見切り発車かつそのうちオーデル川から離れるのにこのタイトルで始めた時点で失踪予備軍ですがよろしくお願いします。
カールスラント軍首都防衛軍司令部はその日、喧騒に包まれていた。
もとより静寂とは無縁の場所ではある。戦車と輸送車両のエンジン音。周辺を走る新兵とその尻を蹴飛ばし罵倒を浴びせる鬼軍曹。誰何と点呼の声は鳴り止まず、砲声を加えれば立派な戦場音楽として成立するだろう最前線の喧々たる有様だった。
これに加えて、空を仰げば航空機の風切り音と、ウィッチたちのストライカーがその駆動音を高らかに響かせている。
だがこの日、基地に詰める兵士たちが口々に言い合っているのはたったひとつの噂話。
元が一つでも尾ひれはひれがつき豊かなバリエーションを伴って勝手に分裂してゆく噂話が、この日に限ってそうではなかった。
曰く、新たな怪異が対ネウロイ防衛線上のオーデル川に現われた、と。
☆
「……では君は、ネウロイの発祥地となる世界から来たということか?」
「ええ。あなた方の言う怪異とネウロイのお話からして、私の棲んでいた世界から渡っていたものと考えて間違いないでしょう」
喧騒に包まれた基地の中で、不気味に静まり返る一角があった。
主要施設から外れた古ぼけた倉庫だ。雨漏りがしたために半ば廃材置き場と化していたそれを、日が暮れてから片付けを言いつけられた従兵らが、珍しく豪華な心付けを燃料に一晩ででっちあげた臨時会議室。
ガラクタを運び出して埃を掻き出し、申し訳程度に机と椅子を運び込んだ粗末な会議室には、しかし基地司令をはじめとした高級軍人と幕僚らが詰めかけていた。
対面するは、一人の少女。
グレーのシャツにフリルをあしらったズボンをベルトで吊った少女だ。まるで休暇を取ったウィッチが街に繰り出すような服装は、しかし肩にかけた階級章の無い飾緖だらけの外套のせいでひどくチグハグな印象になっている。
もちろん、彼女は将官ごっこに興じる不謹慎なウィッチなどではない。
カールスラントという国家消滅の危機に現れた救世主―――ならぬ新たな脅威、深海棲艦の指揮官だ。
「しかし、運が良かったですね」
肩を越え、腰まで伸ばした銀髪を指で弄ぶ少女、ムサシは笑う。
この世界に現れた怪異がネウロイでなければ、とっくに人類は絶滅していたと。
ムサシからもたらされたもうひとつの世界、平行世界の地球の情報は、この世界の人間にとって驚天動地の惨状だった。
その世界には、『人類の敵』があまりにも多すぎたのだ。
大陸を地均しし、ひとつの大陸を除く全ての地上から人類を痕跡も残さず駆逐した、人類に敵対的な地球外起源種、『BETA』。
太古から深海のクレバスに棲らし、海を渡ろうとしたBETAに激怒しこれを藻屑に帰した、海を紅く染める古き船霊、『深海棲艦』。
人類が存亡の危機を神頼みで解決しようとする段になって古代の遺跡より出現し、オーストラリアに限るとはいえBETAを含むあらゆる炭素系生命体を炭素の塊に変換した怪物、『ノイズ』。
そして人類が対BETA戦の片手間に地上から駆逐し、レーザー級BETAの視界に入らないようコソコソと巣を作って命脈をつなぐ『羽虫』。
―――こと、ネウロイ。
並行世界の人類は、驚異度の高いもの以外で排除が容易な怪異には、名前すら付けていなかった。
それほどに強大な敵が多く、そして排除可能な敵は掃いて捨てるほどありふれていたのだ。
「あの羽虫風情に苦戦しているようでは、BETAはおろか、我ら深海棲艦に抗うことも不可能だったでしょう。何せ大分昔に絶滅したあちらの世界の人類と比べても、この世界の技術水準は半世紀ほど遅れていますから。
良かったですね。手に負える敵しか現れなくて」
くすくすと上品に笑うムサシだが、嘲笑と受け取ったカールスラント軍の内心は荒れていた。
何せ、その『羽虫』の大群相手に国民の命を文字通り肉壁として時間を稼ぐことしかできない無能こそカールスラント軍という集団だ。
国を守れず、民を守れず、皇帝陛下の軍をいたずらにヴァルハラ送りとすることを主任務とする唾棄すべき無能。
目の前の少女の姿をした怪物は、カールスラント軍を羽虫にすら劣ると見下していることを隠そうともしない。
軍事大国であるカールスラントの存亡と威信を賭けて戦う軍人が、これに堪えられる道理はない。
だが。
