ナルトが綱手に引き取られる話   作:tanaka

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一万字…
今回は凄い長くなってしまった。


中忍選抜試験15 本戦 日向ネジ VS うずまきナルト

 

中忍選抜試験第三次試験本戦 試合予定

第一回戦 うずまきナルトVS日向ネジ

第二回戦 カンクロウVS油女シノ

第三回戦 テマリVS奈良シカマル

第四回戦 我愛羅VSうちはサスケ

第五回戦 ドス・キヌタVS春野サクラ

 

 

中忍選抜試験の本戦は恒例として各国の大名や忍、観光客などを集めて行われるトーナメント形式の試合だ。観客席に囲まれた円形のフィールドで行われる事からも分かる通り、この試験の目的は中忍の選抜と言う表向きの意図や、各隠れ里による力の誇示やアピールと言う裏向きの意図だけではなく、見世物としての側面も強い。そのため、毎年この時期には諸外国から多くの人が木の葉へと赴き、非常に盛況な祭りとなる。

 

特に今年は日向や、うちは、風影の息子、新興の音忍など色んな意味で注目を集める忍が多い。

 

すでに会場に来た観客たちは、今日の本戦の内容について会話している者たちがほとんどで、既に賭け事まで行われている。

 

「一回戦はうずまきナルトと日向ネジの戦いか…」

「日向ネジって言えば、あの日向家始まって以来の天才と言われてる神童か?」

「これは決まったな」

「ナルトに賭ける奴とかいないだろ?」

「てか、うずまきナルトってそもそもどんな奴なんだ?」

「あの金髪の一番バカっぽそうなガキだ」

「おお、あいつか…ん?…うずまきなのに金髪なのか」

「たぶん、ハーフかクォーター辺りなんじゃないのか?」

「てことは、うずまき一族特有のゴキブリ染みた生命力も期待出来ないかもな」

「ますます勝ち目がねえじゃねえか」

 

そんな風にナルトの評価はすこぶる悪い。なんとオッズ比+2,000である。これは100円賭ければ2000円プラスして返ってくると言うことである。

 

当たればデカイが外れる可能性がそれだけ高い。いくら大穴狙いでもまともな審美眼を持っていたらまずうずまきナルトには賭けないだろう。ネームバリューがまず違うし、見た目のオーラすらも日向が圧倒的に上だ。日向ネジの方は見るからに出来る男オーラを出しているのに対し、うずまきナルトは言い方は悪いがバカっぽい。今もキョロキョロと周りを見渡し、試験官に怒られてた。これでナルトに賭ける奴は相当な変わり者だ。

 

しかし、どこの世にも変り者と言うものはいるものらしい。白髪のスケベそうな顔立ちの男が驚きの言葉を言った。

 

「わしはナルトに10万賭けるぞ」

「よ、よろしいのですか?」

「なーに、わしは大穴狙いなんじゃよ…第一わしにとって十万程度安い金よ」

「さ、流石自来也様!」

 

何が流石なのか分からないが、いたく感涙する胴元の草忍。その尊敬の目に白髪の老人は満更でも無い顔をして笑う。───と、頭が誰かに叩かれた。

 

「自来也、あんた、自分の弟子で賭け事かい?」

 

スコーン!と自来也の頭を叩いて現れたのは金髪の美女だ。黒髪の美女を伴って現れたそのくノ一は兎に角巨乳と言う事以外頭に浮かばない程の巨乳である。Gいや…下手したらHはある。しかも、胸元がけしからん事になっている。その圧倒的な破壊力に視線が白髪の老人から金髪の美女へと向かってしまうのは無理からぬ事であろう。誰だってその二つが並んでいたら後者を見る。俺もそうなった。

 

その美魔女は「邪魔だよ」と自来也を退かし、懐から財布を取り出す。

 

「──私もナルトに十万だよ」

「綱手様も賭けてるじゃないですか!」

 

