【完結】『侵胎迷宮を抜けて』二次創作 作:サーデェンス・ロー
「……主題としては、電撃作戦で行きたいと考えています」
「――えっと……単語の意味が判りません」
「……一気呵成に脱出まで図る、という意味です」
その言葉はラフィーアの考えた作戦を要約した良い言葉であったが、確かに連邦側が発祥の単語で判る筈もないかと納得した彼女はそう言い直してから説明を再開する。
「……オーガの排除とあの村の掌握、イレスの急襲を警戒しながらの脱出経路の点検を明日1日で済ませ、その次の1日で脱出の為の行動――もしくは襲来するイレスの撃破を実行します」
「――—―イレスと直接事を構えると?」
「……“私の杖”を万全な状態で使うにはある程度の集中が必要ですので、瘴気の中を進んだ先ではその真価を発揮できません」
考えたラフィーア自身も詳細のよく判らない敵と戦闘状態に陥る事は避けたいと考えてはいるが、『遭遇したら諦めて死にます』では作戦として破綻しており、動く以上は選択肢を用意しておかなければならない。
「……とは言え、イレスとの会敵は最悪の状況として想定しておくだけで、目的は脱出を主眼としており――その為にオーガは暗殺せず、亜人の衆目の中で堂々と撃破しながら魅了の魔眼を使う事で村全体を掌握。……情報を遮断する事でイレスが察知する可能性を減らします」
「――信じますからね」
「…………共有はしていますが、これから事を構えるのは私だけです。……サラさんが協力したいと仰ったとしても、オーガを倒す瞬間までは部外者として推移を観察するだけに留めて欲しいので、お気になさらずに」
「――――」
ラフィーアの突き放すような言葉にサラの目が光り、尊敬する人にそんな視線を向けられる事は対人経験の乏しいラフィーアの精神を大きく削ったものの――。
「…………先ずはオーガの排除までですが――甲作戦としましては、先程見せた“杖”を使う事なくオーガを倒す計画です」
サラの行ってきた齟齬の無い計画を崩すような横槍を入れる以上、それを進めていた者に被害が出る事はあってはならないという決意により、ラフィーアは揺らぎそうになる自分を踏み止める。
「――可能なのですか?」
「……サラさんから聞いた限りの情報ですと、9割方は成功できる目算ですが――想定よりもオーガが強く、不可能だと判断した場合には迷うことなく“杖”を使用します」
先程サラから聞いた通り、火の魔石弾による攻撃が通用しない可能性があるとラフィーアは想定している。
しかし、対装甲目標用として使っている奥の手ならばその守りを抜ける筈――というか竜の方々ですら貫通させる事の出来る魔術が通じない生物が居るとは思えない――であり、十分な手順を踏んで当てる事が出来れば勝ちは揺るがないと彼女は考えていた。
「……“杖”を使ってしまった場合には乙作戦となります。……こちらではイレスに有用と思われる対抗手段を失っている事から猶予を削る事になりますので、村の掌握が済んだ私はサラさんからの脱出路の報告を待つことなく上層へ進出」
とはいえ、戦場に絶対はない事から柔軟性を捨てていない事を示したラフィーアは、『多分怒られるのでしょうね』と思いながらも変更する心算のない決定を言葉とする。
「私が防護の発生装置を破壊したら、サラさんは私の事を待つことなく地上へ脱出。身の安全を計りながら聖都と呼ばれる場所へ帰還してください」
「ラフィーアさん!」
「……脱出の段階では、甲作戦乙作戦ともに私が遅れて脱出する流れに変更はありません」
「――――我儘を引っ込められなくて意地になっているのなら、協力しませんよ」
「……これは私の作戦であり、サラさんにはサラさんが描いていた計画があります。……オーガの撃破後に陣地はお借りしたいですが、それ以外の支援は無用です」
甲作戦の終盤で隠蔽工作に協力してほしいとは思うものの、これは自分が自分である事を維持する為にラフィーアが出した結論であり、既に彼女はサラという要素を排除した状態でイレスの対処までを考えていた。
「――――本当に強情なのですね、貴女は」
