前準備となり、同胞と自分のグラスに葡萄酒(ワイン)を注いだイレスは「では……我々の繁栄に」とグラスを軽く挙げる。

 

 イレスが先日仕掛けたのは自分が下層に残した書庫を同胞が気に入っている事を餌とした物量包囲戦であり、彼女が中層を空けて下層に潜った際――それを監視していた魔女は途中の階段室に壁型(インターセプター)を配置する事で祭服の女性の帰り道を塞いだ。

 

 それはオーガを含めた多くの亜人を単独で屠った同胞の力を見る為の布石であり、インターセプター以外にも繋がりを強くしたウォッチャーや中層以下には存在しないマジックスライムやリビングフラワーといった魔物を移動させ、包囲網を敷いたイレスの思惑通りに祭服の女性はその力を見せた。

 

『――――』

 

 否。正確に言うなら、イレスはソレに『魅せられて』しまった。

 

 下層では存在しえぬ魔物と遭遇した同胞は、あの奇妙な杖――オーヴムの情報にあった『銃』という兵器に似ている――と威力からして遺物と思われる剣を振るってソレ等を撃退したのだが、その攻撃方法は凡庸の域を出なかった。

 

 『ヒーラースライム群が放った魔法の集中攻撃を無傷で防ぎ切った事に驚きはしたものの、それは装備による効果と思われ――魔導師としても剣士としても、戦闘技量だけを取れば脅威足りえない』

 

 それが戦闘の経過を観察していたイレスの認識であったが、しかし、その過程で現れた1つの魔法によってその評価は一変する。

 

『――竜』

 

 それは伝説に残る強大な魔物であり――同時に、もうこの世界には存在しないとされている生物であった。

 

 同胞が創り出したその姿は影の様に不確かな状態ではあったが、ソレを呼び出した祭服の女性は彼女よりも遥かに強大である筈のソレを難なく使役し、その口腔から撃たせた光は魔法への耐性を特に重視していた筈のインターセプターが苦も無く寸断する。

 

『――――――』

 

 イレスが苦心して作り出したインターセプター――しかも階段室を塞ぐ防御形態――を、3体纏めて貫き、屠る程の使い魔。

 

 『これ程の戦力を秘めているのであればオーガ如きではどうにもならない』とイレスが評価を改めた瞬間、同胞は背後から忍び寄っていたローパーに突き飛ばされ、なす術なく転倒する。

 

『――なるほど……?』

 

 あれ程の使い魔を編み、制御するとなれば隙も生まれる事に得心し、敵対した場合にはその隙を突く事を心に決めたイレスであったが――同時に1つの疑問が湧く。

 

『――――何故、魔法で反撃しない?』

 

 最初の一撃を受けた時に同胞は剣を取り落としていたが、もう1つの武器である奇妙な杖は肩に掛かったままであり、魔導師であれば触れているだけでも触媒としてそれを使える筈。

 

 否。例え無手であっても魔法を扱えるのであれば威力が落ちても魔法を編める筈であり、ローパー如きなら同胞がよく使っている風の刃で容易く切り刻める筈。

 

 しかし、ウォッチャーの視界に映る同胞は服の隙間から入り込もうとするローパーを振り払おうと抵抗しているものの、非力な彼女では抜け出せないのかいいように嬲られている。

 

『――まさか』

 

 その瞬間、脳裏を駆け抜けた馬鹿げた気付きに対し、優秀な魔導師でもあるイレスはあり得ないと否定するものの――現実はそれを肯定している。

 

 イレスが思案を巡らせている間にも同胞は散々いいように嬲られていたが、『竜の影』を呼び戻す事で窮地から逃れ、抜かれはしなかったが大いに乱れた衣服を整えながら『影』と口論するような様子を見せる。

 

『――――』

 

 凡庸な戦闘能力しか持たない同胞への落胆と、それを補って余りある使い魔への好奇心。

 

 否。あれ程の戦闘力に加えて自意識まで持っている可能性すらあるとなれば――あの使い魔に興味を抱くなという方に無理がある。

 

 そんな相反する2つの感情を同時に味わったイレスは、思い返しただけでも身を震わせる衝撃を隠すように葡萄酒を口に含ませ――その時の記憶を反芻する。

 

「(『影』――そういえば、暗黒魔法の使い手には煩わされたわね)」

 

 以前――水と植物に関する研究を行っていたソムデンにおいて、イレスは同胞とは似ても異なる魔物の研究を行っていた。

 

 その魔物が望むモノで無かった事もあり、妨害していた魔導師の排除が済む前にイレスは引き上げたのだが――迷宮の中層や下層に残された手癖を見るに、潜り込んでいる鼠はあの時に邪魔をしていた者と同じなのかもしれない。

