ナルトが綱手に引き取られる話 作:tanaka
試験場では、対峙するフガクとカブトの他に、やや離れた場所で、砂隠れの上忍バキと木の葉隠れの特別上忍ゲンマがそれぞれ我愛羅とサスケを守るように睨み合っていた。バキの後ろには我愛羅の他にやや遅れてやってきたテマリとカンクロウも控えている。テマリは頭を抱えてふらつく我愛羅を支えるように肩を貸し、カンクロウは不安げに我愛羅と上官であるバキを交互に見遣る。
「我愛羅、作戦を……」
「…ぅぅ…」
バキは我愛羅に守鶴になるよう命令を下すが、頭を抱えている我愛羅に聞こえている様子はない。とても作戦を続行出来る精神状態では無さそうだった。
しかし、それでは困る。我愛羅はこの作戦の要。我愛羅が使えないとなると作戦そのものが失敗しかねない。
「馬鹿め! 合図を待たずに勝手に完全体になろうとするとは……!」
「やっぱり……副作用が出てる。もう我愛羅は無理だ!」
「じゃあオレたちはどうすりゃいんだよ! 我愛羅なしでやれってのか!?」
「くっ……」
テマリとカンクロウの視線がバキに突き刺さる。バキは一瞬の逡巡の後、今は無理だと結論を出す。
「一旦中止だ!」
我愛羅を一旦下げ精神を落ち着かせた後再度投入する。それが最も堅実な手だろう。
此処で無理矢理守鶴にさせることも出来なくはないが、それをやれば我愛羅の制御を失った守鶴が本当に暴れだしかねない。そうなれば木の葉だけでなく、砂や音にも甚大な被害が出る。いや……それはいい。忍は死ぬのも仕事の内のようなものだ。死ぬ覚悟などこの作戦を受ける以前から出来ていた。たとえ此処で使い潰される事になったとしても、その先に砂の未来があるなら喜んで死地に立つ。忍の本質とは自己犠牲。他の忍だって当然その覚悟で此処に立っているはずだ。
しかし、各里のパワーバランスの主柱である人柱力は違う。
守鶴が完全に我愛羅の制御を失うと言うことは、そのまま守鶴を取り戻せなくなる可能性を意味していた。尾獣を失えばこの戦で砂が勝てたとしても、更に苦境に立たされることになる。そうなっては本末転倒。何のために戦争を起こしたんだと言うことになりかねない。そのリスクは起こせなかった。
「お前たちは我愛羅を連れて一旦、退け!」
「先生は!?」
「オレは参戦する。行け!」
「う……うん」
バキは去っていくテマリ達の足音を聞いて、仕事を始めるべく刀を引く。
「このパーティの主催者は大蛇丸か?」
「さあな。とりあえず、盛り上がって行こうぜ…」
襲撃をパーティーと表現するゲンマに、バキも軽口を叩いて応戦する。
しかし、それは状況に取り残されているサスケにとっては苛立ちしか感じないやり取りだ。
その焦りと怒りが言葉のケンになって現れる。
「オイ……何がどうなってる?」
ゲンマはサスケの感情を察しながらも、それを考慮するほどの余裕はなく、バキから視線を逸らすことなく用件のみを端的に伝えた。
「悪いが中忍試験はここで終わりだ。とりあえず、お前は我愛羅たちを追え!」
「……」
「お前はすでに中忍レベルだ。木ノ葉の忍なら役に立て」
「……ああ」
駆け出すサスケ。
バキは万が一があっては困るとサスケを殺そうと動くが、それを阻止するようにゲンマが間に入る。
「お前の相手は俺だろ?」
「……一人で行かせていいのか?……まず間違いなく我愛羅に殺されるぞ、あのガキ……呼び戻した方が懸命だと思うがな?」
「…あの我愛羅ってガキは砂の何なんだ?只の下忍じゃないんだろ?」
「…………」
バキは答えの代わりに剣戟を持って答える。
それがバキとゲンマの本格的な戦闘の始まりとなった。
✝️
フガクはカブトと戦闘をしながらも、サスケが我愛羅達を追い会場を出ていく音に気付いていた。
本心ではあまり無茶なことをせず、住人の避難の誘導の方へ行ってほしかったが、
この切迫した状況で、家族だからなどと甘えたことは言えない。サスケも忍。そして、忍になったと言うことは遅かれ早かれ危険に踏み入らなければならない日は必ず来る。それがサスケにとって偶々今日だっただけだ。
それに、フガクはゲンマと同様、我愛羅の底知れない何かに勘づいていた。具体的に何なのかと聞かれてもそれを言語化は出来ないが、あの不吉な砂の腕を見るに只の下忍ではないのは確かだ。
