女剣士と女勇者が出会うまでのお話   作:____―--

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Chapter2 For Whom the Bell Tolls
III


せっかく会えたのにまた離れ離れになってしまった。離れたのは私の方からだったけれど……。今はただ、彼女の無事を祈ることしかできない。今はカラビニエリ大陸の東部で海のほうを目指して五人になってしまった皆と旅をしている。おじさんは恐らくもうこの世にはいないだろう。私を逃がす為に犠牲になってしまった。

 

おじさんと初めて出会ったのは幼い頃、故郷である小さな村。おじさんは世捨て人のような暮らしをしていて、好奇心旺盛な私はよく遊びに行っていた。おじさんはよく昔話や世界の話をしてくれた。そして、私が力に目覚めるとおじさんは私に力の使い方を教えてくれたのだ。旅立つ時もおじさんと一緒に村を出て、それから仲間が集って……。私は世界を救う為の力を持っているけど、守る為の力は持っていない。親友も私の臆病さで助けられなかった。これから、私を生かす為に仲間達がどんどん死んでいくかもしれないと思うと怖くて仕方がない。でも、立ち止まっている暇はない。私は、これからどうすればいいのかわからないまま、それでも前を向いて進むしかないんだ。

 

「……お嬢ちゃん?お嬢さーん?」

「……はっ!すみません!」

 

いけないいけない。つい考え事をしてぼっとしてしまったようだ。カルケーさんが私の顔を心配そうに覗き込んでいる。

 

「大丈夫かい?顔色が悪いみたいだけど……」

「だ、大丈夫!ちょっと考え事をしていただけですから」

 

慌てて笑顔を作っても、私の心は晴れなかった。

 

「あー、あんまり気負うなよと言っても無理だよな。あんな事があっちゃあな」

 

意識を目の前の現実に戻してみれば、炎がパチパチと音を立てながら燃えている。空は暗い雲に覆われていて星一つ見えない。辺りは木々が鬱蒼としている森の中なので、月明かりもない真っ暗な闇に包まれていた。そんな中で焚き火だけが明るく輝いている。セリーナやドランも火を囲むように座っていた。エリオットは先にテントの中に入って眠っているようだった。

 

「もうこんな空気はやめましょう」

 

セリーナが努めて明るい声を出した。

 

「もう戻らないことを嘆いても意味は無いよ。もう切り替えなきゃ」

「人の死を見て気持ちを切り替えろというのは無理がある話じゃろう」

 

ドランがため息混じりに言った。

 

「それも大人になる事よ。私の周りでもいっぱい同胞が死んだ。戦争なんだもの当たり前のことよね。だからいつまでも悲しんではいられないの」

 

セリーナの言葉には重みがあった。きっと彼女なりの経験談なんだろう。

 

「エルフの価値観と人間の価値観を比べるのは違うじゃろう」

「そうじゃない。何かきっかけを掴んで欲しいだけ。彼女はまだ何も知らないんだから」

「人の死はそう簡単に受け入れられんものだろう。彼女の師も友人もあそこで死んだんじゃぞ」

 

ドランとセリーナが言い争いを始めそうな勢いだったので、私は急いで口を挟んだ。

 

「お願い!ここで争いはやめて!」

 

二人の視線がこちらに向けられる。

 

「まだ受け入れられてないけれど、そのうち受け入れないといけない事はわかっています。だから今は何も言わなくて大丈夫です。今は心配しないで」

 

二人は黙り込んでしまった。少しの間沈黙が流れる。その静寂を破ったのはカルケーの声だった。

「飲もうぜ。よく眠れるぞ?」

 

彼の言葉に耳を傾ける者は誰もいなかった。

「ごめんなさい。少し一人で散歩させて下さい。すぐに戻りますから」

 

私は立ち上がり、その場を離れた。皆の顔を見ていられなかったからだ。そこまで深い場所に入らないように注意しながら森の奥へと進んでいった。

しばらく歩いていると、開けた場所に出た。そこには切り株があって、そこに腰掛けた。夜の風は少し涼しく感じられた。

 

「ふぅ……」

 

私はため息をつく。もっと強くならなくちゃいけないのに、こんな事になっちゃって。

 

