女剣士と女勇者が出会うまでのお話   作:____―--

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オラニエ大陸南東部、沿岸に位置する港湾都市ケネブレス・ゲート。ここはかつて帝国の主な財政基盤だった貿易港である。しかし、現在は自由貿易都市として名を馳せている。その発展ぶりは凄まじく、世界でも有数の大都市にまで成長した。西にクリスタリアなら、東はケネブレス・ゲートと言っても過言ではないほどだ。目の前に巨大な門がそびえ立っている。この先にあるのは、貿易の中心地であり、経済の中心でもあるケネブレス・ゲートの街だ。

 

「思ったより大きいね……」

「すげぇ……」

 

それぞれが思いを口にした。特に出入りの制限はされて無いので、門番のチェックはすぐに終わった。街へ入ると、多くの人々が行き交っている。活気のある街並みだ。

 

「さて、俺達は冒険者ギルドの方に行って、色々手続きしてくる」

「ええ……。待って、私は冒険者じゃないから報告する時、私の名前は出さないように気をつけて」

「あっ、そうだったな……悪い。集合場所はどうする?この街の冒険者ギルド前にするか?」

「分かった。じゃあ、その辺りを歩いているよ。ただし、絶対に建物の中には入らないからね」

 

私は強調して言う。すると、みんな苦笑しながら了承してくれた。

四人が建物の中に入ると、私はその辺りを歩く事にした。ケネブレス・ゲートには階級に合わせて分けられているものの、クリスタリアと比べればそこまで差は無いようだ。むしろ、自由な市場が売りなのか、他の国よりも栄えていた。ふらっと果物を売っている店に立ち寄る。新鮮な果実が並んでいる。赤い甘そうな実を手に取った。太陽の光に照らされ輝いている。とても美味しそうだ。一つ買うことにする。

 

「これを一つ。お釣りはいらない」

 

そう言って金貨を一枚渡す。店主はそれを受け取ると、少し驚いた顔をしていた。そして、何か言いたげだったが、すぐに笑顔になり、「まいどあり!」と言った。それを聞いて満足した私はその場を去った。裏路地に繋がる道で壁に寄りかかりながら待つことにする。赤い果実をかじった。口の中に甘い味が広がる。

 

「うん、おいしい」

 

この都市には何度か訪れたことがある。確か、サキュバスの問題もここで解決したはずだ。10万人が暮らすこの街には様々な派閥や陰謀がある。あてがあるとすれば、やはりアンダーグラウンドだろう。水路を辿りながら移動すれば問題なく行けるはず。そこに情報屋がいるからまず、彼に頼ってみることにしよう。でも、その前にカリード達にちょっとしたテストをしてもらおうかな。しばらくして四人が出てきた。

 

「待ったか?」

「ちょっと。報告はどうだった?」

「へへっ、これを見てくれよ」

 

四人は銅のメダルを自慢気に見せた。つまり、彼らは昇級したのだ。

 

「おめでとう。これからはもっと稼げるね」

「ああ!と言っても、アイラから助けを借りちゃったし……」

「じゃあ、私から一つお題を出すからそれで腕試しはどう?」

「えっと、そのお題は助けてくれるのか?」

「最低限ね。自分の身を護る程度だよ」

「よし、やってみよう!その前に、宿を借りないとな……」

 

すると、ブランカが提案をした。

 

「あの……。私の知り合いが宿屋を経営して……。そこに泊まるのはどうかなって」

「よし、決まりだ!案内してくれ」

「はい」

 

私たちは彼女の後について行くことにした。大通りをしばらく歩いていくと、大きな建物が見えた。看板を見ると、そこには『ウッドロック・イン』と書かれていた。

 

「ここは私が孤児院に居た時にお世話になった場所です」

「なるほど……。ここなら信用できるかもね」

 

中に入ると、受付の女性がいた。彼女は私たちを見て驚いていた。

 

「あら!?あなたは……ブランカちゃんじゃないの!!」

「はい……。ご無沙汰しています」

「まぁ!!大きくなったわねぇ~」

 

ブランカは女性と軽い抱擁を交わした。受付の女性は遥かに年上で30代後半くらいだろうか?茶色の髪を後ろでまとめている。

 

「そちらの方たちは?」

「あっ、こちらは私を助けてくれた方々で……」

「初めまして。私はアイラと言います」

「俺はカリードだ」

「エルドスだ」

「ネイラ。ブランカに助けられてますよー」

 

三人が挨拶をする。すると、女性は嬉しそうだった。

 

