女剣士と女勇者が出会うまでのお話   作:____―--

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仮面を剥がすもの

 冷たい風、降り積もる雪。そして、静寂と闇。白い髪の少女、アイラは一人、城の外の庭園を歩いていた。アイラが歩くたびに、サクッという音が鳴る。この依頼はただの依頼じゃないという悪寒が彼女を襲う。それは予感ではなく確信だった。この依頼は護衛の依頼だ。誰が対象なのかまでは分からなかったが、護衛なら容易いと思い、少女は引き受けたのだ。だが、そんな考えはすぐに消え去った。領主は何の依頼かを教えてくれず、そのまま城内に実質軟禁されてしまっているのだから。少女は領主に問いただしたが、返答は時が来れば話すの一点張りで取り付く島もなかった。一応、アイラは丁重にもてなされてはいるが、それもいつまで続くのか分からない状況である。

 

「アイラ様、そろそろお部屋にお戻りを」

 

 背後から声をかけられ振り向くと、そこには年老いた執事の姿があった。老人の言葉に従い、アイラは再び歩き出した。

 

 部屋は丁重にもてなされた割には質素なものだったが、それでも城の中であることに変わりはない。窓の外に広がる景色を見てみると、そこには一面真っ白に染まった世界が広がっていた。部屋にある本棚に並ぶ書物の中には歴史やおとぎ話などもあったが、どれもこれも退屈極まりないものばかりだった。アイラはその本をぱらぱらとめくってみたものの、すぐに飽きてしまい、ベッドの上に寝転んで天井を見つめていた。明日には何か動きがあるかもしれない。そう感じたアイラは眠りについた。

 

 翌朝、彼女は目覚めると部屋の中は既に明るくなっていた。どうせ今日もまた何もない一日が始まる。そう思って身支度を整えている最中のことだった。扉の向こう側から慌しい足音が聞こえてきたと思った直後、その足音の主と思われる人物が勢いよく扉を開いた。そこに立っていたのは一人の若い男だった。男は息切れを起こしながらも口を開く。

 

「アイラ様!領主様がお呼びです!至急ご同行願います!」

 

 突然の出来事に驚きつつも、アイラは男の言う通りについて行くことにした。案内された場所は領主の私室であった。そこで待っていたのはやはりあの初老の男だった。

 

「おお、アイラ殿。こちらへ」

 

 言われるままに椅子へと腰かけると、目の前に初老の男だけが座っていた。この初老の男こそこの城の主、つまり領主であるのだろう。

 

「さっそくではありますが、あなた様にお願いしたいことがありまして……」

「護衛ですか?」

「いえ、違います」

 

 領主は部屋に飾られてある絵の方に向いた。絵には白っぽい金髪の女性が写っている。年齢は十代後半くらい、見た目は整っている。

 

「彼女は私の娘でね、今度婚約に出そうと思っていたが……。どうやら婚約者の評判はあまりよろしくないようでしてね……、私はこの婚約を破棄させたいと思っているのです」

「それだと、関係が悪くなるだけじゃありませんか?わざわざ評判の悪い相手と結婚させる必要はないと思いますけど」

 

 アイラは思ったことをそのまま口にしただけだったのだが、それを耳にすると男は少し驚いたような表情を浮かべた後に笑い始めた。

 

「ふむ、確かにあなたの言うことはもっともだ。しかし、娘の婚約者は言ってしまえば嫌われ者、金だけ持っている無能貴族ですよ。そんな奴との結婚なんて誰も望まないでしょうし、娘も嫌うはずです。それに噂によると、その者は女遊びをしているとか何とか……。まあ、私の勝手な想像に過ぎないんですがね」

「それで、破棄させるのにどんな手段を?暗殺?」

 

アイラは冗談交じりで言ったつもりだったのだが、男は真剣そのものといった様子で答えた。

 

「勿論考えておりますとも。決闘です。あなたが横取りするような形で」

 

 アイラは一瞬呆気に取られてしまったものの、すぐに気を取り直して返事をする。

 

「私は女よ?」

「なら男になればいい。見た目は変えられるはずだろう?」

「分かった。決闘はいつ?」

「今日の昼だ。直ぐに準備に取り掛かってくれ」

 

