「みんな!」
屋敷を転がるように飛び出したナミが門の外に出ると墓地があり、少し前に気絶するほど驚かされたゾンビの集団とルフィ、ゾロ、サンジ、フランキー、ロビンがいる。彼らがナミの声に振り返るとゾンビ達が頭から地面にめり込んでいるのがよく見えた。
「おおー! ナミ! 面白ぇなこの島! 大ケガした爺さんだらけだ!」
「「「だからゾンビだっつってんだろ!」」……ってんナミさん! よくご無事で!」
「……! おい、ウソップとチョッパーは?」
ナミのただならぬ様子を見てゾロがすかさず問いかける。するとナミが顔を青くしながら口を開いた。
「──っつーと、チョッパーはゾンビを追いかけて、ウソップは屋敷を探索してる間にいつの間にかいなくなってて行方が分からねぇってことか」
「ええ。ウソップが消えたのは明らかにおかしい」
「迷ったんじゃねぇのか?」
「ンなわけあるか。お前じゃあるまいし」
「んだとクソコック!!!」
「事実だろうがクソマリモ!!!」
いつものように喧嘩を始めた2人を尻目にナミはルフィ達へと今まであったことを掻い摘んで話した。その中で明らかに異質な存在として上がったのがゾンビに指示を出し、氷と炎を操ってみせた少女、メンローパークだ。
ゾンビに指示を出していることから彼女はこの島やブルックの影を奪った者について何か知っているだろうと睨み、目標をメンローパークに定めた。
そして歩きながらナミがその容姿をルフィ達に伝えていると、前からボロボロの老人が歩いてくる。
「大ケガした爺さんじゃねぇか!」
「「だからゾンビだって「ああ、ワシはただの大ケガした爺さんじゃよ」……紛らわしいぞテメェ!!!」」
「それで、どうして私たちの前に?」
このままでは話が進まないと思ったロビンはすかさず老人に話を促す。
すると老人は少し言葉に詰まりながらゆっくりと、吐き出すように話し始めた。
「う、うむ……それはだな、お前たちにある男を倒して欲しいんじゃ」
「「男ぉ?」」
「あぁ─数多の人々の影を奪い、我らから陽の光を奪い去ったモリアという名の男を……!」
「ホントだおっさんも影がねェな。ブルックと一緒だ……!!!」
老人がその名前を口にすると、ロビンが顔色を変えて慌てて返す。
「もしかして……! ゲッコー・モリアのことかしら?」
「あ、ああ……そうさ、そのモリアじゃ!」
頭を地につけている老人には青ざめたロビンの顔は見えないが、他の仲間たちにはよく見えた。
「ロビン? 何か知ってるの?」
「……名前ならよく知ってる……“元の”懸賞金でさえルフィ……あなたを上回る男よ……!!」
「元、ってのはどういう訳だ?」
「ゲッコー・モリアは“七武海”の1人よ!!!」
「「「「!!!!」」」」
七武海とは世界政府によって公認された7人の大海賊のことであり、彼らを纏めてそう呼ぶ。
その中には名実ともに世界一の大剣豪、ジュラキュール・ミホークも名を連ねており、この世界でもトップクラスの実力が認められているという称号でもあった。
七武海の強さはクロコダイルやジュラキュール・ミホークで身をもって味わった経験がある為、情報に疎いルフィでさえも驚いている。
「そんな奴がこんなとこで何やってんだ?」
「さァ、わからんがわしと同じようにこの森をさまよう犠牲者達も少なくない……あんたらもここへ誘われた時点で目をつけられたと思った方がいい。ゾンビを恐れながら這い回る者……海へ出てなお太陽に怯え生きる者……! いずれにしろ生きている心地はせん……死ぬ前にもう一度、太陽の光の下歩いてみてェ……!!!」
老人は長らく希望を見いだせなかった為か、話しているうちに感情が溢れ出し、涙を流す。
「そうなのかおめェ……! そりゃ辛ェなァ……!! よォし! おれが力んなるぜ心配ずんな! バカ泣いちゃいねェよ!」
