インペルダウン最下層の自由人な囚人  完   作:ケツアゴ

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 海底監獄インペルダウン、世界政府の威信の元に運営される難攻不落の要塞と言える場所。

 その中には賞金額が億を越えている者や表沙汰に出来ない重大犯罪者も収監されており、現在の所脱獄に成功したのは空飛ぶ海賊“金獅子”のシキのみである。

 

 

 だが、脱獄こそしていないが騒動は起きている。

 ……それこそ頻繁に、それも同じ囚人によって……。

 

 

 

「脱走! 脱走だぁ!!」

 

「またあの男かぁ! 食糧庫!」

 

「既に荒らされています! ついでに副署長の部屋から酒を持って行かれました!」

 

「囚人消毒用の大釜!」

 

「タオルと石鹸を持ち込んで入浴済みです!」

 

 この日、脱走したのは最下層、存在すら秘匿されるレベルⅥ無限地獄に()()()()()()()()()()老人だ。

 囚人がやって来た時に殺菌消毒の名目で投げ込まれる煮えたぎった大釜は一目で入浴後だと分かる有り様で、石鹸の泡やら使った後で干したタオルやらがある。

 これでは実際に投げ込むまで囚人への威圧感が減ってしまうだろう。

 

「署長は何処だっ!?」

 

「トイレです!」

 

「あーもー! これを機に署長になりたい!」

 

 この様な騒ぎ、実は週に一度や二度は起きている。

 囚人達も騒ぎには慣れているのか騒ぎが忙しくて拷問が疎かになる為か平然としていた。

 

 

「糞っ! ルヴァイドォオオオオオ!!」

 

 そんな脱走常習犯の名前はルヴァイド、海賊王ゴールド・ロジャーの元クルーである。

 

 

 

 そんな彼が何をしているのかというと……。

 

 

「あ~、整う。灼熱地獄の後の極寒地獄は最高じゃな」

 

 雪の中に体を埋め、灼熱地獄で火照った体を冷やしていた。

 本来数千万から億近くの賞金首でさえ拷問として成立し、凍り付いて動けなくなる場所でさえサウナの後の水風呂程度。

 緑色の髪をオールバックにして逞しい巨体、それが上半身裸の状態で雪に寝転がって降り積もる雪を気にもせずに凍り付いた分厚いベーコンを口に運び、凍ってしまったウイスキーを口の中で噛み砕く。

 

「グルルルル……」

 

 ルヴァイドの耳に届いたうなり声と雪を踏みしめる足音、他の階層にて囚人を襲う役目を持つ猛獣すら食べてしまいかねない凶暴さ。

 

「なんだ、軍隊ウルフ共。儂に相手をして欲しいのか?」

 

 上半身を起こし、肉を食い終わった骨を手に取るなり振り上げる。

 

「ほら、取って来い!」

 

「ワウーン!」

 

 勢い良く投げられた骨を軍隊ウルフ達は我先にと追い掛けて行く。

 先頭の一匹が空中でキャッチし、尻尾を振りながらルヴァイドの元まで持って行くなり再び投げられたのを追い掛ける中、三度目を投げようとした彼の手が止まった。

 

「今回は少し早かったな。おい、お前達。遊んでやるのは此処までだ。五月蠅いのが来たからな」

 

 もう一度骨を投げ、軍隊ウルフ達が骨に視線を奪われた瞬間、彼の姿はその場から消え去り、五分後に荒い足取りで所長であるマゼランが姿を見せた。

 

 

「彼奴め、本当に忌々しい奴だ」

 

 肩を落とし、毒を含むため息を吐き出したマゼランは表情を引き締めると歩き出した。

 

 

 

 

 

 

「ふんふん、クロコダイルの奴が七武海の資格を剥奪されて逮捕か。此処に来るかも知れんの」

 

「大佐如きにやられただと? 馬鹿馬鹿しい。前半の海での半隠居で幾ら鈍ってもおれと渡り合ってた奴だぞ。ガセだな」

 

 三日に一度のサウナを済ませた儂は自宅である無限地獄へと戻り、自分の檻に入る前にバレットの奴にハムと酒を差し入れ、新聞を貸してやっていた。

 普段ならば酒を飲みたくとも飲めない連中の恨めしそうな姿を肴に朝から飲むのが悪くはないが、同じ船に乗っていた仲間なのだし偶には良いじゃろう。

 

 まあ、新聞は失敗だったかも知れんがな。

 ロジャーの最期の言葉、新時代を願っての物だったが結果は宝目当ての中途半端な連中が熱に浮かされただけ、その上で自分とやり合っていた相手がこのざまではな。

 脱獄を視野に入れて鍛え続けとるし、儂も時々相手をしてやっとるが、血の気の多い若造には困ったものじゃよ。

 

 

 

「ルヴァイド、貴様本当にいい加減にしろ!」

 

「おっと、五月蠅いのが来よった」

 

 ロジャーとの最後の航海を終え、シャンクスやバギーは自分の海賊団の旗揚げをしたが、儂は満足したから冒険はする意味が無いし、してもロジャー達との冒険に比べて見劣りするじゃろう。

 

 しかし、儂は働くのが嫌じゃった。

 

 けれど人間らしい食い物が好きだから何処ぞの島に隠れ住むのは嫌じゃし、街中に住んだらカタギを巻き込む事になるのも分かっとった。

 

 その結果が目の前で怒っているマゼランじゃ。

 

 インペルダウンに住んで食いもんとか酒は所員から(勝手に)貰えば良いと判断、捕まるのはなーんか嫌じゃったし、無限地獄まで勝手に来て檻に入って寝てたら大騒ぎじゃったのは笑ったわい。

 あんな騒ぎ、マリージョアで町の人間の心の声を生まれ付き使えた見聞色の覇気で聞いてた事を除けばロジャー達との船以来じゃったし。

 

 

「貴様、自ら監獄に入っておきながら脱走を繰り返すとは何事だ!」

 

「あんま怒ってばっかりじゃと禿げるぞ? 心無しか額の生え際が……」

 

「なにっ!?」

 

 ぷぷっ! 冗談じゃったのに咄嗟に手を当てて確かめるとは単純じゃの、マゼラン。

 

 

「ええい! 貴様が此処に住むと勝手に決めて住み着いたが、脱獄されては威信に関わるからと特別待遇を許してやっているというのに! 飯とて運んでやっているだろう!」

 

 マゼランが指差した先には儂の檻、石の床には絨毯が敷かれベッドと机と椅子、小さな棚には数冊の本とお気に入りの曲を録音したトーンダイヤル。

 

 儂の場合、下手に処刑にしようとしたらマリージョアの秘宝やらワンピースの正体とか余計な事を言いそうじゃし、素直に処刑にされる気は無いしで暴れるのは確定で、脱獄しないなら大人しくさせておく為、とかいう理由で用意された物。

 

 食事だって職員の為に用意された物を同じく出してくれとるな。

 

 

「うむ。今朝のメニューは卵サンドにサラダにミルクスープ、紅茶にデザートのリンゴじゃったな。美味かったぞ。肉を食いたかったから盗み食いはしたが」

 

 それはそうとして、食いたい物は食う!

 

 

「……」

 

「なんじゃ? また腹を下したのか」

 

「胃痛だ!」

 

「まあ、この様な場所の責任者じゃし、ストレスは溜まるじゃろうな。レイリーもそうじゃったし」

 

 

 

 

 ……何故かバレットが呆れ顔なんじゃが。

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