「それでお前はこれからどうする気だ? 新たな海賊団を立ち上げる、というのもらしくない話だしな」
「当然じゃろう? 船長なんざ責任が伴う役職、誰がする物か。さて、どうすべきか……」
ロジャーの処刑から新たな時代が始まって数年、儂は久々にレイリーの顔を見にシャボンディ諸島までやって来ていた。
どうせなら土産でも持って行くか、と、マリージョアに盗みに入る計画も立てていたのだが、運の良い事に人攫いらしき連中の船がちょうど入港していたので、他の海賊の船共々襲って宝を頂いて間に合わせる事が出来た。
イムの奴が動いたら少し面倒じゃし、神の騎士団の相手も少し面倒じゃしな。
だって、儂がマリージョアに居た時にギャーギャー口喧しく言って来たフィガーランドの奴が所属してるんじゃもの、また煩くされたら酒と羊羮が不味くなるわい。
そんなこんなで少し騒ぎになったからシャボンディ諸島は海軍が儂を探し回って居るが、今こうしてレイリーと酒を飲んでいる最中、どうせロックスの残党が暴れてるからガープとかは居ないのだろう、とレイリーが言っていた。
「いや、船長でないにしても貴様は自由過ぎだったからな?」
「仕方が無い。こんな所で出会ったのも何かの縁じゃし、レイリーが家に送り届ける迄に少し鍛えてみるか」
「相変わらず唐突に話す上に、人の話を聞かん奴だな……」
人さらいの船に乗せられていたのは僅か三人の子供、これだけなら後は海軍にでも押し付ければ良いのじゃが、知り合いに似ている気がしたので名を聞いてみれば孫だと言ったのには少し驚かされた。
土産ついでにとレイリーの所に連れて行った後は奥の部屋で疲れていたのか眠っているが……。
「女ヶ島の戦士にしては子供だとしても弱すぎんか? 儂が同じ年頃の時は我流で覇気と六式を会得していたぞ?」
「いや、お前と一緒にするな。それと話を聞くに母親の年齢から逆算すればあの三人、恐らくだが……お前の孫だぞ」
「ふーん。そうか。ん?」
……マジでか!?
「インペルダウンに勝手に住み着くのも考えていたんじゃがな」
「止めてやれ」
割りとマジな顔で止められた。
「七段変形面白トナカイ」
「非常食」
冬島ドラム王国にて最低の国王であったワポルをぶっ飛ばした麦わらのルフィ、その船に新しく加わったトニートニー・チョッパーが医者だった事を知って彼等が驚き、何だと思っていたのか答えた所から物語は始まる。
この後でナミが雪車の中にチョッパーの医療器具を入れた鞄を発見する事になるのだが、正史では混じらなかった声が聞こえた。
「ほう。ヒトヒトの実を食べたトナカイか」
「!?」
自然な様子で突如会話に割って入った老人の声、さも最初から船に乗ってその場所に居たと思える自然な様子でルフィの背後からチョッパーを見下ろす男こそルヴァイド。
服からは水滴が滴り落ち、全身が濡れている事から海から船に上がって来たのだろう。
侵入者の存在に声が掛けられる一瞬まで気が付けなかった一行だが、存在を認識すると同時に即座に動き出した。
「何モンだ、ジジイ!」
「バ、バロックワークスの刺客か!」
ゾロは刀を抜き、サンジも迷わずに蹴りを繰り出したのは相手がただ者ではないと察したからだろう。
だが、遅い。
二人が行動に移り、ウソップが物陰から狙おうとパチンコを取り出した時には既に一行の視線から姿を消し、代わりに階段を上って直ぐの手すりに手を置いて一行を見下ろしていた。
「バロックワークス? ああ、砂の小僧がやっている裏組織か。いやいや、違う違う。儂は只の元海賊に過ぎんよ」
ニヤニヤと余裕を持った態度で一行の警戒を解きたいのか解きたくないのかルヴァイドは話すが、当然信用などされない。
