インペルダウンの周辺はカームベルト、凪の海。只今絶賛大荒れ中の署内と違って随分と穏やかじゃった。
そんな海に向かい、儂は……。
「ふぃぃぃ」
小便を垂れ流していた、
いや、年を取るとシモの方がどうしても緩くなるし、日光浴をしながら茶を飲んで昼寝から覚めたらトイレに行くのが億劫でな。
「にしても随分とやりおるわい。シキ以来じゃったな」
足を切り落としてまで脱走した昔の宿敵を思いだし、新たな脱獄者達が向かった方角を眺めながら少し前を思い出す。あの日、自分の足を切り落として檻から脱出した彼奴はトランプタワー製作中の儂の所までやって来た。
「おい、ルヴァイド。俺と一緒に……いや、何でもない。寧ろ一緒に来るな。絶対に来るなよ!」
「それはついて来いっていう……」
「違うわ!」
彼奴、ノリが悪くなったのお、面倒だし快適な監獄暮らしを捨てる気は無かったがな。
「さて……別にどうなろうと良いんじゃが、懐かしい連中が驚くのも楽しそうか」
右足にパクった下駄を履き、全身に覇王色と武装色を纏い、見聞色の範囲を狭める事で正確性と範囲を上げ、右足を振り上げた。
「あーした天気になぁーれ!!」
足から飛んで行く下駄は黒い稲妻みたいなのを放ちながら水平線の遥か彼方へと消えて行き、少し気になるが未来は見ない事にする。
何故ならば新聞を読んで爆笑する未来が見えたからじゃ。
「さて、茶菓子でも漁るか。栗饅頭あるかの?」
それにしても最近は随分と慌ただしい。落ち着きの無い連中が増えとるからの。
これも時代のうねりか、そんな風に柄にもない事を考えながらウイスキーの小瓶を傾ける、マゼランの名義で勝手に注文した最高級品は美味かった、
時間は戻り、インペルダウンの騒ぎが起き始めた日の朝、珍しく映像電伝虫を使ってマゼランが連絡を寄越して来た。
「海賊女帝? ああ、ハンニャバルの部屋に昔の手配書が貼っていたな。あの娘っこがどうかしたかの?」
アマゾンリリーの頂点に立つ者、海賊女帝ボア・ハンコック。世界一の美女だの言われているが、七十代後半の儂からすれば孫みたいな年じゃし、看守共が浮き足立ってるのが理解不明じゃ。
鼻ほじりながら尋ねはしたが、どーも興味が湧かんし、二度寝したいんじゃが。
「捕まえたんか? ご苦労さん。じゃあ、儂は二度寝するから……羊羹!」
「そうだ。貴様の大好物の羊羹、それも天竜人御用達の高級品だぞ。エースの公開処刑に白ひげの介入が予想されるから七武海が強制的に参加する事になったが、ハンコックは参加条件にエースに会わせろと言ってきたが……問題は貴様だ」
「あれじゃろ? 儂が好き勝手しとったら本来は敵な七武海に侮られるし、今日一日は大人しい檻で過ごすから羊羹寄越せ」
羊羹、それは儂が酒よりも好む物、好き過ぎてインペルダウンから羊羹を盗み続け、羊羹の話題になると見聞色で察知する程、なので持ち込み禁止の上に禁止ワードにさえなり、重要な犯罪者が入れられる時に大人しくする代価として一口サイズのを貰える程度……じゃが、マゼランが持っているのは進物用の一本丸々、更に最高級品!
「本当に大人しくしていたら明日くれてやる。良いか? 本当に大人しくしていろ!」
「儂って七十過ぎじゃし、そんな風に何度も言わんでも分かっとるわい。しかし……」
通信が切られた後、明日の羊羹を楽しみにしながら二度寝を始めたんじゃが懐かしい頃の夢を見た。
ロジャー達との新世界での旅の途中に出会ったアマゾンリリーの戦士、喧嘩を売られたので叩きのめした後で意気投合したが、海賊女帝とやらに似ていたし、家名も同じじゃった……祖母かの?
「大人しくしとらんと羊羹が貰えんから話しかけんが……まあ、別に良いじゃろう、どーでも」
何か檻の中を見られるのも威厳に関わるからと荷物を置かれて本人とは会えんかったし、侵入者が居るというのが耳に入ったが関係無い。
「バギーの奴も独り立ちした事じゃし、助けに行ったら羊羹が貰えんしな。ほれほれ、頑張れ頑張れー」
見聞色でどんな状況なのか把握しながら聞こえない声援を送り、羊羹を待ち遠しい気持ちで一杯じゃった。
なのに、なのに、どうして……。
「緑茶が無い、じゃと……」
羊羹は濃くて熱い緑茶を飲みながらが一番美味い、なのに茶葉を切らしていると言われ、ちょっと覇王色が漏れ出した。
「今日ちゃんと物資が届く。羊羹は今日悪くなるものでもなし、それまで待っていろ!」
「ぐっ! ……砂風呂でも浴びて待つか」
(在庫が)失われた物ばかり求めるな! 無い物は無い! 儂に残っている物はなんじゃ!