恐ろしい程の掌返しである。あの叱責はなんだったのか。てっきりちゃんと諌めてくれると思ってたら、まさかの自分が賭けるとは。

だが、それがどうした。巨乳は正義。その言葉を今日ほど実感した日はない。俺もナルトに賭けてみようかなどとトチ狂った考えが浮かんだほどだ。まあ、全力で抑えたが。

 

シズネ、と白髪の老人に呼ばれた真面目そうな女は綱手を諌めるものの、とうの綱手は気にする素振りもない。

 

「固いこと言うな。何と言ってもオッズ比百倍だからね。これで賭けなきゃギャンブラーの名が廃るってもんだい」

「そんな名前廃れてくださいよ…もうギャンブルは程々にしてください…綱手様は次期火影候補なんですから」

「あん?私がそんな面倒なもんやるわけないだろ…ああいうのはジジイに任せとけばいいんだよ」

「まだ三十年は生きそうだしのぉ…年寄りの生き甲斐を奪うのも忍びない」

(ただやりたくないだけでしょ!)

 

妙なところで息の合う二人は頻りにジジイのため!と言っている。そんな無情な三忍の姿にシズネは深い溜め息を吐いた後、火影席に座るヒルゼンを見た。

ヒルゼンは何やら風影と談笑しているようだ。

どんな話をしているのかまでは聞こえないが、その姿からは自来也の言う通り疲れや老いは感じない。しかし、シズネは最近良くヒルゼンが、自来也や綱手の前で、「もうそろそろ年かのぉ」とか、「最近肩が痛くてのぉ」とか、「隠居したいなぁ」とか、「誰か変わってくれんかのぉ」、とか言っていることを知っている。二人とも綺麗に聞こえない振りをしているが。ヒルゼンの直弟子の中で唯一火影になりたいと思っているのが抜け忍の大蛇丸とは実に皮肉な話である。

 

✝️

 

祭り独特の熱気が支配する会場の中央。好奇や期待の目がゲンマの後で並ぶナルト達に突き刺さる。普段感じることがない程の多くの視線と、本番前の独特の緊張感。注目や期待を受けることに慣れているサクラや、カンクロウ、テマリ…、そもそも環境や視線など気にしない我愛羅や、ネジ、ドス、サスケは兎も角、慣れない環境にナルトとシカマルはソワソワとしていた。特にナルトの緊張は大きく、キョロキョロと忙しなく周りを見渡す。

 

「あー、何かトイレ行きたくなってきたってばよ!」

「バッカ!お前、先に行っとけよ!お前の出番一回目からだろ!」

「いや、何度も行ったんだけどトイレ行くと安心するのか出なくなっちまってさ」

「そりゃお前、気のせいだ。緊張して勘違いしてるだけだ。トイレなんて元々行きたくねえんだよ」

 

確かに漏れそうと言う感じではない。だが、何と言うか、何か落ち着かない。

 

「こら! オロオロしてんじゃねー! しっかり客に顔向けしとけ」

 

そんな受験者達──特にナルトとシカマルに対して、口に千本を咥えた男──ゲンマ──が注意する。

 

「この“本選”……お前らが主役だ!」

 

と、出場者に背を向けていたゲンマは振り返った。

 

「いいか、テメーら。これが最後の試験だ。試合の組み合わせは既に伝えた通り、一回戦のナルトとネジの試合から順に行っていく」

 

ゲンマは淡々とした声で確認するように説明を続ける。

 

「地形は違うが、ルールは予選と同じで一切なし。どちらか一方が死ぬか負けを認めるまでだ。ただし、オレが勝負が着いたと判断したら、そこで試合は止める。解ったな?」

 

その言葉に各々が各々の態度で肯定を示す。

受験生全員が死ぬリスクがあると分かった上で受けることを選んだのだ。

異論がないと判断したゲンマはナルトとネジを残し、他の者は上に上がるように指示を出す。

 

「先がつっかえてんだ!さっさと上がれ上がれ!」

 

三十秒も経たない内に試験場にはゲンマを除いてナルトとネジだけとなる。

 