 アイラは部屋に戻ると早速着替えを始めた。そして鏡の前に立つと自分の姿を確認する。白い髪は肩にかかる程度の長さまで伸びていて、顔立ちは幼さが抜けきっていない印象を受ける。前髪を掴むと全て後ろに持っていくようにかきあげていく。これで準備は完了だ。

 

「本当にこんなことで変わるのかな……」

 

 そう呟いた後、アイラはクローゼットの中から服を取り出すと、鎖帷子のシャツ、男が着るようなシャツ、ズボン、革製のブーツ、黒い外套という出で立ちになった。胸元にはサラシを巻きつけている。

 

「よし、行こうか」

 

 アイラはそのまま部屋を出ると、外で待機していた使用人に連れられて城の外へと向かった。城の外には訓練場があり、そこでは大勢の兵士たちが剣や槍などの武器を手に鍛錬を行っていた。アイラはその様子を眺めながら、今回の依頼主である領主の元へと向かう。

 

「おお、アイラ殿。似合っておりますな。いや、今はヘンリー卿というべきでしょうか」

「ヘンリー卿?」

「ええ、男装したお嬢にはそれに合う名前が必要と思いましてね。突然現れた謎の男、ということでいかがですか?」

「別に構わない。ところで……。対戦相手は殺しても構わないの?」

 

 アイラは自分が勝つことを前提に話を進める。だが、それは無理もないことだった。何せ彼女の実力は本物なのだから。

 

「ああ、そういえば伝え忘れていましたね。殺しても構いません。でも……最大級の屈辱を与える降参を出来ればさせてください」

「了解した」

 

 アイラは短く答えると、領主に背を向けるとその場から離れていった。時が来ると、アイラと領主は決闘の会場へ足を運んだ。そこは円形状の大きな広場となっていて、周囲には観客席が設けられている。既に多くの観客が席についており、皆興奮しているようだった。

 

 アイラは全身を覆う鎧を着けて、兜を被った状態で舞台の上に立つ。普段のように動けないのは窮屈だったが、これも仕事だと割り切ることにして我慢することにした。観客席の方を見ると特別な席に領主の姿があった。隣にいるのは彼の娘だろうか。

やがて審判を務める兵士が現れ、両者の間に立った。

 

「これより、決闘を始める!双方構え!」

 

アイラは言われた通りに剣を構える。すると相手も同じように剣を構えた。

 

「ヘンリー卿とか全然知らないけど、悪いな。僕の出世のために死んでもらうから」

「……どうぞご自由に」

 

アイラは対戦相手の男を観察した。鎧越しでも分かるほど肥満体で、いかにも鈍そうな見た目をしていた。構え方も適当で、明らかに素人の動きだった。

 

「では、始め!!」

 

合図と共に男が走り出す。しかし、その動きは明らかに遅く、まるで亀のような歩みであった。アイラは剣を構えたままジリジリと近づいていく。男がアイラの間合いに入った瞬間、男は雑に剣を振ってきた。アイラは難なく対応し、剣で弾いた。男はまた剣を大振りすると、アイラは今度はそれを避けて懐に入ると、彼女の剣で男の剣を突き飛ばした。剣が振れる度に観客は歓声を上げた。

 

「ぐっ!?」

 

そのままアイラは男の首筋に向かって刃を振り下ろす。しかし、寸での所で止めてしまった。

 

「ま、待ってくれ!僕はまだ死にたくないんだ!!頼む、助けてくれぇ!!!」

 

男は必死に命乞いをしてきた。

 

「降参する?」

「あ、ああ……」

「分かった」

 

アイラは剣を収めると、男は安堵した表情を浮かべた。

 

「勝者、ヘンリー卿!!」

 

男装した少女は領主の方に視線を向けると、領主とその娘は丁寧にお辞儀ををした。

アイラも兜越しに頭を下げる。すると対戦相手の男が大声を出した。

 

「今だ!僕の戦士達!あの生意気なヘンリー卿をやっちまえ!!!」

 

その言葉と同時に向こう側のゲートから武装した集団が現れた。その数はざっと10人ほど。

 

