女剣士と女勇者が出会うまでのお話   作:____―--

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Darkness imprisoning me

 その迷宮は、山に囲まれた地域にあった。この辺りはのどかな場所で、北の方には廃墟と化した砦があり、麓の方には小さな村がある。南側には森が広がり、西側は岩場になっている。そんな場所だからか、魔物や魔獣が住み着く事もなく、平和な場所だった。迷宮は砦よりも更に高い山の中腹に存在し、入り口付近こそ木々に覆われているが、内部は広々とした空間が広がっていた。二人の少女は迷宮の入口に立っていた。

 

「ここは遺跡なの?」

「いえ、迷宮よ。もう踏破されているから、危険はないよ」

「どうしてそう言いきれるのよ」

「私達がやったからね」

「ええっ!?アイラがやったの!?」

 

 するとアイラは苦味を噛んだような表情で答える。

 

「正直、地獄のような日々だった……。いっぱい人が死んだ」

「あ……うん……」

 

 マーナは不味い事を聞いてしまったと思ったが、アイラは続けた。

 

「この迷宮が踏破される前は、一度入ってしまうと外の世界に出れなくなるようになっていたの。この迷宮が攻略されるまでは、誰も外に出られなかったってわけ」

「そうなんだ……」

 

 マーナは少しだけ安心すると同時に、好奇心も湧いた。

 

「じゃあさ、何のために作られたのかしら?こんな大きな建物なのに、何もないなんて不思議だわ」

アイラはその問いに対して答えた。

「ここは後々に分かった事だけど、戦いに素質がある人間を訓練するために作られたらしいの」

「それで、人が沢山死んだのよね」

「ええ、それに生き残った人も迷宮の狂気に飲まれた。私も含めて」

「その割にはアイラは平気そうだけど」

「そんなわけは無い。でも、私は運良く生き延びた」

 

 マーナは話を聞きながら周囲を見渡していた。

 

「で、どうしてここに来たの?何か用事があるんでしょ?」

「ただの思い出巡りだよ。中、入ってみる?」

「ええ!?でも、中は危険そうだし……」

「魔物ならもう居ないから大丈夫」

 

 アイラはマーナの手を引いて迷宮の中へと入った。最初に辿り着いた空間は広い空間で、何やら人々が営みを築けるだけの設備があった。しかしそれも既に朽ち果てて見る影もない。

 

「ここは?」

「休憩地点。ここで休息を取るの」

「何やら人が住んでいた形跡もあるけど……」

「ええ、私もここに住んでいた。ここは迷宮の宿屋よ」

 

 アイラはそう言うと奥の部屋へと向かった。そこには複数のベットが置かれていた。

 

「ここには超高級ベッドから馬小屋まで色んな部屋があるの。でも、皆馬小屋を使っていた」

「え?どうして?」

「最高級ベッドを使うと、何故か歳をとったような感覚に囚われるらしい。それに、泊まる費用がとても高かったからね。馬小屋で寝ても魔力は普通に回復するから問題なかったみたい」

 

 次に二人はテーブルや椅子が置いてある場所へ向かった。そこは食堂らしく、食事用の机と椅子が何脚かあった。

 

「ここは酒場。別れと出会いの場でもあった」

 

 アイラの言葉通り、そこかしこに酒瓶が落ちていたり、誰かが座っていたであろう痕跡が残っている。

 

「ここでは仲間を失った人々の嘆きが聞こえてきた。そしてまた仲間を探して潜る」

「そう言えば、アイラは何回くらい潜ったの?」

「数え切れない程」

 

 アイラはさらりと答えると、マーナは少し呆れたように言った。

 

「それでよく生きてたわね……」

「本当に、本当に運が良かったんだよ……。私一人じゃ絶対に無理だった」

「アイラに仲間がいたのね」

「居たよ。六人で最深部に辿り着いたんだけど、そこで二人死んだ」

 

 アイラの声色はどこか寂しげなものになっていた。

 二人が次に入った部屋は何やら物が沢山置いてある倉庫のような場所であった。

 

「ここは商店よ。私はぼったくり商店と呼んでたけど」

 

 アイラが棚に置いてある商品を手に取ると、それはどう見てもガラクタにしか見えず、マーナも首を傾げた。

 

