ナルトが綱手に引き取られる話 作:tanaka
ナルトが現在住んでいるのはかつて住んでいたボロアパートではなく、里の外れにある五階建ての高層マンションだ。これは四代目火影であるミナトが発案した『新住宅市街地開発事業』をヒルゼンが引き継ぐ形で作られたニュータウンの目玉施設であり、木の葉きっての豪商で知られる春野グループが出資したものだ。なんと最上階のVIPルームは一部屋20畳程もあり、ガラス張りの壁からは火影岩がでかでかと見渡せる。室内の調度も素晴らしく、キングサイズのベッドにレインシャワー付のバスルーム、広々としたダイニングキッチン、大型モニターテレビなどなど、小国の大名よりも贅沢な家具の数々が取り揃えられていた。
何故ナルトがこんな素晴らしい部屋に住むことになったのかといえば、春野グループの一人娘である春野サクラがナルトと同じ班に組分けされるからである。された、ではなく、される、と書いたのはまだ確定した情報ではなく、キザシが内々に手に入れた情報だからだ。しかし、内々とは言ってもほぼ確定した情報らしく、同時期に娘からナルトが試験官を病院送りにしたと言う話を聞いていたキザシは大変に焦った。別にキザシ自身はナルトに何かしたわけでない。が、逆に言えば何もしなかったし、春野グループの社員の中には下らないことを仕出かした者もいるかもしれない。ナルトに恨まれているかもしれない。その恨みが娘に向けられるかもしれない。そう不安に駆られたキザシはナルト達にすり寄ってきたのだ。
言わばこのマンションはキザシからナルトや綱手への袖の下。「娘のことを頼みます。くれぐれも蛞蝓で押し潰したりしないでください。あと、強いって聞いたので娘が危なかったら助けてやってください」と言うメッセージなのだ。
もっともそんな思惑など露とも知らないナルトは「流石豪商!太っ腹だってばよ!」とキザシへの好感度を上げていた。
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その日、本部の会議室では火影であるヒルゼン、相談役のホムラとコハル、根のダンゾウ、参謀のシカクなど里の上層部が一同に介した重要な会議が行われていた。議題は今期アカデミー卒業生の班決めおよび担当上忍決めである。春の風物詩とも言えるこの会議は日を跨ぐことも珍しくなく、毎度のこと荒れに荒れる。その最たる理由は、この季節になると本部に届く大量の書状だ。曰く、「誰々と同じ班がいい」「誰々とは違う班がいい」「担当上忍は誰がいい」「担当上忍は誰々は嫌だ」などなど。んなもの一々聞ける訳ねえだろがとシカクは毎年のように思うが、不幸なことに書状が減ることはない。更に言えば、書状で送ってくる者はまだ良心的である。本物のモンスターペアレントは直接会議室に直談判してくる。そう言った者の目は大抵正気ではない。ここまで走ってきたのかと思うほど鼻息を荒立たせ、要望だけ言って此方の話は全く聞かない。しかも、質の悪いことに、名家や旧家と呼ばれるものが多いので下手に無下に扱うことも出来ない。
更に今年はうずまきナルトがいるので、例年の数倍は直接乗り込むアホが増え、書状はその更に倍は増えた。上層部の下っ端であるシカクは結局今年もアホ共の対応を押し付けられ、会議からの帰り道、自らの不幸を嘆いて空を仰いだ。
「雲はいいよな、自由でよ。俺も生まれ変わるなら雲になりたい」
などと息子のようなことを言うシカク、末期である。とても末期である。そんなシカクに後ろから「よっ!」と声が掛けられた。
「カカシか」
「随分疲れてるね。例のアレですか?」
「ああ、そうだ。今年は特にひでえ」
ナルトがいるからな、とは言わなかったが含意はきちんと伝わったらしい。
「ま、頑張ってくださいよ。参謀殿」
「他人事だと思いやがって」
「他人事ですからね」
カラカラと笑うカカシは自分がその問題児集団の担当上忍を押し付けられることをまだ知らない。
長い話し合いの末、何とか班構成は決まった。しかし、次に控えるのは更に苛烈を極めるだろう担当上忍決めだ。シカクはさっさと終わらせたいと思いながら音頭を取る。
「班構成が決まったので次は担当上忍を決めたいと思います。通例に則れば第一班から決めますが、今回は特に難しい班があるのでそちらから決めようと思います」
「第七班か」
「はい」
第七班には人柱力であるうずまきナルトと、強力な血継限界を持つうちはサスケ、大富豪の一人娘である春野サクラと、全員が全員狙われる理由を持っている。つまり、まず大前提として七班の担当上忍には高い実力が必要だ。勿論上忍ならば誰でも高い実力を持ってはいるがその中でも格と言うものがある。
「ええ、では、自薦、他薦がある人は遠慮なく言ってください」