二人は向かい合って対峙する。お互いがお互いを見ているがその顔に浮かぶ表情には大きな違いがある。ネジは無表情で全てを見透かしたような斜に構えた目をしているのに対し、ナルトは今にも爆発しそうな激しい闘志を宿している。

 

「何か言いたそうだな」

 

「前にも言ったろ!…ゼッテェ!勝つ!」

 

かつてと同じ様に拳を突き出し、自分の覚悟を固めるように勝利を宣言するナルト。

 

光を反射したその顔は何処までも自分を信じきった顔をしている。

 

ネジはその目に若干の苛立ちを感じながら、眼にチャクラを籠め白眼を開く。

 

「……フフ、その方がやりがいがある。本当の現実を知った時、その時の絶望の目が楽しみだ」

「俺は絶望なんて絶対しねえ!俺は火影になる男だからな!」

 

両者共に臨戦態勢を整えたと判断したゲンマは声を上げる。

 

「準備は良いか?」

 

「いつでも!」

「…………」

 

ネジは声を出さない。ただ無言で持って肯定を伝える。

 

「一回戦日向ネジ vs うずまきナルト───始めろ!」

 

ゲンマの声が第一回戦の始まりを告げた。

 

✝️

 

八卦掌空掌!!

 

ナルトは開始と同時に影分身を出そうとする。しかし、それより早くナルトの肩に強力なチャクラを含んだ空気が飛んできた。

 

「うわ!」

 

ナルトの腕が後ろにつんのめる。

空気は一撃では終わらず、まるでナルトが印を組むのを阻害するように連続で飛来する。

 

「くっそ!」

 

開幕から全く何もさせて貰えないナルトは焦りを感じる。

印を組むことで発動する忍術と印を組む必要の無い柔拳術ではスピードに差があるのだ。

それでもこのまま同じことを繰り返していれば何時かは反撃も出来ただろうが、それを待ってくれるほど甘い相手ではなかった。

 

「お前は既に俺の八卦の領域内にいる」

 

体勢を整えるべく動いた一瞬の隙を付き瞬身の術で目の前にやって来たネジは油断も隙もなく、即座に奥義を発動する。

 

「八卦六十四掌!!」

 

全身108っ個の点穴を突かれたナルトは前へと倒れる。体からチャクラが抜けていき、力も入らない。

 

(くそっ…エロ仙人に柔拳相手に接近戦はダメだって聞かされてたのに!でも、こんな正確な遠距離攻撃があるとか聞いてないってばよ!)

 

自来也はもちろん八卦掌空掌の存在自体は知っていた。しかし、分家のまだ十代前半の、下忍になったばかりの子供が、日向家の秘技を自力で習得しているとは予想出来なかったのである。

 

「これは予想以上だな…ナルトが勝つと疑ってなかったが…こうなると分からんぞ」

「天才とは聞いていたけど、まさかこれ程のものとはね」

「ナルトくん」

 

自来也、綱手、シズネは鮮やかな連撃に感心を見せる。

 

「まさか自力で日向の秘技を二つも習得していようとは」

「お父様」

(やはりヒザシ…日向の当主はお前が…)

 

日向家当主日向ヒアシはネジのそこの見えない才覚に嘗ての苦い過去を思い出し、顔を歪める。

 

 

「日向ネジか…かなりやるじゃん」

「……とんでもないわね」

「うずまきナルト…こんなものか?」

 

砂の三人は各々が各々の感想を抱く。カンクロウとテマリはネジを警戒し、我愛羅はナルトに落胆した。

 

「おいおいおい!ナルトヤベエんじゃねえの?」

「ナルトくん」

「あのナルトがこうも一方的に」

「嘘でしょ」

「起き上がらねえぞアイツ?」

「…あ!立ち上がった!」

「つってももうボロボロだぜ?戦えんのか?」

「俺は柔拳について詳しく知らねえんだが…ぶっちゃけ今ナルトはどう言う状態なんだ?ヒナタ?」

 

シカマルの問いにヒナタは答える。

 