フガクの経験から来る直感はあれをノーマークにするのは危険だと訴えている。
しかし、里が襲われている現状、住人の避難と敵の迎撃が優先され、去っていく下忍にまで割く戦力の余裕はない。もちろん、里の全てを探せば見つかるだろうが、そんなことをしてる間に見失ってしまうだろう。
(サスケ…死ぬなよ…)
サスケの実力がかなり高くなっていることを知っていたが、やはり一人で行かせるのは不安があり、フガクはサスケの無事を天に祈るのだった。
✝️
フガクはサスケの事を心配しながらもカブトから目を逸らさずにいた。
目の前の敵は強い。
他の事にかまけていてはフガクでも足元を掬われるほどに。
故に、フガクは片時もカブトへの注意を逸らすことが出来ない。
もちろん、周囲への警戒を怠るわけにはいかないので、100%の意識をカブト一人に向けているわけではない。大体80%ほど。残りの20%は常に奇襲や横槍を警戒している。
その上で、フガクは確信する。
───後十手だな……
フガクは戦いとは詰将棋のようなものだと思う。偶然やラッキーなどなく、全ての結果は当事者の地力や、持つ武器の性能、仲間の数、天候や土地などの条件により始まる前から決まっている。
この戦いも同じだ。
このままどちらも間違わず、互いに最善の手を打っていけばそう遠くない未来に実力の差でフガクが勝つ。
むろん、これは第三者の乱入が無ければの話だが…
そして、フガクにとっては運の悪いことに、カブトにとっては運のいいことに、その戦場に乱入するものがいた。
「さてと、デイダラも始めたみたいですし…私もそろそろ始めましょうか」
その襲撃者は里が一望出来るような柱の上に立っていた。
血のように赤い長髪に、空色の瞳。首から下は暁のローブに身を包み、ローブの先からは爪の赤く塗られた手足と、黒い剣の鞘のようなものが見える。
彼女はクルリと里を見下ろして、上等な獲物を探す。
雑魚を切り殺すのも嫌いではないが、せっかくの大仕事。ならば強者と血沸き肉踊る戦いをしたい。
そして、大蛇丸が言うことを信じるなら、この里には私クラスの強者が四人居るらしい。
その内の一人である自来也は既に結界の中で大蛇丸と死闘を演じている。
ヒルゼンはデイダラに目を付けたようだ。槍を伸縮させ爆発する鳥に乗ったデイダラにちょっかいを掛けている。横取りしても良いんだが、下手にデイダラに近付くと巻き添えで爆破されかねない。あの芸術爆発人間はクール=アート=爆発と言う訳の分からない持論を唱えるだけあり、追い込まれるとすぐに周りを気にせず大爆発を起こす(物理的に)。
戦いの中で死ねるなら本望だが、それが仲間に誤爆されて死ぬなんていうマヌケな死に方は勘弁だ。だから、ヒルゼンも無しだ。というか、そもそもの話、あんな死に掛のジジイでは体が反応しない。
となると、残るは綱手とフガクだが、その二択ならフガク一択だろう。綱手は強いらしいが、所詮医療忍者だ。戦いを専門とするものではない。一方のフガクはバリバリの戦闘タイプ。やはり相手をするならそう言うタイプがいい。
襲撃者は獲物を決めると、足に力を入れる。そして、一度の踏み切りで、弾丸のように試験会場に降り立つと、流れるように抜刀。おそるべき速さで横に振り抜く。
その一振りは今迄数多の敵を一撃で葬ってきた凶悪な一振り。
それを不意打ちで食らったら大抵の忍なら反応も出来ずに死ぬだろう。むしろ、切られたことすら気付かずに死ぬだろう。
(これで死ぬなら興ざめも良いところ。
傷を負ったとしても避けきれたなら、そこそこの上物
掠り傷程度ですめば、かなりの上物
そして、無傷で避けられたなら……)
「へえ…」
結果は彼女の期待を裏切らないものだった。
フガクは彼女を視界に収めた瞬間、大きく飛びず去る。
それは見方によってはビビり過ぎなんじゃないのかと思うほど、過剰な避け方だった。
戦いの中でも無駄を嫌い、常に紙一重で敵を葬る普段のフガクを知る者なら驚いただろう。
しかし、敵対者である女は感心したように呟いた。
「私の初戟が
「俺の目はチャクラを見る…お前の剣が見かけ通りの長さではないことくらい見えている」
フガクの断定に女は更に頬を吊り上げる。
彼女が左手に握るのは草薙の
能力は所持者のチャクラに反応して透明のチャクラの刀身を──最大+20cm程まで──伸ばすと言うもの。