シカクの言葉を皮切りに予想通り会議は荒れた。取り敢えず、俺は嫌だとかふざけたことを抜かすアホどもの言葉は強制シャットアウトし、まともなことを言うものだけをピックアップする。
「実力ある忍びと言えば猿飛アスマとか夕日紅だろうか?」
「綱手とシズネも帰ってきてるぞ」
「二人は優秀な医療忍者。引き抜きは勘弁してくれ」
「他には誰がおったかの」
「うちはイタチはどうだ?アイツなら写輪眼の扱いも心得ているだろう」
「確かに奴なら人格に置いても、実力に置いても問題はない。だが、イタチはサスケの実兄だ。慣例から言えば、家族や特別な私怨を持つ者を担当上忍には出来ない」
「然様。あまりにも近しい者は公正な扱いや正しい判断が出来なくなる可能性がある。あのイタチならばそんなことはないと言いたいところだが、家族の情とは侮れないものだ」
「では、誰にするのだ?他に適任がいるのか?人柱力を確実に守れる実力があり、写輪眼の扱いを指導でき、かつサスケに近しくないものなど」
「一人いるではないか」
「まさか」
「はたけカカシだ」
「だが、あいつは担当した全ての生徒を落としている男だぞ」
「もし落ちたならそれは下忍になるに未熟だったと言う話だ」
「然り、然り」
上手く纏まりそうだったので、これ幸いとシカクは三代目に伺いを立てる。
「では、第七班の担当上忍ははたけカカシとする。それで宜しいでしょうか?三代目」
「ふむ、あやつなら信頼がおける。良いだろう。他に異議のある者はいるかの?」
三代目の言葉は重い。
異議は出なかった。
はたけカカシside 火影邸
「カカシよ。お主に第七班……春野サクラ、うちはサスケ、うずまきナルトの担当上忍になってもらう」
「私がですか?」
「何か不服でもあるのかの?」
「いえ。しかし、私ごときに勤まるかどうか」
「ははは、謙遜するでない。お主の実力はわしもよく知っておる。では、頼んだぞ」
忍びにおいて上官の命令は絶対。だから、面倒そうだなと思っても断ることは出来ない。カカシは、「こりゃ大変なことになったぞ」と頭を掻きながら火影邸を出ていった。
ナルト達三人が下忍昇格試験に合格するかどうかは分からないが、担当上忍になった以上、部下の性格や基本的な能力は知っておきたい。そんな担当上忍のために木の葉にはアカデミーデータベースというものがある。これはアカデミーでの授業態度や担任からの評価、基本能力値などが書かれているもので、うちはサスケと春野サクラはこれを見れば問題ないだろう。問題はナルトだ。ナルトはアカデミーに通っておらず、情報が殆んどない。面倒ではあるが自分の足で情報を集める他無いだろう。
カカシは火影様にナルトの住んでいる家を聞き、昼過ぎ、ナルトが家を出たのを確認して、アパートへとやってきた。
「いやー、話には聞いてたけどホントでかいね。良い暮らししてるじゃないの。羨ましい」
自分の家の一体何倍あるのかと言う大きさ。しかも、これで綱手とシズネの二人と暮らしてると言うのだから羨ましいことこの上無い。是非とも代わって貰いたいところだ。
カカシはダラダラと階段を登り、503と書かれた扉の前で、インターホンを押した。
ピーンポーンと言う間延びした独特のチャイムの後、暫くして、バタバタと言う駆ける音が聞こえ、バンッと扉が開く。出てきたのは寝巻き姿のシズネだった。
「ナルト君、忘れ物ですか?」シズネは夜勤明けなのか非常に眠そうな顔で、声も間が抜けている。さらに黒い浴衣は胸元がはだけ、寝ていた為か下着もさらしも着けていなかったので、あられもない姿を晒していた。
カカシは思わずマジマジと膨らんだ果実をガン見する。こう言う時、カカシに遠慮と言うものはない。見たいものを見る、それがカカシのモットーである。
シズネはボーッとした頭で目の前の男がナルトじゃないことを把握し数秒固まる。そして、ようやっと自分の今の格好を思い出し、慌てて胸を手で隠す。
「きゃーーー!な、何でカカシさんが?!」
しゃがみこむシズネにカカシは今更ながら目を逸らす。
「あー、何かごめんね。ちょっと用事があってきたんだけど、出直そうか?」
「いえ、大丈夫です。何のようですか?」
「ナルトのことについて聞きに来たのよ」
「ナルト君?」
シズネの声のトーンが下がる。顔は依然赤らんでいるが目は鋭くカカシを見ていた。
「そんな警戒しなくていいよ。実は俺、ナルトの担当上忍になってね。ナルトってアカデミー通ってなかったからデータベースがないのよ。それで此処に聞きに来たって訳」
「なるほど。そうでしたか。これは失礼しました。話が長くなりそうなので着替えてきますね」
「え、そのままでも良いよ」
「着替えてきますね!」
パタンと閉められた扉を見て、カカシは眼福眼福と思うのだった。