「今のネジ兄さんが使ったのは日向一族に伝わる奥義…八卦六十四掌…全身の点穴を突き、塞ぐことで、チャクラの流れを強制的に止める術…たぶん、今ナルトくんはチャクラを全く練れない状態になってると思う」

 

ヒナタの説明に一同は絶句する。

 

それは誰がどう聞いてもナルトの敗北が動かないことを物語っていた。

 

 

「終了だな」

 

それは試験官であるゲンマも同じだったらしい。無情な台詞が空気を伝い、ナルトの鼓膜を揺らす。

 

「全身六十四個の点穴を突いた。もはやお前は立つことも出来ない…ふん…悔しいか?変えようのない力の前に膝まづき、己の無力を知るがいい」

 

ネジの見下した声がナルトの耳に届く。

 

瞬間、ナルトの脳裏にゲジ眉とヒナタの戦いが過った。

二人とも絶対的な力の前でも諦めず、最後まで抗い続けた。

 

視線を横にずらして観客席を見ると、心配そうなヒナタの顔と杖をついたゲジ眉の姿が見える。

 

(アイツらの前でみっともねー真似はできねーってばよ!)

 

ナルトは力の入らない体を気合いで動かし、よろよろと立ち上がる。

 

「俺は諦めがわりぃーんだって…言ってんだろ」

「バカな!」

 

立ち上がれる筈の無いナルトが立ち上がるのを見て、初めて動揺を見せるネジ。

しかし、直ぐに無駄なことだと動揺を収める。立ち上がろうと、チャクラが練れない事実は変えられない。もはや勝負は決している。

ネジは白眼を出すこともなくナルトを見返す。

 

「これ以上やっても同じだ…別にお前に恨みはない」

「ふん…うるせえってばよ!…んなこと言っても此方にはしっかりあるんだよ!あんなに頑張ってるヒナタの事を精神的に追い込むような事をしやがったんだ!他人を落ちこぼれ呼ばわりする糞野郎は俺がゼッテー許さねー!」

 

ナルトは怒気を孕んだ気炎を吐く。その感情に呼応するかのようにネジの目にも憎しみが宿る。

 

「…分かった…いいだろう…そこまで言うなら教えてやる!日向の憎しみの運命を!」

 

そうして語られた日向の真実は誰もが予測も出来ないような過酷な内容だった。

 

宗家と分家

分家に刻まれる死の呪印

宗家のために犠牲となった父

 

「分かったか?人は変えられない運命の中で生きている…分家である父が宗家の身代わりとなって殺されたように…。…そして、この試合…お前の運命は俺が相手になった時点で決まっている!」

 

ネジは変えがたい真実を述べるかのように言い切る。

 

「…お前がどうしてそんな考えをするようになっちまったのかは分かったってばよ」

 

ナルトの声にさっきまでの怒りはない。

ネジの過去を聞いてナルトはネジを純粋に怒ることが出来なくなっていた。

大切な人間を失う苦しみは、大切な者が出来た今だからこそ良く分かる。

それを分家に生まれたからなんて理由で納得出来るわけがない。

それでも納得させるしかなかったから、運命と言う言葉で片付けたんだ。

 

「でも、それで…運命全部決まってるって思うのはスゲー勘違いだってばよ!」

「救えない奴だ」

 

ここまで言っても綺麗事を抜かすナルトにネジは呆れ果て、試合を終わらせるべく瞳に力を入れる。ビキビキとネジの視神経が浮かび上がり、チャクラの流れが見えるようになる。

 

「八卦掌空掌!!」

 

ネジはその場から動くことなく、チャクラを手に集め空気を叩く。

 

「ぐあっ!!」

 

チャクラの籠った空撃にナルトの体が吹き飛ぶ。避ける元気さえないナルトはもはや的でしかない。

 

「試験官…終わりだ」

 

ネジは土煙を上げて倒れ伏すナルトを見下ろし、最早立ち上がれないと白眼を解き、背を向ける。だが、ナルトは驚異的なタフさを発揮し、尚も起き上がり、ネジを呼び止める。

 