 

「――――」

 

 重要な案件ではあるが、イレスはこの試験場にそぐわない事に逸れた意識を目の前の同胞に視線を移す事で修正する。

 

「――貴女がどこから来たのか、そろそろ教えていただけませんか?」

「…………気が付いた時にはこの施設の最下層に居り、飛ばされる前の場所に帰る方法を探している。……そう伝えた筈ですが?」

 

 その始まりとして、イレスは自分の生活圏である最上階の定期清掃を任せた辺りから向けている質問を重ねるも、同胞からの答えは変わらない。

 

「――――転移魔法の事故。その一点張りですか。……この迷宮内に」

 

 地上であれば有り得ない話ではないが、この迷宮には敷設したイレス自身でも突破が難しい妨害魔法が何重にも張り巡らされており、ソレが抜かれたというのは考え難い。

 

「――――――」

 

 あれ程の使い魔を使役する事が可能であり、魔法の類を無力化する魔法を常に身に纏うという尖った才能をこの同胞は有しているものの、物理的な直接攻撃には極めて弱い。

 

 そんな異質な存在がこの迷宮の中に突然現れた理由をイレスは常に考えているのだが――先にも述べたその極端な特性を鑑みると、1つの推察が浮かび上がってくる。

 

「(オーガやその配下が連れ込んだ可能性――この同胞に駆除されたという結果だけを鑑みれば思いつきもしませんでしたが、これならば『ありえる』でしょうか)」

 

 前提として、迷宮の外を渡っている亜人達に不意を突かれたこの同胞は彼等に組み伏せられ、触媒となる魔道具を使う間もなく身包みを剥がされた事で彼等の慰み者にされた、と仮定する。

 

 次の要素として、イレスが実験材料(にんげんのおんな)を使い潰してからオーガに送っている都合上、亜人達はこの迷宮で増える事が出来ず――オーガからの提案により、迷宮の外を渡っている亜人達を何度か引き入れていた事が挙げられる。

 

「(オーガが何かを隠し、誤魔化しているのは察していましたが――それがこの同胞だとすれば、筋は通りますね)」

 

 そうして渡りの亜人達の慰み者として施設内に入り込んだこの同胞は、『娯楽』に飢えているオーガの『玩具』となり――。

 

 オーガ達が油断したか、それともこの同胞の努力によるのか――装備の一部を取り戻した彼女は自らの力によって苦境から脱し、自分を辱めた亜人達を瞬く間に殲滅したのだろう。

 

「(――この同胞が亜人達を殊更敵視している理由も、これならば説明が付きますが……態々嘘を付いている事と、私の知らない服や装備を身に付けている事の説明が付かないのが問題ですね)」

 

 「(とはいえ、『ここに敷いた妨害を抜いて転移して来た』よりも現実味はありますね)」と思案を纏めたイレスは食事を進める。

 

 勿論それも可能性の1つに過ぎず、この世界で唯一『自分の仲間』となりえる存在である同胞の言葉である事から『転移させられた』という世迷言が現実に起こった可能性も捨ててはならない。

 

「(……そうであるならば、その理由がどちらにあるのか――『私と接触させる為に送られてきたのか』、『この同胞を排除する為に飛ばした先がこの迷宮だったのか』を見極める必要が――おや?)」

 

 席には着いたものの食事を進めようとしない同胞を観察しながら思案を巡らせていたイレスであったが、配膳していた食事の内、相手の方に仕込ませていたローパーの気配を感じなくなったのを察した魔女は自分の『主目的』が失敗した事を察する。

 

「(――――本当に、可愛らしいですね)」

 

 それはソムデンで得られた知見の再現であり『胚状態としたローパーを同胞の体内に仕込み、あの使い魔を出していない時を狙って内側から襲わせれば容易に無力化出来るのではないだろうか』という発想に沿った策略であった。

 

 その思い付きの下、この場に配した料理の全てにローパーの胚を仕込んでいたのだが――その目論見は、同胞が施した何らかの儀式魔法によって潰されたらしい。

 

「(――――魔力の属性は光のようでしたが、教会の神聖魔法の類とは似ても似つかない型でしたね)」

 

 ただの光属性の魔法を神聖魔法等と嘯く教会のやり方には反吐が出るが、服装からして異教徒である同胞の術が教会の術と同じである筈がなく、これもまた未知の魔法なのだろう。

 

「(――本当に、興味深い)」

 

 自分の策が潰えたというのに、口に含んだ葡萄酒はいつもより甘く、味わい深いと感じたイレスはそれを舌で転がしながら目の前の同胞から引き出せた情報を整理する。

 