「……貴女のように強くない私は、自分を突き通す以外に生きる術が無いだけです」
ただ生き残るだけであればサラが選んだ地獄を黙認し、それを続けてもらうのが最適解となる。
次善の策を練るならば、オーガを含めた亜人型全てをラフィーアが魅了する事でそいつらからサラという存在を忘れさせるという事も考えられる。
だが、それを認める事も、そんな事があった事も許せない自分は行動を起こすと決めた。
そして、自分から事を成す以上、実害が届く対象を自分だけに留めなければならないのが絶対に譲れない責任であり――ここから先は1人で進める事をラフィーアは決めていた。
「…………貴女に関わりのある話は2つ。……1つは貴女自身の身の振り方を見極めるべく私の戦闘経緯を見ていて欲しい事。……もう1つは私が“杖”を使わずにオーガを倒せそうな時――“浄化”を使った時のような言葉を私が発した時ですが――オーガの背後の空間にシェイドを撃って隠蔽工作に協力して欲しい。……この2点のみです」
「――オーガは私の魔法を防ぐ装飾品を持っています。援護は意味がありませんが」
「……シェイドで狙って欲しいのはオーガではなく、そいつを貫いた私の魔術です」
「何をしているのですか?」
2人が出会ってから今に至るまでの間、これほどの緊張感が継続した事はないであろう空間の中――仮眠に入る準備を整えたラフィーアが成している魔術を見遣ったサラは、遠慮がちに間合いを詰めながら疑問を投げ掛けてくる。
「……眠る前に、余った魔力を形にして残しておこうと思いまして」
そんなサラに対し、心なしか緊張を帯びたラフィーアは今し方生成したばかりの風の魔石とソレに刻印を施す事で魔石弾とした加工品を才女に見せる。
「――結構盛大に消費されてましたが、補充にはやはり時間が掛かるものなのですね」
「……はい。……手作業では時間ばかり掛かってしまうので嫌なのですが、隙を作る為の弾が必要になりますので」
風の魔石弾は火の魔石弾よりも直接的な加害に向いている事からオーガにも通用する可能性はあるものの、総合的な威力は火の魔石弾と比べるべくもなく、無駄になる可能性の方が高いとラフィーアは考えている。
だが、『無駄になる事』こそが彼女の想定する流れを作るのに必要な手段であり、白い少女は面倒と思いながらも刻印を彫り込んでいく。
「…………専用の術具があれば、魔力を通すだけで1弾倉ぐらい作れますのに」
「――――そうですよね。消耗品なのでしたら大量生産の技術も確立されてますよね……」
「……?」
そんなラフィーアが零した呟きを前に急に落ち込みだしたサラに怪訝な顔を向けたラフィーアであったが、そのまま10発分(ひつようなかず)の魔石への刻印を済ませた彼女は入口へと歩き出す。
「――――今度は何をしているのですか?」
「……入口を封鎖しているだけです」
緑色の短刀――風の属性魔術を刻印した自慢の術具と、国元での支給品である魔導鋼線を組み合わせる事で急造したコレも明日の対オーガ戦でも使用する予定の武器であり、この行動はその事前確認という意味もあるが、今の時点ではサラを逃がさない為の檻を作るという意味が大きい。
「……仮眠中に1人で上に向かって台無しにされても困りますから」
「――お好きにどうぞ」
そう言って部屋の隅へと戻ったサラは座り込みながら壁にもたれ掛かり、作業を終えたラフィーアもまたその反対側の部屋の隅で同じように座り込む。
2人が座り込んだ部屋の端とは違う端には仮眠用の寝台があるというのに、それを避けるように座る自分達はなんとも滑稽だとラフィーアは思うものの、そんな感情を譲れない彼女はそのまま瞼を閉じる。
「(…………好ましいと思っている人と喧嘩をする事はありましたが――)」
『そんな状態の相手の為に戦おうと思う事もあるのですね』と、自分が成そうとしている事に呆れながら――しかし、覆す心算のない決意を抱きながら白い少女は意識を溶かしていった。
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