「逃げんじゃねえ!俺は逃げね!真っ直ぐ自分の言葉は曲げねえ!それが俺の忍道だ!」

「呆れたタフさだ…それに、フフ…何処かで聞いたようなセリフだな?……だが…お前に何が出来る?苦労して抗ったところで、結局運命の前に無意味だと…何よりも今のお前が証明している…さっさと諦めて敗北を受け入れろ…どうせ結果は変わらない…」

「うるせーってばよ!お前みたいな運命だなんなそんな逃げ腰野郎にはゼッテー負けねえ」

 

口から血を吐き、今にも倒れそうなほどふらふらなのに、試合が始まる前と全く変わらない目をするナルト。

その姿に、無性に苛立ちを感じる。

何故かは分からない。

だが、本能が目の前の抗い続ける男を認められないと叫んでいた。

それを認めてしまったら───

だから、ネジはナルトが何の痛みも苦しみも知らないから、綺麗事を信じ続けることが出来るのだと安易な結論を着ける。

 

「偉そうに説教するのはやめろ!」

 

ネジは怒りと拒絶の意思を乗せて怒鳴る。

 

「人は生まれながらに逆らう事の出来ない運命を背負って生まれてくる!一生拭い落とせぬ印を背負う運命がどんなものか!お前などに分かるものか!」

「分かるってばよ…んで…それが…何?…」

 

だが、ナルトにそれが分からない筈がない。誰よりもそれに翻弄され、苦しめられてきたのだから。

 

「別にてめーだけが特別じゃねーんだってばよ!宗家を守る分家が試験だからってヒナタをあんなんにして!本当はお前だって運命に逆らおうと必死だったんだろ!」

 

反論のしようのない事実だった。

予選での自分の行動はどう見ても運命を受け入れた者のそれではない。

それを認められるかどうかは別の話であるが。

 

「ふん、お前の六十四の点穴はもう閉じている。チャクラの練れないお前がどう戦うつもりだ?」

 

そして、それもまた事実であった。

今のナルトに出来る事など何もない。

少なくともこの場にいるほぼ全ての人間はそう思っていただろう。唯一ナルトを除いては。

 

(もーこうなったら頼るしかねえ!)

 

ナルトは決して頼るまいと決めていた相手に頭を下げるべく目を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

✝️

 

 

目を開けると、見上げるほどに大きい牢屋とその中で寝転ぶ九本もの巨大な尾を持つ狐がいた。

 

(ふん…ようやっと来やがったか…)

 

ナルトの来訪を感じ取った九本の尾の狐……クラマが片目を開ける。

 

「んで、何の用だ?ナルト」

 

腹の中から様子を見ていたため聞くまでもなく分かっていたが様式美と言う奴だ。

 

「あー…実はだな、チャクラを貸して欲しいんだってばよ」

 

ナルトは言いにくそうに言い、頭を下げる。

 

「くく…わしの力は絶対に借りないんじゃなかったのか?」

 

その言葉にナルトは昔の事を思い出していた。

 

✝️

 

ナルトが九尾の存在を知ったのは実はかなり最近で一年ほど前の事だ。

 

その日、とある事情により死に掛けたナルトは初めて心の中で九尾と対面した。

 

九尾とは文字通り九本の尾を持つ巨大な狐である。

どのくらい巨大かと言えば、

 

その尾 一度振らば 山崩れ 津波立つ

 

なんて、伝承が残るほど巨大だ。

もっともナルトはその頃には既に巨大蛞蝓や巨大蛙、巨大犬などと仲良くなっていたため、大きさ自体や言葉を話すことには驚かなかった。しかし、初めて会った九尾は今迄見てきたどんな口寄せ動物とも根本的に異なる印象を受けた。

 

一言で表すなら「憎悪」だ。

 

まるでこの世の全てを恨んでいると思うほどの憎しみ。

 

