【完結】『侵胎迷宮を抜けて』二次創作   作:サーデェンス・ロー

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再開です。

本編終了まで届かせたいものです。


突き放す

「何をしたのかは判りませんが……目元に傷が残ったらどうする心算だったのですか?」

「…………」

 

 結界が張り直された部屋の中、椅子に座らされたラフィーアはサラの細やかな指の感触と呆れたような視線に目を逸らし、ばつの悪い沈黙を続けていた。

 

 あの後、階段の途中で動けなくなってしまったラフィーアはサラと彼女が使役する使い魔によってこの場所にまで運ばれ、大変不本意ながら自分が詰(なじ)った相手にされるがままの治療を受けていた。

 

「…………怒り過ぎて目の血管が切れただけです」

「つまり、あの暗示のような魔法を使った反動ではない、と」

 

 霊薬(ポーション)を水で薄めた手拭でラフィーアの目元を拭うサラは、手を動かしながらも相手の言動の端々から魔眼の情報を拾っていく。

 

「…………」

「――はい、これで綺麗になりました。次は腕を見させてもいます」

 

 その抜け目のなさにラフィーアが感心している中、血に汚れた手拭を片付けたサラは新しい霊薬が入った小瓶を手に取ってから戻ってくる。

 

「……あとはそれを飲ませてくだされば、それでいいです」

「局部なら塗った方が早いですし、効きが良くなります。――薬の類も少ないのですから、あまりわがままを言わないでください」

「…………肩に掛けている外衣から脱がせてください。……その下に着ている上の布鎧とブラウスを脱げば、多分全部見えます」

 

 ラフィーアはサラが離れたのを機にこの不甲斐ない状況から脱しようとするものの、効率という理詰めの回答に抵抗を諦めた彼女は装備の外し方を教え、その説明通りに白い少女の後に回った才女は少女の装備を脱がしていく。

 

「――っ」

 

 その最後に防具としての機能を持たないブラウスの袖がラフィーアの腕を通った瞬間、それを成したサラはあまりの惨状に息を呑む。

 

「……貴女の服が、思ったよりも魔力を通さなかった所為です」

「大人は誰かの所為にしないものですよ。――まったく、こんな無理をして」

 

 内出血と炎症によって青と赤の斑に染まっているラフィーアの右手に霊薬の原液を垂らしたサラはその細い指に薬を巻き込こませながら塗り伸ばしていく。

 

「…………」

 

 口では強がっていたものの、実の所は痛みが強すぎて動かす事も出来なかったラフィーアの腕はサラの指がなぞる度に感覚を取り戻していき、垂らしていた霊薬の水気が抜ける頃には青と赤の斑はだいぶ目立たなくなり、白粉でも掛ければ直視も出来る程度にまで回復する。

 

「……左手は自分でやります」

「しばらくの間、動かさない方が治りが早くなりますのでじっとしててください。――貴女は私の前衛なのでしょう? こんな事で無理をして、肝心な時に動けなくてもいいのですか?」

「…………」

 

 そのされるがままの状況に抵抗しようとラフィーアは言葉を発するものの、サラから続く理詰めの回答に沈黙以外の対応を封じられた彼女は借りてきた猫のように目を瞑る。

 

 そして、白い少女の扱い方を理解したと見えるサラは口元に薄っすらと笑みを浮かべてから左手にも同じような治療を施していき――。

 

「…………?」

 

 薬を塗り終わった才女はラフィーアの背に回り、白い少女の事を捕まえておくようにその矮躯を浅く抱きしめる。

 

「――嫌では、ありませんか?」

「……嫌がる理由が――怒りますよ」

 

 その言動に疑問を抱いて後ろを見上げたラフィーアだったが、サラの恥じるような言葉の理由に考え至ったラフィーアが怒気を示すと才女は白い少女の両肩に掛ける力を強くする。

 

「――――今から私の都合を話しますので、逃げられないようにと」

「……私は猛獣か何かですか」

「そうですよ? ……一見すると淑やかな子猫さんに見えますが、撫でてみると物凄く獰猛で――それ以上にとても優しい白豹さんです」

「……言いたい事はありますが――どうぞ」

「――――詳細を説明するとラフィーアさんを怒らせるだけですので、経緯については結論だけ」

 

 そう言って幾分か身を固くしたサラは、静かにこれまでしてきた事を語り始める。

 

「この迷宮に潜入した時、私は上の階でオークやゴブリンの纏め役をしているオーガに捕まってしまって――そいつから持ち掛けられた『取引』に乗った事で私は生かされ、迷宮の調査も黙認されていました」

「…………イレスとそのオーガという存在とのやり取りの頻度は判りますか?」

「判りません。ですが、彼等の相手をする『まとも』な女性は私だけのようでしたので――オーガは私をイレスに売り渡すという手段は取りたくないようでした」

「…………」

 

 わざわざ『まとも』と表現する意味が判らなかったラフィーアであったが、この迷宮で気が付いてから初めて見た光景とサラの言動とが繋がってしまった彼女は強く瞼を閉じる。

 

「…………脱出の準備が出来ていると仰っていましたが、どういう意味ですか?」

 

 敗北すればどうなるかの再認識。サラがこれまでに受けていた事。

 

 それらの現実を前に粟立っていた感情を落ち着かせたラフィーアが先を促すと、サラは言葉を選びながら説明を再開する。

 

「――オーガ達の相手をする事で稼いだ時間を使い、亜人には察知する事が難しい陣地を作った私はそこから迷宮の外へ向かって脱出路を掘り始めました」

「…………」

 