もし、フガクが何時ものように紙一重で避けていたら胴体は真っ二つにされていただろう。
フガクの写輪眼はあの高速の攻防の中でその伸ばされた刀身を見切ったのである。
しかし、それでも僅かに避けきれずフガクの浴衣が僅かに切れる。
「ふふ…流石…凶眼のフガク…」
「そう言うお前は草隠れの抜け忍…辻斬りのミトだな…確か散々仲間を殺した挙げ句、最後に里長を殺して里を出たとか言う…昨今の草隠れの無茶な人材収集はお前が原因だと聞いているぞ…」
これだけの情報でも分かる通り、とても誰かと協力するような女ではない。
「……抜け忍のお前が何故砂と木の葉の戦に首を突っ込む」
「それが組織から下された命令ですから」
「組織?」
「そんな事より、早く殺り始めましょう…あ、カブトさんはどっか行ってていいですよ…邪魔なので…巻き添えで死にたいと言うなら別ですが」
「いえ、代わってくれるなら願ってもない」
二三言葉を交わすと、彼女はカブトに何処かへ行くように促し、此処からが本気だと言うようにローブを脱ぎ飛ばす。
その姿を見て、これ幸いと逃げ出していたカブトの足が止まる。同時にフガクの目も珍しく見開かれる。さらに、近くで戦っていたゲンマとバキ、カカシとザブザ、マイト・ガイ…全員が全員一瞬目を奪われる。
ローブの下から現れたのは露出の過多過ぎる赤い忍装束だった。
胸元はざっくり開き、背中は全て露出させ、横乳も谷間も臍も見放題。下は太ももの付け根ギリギリまであらわになり、動くたびに揺れる大きな胸や見え隠れする臀部は無条件で男達の視線を釘付けにする。
世が世なら公然わいせつ罪不可避な衣装だ。
どこで買ったんだろうか?そして、誰が作ったんだろうか?あまりにも時代を先取りした衣装デザイン。この服を考え付いたクリエイターは、ただの変態としか思えない。数多のエッチな衣装を着た女を見てきたカカシでもちょっと引いてしまうレベルの露出度だ…と言うかほぼほぼ何も隠せていない。
言うまでもないがこの場にいる忍の殆どは各里の上忍やそれに準ずる上物である。そのため何時如何なる状況でも奇襲に対応出来るよう、常に周辺全域にアンテナを張り巡らせている。
今回はそれが仇になった。
殺伐とした戦場の中、唐突に現れたほぼ全裸の美魔女。そのエロすぎる体にその場にいた男達の視線が彼女の体に引っ張られる。
剣劇の止まらなかった試験会場は驚くほど静かになった。
そして、一瞬の静寂。直後、ハッと今が戦闘中だと思い出した男達が、未だ目を奪われている相手に攻撃する。
「隙あり!」
「ぐ、卑劣な!」
「目を逸らしてるお前が悪い!」
「ほ、本当にあれは服なのか?なんてエロくべ!ひ、卑怯な!」
「戦闘中に余所見とは忍失格だな」鼻血
「いやお前に言われたくねえよ!どんだけ興奮してるんだよ!」
「だ、黙れ!これは、そう…鼻くそだ!鼻くそを深追いしすぎただけだ!」
「無理ありすぎだろ!てか、戦闘中に鼻糞ほじるのもどうかと思うが!」
「なんてエロ…はっ!──隙あり!」
「な、なんて破廉恥な。け、けしからぐほ!不意討ちとは卑怯ですよ!」
しかし、カカシとザブザだけは敵から片時も注意を逸らさずにいた。
「流石だなカカシ…目を逸らさんか…一瞬でも逸らしていたら首を切り落としてやっていたものを……」
「ちっ……!」
カカシはザブザの不敵な言葉に苛立たし気に舌打ちをする。当然だ。カカシとしてはこんなおいしい場面、ガン見して、写真でも撮っときたいくらいだ。しかし、戦闘中ゆえそうも言ってられない。相手の力量が自分と匹敵しているゆえに少しの油断で形成が決まりかねないからだ。しかし、それはそれとして自分の相手がこんな包帯野郎なのに、フガクさんの相手があのエロい女と言うのは納得が行かない。
カカシのやる気は急降下していた。
カカシは普段より5割増しくらい死んだ目で、ザブザを見て溜め息を吐く。
「…………俺も全裸の女と戦いたかった……」
「……さっきの発言は訂正させてもらおう…こんな奴だったとは…はたけカカシ…」
そして、当然の話だが、もし此処に自来也やヒルゼンがいたら、一番影響を受けていただろう。
例えば、自来也なら、
──む、むっーほっー!素晴らしい!なんだその素晴らしい衣装は!ほぼ丸見えではないか!