「もし僕が負けた時に雇っておいた傭兵さ。君にはここで消えてもらうよ」

 

アイラはため息をついて、ゆっくりと歩き出した。動きづらい鎧を脱ぎ捨てて、いつもの格好に戻ると、アイラは拳を構えて向かってくる敵を迎え撃った。

 

 まず最初に飛びかかってきた敵の顔面を思い切り殴りつける。そして、怯んでいる隙に腹に蹴りを入れて吹き飛ばす。さらに背後から襲ってくる敵を裏回し蹴りで地面に叩きつけた。数が多いと思ったアイラは腰にある煙幕爆弾を足元に投げると、辺り一面が白い霧に包まれる。

 

視界が奪われては連携が出来なくなる。各個撃破が容易になると考えたのだ。アイラは煙の中で目を凝らすと、一番近くにいた敵から順番に殴っていった。男の呻き声がいくつか聞こえる辺り、恐らく何人か倒しただろう。そう思った矢先だった。

 

「クソ、よくもやってくれたな。これでも喰らえ!」

 

煙幕の中、不意打ちで矢を撃ち込まれた。だが、アイラはそれを手で掴んで止める。弓を持つ男との距離はある。ならばこちらが先に攻撃すればいい。アイラは男に向かって駆け寄ると飛び上がり、空中回し蹴りを男の顔に命中させた。

 

「がぁ……ッ」

 

男はそのまま倒れ込んだ。アイラが着地すると、再び煙が晴れてきた。すると、立っていたのはアイラだけだった。

 

「お、おい!嘘だろ……?まさか……全員倒しちまったのか……?」

 

婚約者だった男は仰け反りながら言った。逃げ出そうとした時、アイラは既に男の前に立ち塞がっていた。

 

「わ、分かった!僕が君を雇おう!金なら沢山やる!だから……!」

「いくら?100万ロジュくらいかな」

「え……い、いや、そんな大金をすぐに用意するのは無理だよ……。そうだ、1万でどうだい!?」

「じゃあいいや」

 

冗談に決まっているでしょ、その額は。心の中でそう呟いたアイラは手刀を首元に当てて気絶させる。

 

「領主殿。これでいい?報酬は貰うけど」

 

アイラは領主に話しかけた。領主は呆気に取られていたが、我に帰ると慌てて返事をする。

 

「ありがとう、助かったよ。では、約束のお金だ」

 

領主は金貨の入った袋を差し出す。

 

アイラはそれを受け取ると、腰のポーチにしまった。隣にいた領主の娘がアイラの顔を見つめていた。その視線はとても何か言いたげな様子だった。

 

「どうかしましたか?」

 

アイラは首を傾げる。

 

「あ、いえ、その……決闘に勝った方が婚約者になると……。ヘンリー卿はそれでよろしいのですか?」

「残念ながら、それも破棄させて頂きます」

 

アイラは髪留めを外し、髪を下ろした。

 

「私は女なので」

「そ、そんな強い女性が居るのですね……」

 

領主の娘は驚いたように呟くと、アイラは小さく笑った。

 

「白馬の王子様なんて、どこにも居ませんよ」

 

すると、領主の娘はアイラの手を掴んだ。

 

「あの、名前を聞かせてくれないかしら?」

「アイラと言います」

「ではアイラさん。私と結婚してください」

 

その言葉にアイラは目を大きく見開いた。

 

「へ?」

「貴方のような人こそ、私の夫に相応しいと思います」

 

彼女は真剣な眼差しを向けてくる。

 

「でも、私女だよ?結婚する意味あるの?」

「構いません。後継を残すなら、魔術師を呼べば問題ありません。そうでなくても、あなたを私の騎士として雇います」

 

アイラは今までに無いほどの戸惑いと困惑を感じていた。それは今まで被っていた冷徹さの仮面を剥がされた瞬間でもあった。

 

「む、娘よ……。何を言っているんだ……」

 

領主は慌てふためく。

 

「お父様、女性同士でも後継には問題ありません。それに、領地を守るにも騎士は必要です。この方ほど適任の方はいらっしゃらないでしょう」

 