 そうして続けられた意外に過ぎる手段――ラフィーアの常識では土の魔術が使えない筈のサラが魔術による掘削を進めている現実を前に『自分が居た世界とは本当に違うのですね』と諦めを強くした白い少女は現状だけに目を向ける。

 

「………………交戦を避けて脱出する為に、ですか」

「――はい。ここから2階層上の迷宮の悪辣さはこれまでの比ではなく、再調査や突破は不可能だと考えました。……脱出路も地表近くにまでは到達している筈ですが、不自然に硬い岩盤が邪魔をして進行が遅れています」

「……不自然――何らかの妨害が掛かっていると?」

「はい。イレスが居ないと聞いていた時期にも機能してるみたいなので、何らかの道具によって防護が働いているんだと思います」

「…………それが設置されている場所の目途は立っていますか?」

「恐らく3階層上――最上階が怪しいと考えていますが、魔物の数と施設の構造から対処は難しいと考えています」

「………………」

 

 作業を継続できる期間がオーガとイレスの対応次第という綱渡りな所もあるが、サラの語るそれは彼女一人で実現可能な最善手であった。

 

 それは確かな事実であるが、尊厳を踏みにじられた後でも行動を起こし、継続させられるサラのような強さのない自分には立案すら不可能な計画であり――それを認める事の出来ないラフィーアは決裂も視野に入れて言葉を編み始める。

 

「――防護の中を掘り進めるのは時間が掛かりますけど、イレスと接触する危険はありません。……ラフィーアさんの気持ちは十分に判りましたが、時間さえ稼げば安全に脱出できるのです。心配しないで待っていてくれませんか?」

「……状況は理解しました。……今後の事を相談する前に――サラさんの信頼を得るべく、私の切り札をお見せします」

「――――ラフィーアさん」

「……過去は変えられませんが、変えられる未来を見過ごす事を私は許せません。……それが私の意思であり、それでも強行するというなら――私1人で上層に突っ込んで、貴女のした事は無駄だったと笑ってあげます」

「――――」

 

 ラフィーアからは、背後から自分の事を抱えているサラの表情を伺う事は出来ない。

 

 怒っているのだろうか。それとも、無謀な戯言と憐れんでいるのだろうか。

 

 しかし、どう転んでも自分の感情の為にサラが築いた物を無意味にする事を決めていたラフィーアは、その表情を見なくて済んだ事に感謝しながら行動を起こす。

 

「……放していただけますか?」

 

 そう言って自由を得たラフィーアは近くの机に向かい、そこに置かれたままとなっている布鎧の上着の内側――背中の部分に施してある幾つかの刻印魔術を解き、隠していたソレを開封する。

 

「――ぇ……ひっ!?」

 

 開封した事で唐突に発生した魔力に驚いたと思しきサラは、振り返ったラフィーアが手に取っていた緑色の宝石のような短剣――それに詰まっているその魔力量を前に、年頃の女性が発するのは拙そうな悲鳴をあげる。

 

「私が魔力を注ぎ続ける事で創った魔石の剣。それが“私の杖”でして――8年の時間を費やしたこれには、私が使える魔力の実質総量5年分の魔力が詰まっています」

「――――つまり、単純計算でラフィーアさんが使える1800日分の魔力が使い放題、と?」

「……いえ、部分開放は出来ないので1800日分の魔力を1回で使い切る必要があります」

「――――」

 

 創ってしまったラフィーア自身ですら馬鹿げていると思える術具に対し、サラはふらりと頭を抑える。

 

「……勿論、それだけの魔力を費やせる術式も幾つか考えてありますので――最適な状態で使用すればイレスという存在にも十分な切り札になるかと」

「でも、一度きりなのですよね? ……オーガの体表は私が万全の状態のシェイドでも溶かすのに苦労する程ですので、ラフィーアさんが普段使っている魔石銃(ぶき)でも即死は望めません。そうなれば村全体と戦う事になります」

 

 術士であるが故にラフィーアの“杖”のような物体が存在する事への衝撃が大きかった筈だが、非凡な才女はこれから先の戦場を見据えた質問を向けてくる。

 

「……対亜人戦は、この“目”を主軸として切り抜ける予定です」

 

 そんな才女に際し、ラフィーアは先程使用してしまった魔術――自分の意思で全力を出してしまった以上、これからは使い続ける事になるであろう魅了の魔眼に魔力を通す。

 

「――――上の階層での事は、暗示のような魔法ではなく魔眼の類だったのですね」

 

 そのラフィーアの変化に対し、術士らしい探求心を光らせたサラは白い少女へと近づき、その目元を先程の淑やかさとは異なる手付きで撫で、薄く光を発する緑色の瞳へと“目”を凝らす。

 

「……サラさんは、こういった“目”について何かご存知ですか?」

「――暗示と併用したものは聞いたことがあります。……ですが、なんの前準備もなく、あれ程の短時間であのような効果を及ぼせるものとなると、それは――」

 

 『魔物が使うもののようですね』

 

「…………」

 

 サラが敢えて言葉にしなかった彼女の優しさ(つづき)を察してしまったラフィーアは“目”に通していた魔力を切り、自分を見ている才女の事を見据える。

 

「…………基本的には私が勝手に動く作戦を共有するだけになります。……乗るか、隠れるか、利用するかはサラさんが選んでください」

 

 




本作を書く前(ピクシブに1枚目のイラストを上げた頃)はサラさんが〇〇されていた期間は最低でも1ヵ月以上と想定していましたが、本作建造にあたり原作を何度も見直していると意外と短い期間? と取れる状況もある。
まぁ、それだと〇〇連中が全員経験済みな言動が疑問になってしまうのですが。
(短期間だと体力的に死んでしまう)




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