 最初の時に見せた短剣状の魔道具や竜の使い魔といった特異な魔法は脅威であるが、地力の差は歴然――油断すれば命を獲られる危険性がある程度――であり、それを自覚しても尚抵抗の意志を挫けさせない姿はなんとも嗜虐心をくすぐり、過剰なまでに気に掛けてしまっているという自覚はイレスにもある。

 

「(――まぁ……本音を言えば、素直に協力してくれた方が楽ではあるのですが)」

 

 意見の対立は続いているものの同胞の仕事は丁寧であり、管理を任せた中層以下の整備は元より、彼女の方から捻じ込んできた居室の定期清掃はイレスが想像していた以上の結果を示しており――最近は眠った後の喉の調子がすこぶる良い。

 

 しかし、最下層で行っている実験においては密かに妨害している節があり、中層より下に潜り込んでいる鼠の仕業かもしれない事から調査を続けている段階だが、態々準備した実験材料が成果を出す前に焼き殺されているとなれば捨て置く事は出来ない。

 

「…………美味しいですね」

「――満足いただけたようで何よりです。……労使関係ではなく、仲間となるなら3食付きの衣食住を提供しますが?」

「……冗談として受け取っておきます」

 

 そんな思案の中に、ふと零れた同胞の言葉をイレスが拾い上げるものの、祭服の女性はその提案は無碍もなく切り捨て食事を続ける。

 

「それは残念」

 

 これも幾度となく交わしたやり取りであり、今回も断られた事を軽く流したイレスは目を光らせる。

 

 同胞が施した何らかの儀式魔法によって『主目的』は失敗したが、食事の仕方1つ取っても判る事は幾つもある。

 

 まず、同胞がそれなりの上流階級の出である事。

 

 配膳しておいた食器(カトラリー)の扱い方からそれは明白であり、聖都で流行っている様式とは若干違うようにも思えたが、その扱いには明確な品性があり――魔物との交配によって生まれる私達がソレを獲得するには親となる者に相応の地力が必要となる。

 

 これは以前に堂の入ったカーテシーを見せられた事によって生まれた予想を裏付ける証拠となり、これらを合わせれば確定情報と見ていいだろう。

 

 もう1つは、力を図るべく魔物をけしかけた時に見せた不自由な動き――不意を突かれればローパーにすら組み伏せられ、1人ではそこから抜け出せなかった事への検証。

 

「(――巧く隠していますが、注意して見ていれば……何故判らなかったのかが疑問に思えてきますね)」

 

 歩く所作を気にすれば右足を主とした足回り全般に、観察を続ければ左手でカトラリーを扱う度に左肩辺りから薄っすらと魔力が走るのが見て取れる。

 

 そこから導き出されるのは纏っている祭服の奥に隠された同胞の状態であり、四肢の中で無事なのは右腕と左足――否、腰の後辺りにも魔力の反応がある事から、魔法による補強を全て失えば彼女は立つ事すらままならない身体なのかもしれない。

 

「(それほどの傷を、どこで負ったのでしょうかね)」

 

 食事という偽装を続けながら、イレスは対面に居る同胞への思案を回し続ける。

 

 迷宮の中枢がある上層に引き入れる時もある事から、イレスは目の前に居る祭服の女性が同胞である事も当然のように疑っていた。

 

 そして、その判断材料としてイレスが最も信頼を置く遺物、オーヴムによる探査を仕掛けたのだが――。

 

『認証終了。調査の結果、イレス様とも人間とも異なる存在であると確認しました』

 

 という締まらない結果がここのオーヴムの判断であり、『同胞である』と明確に示されなかった事に疑念を覚えたイレスはそれを確かめるべく幾つもの策を走らせる嵌めになっていた。

 

 下層で魔物による包囲網を築いたのもその一環であり、力を見るのと同時に瘴気への適合性を確認する意味も兼ねていた嫌がらせの結果は『見込み有』。

 

 中層にある同胞の拠点から下層へ移動し、意図せぬ戦闘を経てもなお平然としている等ただの人間では出来ない事であり、その結果は眼前に居る祭服の女性が同胞であると認めるに十分な情報であった。

 

 そして、この件の最終判断を下す場がこの会食(ここ)であり――その試験内容として、イレスはこの場に迷宮の5倍近い瘴気を充満させていた。

 

 それはただの人間であれば一呼吸で変異に至る程の死地に他ならないのだが、祭服の女性は何でもない事のように食事を続けており、イレスは今ここに至って彼女を同胞であると断定する。

 

「(――むしろ、私ですら酔いそうになる程の瘴気の中では汗1つかいていないのは……ある種の才能と言えるでしょうね)」

 

