【完結】『侵胎迷宮を抜けて』二次創作 作:サーデェンス・ロー
最上階に辿り着いた後にも上層と同じ種やそれ以上に手強い魔物達の襲撃は続いたものの、閉所故に数十体を同時に相手にするような事態に陥らなかった為に探索自体は順当に進み――。
「――ここに、コレを刺せばいいのね?」
西方向に突っ切った先にある区画の端に辿り着いたミーナは、後ろに控えているラフィーアが指し示したままに刃の一部が欠けた儀式剣を鍵穴へと突き入れる。
「…………本当に――手の込んだ仕事をするものですね」
そうして解かれた封印を前に、ラフィーアは思わず言葉を零す。
形状が剣を模している事から聖騎士は鍵であるソレを補助武器として荒っぽく扱っており、『もしかしたら開かないかもしれない』とラフィーアは危惧していた。
しかし、イレスが作製した儀式剣はそれでも鍵としての機能を失っておらず、その強度と丁寧な仕事にラフィーアが感心していると、彼女の呟きを目敏く拾っていたミーナが不思議そうな視線を向ける。
「――? ラフィ、どうしたの?」
「……いえ――扉の鍵を剣にするなんていう手の込んだ事をする凝り性に呆れていただけですよ」
イレスに対して詳らかに出来ない感情を持っているラフィーアは「……それよりも、目的の物はこの先ですよ」と先行する事でミーナを誘導し、決戦において自分達の力になるであろう稀魔石の輝剣の元へ聖騎士を誘う。
「――これが?」
「……はい。……イレスがこれをどうやって入手したのかは不明ですが、彼女も私も本業は術者の類ですから死蔵していたのでしょうね」
「確かに――ご大層にしまい込まれているだけの事はあるみたい」
剣身を目利きし、何度か素振りを済ませたミーナはそう洩らしてから輝剣を鞘に収める。
「……これで、この施設を生かしておく理由が無くなりました。……この階層の入口に戻ります」
「了解。――ラフィって、たまに物騒な言い回しをするよね」
「……事実ですので、問題ないのでは?」
「――ま、それもそうね」
そうして有力な武器を得た2人は来た道を戻り始める。
尚、サラのような常識人がこの場に居れば「1人の女性としてその物言いはどうなのでしょうか」と突っ込みが入った事だろうが、幸か不幸かこの場にはそのような配慮が出来る才女は居らず、無骨な戦人達は決戦の地へと駒を進める。
「…………」
「――――」
強力無比な剣を得た事もさることながら、最上階を警備する魔物が『遺物を傷付けない』という調教を施してから配置される都合上、補充が早々に効かない為に戻りの道のり平坦であり、2人の歩みは速い。
「(……とはいえ、なるべく早くにここの無力化を済ませたい所ですが)」
しかし、それでも焦りを抱くラフィーアは“風舞”を強め、先を行くミーナに迫る事で聖騎士を急かしに掛かる。
「――ラフィ、そこまで急ぐ必要があるの?」
「…………ミーナさんは、魔術師の工房というもの舐めているようですね」
そんなラフィーアの動きを察したミーナの呑気な返答に、祭服の女性は無知への怒りと幾分かの呆れが混ざり合った声音でソレを窘(たしな)める。
魔術師の工房とは、彼等の家であり研究所であるのと同時にその全てを守る攻撃城塞である。
それが如何に悪辣で辛辣で面倒くさいかを説明しようと口を開きかけたラフィーアであったが、その視線の先に目的となる部屋の壁を見た彼女は応えを発するのを止め、竜血石を首から外す。
「……偉大なる御竜に、……我は願い、……奉る」
『竜の影』の連続使用などこの施設に現れる前までは考えもしなかった事であるが、この世界に在る霊薬はその無理を可能とし――。
「……我は竜姫。……御竜の名を示す光なり」
それによって回復しておいた魔力を呼び水に、ラフィーアは『盟友』の『影』を再度顕現させる。
「……何度も、お呼び立てして――申し訳、ありませんが……」
『―――――』
“障壁”を失い瘴気に侵され始めたラフィーアが再三の呼び出しに礼を尽くそうとするも、仕事は出来る『竜の影』は『判っている』と伝えるように視線を振ってから口腔に光を集め、翼を広げる事でゆっくりと飛び上がる