「これは一体……?」

するとアイラは懐かしむような口調で答え始めた。

「遺品を引き取って次の人に売ったり、手慣れの冒険者から不要な武器などを引き取ったり、得体の知れない武具の鑑定をしたりしてたの。まぁ、鑑定にお金取られるから私はぼったくり商店としか思って無かったよ」

「ここには何か使えそうなものはあるかしら」

 

 マーナはそう言いながら辺りを見渡すと、青い鎧があった。

 

「ねぇ、これ使えそうよ」

 

 と手を伸ばすとアイラがその手を掴んで止めた。

 

「ダメ。この鎧は呪われている。あなたのような人は着れない」

 

 マーナはその言葉を聞いて目を丸くした。

 

「えっ?呪いの装備なの!?」

「うん、だから触らない方がいい。他のものを探しましょう」

 

 マーナはアイラと共に別の品物を探すことにした。

 その後も様々な場所を回ったが、特にめぼしい物は見つからなかった。

 

「ここには何も無いのかしら?」

「使えそうな物は全部帝国が持っていったかも」

「そうなんだ……じゃあ、この迷宮にはもう何も残っていないって事なの?」

「無いだろうね」

 

 アイラはあっさりと言い放つ。

 マーナは少し残念そうにしていたが、すぐに気を取り直してアイラに話しかけた。

 

「次はどこ行くの?」

「女神像のところへ行こう」

 

 マーナとアイラは次の部屋へと向かう。そこは今までの迷宮とは違い、石造りの壁や床ではなく、白い大理石で作られた美しい空間が広がっていた。その中央には大きな台座があり、その上には巨大な女性の像が鎮座していた。

 

「ここが女神像の場所?」

「そうね。ここは寺院みたいな役割もあったから。致命傷を受けても、見合った量の銀を捧げれば回復してくれるの」

「銀って?」

「ここの迷宮でしか使えない通貨よ。商店も宿も銀で取引していた」

 

 アイラはそういうとポケットから銀色のコインを取り出した。

 

「これがその貨幣。今はもう価値は無いけどね」

 マーナはそれを受け取ると、まじまじと見つめた。

「見た事ないわね……」

「そうでしょうね。ここ以外では流通していないし」

 

 アイラはそう言うと、女神像の後ろにある墓標に視線を向けた。そこには色んな人の名が刻まれていた。

 

「ここは墓地も兼ねてたのよ。女神像に助けを求めても灰になったり、最悪の場合は帰らぬ人になるから。ここで祈りを捧げるしかなかった」

「何人くらい死んだの?」

「さぁ?数え切れないくらい」

 

アイラはそう言うと女神像の間から外に出た。

 

「じゃあ、次は最深部へ行こう。すぐに着くから」

 

 休憩地点にある階段を下ると、そこには大きな扉があった。扉の向こうには死の匂いが漂っていた。

 

「ねえ……。ここは地下何階あるの?」

「十階」

「そんなに……?」

 

 二人は扉を開け中に入ると、そこは薄暗い空間だった。目の前には通路が一本あり、奥の方からは魔物の気配がする。

 

「ようこそ、最悪な迷宮へ」

 

 アイラは皮肉を込めて呟くと歩き出した。足元には白骨化した死体がいくつか転がっている。

 

「これは……」

 

 マーナは思わず顔を背けた。

 

「ここ、地下一階はまだ迷宮に慣れてない人がよく来る場所だった。でも、オークや盗賊の集団に襲われて死ぬ人が後を絶えなかった。九割、八割はここで死んでる」

 

 アイラの言葉通り、そこかしこに骸が散らばっていた。マーナは恐る恐る尋ねる。

 

「ここは本当に安全なの?」

「大丈夫。すぐに抜けるよ」

 

 アイラの言った通り、それから数分もしないうちにリフトがある部屋へとたどり着いた。

 

「ここは?」

「リフト。ここから一気に地下四階に行ける」

 

 アイラはそう言いながら、部屋の奥にあったレバーを引いた。すると、リフトはゆっくりと動き出し、二人を乗せたまま下に降り始めた。

 

「これは一体、どういう原理で動いているの?」

「魔道具よ。魔道具を使って動かしている。この迷宮では至る所に魔法の仕掛けが施されている」

 

 マーナは感心しながら周囲を見渡した。

 やがて、リフトは音を立てて止まった。

 

「着いたよ」

 

