「あれ? ここは……」
ナミの意識が戻り、体を起こすと体にかかっていた布が落ちる。周囲を軽く見渡すと、どこからどう見ても寝室だ。少しカビ臭い気もする柔らかなベッド含め、どう見ても一般家庭では無い。貴族や大商人など、大金を持った人物の家であることは容易に察せられた。
「いや私は……そうだ! ウソップとチョッパーは!?」
少し落ち着いたところでつい先程までの出来事、地面からはい出てくる大量のゾンビを思い出す。
そして顔を青くしながらここはどこか、何があったのか、何故気絶したのにここに居るのかを考えるが何一つわからない。ただ、只事では無い事だけは分かった。何はともあれウソップやチョッパーがどこかに居るはずだと、探す為に慎重に扉に近づいた。
その瞬間、ガチャリと音を立てて扉が開かれた。
「……!」
すかさず
ならばせめてと手のひらを突き出しすと、入ろうとする影にクリーンヒット。
ギャ──という声を上げて後ろに倒れた。
そしてその影を見ると──
「な、なな何すんだナミィ!」
「うおおおおぉ!!? 大丈夫かウソップー!!」
「え!? ……ウソップ!? それにチョッパーまで!」
ウソップが後頭部を両手でおさえながら転がっていた。そしてその傍には可愛らしい顔を大きく歪めてパニック気味なチョッパー。
「……何してるんです?」
そしてそれを右手の扉の前から眺め、小首を傾げているのがメンローパークだ。
「キャー! あんたはゾンビの……」
「ギャ──! 足踏んでる! 足が!」
「ギャ──! ウソップー!?」
「…………?」
しばらくして──
「改めまして、ドクトル・ホグバックさんのお屋敷にようこそお客様。
「どうって……というか俺たちが見たゾンビは地面から出てたぞ!? あれは本物なのか?」
「はい。ボクもゾンビなので……楽しかったですか?」
ふにゃりと笑いながら小首を傾げるが、それに惑わされることなくチョッパーがすぐに返した。
「すげー怖かったぞ!!!」
「それはよかったです」
「良かねーよ!」
「そんなことよりも! ここはどこ? 私たちの荷物は? ひとまず私たちの船に帰らせてほしいんだけど?」
ズイと2人の間に入って両手を突き出し、少し仰け反ったメンローパークに向き直って少しだけ凄む。訳の分からない事態だが目の前にいるのが小さな女の子ということもあって、ほんの少しだけ。
しかしメンローパークは首を横に振り、淡々と言った。
「オーナーからはお客様たちをここに留めておくように言われています。お連れの人もここに来るそうなので、揃ったらスリラーツアー開始です。それとここはあくまで楽しむ場所ですので、危なそうなものは預かってます」
「じ、じゃあちょっとトイレに行きたいなー?」
「後ろの左から2番目のドアに……あれ? 3番目? ……うーん、とにかくここに何でも揃ってるはずです」
「とにかく! 通さないと怖いことになるわよ?」
そう言ってナミはチョッパーとウソップにアイコンタクトを送り、チョッパーとウソップは互いに頷く。
「「ウオォォォォォォ……!」」
チョッパーは体を大きくして両手を広げ、ウソップは持ち前の表情筋を最大限利用して顔を歪ませて
どういう訳か、目の前の少女は一切怯える様子を見せないし、それどころかうばぁと笑いながらどこからか取り出した写真機で写真を撮る始末。
業を煮やしたナミは脇の下に手を入れて持ち上げ、ゆっくり扉の前から退ける。
その瞬間────
「わっ、ダメですそれは」
メンローパークは軽く一言呟き、軽く手を払ってドアを凍りつかせた。比喩でも何でもなく、ドアに氷を纏わせる。氷はドアノブを起点に広がっていき、最終的にはドア全体を氷で覆ってしまった。
そこから発せられる冷気は氷が確かに存在することを証明しており、ドアノブに手を伸ばしていたウソップは思わず飛び退いた。
「これは……!」
その氷を見て思い出すのは、海軍大将青キジとの一戦。もはや戦いとも呼べなかった完敗であり、刀でも蹴りでもパンチでも接触すればそこから凍らされ、いくら攻撃を加えてダメージを与えられない自然系能力者という理不尽の思い出。そしてロビンやルフィが氷像にされて命を失いかけた記憶。
それらはその場にいた一味全員の心に少なからず疵を残しており、示し合わせずとも3人がメンローパークを恐ろしいものを見るように睨みつけていた。
「あ、すみません。寒いですよね」
そんな張り詰めた空気にも関わらず、薄着のナミを見て見当外れのことを言ってのけるメンローパーク。