「どっちにしろ海賊ってんなら……」
「乗り込んだなら敵って事だよな!」
階段の高さを飛び越えて左右から迫るゾロとサンジ。
再び放たれた刀と蹴りに対して今度は避ける様子も見せず、左右に腕を伸ばすだけ。
「嘘でしょ!?」
響いたのはナミの驚きに満ちた叫び声。
ゾロの刀もサンジの蹴りも左右に無造作に伸ばした腕の、それも指先一つで止められていたのだ。
寸止めではないのは二人が歯を喰い縛って押し込もうとしている姿から否定される。
だが、動かない、刀も足も力を加えられて震えているが、前方向だけには一寸も動かず、その様な光景の原因となった老人の顔は涼やかで、まるで指先に小鳥でも止まらせているかの様。
その視線はゾロとサンジには向かわず、ルフィの被る帽子に注がれていた。
「その帽子、シャンクスが被っていた物か」
シャンクス、その名前を耳にしたルフィの顔から警戒の色が薄れる。
何かあれば直ぐに動こうとしているのは間違い無いのだろうが、目の前の侵入者と恩人の関係が気になったのだろう。
以前出会った赤い鼻の海賊と違ってシャンクスへの敵意を持っていなさそうなのも関係しているだろうが。
「爺さん、シャンクスの事を知ってんのか?」
「知ってるとも。まあ、それほど大した関係ではないがな。精々が赤ん坊だったシャンクスを宝箱の中から見付けたから船員の皆で育てた、その程度じゃ」
「育ての親じゃないの、大した関係過ぎるでしょ!?」
「おっと、それはそこのお嬢さんのいう通りじゃったな。それはそうと今の航路からしてアラバスタへ向かうのじゃろう? ちょっと乗せてってくれ。泳いで向かっても良いが、ちと面倒でな」
これが麦わらのルフィ一味と元ロジャー海賊団戦闘員”天魔王”ルヴァイドとの出会いであった。
「あっ、船賃として襲って来た海賊から奪った宝箱を渡しておこう。孫娘達への土産と道中の飲食費さえ有れば良いからな」
「オッケー! ゾロ、サンジ君。一応しっかりと見張っておくのよ!」
尚、一連の会話中も二人の攻撃は受け止められたままであった。
それから一行の船に乗ってアラバスタを目指すルヴァイドであったが……。
「なんじゃ。食料を喰い尽くしてしもうたか。仕方無い」
ルフィ、ウソップ、チョッパー、カルー、ルヴァイドによる盗み食いで発生した食料危機に対し、彼は廃棄予定の折れたモップを掴み、海の彼方に狙いを定める。
モップの全体が黒く染まり、適当な動作で投げられたモップは海面を貫いた。
雷が間近に落ちたのかと錯覚する程の轟音、震える空気、そして発生した衝撃波は海水を押し退けてモップが通過した部分に開く海の風穴。
海底に到達したのか風穴の奥から轟音が再び開いて穴に向かって海水が流れ込む中、揺れる船の上で転ばない様にと周囲に掴まる一行はルフィですら言葉を発せず、見詰めていた海面に向かって何かが浮かび上がる。
その正体は海王類、それもゴーイングメリー号よりも一回り巨体を持つ青と黄色の縞模様のウツボの様な姿で、頭の部分にモップによって開いた風穴と同程度の穴が空いて絶命していた。
「す、凄ぇえええええええええええっ!? 爺さん、さっきのどうやるんだよ、教えてくれ!」
「はっはっはっ。この海を進んで行けば自ずと身に付くじゃろうよ」
真っ先に目を輝かして騒いだのはルフィだ。
他の仲間が唖然として固まる中、大いにはしゃいでおり、それを見てルヴァイドも随分と楽しそうにしている。
「……寧ろ誰も覚えられないなら全滅するじゃろうし」
尚、この後の呟きは誰の耳にも届かず、とあるオカマと遭遇するのだが、それが別の海賊の胃に余計なダメージを与える事となる。