し、下着は着けているのか?パッと見履いているようには見えないが…………?こ、これは絶対に確認しなければならない!
などと戦闘そっちのけでスケベ心を出していただろう。
三代目火影に至っては鼻血を出して気絶していた可能性すらある。
(…私が相手で良かった…いや、そう言う意味ではなく…お二人が居たら(鼻血を流して)大変な事になっていた…)
木の葉の里の最高戦力二人の戦闘離脱は測りかねない影響を戦況に与える。お二人が聞けば見れなかった事を悔しがるだろうが、本当に此処に居なくて良かったと、フガクは胸を撫で下ろす。
「女を切るのは好きではないが敵ならば是非もない…木の葉に弓を引いた己の無謀を悔いるがいい」
目のやり場に困る女を前に、しかし、フガクは目を逸らすことなく、瞳を万華鏡写輪眼に変えるのだった。
✝️
フガクは内心目の前の敵の強さに驚愕していた。
(噂には聞いていたが…これほどとはな)
未だ忍術を使わないので、──使えないと言う情報もあるが…──、忍術を加味した上での正確な実力は分からないが、仮に全く使えなかったとしてもかなりの強さだ。
剣技だけなら自分よりやや上、総合的に見れば自分よりやや下程度の戦闘能力。
しかも、彼女の真に恐るべきところは、類い希なる剣技でも、怪物染みた身体能力でもなく、再生能力にある。
腕を刺しても、腹を貫いても、全く怯む事無く、「あぁん!」とエロい声を上げながら切りかかってくる。そして、数秒後には綺麗さっぱり傷跡は無傷に戻っている。
余りにも得体の知れない相手だ。
しかも、時々不意を打つように、切られても構わないと言うような意味不明な特効を仕掛けてくるので、フガクは戦いのペースを見事に崩されていた。
そのため、フガクは崩れたペースを立て直すべく、一旦目眩ましの為に火遁を使用し、時間を稼ごうとする。
しかし、これが良く無かった。
てっきり、後退して時間を稼げるかと踏んでいたら、ミトは全く怯む事無く、むしろ自ら炎の中へ踏み入って最短距離で殺しに来たのだ。
ミトがいかに強力な再生能力を持っていたとしても首や頭を守っていたことを考えると不死ではないはずだ。
いくら目眩ましの為のチャクラしか使っていなかったとは言え、全身を炎に包まれれば只では済まない。
だからこそ、身を覆い尽くすほどの炎には後退を選択すると思ったのだ。
しかし、結果は見ての通り、ミトは全身を爛れさせながらも嬉々とした表情で切りかかってきた。
あまりに予想外の展開だった為、とっさに避けきることが出来ずに胸を大きく斜めに切り裂かれる──寸前フガクは「須佐能乎」を出し、紫色の胸骨で攻撃を防ぐと、敵の首を切り落とすべく刀を振るう。
その攻撃を敵は驚異的な反射能力で避けるが、完全に避けきることは出来ずに、肩からバッサリと左腕を切り飛ばされた。
「あぁん!」
「チィッ!」
しかし、難を逃れ、尚且つ盛大なカウンターを成功させたフガクは舌打ちをし、体を切り飛ばされたミトは悶えるような声を上げる。
「須佐能乎」は膨大かつ高密度のチャクラで構成された骸骨の像を形成し、操る術だ。その骸骨は人体程度なら軽く握り潰せるほどのパワーを持ち、あらゆる忍術・体術に対して強力な防御力を誇る。
しかし、この術は完璧に見える反面、欠点の多い忍術だった。まず、当然の事だが、出すだけでチャクラを膨大に消費する。また、そのくせ上半身しか具現化せず、足元がお留守になるので足元からの攻撃や聴覚系・嗅覚系の攻撃は防げない。加えて、術者が引きずり出されると短時間で崩壊する。さらに、使用するだけで全身の細胞に負担がかかり、長期戦には不向きである。
細胞への負担については使用回数が増えるごとに軽減されるが、「須佐能乎」を使うとどんどん視力が落ちていくのでフガクは「須佐能乎」を殆ど使ったことがなかった。当然その事実も知らなかった。もっとも知っていたとしても、使うことはなかっただろう……。術に慣れる代償が視力の低下では余りに釣り合いが取れない。
写輪眼を扱う゛うちは゛にとって視力の低下とはうちはの