もう一度手を氷に覆われたドアに向けると今度は炎が氷にまとわりつき、あっという間にずぶ濡れになったドアと床が顔を出した。
そして部屋の端にあった暖炉にも炎を放つと満足げに笑い、ぺこりと一礼。
「ではちょっとだけ待っていてください。他の人たちの様子も聞いてきます」
唖然としている3人に対してそう言い、メンローパークは扉の向こう側へと消えていった。
「……ハッ! 呆けてる場合じゃねぇ、荷物を取り戻してルフィたちに合流しねぇと!」
「……え、ええ! そうね! とにかくこの島は何かおかしい。気をつけるように言わなきゃ!」
「あ、ああ! ドクトル・ホグバックも気になるけど、普通じゃない」
一拍置いて気を取り直した3人だったが、骨が刺さったような引っかかりを感じながらも天候棒やパチンコといった荷物や一味への連絡を最優先と判断して動き始める。
「だけどここには窓もねぇし、鍵も……」
チョッパーはそう言いながらノブを回すと、止められることなく当然のようにガチャリと開くドア。
「「エエエェェェェ!!?? 開いて……ギャ────!?」」
「ウソ!? ってキャ──!!!」
チョッパーが扉を開けるとそこには鍵を閉めようとしたのか、鍵を片手に持ったゾンビが立っていた。ゾンビも驚いたのか、常に顕になっている目を大きく見開いた……ような気がする。
そしてゾンビは目をゆっくりと逸らし、何事も無かったかのように廊下の向こうへと……
「いやちょっと待てぇ!!!」
「やべっ」
ツッコミを背に受けたゾンビはたまらず駆けだした。
「とにかく追うわよ! 部屋を出たのが知られちゃう!」
「任せとけ! ゾンビなんて足が遅いのが定番……って速ぇ!?」
「おれが追いかけるからウソップたちは荷物を探してくれ!」
チョッパーは本来のトナカイ姿に変わり、アスリートのようなフォームで逃げるゾンビを追いかけるが、やはり尋常ではない速さだ。速度はほぼ同じで、距離が縮まらない。
そんな光景を見つつ、やれることをやろうとナミとウソップは廊下を探索しながら進んだ。
「ぞんぞん〜ゾンビのような〜……よいしょっと。こんにちはオーナー。お客さま3名部屋に案内しておきました!」
横についてある普通の扉を忘れ、目の前の体の十何倍もあるような扉を開けて部屋に入ると、らっきょうのような形の頭をした巨大な影が現れた。
ここスリラーバークの主、王下七武海のゲッコーモリアである。
「キシシシシシ! よくやった! 残りの客にはペローナたちが向かってる。自由にしていいぞ!」
「ありがとうございます。ではこれで〜」
報告にしては随分と簡潔で呆気ないものであるが、モリアもメンローパークの忘れっぽいといった特性を理解した上で利用している為その都度違う設定のボロを出す前に会話を終わらせていた。
「キシシシシシ……相変わらずバカで助かるぜ。アレを作ったってのに手放すバカといい、頭の足りねぇ奴ばかりだ! バカも使いようとはよく言ったもんだな! キシシシ……キシシシシシシシ!!!」
「クソッ中々追いつかない……あと少しなのに!」
廊下を爆走するゾンビとトナカイ。ゾンビはトナカイ、チョッパーに直線速度では僅かに勝っていたが、滑りやすい廊下のコーナリングでは四足歩行のチョッパーに距離を大きく縮められており、廊下の角ギリギリで取り逃がすのを数度繰り返しており、焦りが蓄積していた。
「メンロー様! 鍵を閉める前にホゲェ!?」
「よし、やっと仕留めた……ぞ……」
「あれ? 大丈夫ですか? お客様……でもないですね。ペローナ様の庭から逃げてきたんですかね?」
「……!」
曲がり角でチョッパーがゾンビを吹っ飛ばすのと同時にメンローパークが現れる。
チョッパーにとっては強さの底が知れない、恐ろしい能力を持つ相手だが、メンローパークはトナカイ形態のチョッパーを初めて見る。
服を着た動物ということもあってペローナが庭で飼っているゾンビたちを想像するのも仕方がないと言えるかもしれない。
ゾンビはいつの間にか種類が増えてるし忘れている。増えたものか忘れたものかも分からないのだ。
「はーい、ペローナ様の庭はこっちですよ〜」
その為メンローパークはよく分からない相手は同類である、ゾンビであると判断する。そうしてツノを向けて姿勢を低くするチョッパーに怖がることなく、ペローナの庭への案内を始めたのであった。
記憶力がよわよわというのはですね、物語の進行上で忘れて欲しいことを好きに忘れさせられるっていう事なんですよ(暴論)
みんなもミストレやろうぜ?誰かしらは(性癖に)刺さる子がいますよ?