港町から出港する離島行きの大型の船、そこには各国の代表団、魔術師会、賢者会の面々が乗り込んでいた。この船は数十分で世界会議の会場となる離島に辿り着く予定だ。船は複数の階層に沢山の部屋があり、その一室でシンシア達はくつろいでいた。
「内装豪華だよね、ここ」
部屋は広くて高級な家具や調度品が置かれており、まるでホテルの一室のようだった。
「ここには各国の重要人が居るのでしょ?警備は大丈夫なの?」
アイラは心配そうに言う。
「大丈夫。この船には魔法がかかっていて、外部からの攻撃を防ぐ結界が施されているの」
「ふーん……。誰が作ったのだろう」
するとドランがテーブルから顔を上げ、言った。
「ワシらじゃよ!ワシらドワーフはこういうもんが得意だからのう!」
「で、魔法をかけたのはエルフだね。波長からして分かる」
セリーナもついでにと言うように付け加えた。
「さて、到着した後、何をすれば良いか教えるとしよう」
部屋内の全員がリサンダスの方に視線を向ける。彼は杖を支えに座りながら話す。
「島には大きな城が建っておる。まずは全員そこに行き、ワシとシンシアが会議に望む。他の者は各自自由に行動してくれればよい」
「自由と言われても……」
アイラは困惑した表情を浮かべた。
「大丈夫。私達と居よう?何かあった時に対処出来るし」
セリーナはコインを指先に乗せながら提案する。
「分かった」
「なぁ、島には何か無いのか?ご馳走とか、珍しいもんとか」
カルケーが質問をする。
「残念だがそんなものは無い。大人しく会議が終わるまで待ってくれ」
「ちぇっ……つまらんな」
カルケーは不貞腐れた様子を見せる。その時、部屋の扉が開かれた。
「失礼します」
部屋に入ってきたのはメイド服を着た女性であった。彼女は手に持った盆の上に紅茶の入ったポットを乗せていた。
「皆様のお飲み物をお持ちしました」
女性はカップにお茶を入れていく。そして全てのカップに入れ終わった後に、それを各人の前に置いた。
「ありがとうございます!」
シンシアが一礼すると、女性は退室していく。それを見送った後にリサンダスは口を開いた。
「では頂こうか」
「毒とか入ってないの?」
「これは大丈夫よ、さっき調べたけど何も無かったわ」
セリーナの言葉を聞いた後、一同はそれぞれ飲み始める。
「俺なんかに紅茶は似合わねぇんだよな、酒とかの方が好きだし」
カルケーは不満げに呟いた。
「ふん、お前のような不潔な奴に紅茶の良さは分かるまいっ」
年老いた魔法使いは鼻息荒く言い放つ。
「まぁまぁ、今は紅茶を楽しみましょう」
エリオットは宥めるような口調で言った。
「アイラは紅茶好き?」
「あまり飲んでないから、あまりよく分からない」
「そうなんだ」
セリーナは紅茶カップを傾けた。彼女は茶葉に関しては詳しく、嗅覚も鋭いため美味しいかどうか判別できるのだ。
(うん、やっぱりいい味)
彼女の舌はこの上なく満足していた。
「船、良いな……。ちょっと欲しいかも」
シンシアが窓の外を見ながら呟く。外の風景は海ばかりで特に変わったものは見えない。
「でも高いんでしょう?買うとしたら」
「ワシが王と話してみよう。もしかすると手に入るかもしれぬ」
「おじさん、そこまでしなくても……」
「世界を救う為じゃ、これくらい当然のことであろう」
シンシアは申し訳なさそうな表情をしたが、リサンダスはシンシアの頭を撫でた。
「ワシはお主の支えにならなければならん。遠慮する事はないぞい」
「……はい」
シンシアは嬉しさ半分恥ずかしさが半分という複雑な感情を抱いていた。それから数時間後、船は離島に到着した。船を降りた一行は城の前まで移動する。城は古びているが、その大きさはかなりのものだろう。かなり古くから建っているようだ。城の前に立つと、シンシア達は大きな門を見上げた。
「大きい……」
シンシアが感嘆の声を上げる。
「この城はワシがこの世界にやってきた時には既に建っていたらしいのう」
一行は門番の元へと移動した。二人の兵士が立っている。リサンダスの姿を見ると兵士の一人が敬礼をした。もう片方の兵士は何もせずに立っていた。
「ご苦労。会議はまだのようじゃな」
「はい!まだしばらくかかると思われます!」
兵士達は再び直立不動の姿勢を取る。
「そうか、ならばここで待たせてもらう事にしよう」
一行が城に足を踏み入れると、二手に別れた。会議に参加するリサンダスとシンシアとその他という感じだ。
「じゃあ、アイラはこっちに行こうか」
セリーナはアイラを連れていく。
「えっと……私はどうすれば良いのですか?」
シンシアが尋ねると、リサンダスが答えた。
「シンシアにはワシと一緒に来て欲しい。共に会議に臨もう」
「分かりました」
シンシアとリサンダスは中へと入っていった。一方、アイラはセリーナに連れられ、地下にある戦士達の集会所へ案内された。
「ここだよ」
そこは戦士達がテーブルを囲って腕相撲をしている所があれば、武器の手入れを行っている者もいた。そして、下の階層には闘技場がある。そこでは剣闘士が戦っており、観客が歓声を上げていた。
「ここは……?」
「まあ暇つぶしの場所かな?ここで皆、腕っぷし自慢とかしてるんだよ」
セリーナが説明をする。