フガクは久しぶりに感じる術の反動に頭を抑えながら、チラリと距離を取ったミトを見る。彼女は切り飛ばされた腕を無理矢理体にくっつけようとしていた。治療忍術を使っている様子はない。しかし、腕と胴体は細胞が融合するように元に戻っていく。
それを見てフガクは内心舌打ちした。
予想通りと言えば予想通りなのだが、これで死んでくれたらと期待をしなかったと言えば嘘になる。しかし、人生そう甘くないようで、敵は体を切り離されてもくっつけることが出来るらしい。もっとも、失った血までは元に戻らないようで造血丸を食べるのが見えたが。
ちなみに、火遁により爛れた肌はとっくに癒えており、艶のある白いものへと戻っていた。
まあ、いくらミト自身が火遁や斬撃の傷を元に戻せたとしても着ている服まで再生出来るわけではなく、服は所々ボロボロになり地面に落ちていたが…。
つまり、ミトは現在真っ裸と言うことだ。ほぼ全裸とか服が所々破れているとかではなく、本当の意味での裸だ。
目のやり場に困る相手だ。
しかし、そのお陰で敵が武器を隠し持っていないと言う事実や、敵の能力のカラクリも予測することが出来た。可能ならこのまま全裸で戦って欲しい。そうすればより簡便に相手の動きを見きることも、能力の詳細を看破することも可能になるだろう。
しかし、幾らなんでも裸で戦い続ける女は、フガクの常識ではいないので無意味な仮定だった。
しかし、ミトはフガクの予想を裏切り、自分の格好を全く気にする事無く、剣を構え、戦いの続きを促す。
「まだ戦えるでしょう?」
「戦えるが……」
「別に見られて減るものでもないですし、個人的に見られるのは嫌いじゃありませんから」
「そうか……」
一応言っておくと、この世界にも写真と言うものがある。裸で戦ってたりしたら気づかない間に自分の全裸写真が世に出回るなんて事にもなりかねない。てか、それ以前に裸で剣を振り回すのが大分おかしい。もはや痴女とかいうレベルを遥かに越えた新時代のスターである。
この世界はくノ一の存在もあり女性の身嗜みにかなり緩いとは言え、流石に全裸で女が外を歩いていたら職室は免れない。
仮にも犯罪組織の幹部が襲撃で指名手配されるなら兎も角、露出により指名手配されるのは恥さらしもいいところだ。
もし木の葉の忍が裸で戦っていたらフガクは全力で止めていただろう。この世界には盗撮を生業とする犯罪業者もあるので、変な事をすると取り返しのつかないことになる。フガクは任務で幾つか潰したことがあるので、それを知っていた。
しかし、目の前にいるのは敵だ。
敵が良いと言っているなら此方が強制する事もない。なにより、願ったり叶ったりな状況。敵が裸であれば此方に利することはあっても、不利になることはないのだから。
「戦いを再開する前に一ついいか?」
フガクは剣を正中に構え、闘気を高める。
「なんでしょうか?」
「お前は炎症による傷を治すよりも吹き飛ばされた腕をくっつける方が早かった」
「そうかもしれませんね」
「それに吹き飛ばされた腕が治る過程もおかしい…治癒とは似て非なるものだった…恐らくお前の能力は治癒ではなく、細胞の分離と融合なのではないか?…超速再生も体を実際に治しているのではなく、細胞の融合により傷を塞いでいるだけ…炎症の回復もその能力を応用したものに過ぎない…だが、本来の用途とは違うため治すのに時間が掛かった…違うか?」
「ふふ…よく見てますね…ご明察ですよ…私の能力は治癒ではなく細胞に働きかけるもの…」
だから、失った細胞が本当に元に戻ってあるわけではない。無傷に見えても結構ダメージを受けているのだ。
だったら、火に飛び込むなと言いたいところだが、彼女の戦いを楽しむと言う悪癖が戦い方にも出てしまった。
とは言え、彼女もただやられたわけではない。一度の会合で「須佐能乎」の能力の弱点にも気付いていた。
「その能力…随分と負担が大きいようですね…」
ミトの指摘にフガクは自分の失態を思い出す。