「さっぱりしてから羊羹を楽しむか。……ちょいと飢餓地獄まで行ってくるわい」
羊羹が有るよ!!! 仕入れたばかりの茶葉、好物の羊羹、早く食べたい。
こうして儂はレベルⅢへと向かい、離れた場所でバギーがピンチなのをウトウトしながら見守り、看守共が騒がしかったので勝手に新しい茶葉と急須と湯飲みを貰うとレベルⅥまで戻ったのじゃが、信じられない光景が広がっておった。
「ゼハハハハ! そうだ! もっと殺し合え!」
見覚えのあるデブとシリュウ、そして知らん連中が戦う囚人達の姿を眺めていたが、儂には無関係。
そう、儂の檻がグチャグチャに荒らされ、羊羹食いながら聴こうと思っていたトーンダイアルは粉々、ベッドはズタズタ、羊羹は……踏み潰されていたんじゃ。
「おい、バレット。これは誰がやった?」
「あの暴れてる連中だ。特別扱いの報いだとよ。テメェの力を知らねえ馬鹿の仕業だ」
「そうか。うん、そうか」
「……ん? おいおい、アンタが捕まるタマかぁ!? 何で此処に居るんだよ、“天魔王”のダンナ!」
天魔王、儂の手配名を呼びながら驚いとるが別にどうでも良い。
会話からしてあれじゃろ?大体分かる。
「隠居するのに丁度良くてな。住めば都とは言ったもんじゃ」
「ゼハハハハ! 羊羹を台無しにされたからって親父を一度倒したアンタらしいな。……待て、まさか妙に豪華な檻に住んでるくそ爺ってまさか……」
「あっ、多分儂」
さて、そろそろ敵意をだすか。
「ま、待て! 俺はアンタと敵対する気はねぇ! 此奴達が勝手にやった事だ!」
仲間が全員泡を吹いて気絶して随分と焦っとる様子じゃが、白ひげの所で海賊として育ったにしては随分と無茶苦茶な弁明じゃの。
呆れるな、本当に。
「お前さんが新しい仲間を選別する為に解放したんじゃろう? じゃあお前さんの部下も同然。下は上の命令を聞き、上は下のやらかしの責任を負う。それが海賊だろうと海軍であろうと守るべき事じゃ」
儂だって一番上のロジャーの指示通り自由に行動し、副船長のレイリーに後始末を任せていた。
儂でさえ守ったのじゃし、ティーチも守らんとかズルじゃろう。
気絶したシリュウの刀を拾い上げ、ティーチに近寄ればやけになった様子で闇を纏いながら拳を振り上げたが
「ち、畜生がぁああああああ!!」
「覚えておけ。食べ物の、特に好物の恨みは怖いのだと」
抜刀、からのすれ違う様に静かにティーチの横を通り抜けて切っ先を鞘に入れる
振り返ったティーチの全身に走った赤い線は些か歪な牡丹を描き、血の気の引いた肌は白くなる。
「まあ、来世に記憶を持ち越せるかは知らんが、せめて好きな場所を選んで逝け。……
完全に納刀をした瞬間、ティーチから血が噴き出して体が崩れ落ちた。
あー、慣れん刀じゃから下手な絵になっちまったよ。
「……ティーチを此処に来させる原因の海軍に八つ当たりするか」
この後、屋上で不貞寝した後で下駄を飛ばしたという訳じゃ。
そして翌日、マゼランの奴が差し入れた羊羹を食いながら読んだ新聞では海軍の敗北が報じられていた。
「エース逃亡、白ひげの死体はシャンクスが回収。……そして赤犬の股間に激突した謎の下駄、か」
ぷっ、ぷはははははははっ! 面白い!
「なんかもう、監獄暮らしが本当に快適で退屈せんと感じて長くなったのお」
「ゼハハハハ! 捕まっちまったもんは仕方無ぇし、俺はアンタから借りた新聞を楽しみに生きるとするぜ!」
流石に羊羹で殺さんよ、天竜人じゃあるまいし。
まあ、クロスワードパズルは譲らんがな!
「さて、ベーコンとビールでも盗みに行くか」
今日も充実監獄ライフ! まだまだ長生きする儂じゃった!
ルヴァイド
年齢 七五
好物 羊羹 酒
懸賞金 四十五億九千万(死亡扱いで取り下げ)
尚、知らんだけでハンコックの祖父 寝てる時に.…
出身地 マリージョア
強さはモチベーションでかなり上下する 生まれ付きの見聞色で未来視と読心をこなしていた
監獄に入っていなかった彼がグランドライン前半のルフィ達と絡むのを少し浮かんだし、反響有れば番外編やろうかな