 そんな称賛を心の中に浮かべながら、イレスは次の思案に移る起点として葡萄酒を傾ける。

 

 思考を予想で固定するのは危険な判断であるが、その相手が同胞となればある程度の危険を冒してでも引き入れる努力を行い、心を砕いて理解しなくてはならない。

 

「(――そうしなければ、この子は必ず後悔する)」

 

 自分達の性質を理解し、かつ中々に頭が回る存在でありながら――この同胞は、人間の世界に潜みながら静かに仲間を増やすという生温い方策を是としている。

 

 イレスはそんな同胞の意見を『人間の本質(あくい)を舐めている』としか思えない愚行であると断じているが、同時に彼女がその結論に『気付いた』瞬間に命を取られるような事態を避けねばならないとも考えていた。

 

「――――」

 

 この才能に溢れた小柄な同胞に、幾つもの深い傷痕を付けたのが誰なのかは判らない。

 

 自分達と近い亜人をあれほどまでに憎んでいる事から、自分と出会う前に亜人の類が何かしたのかも知れないし、この迷宮に入る以前に出会っていた人間が『余計な事』をした為に愛憎が混ざり合っているのかもしれない。

 

「(――ですが、我々の敵は魔物ではなく人間であり……そう考えていなければ、この子は必ず人間に殺される)」

 

 それだけは絶対に避けなければならないとイレスが決意する中、無音であったが故にカトラリーを置いた音が静かに響き、部屋の空気を揺らす。

 

「…………お招き頂き、ありがとうございました」

「――おや? もうよろしいので?」

 

 それは同胞が食事を終えた音であり、気が付けば自分の前にあった皿や葡萄酒も空になっていた。

 

「……個人の趣味――手料理の域を出ない品でしたね」

「その割には、美味しそうに食べていたようでしたが?」

「………………失礼します」

 

 小言を言う事で抵抗している心算になっているであろう同胞のいじらしさ――。

 

 力による現状変更を封じられ、囀(さえず)る事しか出来ない小柄な彼女の口撃をイレスが笑って撃ち落とせば、祭服の女性はそそくさと帰り支度を始める。

 

「――魔法壁はすぐに再起動します。忘れ物などしないように」

 

 その背中にイレスが言葉を送れば、同胞は魔女に向き直ってからのカーテシーで応じ――静かな足取りで部屋を後にする。

 

「――――可能なら、実験材料に回すような事はしたくありませんね」

 

 そうして最上階と上層とを繋ぐ階段を塞いでいる魔法壁を操作したイレスは、そんな詮無い言葉を零す。

 

 同胞を実験の材料に出来れば研究が大きく前進するのは確かであり、いつまでも抵抗を続けるというのならばそのような判断も選択肢に入れなければならないとイレスは考えていた。

 

「ですが、貴重な同胞であり――それが有用な才能を持っているとなれば、流石に惜しい」

 

 物事を客観視し、理論建てて問題に対処しようとする同胞の考え方はイレスにとっても好ましいものであり、対立の原因となっているのが人間に対する認識の違いだけとなれば――それ故にままならないと魔女は考える。

 

「――単純な同胞であれば人間の愚かさを見せ付ける事で対処する所ですが、それを理解した上で融和策を取っているとなれば……崩すのは難しいですね」

 

 信じていた人間に裏切られた瞬間や築き上げたモノが奴等の本質(あくい)によって蹂躙される瞬間を救い出すような事にならなければ、あの同胞の考えが覆らないのは明白であるが――。

 

 同胞の能力の高さは柔軟な応用力に繋がっており――そんな彼女が危機的状況に陥るような状況となると、自分の力をもってしても『救える隙間』が無い可能性が高い。

 

「――――まぁ、時間は私達の味方です。……慎重に進めましょう」

 

 そうして何度目かになる『同じ結論』に至ったイレスは開放した魔法壁を閉じ、研究室へと足を伸ばす。

 

「――最下層での成果が出るまでに出来る事となれば、戦力の増強ですが……インターセプターの強化では、あの同胞に対して厳しいか」

 

 無類の防御力を有するインターセプターは聖都の諜報部隊に囲まれたとしても生き残れる程の力を持つイレスの傑作だが、あの『影のような竜』が持つ火力とは相性が悪過ぎる。

 

「となれば――」

 

 性能は瞬発力を最も重視し、攻撃力はあの矮躯を一撃で無力化出来る程度の魔物。

 

 自然環境においてはそのような魔物は存在しないものの、適当な素体を見つけられれば調整は容易だろうと当たりを付けたイレスは、その処置に必要な薬品を纏め始めた。

 




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