確かに先程は無様にも痛みに頭を抑えてしまった。しかし、もうどの程度の痛みなのかは思い出した。次は追撃を掛けられる。
それにフガクは奥の手をまだ二つ隠している。万華鏡写輪眼の能力である「天照」と「大国主」だ。この内天照は大蛇丸にも知られているので、敵が知っている可能性が高い。しかも、天照の発動時、血の涙が出ると言う分かりやすい前提があるので高いスピードと反射能力を持つ達人相手には、知られていれば当てるのは難しい。天照の体への負担の大きさを考えれば使うメリットは少ないだろう。
しかし、もう一つの「大国主」は大蛇丸おろかミコトにも知られていない能力だ。目の前の敵が知っている可能性はほぼゼロと言っていい。
フガクはこの能力とスサノオでけりをつけることを決める。
一方のミトも切り札を切る。スサノオの予想以上の固さを考えればこのまま戦っても勝機は薄い。
ミトは体に雷のチャクラを帯電させる。これにより無理矢理パワー、スピード、反射能力を高めるのだ。さらに、歯に仕込んでおいた薬を噛み砕き、飲み込む。これは無理矢理身体能力とチャクラ量、再生速度を引き上げるドーピングのようなものだ。しかし、この能力はどちらも自分の体への負担が大きく長期戦には不向きだった。
((速攻で決める!))
二人は同じ結論に達し、動き出す。
恐るべき速度で動くミトとスサノオを巧みに動かし、攻撃と防御を行い、切り札を使うタイミングを計るフガク。
ミトの剛力はスサノオ越しに体にダメージを与えるほど強いが、攻撃と防御が一体となったスサノオも巧みにミトにダメージを与えていく。
戦いは一進一退の様相を見せる。
しかし、唐突に終わりは来た。
「ようやっと掛かったな」
フガクの右目が見つめる先、そこには赤色の幽霊に手足を捕まれたミトがいた。
ミトは体を大の字に縛られ、五体に突き刺さる光の棒により体を固定されている。
フガクの右目の能力である「大国主」は瞳で捉えたとものを強制的に固定し、光の棒によりチャクラをかき乱し忍術を使えなくする術だ。捉えておくには見続ける必要があるが、一度捉えられれば一人で抜け出すのは至難の技だ。
フガクは歩いてミトに近づくと鈴夢の首を掴む。
「這縄 」
黒い縄の紋様がミトの体に絡み付くように刻まれていく。これはうちは警務部隊に伝わる呪印術の一つで行動を制限する効果がある。
さらに、フガクは心臓に指を当てる。
「裏黒穿」
今度は心臓を中心に黒い呪印が広がっていく。
これはうちは本家に伝わる呪印術の一つで、最も高い難易度と拘束力を持つ禁術だ。見た目はダンゾウの使う自業呪縛の印とも似ており、時間の経過と共に拘束力が上がる。術の拘束力には三つの段階があり、まず強い拘束により体の自由を奪われ、次に体が麻痺し、最後に立っていることすら出来なくなる。
裏黒穿を掛けたフガクは気力で開けていた右目を閉じ、大国主を解く。
勝ったとは言えかなり厳しい戦いだった。スサノオの連続使用により頭痛が止まらず全身が悲鳴を上げているし、ミトの攻撃で内蔵を傷つけられたのか口から血を出している。
そんなフガクに大きなナメクジが近づいてきた。綱手の口寄せしたカツユだ。どうやら治療をしてくれるらしい。
「助かる…カツユ」
「いえ、おきになさらず…そちらの女性はどうしますか?」
「此処に置いていくわけにもいかない。うちはの詰所に持っていくつもりだ」
「それでしたら私がお供いたします…二人くらいなら背中に乗せて運べますので、フガク様はそちらの女性を持って背中に乗ってください…同時に治療も行います」
「助かる…」
フガクはナメクジに揺られながら、ミトを抱えうちはの詰所へと向かうのだった。
オリキャラ
名前 ミト
容姿 赤い長髪と空色の瞳。
経緯 大蛇丸がかつて行っていた不死の実験の成功体。しかし、大蛇丸はその存在を認知していないので、暁で会うまで成功体がいることを全く知らなかった。
この実験は大蛇丸が初期に行った研究で、初代火影と、うずまきミトの細胞を母核に作られたクローンを用いて行われた。その為か、ミトの容姿はうずまきミトにそっくりである。