ナルトはその存在感と強すぎる憎しみの目に、腰を抜かしてへたりこみ、小便を漏らした。

 

まあ、九尾と会ったのは精神世界だから小便が漏れるなんてことはなく、実際に漏らしたのは現実世界のナルトなんだけど。

 

んで、その後、死線を抜け現実世界で目を覚ましたナルトは直ぐに綱手やシズネにこの事を話した。

 

初めは二人とも口を濁して何かを隠しているようだったが、しつこく聞き続けると教えてくれた。

 

九尾とは古くから疫災と恐れられてきた「尾獣」と呼ばれる尾を持つ怪物の内の一体で、最強の尾獣。

 

憎しみの塊で、破壊のみを引き起こす。

 

うちはマダラにより使役され木の葉を襲ったことがある。

 

その力を危険視した初代火影はうずまき一族の封印術を用いて封印した。

 

それ以来九尾は木の葉の里が管理・所有してきた。

 

大戦の時は兵器としても使われた。

 

十年ほど前再び木の葉を襲った

 

その時多くの犠牲者が出て、四代目火影が命をとしてうずまき一族の血を引くナルトの腹の中に封印した。

 

ナルトが木の葉で疎まれていたのも、九尾を腹に封印されていたから。

 

と、まあ、列挙するとこんなものだ。

 

正直、これを初めて知った時、色んな感情が過っていった。

 

四代目火影ふざけんな!とか

俺何も悪くなかったのかよ!とか

やっぱ九尾怖い!とか

里の奴等の気持ちも分かる!とか

 

まあ、上げれば切りがないし、矛盾するような感情も幾らもあった。

 

だから、それらについては丸っと無視して九尾についてのみ述べる。

 

当時のナルトは九尾にビビり散らかしていた。

だって、疫災とか、破壊神とか、憎しみの塊とか、里壊したとか、ろくな話を聞かなかったからだ。普段人を悪く言うことのないシズネすらも同じ反応だったのが余計にビビりを加速させた。

正直、もう二度と会いたくないとすら思っていた。でも、腹の中にいるので不可能だと直ぐに気付く。

それ以来毎夜の如く、九尾が腹を食い破って出てくる悪夢に魘された。

このままじゃあ、いかんと一念発起し、ナルトは九尾についてもう少し詳しく知ろうと思いたつ。

もっとも、綱手やシズネに聞いた所で、似たような話が返ってくるだけである。結局人間の視点からの九尾しか分からないのだ。それではこの恐怖は変わらない。

そのため、ナルトは九尾と近しい生物である巨大口寄せ動物に話を聞くことにした。

 

で、話を聞いて驚くべきことが分かった。

 

なんと、巨大口寄せ動物達は昔は今の九尾と同じ様に疫災と呼ばれていたらしい。

それが変わったのは忍と口寄せの契約を結ぶようになってからで、それも結構最近…およそ七百年くらい昔の事。それ以前は人間即ぶっ殺!の動物も珍しくなかったらしい。

基本的に人間ってろくなことしないから。争いしか持ってこないし、環境破壊や生物虐待やら、この星を我が物顔で切り開こうとする。この世界の害悪…。温厚なカツユですら近づきたくない相手と思っていたらしいから当時の人間の評判が押して知れる。

 

そこまで聞いてナルトは九尾も被害者じゃないのかと思い至る。

 

よくよく考えたら、マダラに操られ、柱間に封印され、以来ずっと檻の中に閉じ込められているのだ。そりゃあ、封印破ろうとするだろうし、出てこれたら「ひゃっはぁー!」てなるのはある意味仕方無い。遺族からしたら理由なんてどうでもいいのかもしれないが、少なくとも九尾だって被害者なのだ。

 

そう理解して以来、ナルトは積極的に九尾と話をするようになった。

初めの頃は当然上手くいかなかった。

目が合う度に殺されそうになるわ、殺意の言葉を向けられるわ、かと思ったら、「里の奴等憎いよな?復讐するなら手を貸すぞ?」と事あるごとに復讐を促してくるし、「そんなことしねえってばよ!」って言えば不貞寝するし、会う度に「同情するなら封印から出せ!」的な事を言う。

出してやりたいとは思うんだが、それやると俺が死ぬらしい。

だから、出来ないと言えばまた不貞寝する。

全く会話にならない。

しかし、根気強く話を続けていると、何が事線に触れたのかは分からないが、次第に会話に応じてくれるようになり、色々あって名前を教えてくれるほど仲良くなった。んで、その過程で「封印から出せないけど、俺は力を利用したりなんてしないってばよ!」と言ったのだ!