 アイラはそう言って降りると、マーナもそれに続いた。

 

「ここは地下四階。迷宮に慣れてきた人々はやがて奥深くを目指して進むようになる。魔物の集団が出てきても魔法で一掃できるから、どんどん先に進む。もうここまで来れば死亡する危険性はぐっと減る。ただ、油断していると思わぬ落とし穴もあるけど」

 

 アイラは淡々と説明すると、また歩き出した。マーナもそれに続く。

 

「アイラはどんな役割を担ってたの?」

「戦士よ。重たい鎧を着けて戦ってた」

「でも、今のアイラは鎧とか着けないよね?」

「ええ、身のこなしだけで十分だから」

 

 アイラはそう言いながら歩く速度を緩めた。

 

「ここが高速リフトよ。これで地下九階まで一瞬で移動出来る」

「こんな便利なものがすぐに見つかったら迷宮なんてすぐ終わらせられるんじゃないの?」

「いや、リフトを使えるようになるまでがかなり苦労するの。まず、この迷宮の仕組みを理解しないとダメだし、色んな仕掛けを解いていかないとダメ。あと、銀を沢山持ってることね」

 

 アイラはそう言うと、リフトに乗り込んだ。マーナもそれに続いて乗り込む。

 二人が乗った瞬間、リフトは起動し、猛スピードで下降し始めた。

 

「きゃっ!?」

 

 マーナはあまりの速さに悲鳴を上げた。

 

「大丈夫、すぐに止まるから」

 

 アイラがそう言っている間にも、みるみると地面が迫ってくる。そして、そのまま地面に激突するかと思いきや、ふわりと減速して静かに着地した。

 

「ほらね?」

 

 アイラは平然としていた。到着した場所は地下九階だが、相変わらず薄暗く不気味な雰囲気だ。

 

「ここが地下九階?」

「ええ、ここはある意味、お宝の山でもある。色んな罠があって危険だけど、その分見返りが大きいの。運が良ければ良い武器、鎧などを手に入れる事が出来る」

「でも、魔物も強いんでしょ?」

「そうね。でも、私なら問題なく倒せる程度よ」

 

 アイラはそう言うと歩き出した。マーナは慌ててその後を追う。もうこの迷宮に魔物は居ないので、特に警戒する必要は無いのだが、それでもマーナは不安だった。しばらく歩いていると、アイラは部屋に入り、ある場所の前で立ち止まった。前には普通に床があるだけに見える。しかし、アイラはその前にしゃがみ込み、床を調べ始めた。

 

「何かあるの?」

「落とし穴、これで地下十階まで落ちる」

「え?何を言ってるの?」

「一緒に乗ろう」

「嫌よ!」

「大丈夫、怖くないから」

「そういう事じゃないの!落ちたくないの!!」

「大丈夫だって」

「絶対無理!!早く降ろしてぇー!!!」

 

 マーナが絶叫する中、アイラはマーナを強引に引っ張り、落とし穴の上に立たせた。

 

「やめてやめてやめ……」

 

 マーナが言い終わるよりも先に、アイラは落とし穴の上に飛び乗った。すると床が消え去り、二人は真っ逆さまに落ちていった。

 

「あぁああぁあああ!!!」

 

 マーナが叫び声を上げる中、二人はあっという間に地下十階に辿り着いた。

 

「大丈夫だったでしょ?」

 

 アイラが涼しい顔で言った。

 

「もう二度とごめんよ!心臓が止まりかけたわよ!!」

「まあまあ、そんなに怒らないで」

 

 アイラはそう言いながら、目の前にある扉を開いた。すると、また広い空間に出てきた。

 

「ここはどうなっているの?」

「最後の階よ。広い空間に出る度、巨人、ヴァンパイア、上級悪魔などが待ち構えている。そして、迷宮の主が引き返せと遠隔で声を飛ばしてくる」

「じゃあ、この階には迷宮の主がいるってことなのね」

「そう。さっきまでの階とは比べ物にならないくらい強力な魔物達よ。九階まではへっちゃらと言っていた人も、ここで命を落とした」

 

 アイラは淡々と言った。

 

「最後の階だから精鋭揃いなのね。後もう少しで外の世界に出られるのにここで死んじゃうなんて……可哀想」

 

 マーナは同情するように呟いた。

 アイラは部屋の奥へと進み、とある場所で足を止めた。

 