「嘆きよ、悲しみよ。全ては我の力……」

 

不気味な微笑が私の周りを取り囲んでいるような気がした。

 

「誰!?」

 

私は身構えた。すると、目の前に黒いローブを着た男が現れた。顔は認識できないほど深くフードを被っていて表情を見ることはできない。しかし、その男が発する威圧感は尋常ではなかった。まるで死神のように禍々しいオーラを放っていた。

 

「感じるぞ、貴様の中に眠る力を……。その力、女神の使徒を滅ぼすのには十分だ……」

 

私は聖剣を構えてアンデットを滅ぼすオーラを放った。しかし、黒いローブの男は一切動じることなく、私の攻撃を避けようともしなかった。私は男の体に刃を突き立てた。

 

「……え?」

 

手応えがなかったのだ。まるで煙のような、実体のない存在を相手にしているかのようだった。

 

「時が満ちた時、貴様の力を頂きに来る」

 

男はそう言うと消えてしまった。一体何者なのか、何故私を狙うのかわからない。ただ一つわかることはこの先、脅威となる存在が私の前に姿を現すということだ。その時は全力で戦おう。私はキャンプに急いで戻ることにした。追手は誰も来なかったが、不気味な微笑は私の頭の中でずっと渦巻いていた。

 

翌日、私達はまた港町に向けて歩き出した。先頭はエリオットだ。彼は地図を見ながら進んでいる。

 

「それにしてもミスター・ドクターという者、何者だったのでしょうか」

「よく分からない。でも、信じるしか無かったと思う」

「なんというか、彼は突然現れましたからね。本当に人間なんでしょうか?」

 

エリオットは不思議そうに首を傾げた。確かに彼の存在に若干の違和感っぽいものを私は覚えていた。

 

「……アイラ、本当に生きているのかな」

「胸を突かれた以上、生きているとは考えにくいですが。彼が『レイズ・デッド』を使えるのならそこまで心配しなくても良いかもしれませんよ?」

「そうだといいけど……」

「心配なのはわかりますけど、あまり気に病まない方がいいですよ」

「うん……」

 

するとセリーナが私の肩を叩いた。

 

「ほら、リーダー。これからあなたが私達の舵を取るの。行き先はどうするの?目的地は?」

 

正直言うと、手がかりが少ないのでどうしようもなかった。でも、この世界を隅まで探せばきっと何か見つかるはずだ。私達が見つけなければいけないものは、船と動力源と座標。この三つさえあればきっと魔王を倒す手がかりを得られるはず。

 

「ずっと西に。西の港町に着いたら、そこから船でイオリス諸島に向かってみましょう。色んな神殿跡があると思うから、そこで情報を集めればきっと何か分かると思います」

「無駄足上等じゃ!どこまでも付き合うぜ!」

 

ドランが元気良く言った。

イオリス諸島は小さな島がたくさんある群島で、それぞれ独自の文化を持っているらしい。その中でも特に有名なのが、一番大きな島で大陸に区分するアルテミテップ大陸にある国、クヴァルスンだ。イオリス諸島は海賊が多く出没することで有名で、海賊を抑制する為に国が海賊を雇うという変わった仕組みになっている。船同士で大砲の撃ち合いや、船に乗り込んでの戦闘が頻繁に行われている危険な場所でもある。また、嵐が多発することや海棲生物の脅威もあって、航海するには危険すぎる地域、トレイエック海域もある。あと、おとぎ話程度でしか聞いた事がないけど海底にはサハギンが支配する海底都市や未開の地が広がっているとかなんとか。とにかく、色々な意味で謎に包まれている場所なのだ。

 

「そういえば王様変わっちゃったよな」

 

カルケーが思い出したかのように呟く。

 

「ああ。若い女王が即位したのか」

 

ドランも同意した。

 

「でも勇者の事に関しては一切無関心で、支援も一切しないみたい」

「孤立無援か……。まあ、処分されないだけマシだと思うしかないだろう」

「そうだね」

 

太陽が登ってきた頃だろうか、木々の間から光が差し込んできた。光は私達の進む道を照らしてくれる。今は目の前の道をひたすら歩こう。

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