「会議はどうしたの?」
「私達は非常時に備えて待機してるだけ。それまでは自由にしてて良いよ」
「分かった」
「アイラは格闘大会とか剣術大会に興味はある?」
「全然、ここにあるもの全部合わなさそう」
「じゃあ、カードで遊ぼう」
「カード?」
アイラは首を傾げた。
「うん、二枚のカードを手札に持って、場に出された五枚のカードで役を作る遊び」
「それならやった事ある」
「良かった。じゃあ、あそこのテーブルでやろうか」
「おいおい、お嬢さん二人とも面白いことしようとしてんじゃねえか。俺も混ぜてくれよ」
カルケーも混ざりたいと言い出した。
「いいよ、一緒にやりましょう」
三人はテーブルに座ってカードゲームを始める。まずセリーナが配り役としてカードを切った。そして、二人の元に二枚のカードが渡される。
「……これは降りよう」
「なんだ、俺の勝ちか?」
アイラは手札を見てすぐに降りる。カルケーはニヤリと笑った。
「やっぱり面白味が無いな。金賭けようぜ」
「いくら?」
「300から」
二人はポーチから金貨を沢山取り出して机に置いた。
「ブラインドはいくら?」
「5で」
「OK、勝負成立」
三人はゲームを再開する。盛り上がっていると、そこに更なる参加者が現れた。
「おや、何やら面白い事をしているようですな。わたくしも参加してよろしいでしょうか」
それは目付きが鋭い男だった。服装は黒を基調にしており、マントを付けている。手に微かな魔力を感じられる事から、魔法使いだと思われたが、印が手の甲にある為、誰かを崇拝するクレリックである事が分かる。
「いいですよ、名前はなんて言うんですか?」
セリーナは尋ねた。
「申し遅れました。私は『アスター』と申します」
男は丁寧にお辞儀をして自己紹介をした。
「私はセリーナ。こっちがアイラ、あのおじさんはカルケーよ」
男はアイラの名を聞いた瞬間、一瞬だけ瞳を動かしたが、直ぐに元に戻った。
「よろしくお願いしますね」
彼は再びお辞儀した。アイラは男の様子を注意深く観察していた。彼女は彼を怪しく思っており、警戒心を抱いているのだ。瞳を見れば、冷たい視線で見つめられていることが分かる。
「では、カードを」
――
「すまねえ、俺も混ぜてくれねえか?」
また新たな人物がやってきた。東の国の格好をしており、背中には刀を差している。その雰囲気は明らかに他の者と異なっていた。
「構わないけど……」
セリーナは少し戸惑っていた。
「サンキュー、俺はエイジって言うんだ」
そう言って、エイジと名乗る人物はテーブルに着いた。
「さて、始めようか」
こうして、四人の対戦が始まった。
アイラは最初こそ苦戦していたが、徐々にコツを掴み始める。しかし、勝負上手な二人を相手にすると、なかなか勝てるものではない。アスターは表情を一切変えず、淡々とプレイする。セリーナは顔の表情が豊かで、感情が表に出やすいタイプだ。しかし、表情読んでプレイすると逆に負けてしまう事が多いトリックスターでもある。この二人にアイラは金貨を奪われていった。
「ちっ、また負けた……」
「そう言えばエイジはどこ出身なの?」
セリーナは質問をする。
「あー、ガラビニエリ大陸のヒガンバナって所から兄貴を探しにやってきたんだ」
「東、からですか」
アスターは呟いた。
「まあ遠いな」
「そうなんだ」
セリーナは興味津々に話を聞いていると、そこにもう一人やって来た。
「あっ!面白そうなことやってるね!ボクも混ぜていいかな?!」
それはローブを身にまとった少女の見た目をしていた。見た目は十代後半といった所だろう。
「いいよ」
「ありがとう!」
元気よく返事をする。
「じゃあ、早速カードを配ろうか」
そうして、五人はカードを手に取った。
――
シンシアとリサンダスは席に着き、会議を待っていた。
「シンシア、会議に出席している者達をよく見てみるのじゃ」
「分かりました」
シンシアは目を凝らし、議会にいる面子を見る。この議会は階層ごとに別れており、右端には魔術師会、左端には各国の代表が集まっている。そして、真ん中には賢者達、一番奥は各国の王達がいる。
「各国の情勢について教えてくれませんか?」
「そうじゃな、まずはドロレス王国から説明するか」
ドロレス王国は魔術師会と議会で二分されている。魔術師会は秘密主義で、自分達だけで研究を進めている。一方、議会の方はオープンになっており、他国との交流も盛んである。
次に、メッシナ王国。メッシナ王国は様々な文化が混じり合った国であり、様々な宗教が混在している。教会や寺院が地方によっては存在するが、価値観の違いにより一触即発状態になっている場所もある。
グラード王国は異種族の領土と隣接しているため、常に内戦状態である。グラード王国は領土拡大のために戦争を仕掛けているが、異種族側は抵抗を続けている。
「どの国も問題を山積みにしているようですね……」
「うむ、だが、わしらがどうにか出来る問題ではない」
「そうですよね……」
二人は溜息を吐く。
「議長が出てきた。そろそろ始まるぞ」
壇上に一人の老人が現れた。その者はゆっくりとした足取りで中央の椅子へと座る。
「これより、世界会議の開廷を宣言する」
少女は背を正して前を見据えた。