「この扉の向こうで、迷宮の主と戦ったの」

 

 アイラはそう言って振り返った。

 

「戦ったってことは倒したの?」

「何とかね。二人犠牲になった。二人とも私の友達だった」

 

 寂しげな表情を見せたが、直ぐに戻った。そして扉を開け、広い空間に出た。そこには荒らされた形跡があった。

 

「これは一体何が起きたの?」

 

 マーナは恐る恐る尋ねた。

 

「迷宮の主に挑んだのよ。お供に吸血鬼の集団を連れてね」

 

 アイラがそう答えると、しゃがんで地面に手を置いた。

 

「吸血鬼は生命力を吸い取る能力を持っている。私のパーティの一人は吸血鬼に生命力を搾り取られ、灰になってしまった。もう一人の仲間は、魔法で消し炭になった。激しい戦いの末、私達は迷宮の主を討伐した」

 

 アイラは淡々と説明しながら立ち上がった。

 

「こうしてみると、アイラは迷宮で魔物を倒す術を心得ていたんだね」

「いいえ、私はただ戦っていただけ。私が戦っている間、他の皆が援護してくれてた。それに、私は一人じゃないから戦えた」

 

 マーナはふと思った疑問を尋ねてみた。

 

「そう言えば生き残った人達はあの後どうなったの?」

 

 マーナが尋ねると、アイラは俯いた。

 

「討伐したパーティは帝国軍から誘いを受けた。より良い待遇を約束されてたみたいだけど、私は断った。生き残った四人のうち、二人は帝国軍に行って、私ともう一人の子は別々の道を選んだ。でも、私達は迷宮の狂気に囚われてしまった」

 

 アイラは悲しそうな顔をして言った。

 

「どういう事?」

 

 マーナが首を傾げる。

 

「迷宮の狂気で普通の生活に戻れなくなっちゃうの。私もそうだった。常に武器を握っていなければ安心できなくなる事や、精神が破壊されて幻聴や幻覚が見えるようになる。酷い場合だと……殺人に快楽を見出すようになってしまう」

 

 アイラは辛辣な口調で言った。マーナは息を呑む。

 

「そんな……」

「この迷宮の目的をあげるとするなら、戦争に使える人材を見出す為の施設なのかもしれない。帝国の為に働く兵士を育てる為に、あえて危険な迷宮を作り、そこに人を放り込む。そして、その恐怖に打ち勝つ人間を探している」

「それって、酷すぎるよ!」

 

 アイラの言葉を聞いたマーナが叫んだ。

 

「……出来る事なら、私もここには行きたくなかった。でも、私にはこれしか生きる方法が無かった」

 

 アイラは目を伏せた。

 

「アイラ……」

 

 マーナが心配そうに見つめる中、アイラはゆっくりと顔を上げた。

 

「大丈夫よ。これより酷いものを私は抱えているから。この程度、何でもないから」

 

 アイラはそう言うと、来た方向へ振り返った。

 

「帰ろう。近くにあるテレポートに乗ればすぐに出口へ行けるから」

 

 マーナはアイラの後を追うように歩き出した。迷宮の中には数十分程度しか居なかったものの、外に出た空気は彼女らにとって新鮮だった。

 

「やっと外だ……」

 

 マーナが安堵の声を上げる。アイラは背伸びをして、空を見上げた。

 

「まだ昼なのね。かなり時間が過ぎたと思っていたけど」

「そうね。ねえアイラ……」

「どうしたの?」

「私、アイラの事もっと知りたい。だから、話せる範囲で構わないから教えて欲しいの」

 

 マーナは真剣な眼差しでアイラを見た。彼女には好奇心というよりも、純粋にアイラの事が気になっていた。アイラは暫く考え込んだ後、口を開いた。

 

「いいよ。ゆっくり出来る場所があったら、そこで話しましょう」

 

 マーナの頭にはアイラに対する色んな疑問が浮かび上がっていた。生き残った他三人の行方、何故一人で冒険者を続けているのか、今までどんな旅をしていたのか、等々。しかしマーナはその事を一旦置いておく事にした。

 

「じゃあ決まりね。ちなみに今日は野営?」

「そうね。あの村は行きたくないし……」

「どうして?」

「個人的な事情で」

 

マーナの疑問がまた一つ増えたのだった。




Wizardryは難しい
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