 聡明であると同時に厄介な相手だとアイラは思った。彼女には領主に見合う器量がある。そして、何より自分の意思を曲げない。嫁がせるよりも彼女が継いだ方が良さそうだ。彼女はそう思った。だからと自由を捧げてまで仕えるつもりはない。小さな葛藤はしたものの、すぐに結論は出た。

 

「申し訳ございませんが、お断り致します」

 

アイラは丁寧に頭を下げて断った。

 

「何故でしょうか?理由を教えて下さい」

「私は誰かに仕える気は毛頭御座いません。また、今の生活を変えるつもりもないので」

「まあ、それでも良いでしょう。そうだ!今夜私の城で食事会を開きましょう。そこでゆっくり話し合えば分かりますから」

「えっ、ええ……。参加させていただきます」

 

 アイラは領主の方を向いた。領主は呆然とした表情を浮かべている。それはそうだ。領主の娘が突然放浪者の少女を夫にしたいと言ったのだ。驚かないわけがない。しかし、領主は娘に何も口を出さなかった。子に対する愛情だろうか、力関係によるものだろうか。どちらにせよ、アイラにとっては都合が悪いものだった。

 

「では、城へ戻りましょう。ヘンリー卿、いえアイラ殿、エスコートしてくださる?」

 

アイラは苦笑いしながら、彼女の手を取った。

 

「喜んでお受けさせて頂きます」

 

ここで少女は無礼を働く気にはどうしてもなれなかった。

 

 その後、城に戻ってきた。

 

 夜、城にてお食事会が催された。食事会において、女性はどのような礼儀作法があるのかアイラは分かっていなかったが、領主の娘は「ご自由に召し上がってください」と言ってくれたので、アイラは素直に従うことにした。とは言っても、金属の艶を見せる食器をどう使えばいいのか分からないので、他の人を見よう見まねで使うしかなかった。

 

「アイラ様、楽しんでいますか?」

 

 領主の娘はアイラの隣に座り、話しかけてきた。彼女の手にはワイングラスがあった。透明色の器を初めて見たアイラはそれに興味を持っていた。

 

「はい。このような素敵な席を設けて下さり、ありがとうございます」

「ふふ、堅苦しい挨拶は無しにしましょう」

「分かった」

 

 アイラはワインを一口飲むと、その味に驚いた。街にある貧困層、冒険者達が訪れる酒場で飲むものとは全く違う味わいだった。ぶどうが違うのだろうか、作り方が違うのだろうか。彼女はそんな事を思っていた。

 

「わたくし、あなたの事をもっと知りたいのです。アイラ様は今までどのように過ごしてこられたのですか?」

「私は怪物退治の専門家なの。適当に放浪して怪物を退治し、報酬を得て生活していたの」

 

 領主の娘はその話を聞いて驚いている様子だったが、やがて微笑みを見せた。

 

「そうなのですね。あなたが怪物退治をしている姿を見たかったです。きっと絵になるでしょうから」

「ええ、赤い絵の具が大量に必要になるでしょうね」

 

 アイラは冗談交じりに言った。

 

「あら、血まみれになっても構わないですよ。むしろ、返り血を浴びたアイラ様を見てみたいくらいです」

 

 彼女は楽しそうに笑っている。その笑顔にアイラもつられて口角を上げた。

 

「はぁ、貴族の方と話すよりも気が楽です……」

 

 彼女は溜息を吐くように呟く。

 

「本でしか読んでないけど、腹の探り合いばかりで疲れるのでしょう?」

「そうですね……。私は様々な場所に行きました。宮廷の舞踏会、貴族同士の会合、時にはスポーツを拝見したりもしました。どれもこれも駆け引きだらけでした」

「大変そうね……」

 

 アイラは他人事のように言うと、領主の娘は首を横に振った。

 

「でも、楽しいこともあります。例えばあなたのような方とお会い出来たことですかね?」

「私?どうして私なの?私なんてただの冒険者よ」

「確かに、アイラさんは身分の低い方かもしれません。しかし、それを差し引いても素晴らしい女性だと思います」

 

 彼女は真剣な眼差しを向ける。その視線に耐えられず、アイラは目を逸らした。アイラは自身のことをそこまで優れた人間だとは思っていない。

 