 

もちろん、口から出任せで言った訳じゃない。本気でそう思ってたし、今でも思ってる。だから、今迄ナルトは九尾の力を使ってこなかった。

 

「でも、今回だけは負けるわけにはいかねえんだってばよ……中忍試験とか関係ねえ…ここで俺が負けたらそれこそアイツは何も変わらない…今迄通り運命だなんだと言って後ろ向きなままだ…そんなの悲しすぎるってばよ!…でも、俺一人じゃどうにも出来ねえ!だから、力を貸してくれってばよ!クラマ!」

 

「ふん…相変わらずの甘ちゃんだな…まあ、いい…あの陰気なガキには、わし、もイラついてたとこだ」

 

クラマはのそりと起き上がり、格子の隙間から爪を出す。

 

「触れ」

 

「こうか?」

 

「わしのチャクラをほんの少しやる…まあ、この封印のせいでやれるチャクラなんて雀の涙程度だがな」

 

「サンキューな、クラマ!でも、これが最初で最後だってばよ!」

 

ナルトは邪気の全く存在しない笑顔を向ける。それを見てクラマはやれやれと溜め息を吐く。どうやら本当に気付いていないらしい(・・・・・・・・・・)

 

「最後かどうかは知らんが、わしがお前にチャクラを貸すのはこれが最初じゃねえぞ」

「え?」

「よく考えてみろ。お前みたいなチャクラコントロールが杜撰な奴があんなバカスカ高等忍術ばっかり使えば直ぐにスッカラかんになる。わしがチャクラを補助してやってたに決まっとろうが。わしが協力してなかったらアカデミーを卒業出来たかすら怪しいぞ、お前」

「な!?」

 

驚愕に固まるナルト。

クラマはそれを面白そうに見た後、デコピンでナルトを外(現実世界)に出す。

そして、檻の中で再び寝そべり、外を見た。

 

(仮にも九尾の人柱力ともあろうものが…白眼ごときに負けてんじゃねーぞ)

 

 

 

 

✝️

 

なんか、最後に衝撃の新事実を聞かされたけど、今は目の前の敵に集中だってばよ!

 

ナルトは全身にチャクラを行き渡らせる。

 

それを見て驚愕するネジ。

当然だ。完全に点穴を突き、チャクラを練れなくなったはずの男が、チャクラを練っているのだ。しかも、見るからに普通のチャクラではない。異質な恐怖すら感じるチャクラ。

赤い血のようなチャクラがフィールドを席巻し、暴風が吹き、石礫石が舞い上がる。

 

(あれが本当にチャクラなのか…?…何の性質も形質も帯びてないチャクラが可視化出来るほどの密度を持つなど…っ!速い!)

 

赤いチャクラで体を覆われた身体は先程までとは比べ物にならない速さを可能にする。

一瞬にしてネジの背後に回ったナルトは三本の手裏剣を投擲。

 

「─っ!回転!!」

 

ネジは普通に捌くのは無理だと即座に判断し、全身からチャクラを放出して体を回し、手裏剣を全弾弾く。

 

(スピードもパワーも桁違いだ!!)

 

危うい攻防だった!あとほんの少し認識が遅かったら防げなかった!