「それに、私が転移した場所にしてもそうですが。ちょうど防衛線の北側から来る陸上型を遮断する位置に陣取ったのなんて奇跡的じゃありませんか。
そうでしょう? 司令官さん」
「……ああ、まったく僥倖だな」
だが、堪えなくてはならない。
既にカールスラント軍は死に体だ。戦線全般において遅滞戦闘すら不可能なほどに消耗し、司令部はともかく戦闘部隊の指揮系統は壊滅。どの部隊がどの戦区で戦っているかさえ情報が錯綜して判然としない。
指揮系統を回復するには部隊の大規模な再編が不可欠であり、そのための時間的猶予を捻出するために首都を瓦礫の山にしてネウロイの足を止め、なお撤退状況が芳しくなければ祖国を守るために銃を取った若者たちに死守命令を出さねばならない。
そんな中で、オーデル川北方に押し寄せる陸上型ネウロイに渡河を許さず、紅く染まった川に引きずり込む新たな怪異が確認された。
戦車を模したネウロイの装甲を噛みちぎり、小型ネウロイの光線ではビクともしない装甲と耐久力を持ち、口からアハトアハトに勝る火砲を放つ魚型の怪異。
深海棲艦。
その数、申告の通りならば一千体。
それだけの戦力が味方につけば、ベルリンを放棄せずに防衛する見通しさえ立つかもしれない。
北方で部隊を再編し、東西に長く戦線を引けばネウロイの圧力はガリアへ流れる。支援を出し渋るエスカルゴも、いざ亡国の危機に直面すれば全力で戦ってくれることだろう。戦闘正面の圧力分散も期待できる。
祖国の命運が拓けるのだ。
喜ぶべきだろう。
「まぁ、よかった。余計なお世話だと言われてしまったらどうしようかと思いました。これならお互いのために手を取り合うことができそうですね」
目の前の怪物に、その命運を握られてさえいなければ!
たったそれだけの事実が、司令官の胃壁と、毛根と、頭の血管を激しく攻め立てる。
誇りあるカールスラント軍人として、祖国の命運を人ならぬ怪物に委ねるなど断じて許容できない。
できないが、だからといって軍人の矜持のために祖国を失うことは言語道断の所業だ。
だから歯を食いしばり、笑顔で悪魔と握手を交わすのだ。
「もちろんだとも。我々としても、こうして言葉を交わすことがてきる知性ある相手を無下にすることはないと、カールスラント軍人の誇りに賭けて誓おう」
「嬉しいです。では、今後ともよろしく」
全てはカールスラントのために。
帝室と、軍と、祖国百年のために。
毒杯いっぱいの煮え湯を飲み込んだ。
☆
―――その後、紅く染まったオーデル川の底にて。
「……はぁー、なんとかなった。
いきなりウィッチーズ世界に転生させられた時はどうしたもんかと思ったけど、交渉が上手くいってよかったわー」
「にしても、あんなに怖い顔するとは思わなかったな。
人類が運良く無事でよかったねー、手を貸してあげるからこれから協力して頑張ろうねーって話なのにあんな顔しなくてもいいのに」
「ひょっとして自力で国を守れないことを悔やんでるのかな?
責任感の強い軍人さんって大変だなー」
怪異に転生して人類に敵対されないよう友好的なコンタクトに成功した転生オリ主。
なお、異文化コミュニケーションの難しさを理解してはいなかった。
ネウロイみたいな「人類の敵」って好きなんですよね。
勝手に分類と呼び方を作ってるんですが、
分類A 仮称『アークエネミー』
特徴 単独で人類を滅ぼせる、もしくは人類絶滅イベントを起こせる。
人類の技術水準、軍事力では対処が非常に困難。
個体数は少ない。
例 使徒(エヴァ)
ゴジラ(ゴジラ)?
分類B 仮称『アークレギオン』
特徴 物量と戦力比で人類の総戦力を蹂躙する。
軍隊で正面から対抗できる相手ではあるが、キルレートと戦力比のバランスが狂ってる。
巣を作ったり母体や女王から増えたりする。
例 BETA(マブラヴ)
ネウロイ(ストパン)
分類C 仮称『アークナントカ』
特徴 特定の攻撃でないと倒せない。
分類Aと被る部分が多い。
例 バーテックス(ゆゆゆ)
使徒(エヴァ)
大体こんな感じ。
ネウロイが分類Bなのは、陸上型には通常戦力で割と対抗できてるらしいのと、魔力はあくまで「再生を阻害する」ものだから。
使徒といいネウロイといい、Cは特徴として持ち合わせる場合が多いから分類とは言えないのかも?
単に個と群の2タイプに分けて、ありがちな特徴を書き出すとか。
深海棲艦は艦これが媒体によって違い過ぎてわからん。
次回があったらそのへんの説明とかで。