「――飛べたんだ」
その背に翼がある事を思えば当然と言える現実にミーナが言葉を零す中、先んじて広間に侵入した『竜の影』は天井と壁との間に尾と背中を付けると、口腔に溜めた魔術(ひかり)を放つ。
その光の反動を壁に流す事で身体を固定した『竜の影』は、そのまま首を右から左へと振り――全てを切り裂く光の剣と化した炎息の斬撃は目の前にある部屋の壁と天井とを切り離す。
「――っ!? 何? 照明が赤く……?」
「……この施設を、破壊すると――伝えたでしょう……?」
その変化を事前に想定していたラフィーアはミーナのような動揺を見せず、そんな2人の前に土煙と共に着地した『竜の影』は地面ように伏せる首を下げる。
「……入口を守っていた魔物が、先に反応するかもしれません――警戒を」
先を見通しているかのようなラフィーアの言葉と共に、非常灯(あかいひかり)に満たされていた周囲を白一色に染める2射目の炎息が床を舐めるように走り、2人の眼前を占めていた部屋の壁が残らず崩れ落ちる。
そうして露わになった部屋の中心には炎息と似たような光を発している結晶体が浮いており――炎息の連続照射によって存在が消えつつある『竜の影』は、最後の魔力を振り絞るようにその矛先を形容しがたい動力炉(けっしょうたい)に向ける。
「部屋の入口を守っていた奴が来るけど、迎撃する?」
「……ベネイア、の方が……速いです。……まずは、爆発への防御を――」
ミーナの警告にラフィーアが応えた瞬間、『竜の影』が放った炎息が光を発する物体に突き刺さり――。
「――――っ」
供給路を切り落とされ、行き場を失っていた魔力を溜め込んでいた動力炉は炎息によって穿たれれた衝撃によって限界を迎える。
「ラフィ……っ!」
瘴気の影響で身動きの取れなくなっていたラフィーアをミーナが抱き込み、殆ど存在を失った『彼女(かげ)』もまた自分達の前に影が立ち塞がったのを知覚した瞬間、2人の感覚が光に染まり――その衝撃が途切れた瞬間、聖騎士は保護対象の防護から驚異の排除へと動く。
「はっ! でぇぃっ!」
ミーナが抜き放った剣の先には、動力炉の爆発によって体の端々を欠損した巨大な壁型が居り、そんな状態でも敵の接近に反応した触手を聖騎士は切り払い、その巨大な本体を寸断し、それでも動き続ける物体を彼女は切り刻んでいく。
「――――ホントに、大広間にしちゃったわね」
そうして動く物が無くなったのを確認したミーナが周囲の気配を探り――随分と見通しが良くなってしまった周囲の景色を前に、呆れるような言葉を洩らしながら剣を収める。
「……っ、ぅ――」
「っ、ラフィ……!? ――まずは、薬でいい?」
「…………はい――ですが、それだけでは……足りそうに――――箱の……結晶を――砕いて」
そんな中、これまでとは比べ物にならない程の瘴気に息を詰まらせているラフィーアを捉えたミーナは、その急変に焦るように倒れている矮躯へと駆け寄り、その掠れた言葉に従って応急処置を開始する。
「箱の結晶って貴女が言ってた“浄化”の魔石の事よね? ……っ! だめ、意識をしっかり持って!」
「(…………これならば、勝ちは揺るぎないでしょうか?)」
動力炉の破壊によって瘴気の濃度が上がった事は想定外であったが、力押しの急襲案を実行すればここで自分が倒れるのは予測通りであり――。
「――を、見――。……っ、目――開け――」
まるで今生の別れを前にしているように焦るミーナの声を耳に留めながら、『これほどに想定との差異が無いのであれば、この先の勝利も揺るぎない』と確信したラフィーアは薬の効率を高めるべく五感を閉ざし、体内の魔力循環を促す事で薬効を向上させる。
「(…………ミーナさんを引き入れたのは、やはり正解でしたね)」
敵地でこのように治療に専念出来るのは強力な戦友が居るからこそ出来る余裕であり――目の前に迫っている決戦に備えるべく、祭服の女性は静かに意識を手放した。
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