 

「お前…接近戦には自信あんだろ?」

 

ナルトの挑発的な声が響く。

次の瞬間ナルトは恐るべきスピードで駆け出す。その速度はもはや中忍の域すら越えていた。しかし、ネジも天才と呼ばれる男。下忍最強と呼ばれる力は伊達ではなく、足と腕にチャクラを集中させる高速の移動術で対応する。

 

下忍とは思えない高速の戦闘が行われる。切り結んでは離れ、離れては切り結び、場所を変え、立ち位置を変え、得物を変え、幾度となく切り結ぶ。

攻撃のスピードでは僅かにナルトが勝るが、ネジは白眼によるチャクラの流れを見る先読みと回転により互角の戦いを演じる。

 

「はああああああああああ!!!」

「おおおおおおおおおおお!!!」

 

全身全霊を掛けた一際強力な一撃がぶつかり合う。数瞬の拮抗。

直後、塞き止められた水が吹き出すように両者は物凄い勢いで真反対に飛んでいく。

 

ドゴンッ!!

 

ドゴンッ!!

 

 

両者はクレーターが出来るほどのスピードで地面と衝突し、全身が軋みを上げるほどの衝撃を体に受ける。「「っかはっ!?!」」内蔵までもが悲鳴を上げ、肺の空気が全て外へと溢れ出る。

 

二ヶ所から煙が立ち上ぼり、観客の視線が煙の先へと注がれる。

 

どっちが勝ったのか?

 

果たして、立ち上がったのはネジだった。

 

ネジはふらふらと覚束無い足取りでナルトがいる穴まで歩く。ナルトは気絶しているのかまだ横たわっている。

 

「悪いがこれが現実だ。これで本当に終わ───ぐあっ!!」

 

直後、ネジの足元からナルトが飛び出しアッパーを食らわせる。穴にいたのは影分身のナルトだったのだ。

完全に予想外からの攻撃を受けたネジは綺麗に顎に一撃が決まり、背中から地面に沈む。

 

(ぐうっ!……体が……)

 

 

「勝負あったな」

 

ゲンマが先程と同じ言葉を言う。だが、勝者の名前だけが違う。

 

「勝者 うずまきナルト!!」

 

 

 

勝どきが上がり、会場全体から歓声が上がる。それは今迄ナルトが決して向けられることの無かったものだ。

その中には、サクラや、サスケ、自来也、綱手、シズネ、などナルトの見知った顔も多い。

ナルトは声援に一度手を上げて答えた後、観客に背を向け、ネジに近付いた。

 

「……大丈夫か?」

「…お前には…この運命が…見えていたのか…チャクラを…復活させ…俺に勝つ運命が」

「まだそんな事言ってんのかよ…運命なんて誰かが決めるもんじゃねえってばよ…てか、こんな泥試合だれが予想出来るかってばよ!ふつー、出来てたんなら回避するってばよ!…俺の予定ではもっとスマートに勝つ予定だったの!開幕からいきなりチャクラ使えなくなる勝ち方とか渋すぎるってばよ!」

「…ふ…確かにな…」

 

二事三事の言葉を交わす。

顔をしかめる余力もないのかネジの顔は終始穏やかだった。

ナルトは救護班が入って来たのを見て話を切り上げ、「んじゃあな!」と観客席に向かって歩いていく。声援を送る観客へ手をブンブン振ったり、投げキッスをしたりと、さっきまでの疲弊が嘘のようなアクティブさだ。

 

「呆れた体力だな」

 

いつの間に近くにいたのかゲンマが隣に立っていた。

 

「ま、今回はあいつの粘り勝ちだな─」

 

ふ…粘り勝ちか、まったくその通りだな…

点穴を突かれ、まったくチャクラを使えなくなっても、アイツは結局一度も諦めなかった…

いや、ナルトだけじゃない…

リーや、ヒナタ様もか…

 

「──捕まった鳥だってな 賢くなりゃ 自分のくちばしで籠のフタ開けようとすんだ また自由に空を飛びたいと諦めずにな」

 

ゲンマは千本を咥えながら空を見上げる。ネジはそれに促されるように空を見る。青く澄んだ空には三匹の鳥が自由に空を羽ばたいていた。

 

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