そしてそれを聞いてフランキーは老人と同じかそれ以上に涙と鼻水を流した。
その一方で、
「気持ちをわかりすぎだろ! てめェ軽く背負い込むな」
「まったくだおいジジイ! 泣き落としは美女の特権だと思え!!! お前じゃトキメかねェ!!」
ゾロとサンジはいつも通り、淡白であった。
「まーでもよ、元々探してたんだ。そいつがおれ達も狙ってんならぶっ飛ばす事になるし、おっさんもついでに助かるんじゃねェか!?」
そしてルフィも通常運転。朗らかに老人に返すと老人は涙を流した。
「それにしても霧が濃いな……」
「とにかく入るか!」
その後老人と別れて探索を続けるが如何せん視界が悪く見える距離が短い為、探索がなかなか進まない。
そして屋敷の門をキィ……という音を立てて開くと、屋敷からボーン、ボーンと時を知らせる鐘の音が聞こえてきた。
それは0時を知らせる音。ゾンビが本格的に動き始める“夜討ち”の開始合図であった。
麦わらの一味を迎え打つは、七武海“ゲッコー・モリア”。
兵士ゾンビ・将軍ゾンビ指揮官“墓場のアブサロム”
動物ゾンビ・びっくりゾンビ指揮官、ゴーストプリンセス“ペローナ”
ゾンビの生みの親“ドクトル・ホグバック”
謎の少女“メンローパーク”
さて、時間は少し巻き戻り、メンローパークはチョッパーを連れて目的地に辿り着いていた。
植物のアーチや王冠の装飾、ハート型に整えられた植木。小洒落たパーテーションや階段、椅子やテーブルなど、明らかに館の内装とは異なる様子である。
「さて、ここがペローナ様の“
(何をしてるんだ……? というかこんな所まで……! こ、怖ェェェ!!! で、でもとにかく、今は情報を探る……!)
冷や汗の止まらないチョッパーに気づく事もなく、メンローパークは間の抜けた呼びかけを誰もいない庭に投げかける。
それにハテナを浮かべるチョッパーであったが次の瞬間、思わず声が上がった。
「「「「「メンロー様だ! こんにちは!」」」」」
「ギャァァァァァ!!!」
木の上やパーテーションの裏、木の影から大声を上げながらゾロゾロと動物達が出てきた。
だがただの動物では無い。シマウマの頭にカンガルーの体、ブルドッグの顔に牛のツノと牛の体など、様々な動物が掛け合わされたゾンビであった。サイズも様々であり、出てきた彼らには慣れている者でなければその迫力に怯えてしまうだろう……チョッパーのように。
「どうしたんですー?」
「あれ? 後ろの子は誰?」
「新入りじゃない?」
「久しぶりの新入り!」
「やったぁ!」
動物ゾンビ達は嬉しそうにメンローパークとチョッパーを囲んだ。
「そうです。新入りの子が迷ってたので連れてきました」
「とんだおっちょこちょいが居たもんだな、はっはっはっはっは!」
「メンローパーク様に見つけてもらってよかったな。他の幹部様ならどうなってたか……」
「……マズイのか?」
チョッパーがおずおずと聞き返すと、足元にいた顔がネコのチワワが耳元で小さく返した。
「そりゃあ勿論。メンローパーク様以外だとボコボコになって帰ってくるか、運が悪いと帰ってこない」
それからしばらくワイワイとしていると、ボーンボーンと鐘の音が鳴った。
すると動物ゾンビ達は時間が来た、準備だと、ザワザワとし始めた。
「え!? な、なんなんだ? この鐘は?」
「いいから今は隠れろ!」
チョッパーの問いは返されることなく、庭の入口から見えない場所に押し込まれる。
「あっ、門限が……ボクは早く部屋に帰らないと……! それでは皆さん、また!」
そしてメンローパークは焦りを顕に挨拶を簡潔に投げ、小走りで屋敷の方へと駆け出していった。
だがチョッパーは何十体ものゾンビに囲まれている現状、彼女を追いかけるどころではなかった。