「自分ではよく分からない」

 

 彼女は再び一口ワインを飲む。

 

「私の内面、見たら失望すると思う」

「それなら、私の方も同じです」

「どういうこと?」

 

 アイラは不思議そうに見つめた途端、彼女の真横に針が飛んだ。それは壁に突き刺さる。アイラは驚きのあまり声が出なかった。一方の領主の娘は平然としている。そして、何事も無かったかのように会話を続けた。

 

「お父様の面目を保つ為なら、私はどんな手段も厭わないつもりです」

「……なるほど」

 

 領主の娘のドレスには毒針が隠されていたのだ。アイラはそれを理解した。

 

「ご安心ください。アイラ様に対しては絶対に使いませんから」

「それは助かる」

 

アイラは安堵すると、ワインを口に含んだ。

 食事会が終わり、アイラは自室に戻った。ベッドの上に座る。ベッドに体重をかけると、布団が僅かに沈んでいく感覚を覚えた。世界で唯一安堵感を感じられる場所もこれで最後かもしれない。アイラはそんな事を思いながら、窓から見える月を眺めていた。この夜にアイラは逃げ出そうと考えていたのだ。その時、部屋の扉がノックされた。

 

「誰?」

 

アイラは警戒しながら問いかける。

 

「私です。開けて下さい」

 

 領主の娘の声だった。アイラは恐る恐るドアを開ける。そこには彼女が立っていた。

 

「こんな時間にどうしたのですか?」

 

 アイラが尋ねると、領主の娘は無言で部屋の中に入って来た。

 

「……やはり行かれるのですね」

 

 領主の娘は悲しげな表情を浮かべている。

 

「ええ。どうしてもやらなければいけない事があるから」

「あなたの目的、聞いていませんでしたね。教えてくれますか?」

「……復讐よ」

 

 アイラは素直に答えた。

 

「復讐?」

「幼い頃、私の故郷、両親を殺した黒い鎧を追っているの」

「まあ、そうだったのですか」

 

 領主の娘は驚いた様子を見せる。

 

「その方は今どこに?」

「分からない。だから世界中を旅する必要があるの」

 

 アイラはドアの方へ歩き出す。すると、領主の娘は後ろから抱きしめてきた。

 

「……行く前に、これを持って行って欲しいのです」

 

 彼女はアイラの首に何かをかけた。アイラは首元を見ると、銀色に輝くペンダントがかけられていた。

 

「これは?」

「わたくしからの贈り物です。お守り代わりに持っていって下さい」

「分かった。ありがとう」

 

 アイラは礼を言うと、領主の娘は手を離して微笑む。

 

「全てが終わった時、ここに来てください。あなたをお待ちしておりますから」

「考えておくね」

 

 アイラには未来が見えなかった。しかし、この旅の果てに、複数の道が枝分かれしているように感じられた。アイラは出る前、領主の娘の方に振り向いた。

 

「そう言えば名前を聞くのを忘れていた」

「そういえばそうでした。私はアメリアと申します。また会う日まで、どうかお元気で……」

 

 アイラは軽く手を振ると、部屋から出て行った。そして、何処かへと歩いていった。直感だが、これでアメリアと会うのは終わりじゃないような気がした。

 

――

 

「と言うのが私の話」

 

 アイラはリンズィーに語っていた。リンズィーは熱心に書き込んでいた。

 

「ああ、なんて罪深い人なの!白馬の王子様がまさかの少女だなんて!」

 

 彼女は興奮気味に書き殴っている。彼女が書く記録は少々大袈裟に脚色されているようだ。

 

「どうせ歌にするのでしょう?」

「ええ、勿論!これはもう歌にせざるを得ません!」

「はぁ、嘘を混ぜないでよね」

「嘘を混ぜなければ面白くありませんよ!」

 

 リンズィーは楽しげな口調で言う。

 

「じゃあ、私は寝ているね。明日になったらさらに東行ってみよう」

 

アイラは欠伸をしながら言う。

 

「分かりました。では、私も続きを書きましょう」

 

彼女はそう言って、再び執筆を始めた。

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