「そうですか……、それは良かったですね。ところで、今日はどういった御用件で?」

「ここにしばらく寝泊まりしたいのですが」

「分かりました。部屋を用意しましょう」

「ありがとう。じゃあ、50GPでいいかな?」

「そんな長く泊まるつもりなんですか?」

「分からない。足りなかったら、追加で払います」

「いえ、十分ですよ!」

「じゃあ、男女別、部屋は二つでお願いします。それと、食事も」

「えぇ……かしこまりました」

 

私は金貨を渡す。それを女性が受け取ると、鍵を二つ渡してきた。一つをカリードに投げ渡すと、カリードは慌ててキャッチする。

 

「おっとっと」

「まずはこれからどうするか、話し合おう」

 

私はそう言うと、食事する机に全員が集まった。

 

「ルクス・エテルナを追うのはいいけど、今はテストをしよう」

「テストって何をするんだ?」

「私が依頼を見つけてくるから、それをあなた達だけで達成してきてほしい」

「分かった。と言っても、どういう依頼か分からないからちょっと怖いな……」

「大丈夫。この程度は出来ないと足手まといになるくらいの難しさだから」

私は笑顔で言った。すると、みんな苦笑いしていた。

「じゃあ、カリード達はポーチに入った宝石や、あと、私が持ってる戦利品の武器をお金に換えてきて」

私は戦利品の斧やハルバードをカリードに渡す。カリードはハルバードを手に持つと、少しよろけていた。

「お、重い……」

「じゃあ、エルドス斧持って」

「分かった」

 

エルドスも重たそうに斧を両手に持っていた。そんなに重かっただろうかと不思議に思ったが、私は筋力を改造されていたからそう感じただけかもしれない。

 

「夕方辺りに、再びこの宿で集合な!」

 

カリードの言葉に私たちはうなずいて、それぞれ行動を開始した。私も外に出ることにした。依頼を探すついでにアンダーグラウンドへ行こうと思った。

 

平民層に行き、下水道へと入る。私は迷うことなく進んで行った。下水道は臭く、暗く、ジメッとしていた。しかし、私は平気である。そのまま進むと、腐肉を食らう巨大なイモムシが現れた。人間の体長を超える長さで、腹部には無数の小さな口がついており、その口からは絶えずよだれを流し続けていた。その巨大イモムシは死体の山を貪っている。イモムシは私の存在に気づくと、身体をうねらせながらこちらに向かってきた。その動きは遅い。この魔物は足の代わりに触手を生やしており、それで獲物を捕まえて食べるようだ。間合いに入らなければどうという事は無く、素早く側面に潜り込んで、剣で真っ二つに切り裂いた。イモムシは絶命すると、地面に倒れて動かなくなった。

 

「普段なら遺跡などにいるはずなのに、どうして都市の下水道に……?」

 

疑問に思い、死体を観察してみる。どうやら、何者かによって意図的に連れてきた可能性が高いだろう。身分の高い人物の死体が多いからだ。死体の一部にある紋章を目にした。紋章、服装からしてトロイ・ブラザーズの人間だ。

 

トロイ・ブラザーズはこのケネブレス・ゲートで大きな勢力を持つ商業ギルドであり、都市でも有名な組織だ。死体をよく見ると、首を斬られたような跡も残っていた。おそらく暗殺されてこの下水道に捨てられてしまったのだろう。他にも何か身分を証明するものが無いか探したが見つからなかった。これ以上の収穫は無いと判断し、その場を離れた。

 

下水道を歩くと、目の前にドアが見えた。ドアの向こう側から人々の騒ぐ声が聞こえた。ここだ。私は金属でできた扉を開けると、そこはアンダーグラウンドだった。ここが都市の裏側だ。下品な酒場と催事場が目に入る。私は黒い外套のフードを深く被り、顔を隠すと、中に入っていった。通りは裏の人が行き交い、賑わっていた。私が目指すのは『ジャンク・ハウンズ』という酒場。そこなら情報屋がいるはずだ。しばらく歩いていると、目的の店が見えて来た。中に入ると、客で溢れかえっている。私は席の奥へ向かった。目的の人物は机の上で本を執筆しており、他にも机の上にはケネブレス・シブという印刷所が書いたと思われるくだらない情報、砂時計などが置いてあった。

 

「そろそろ来ると思っていたんだ。グレイ・レディ」

 

目的の人物は年をそれなりに重ねている男だった。白髪混じりで、髭を蓄えていた。中肉中背で、眼鏡を掛けている。瞳は青みがかっており、知的な雰囲気を出していた。彼は羽ペンをインクの瓶に突っ込むと、私の方を見つめた。

 

「グレイ・レディとは?」

 

私は彼の言葉に疑問を持った。

 

「失礼、灰の少女という意味だよ」

「そう……。聞きたいことがあるの」

 

私は金貨が入った袋を彼の机の上に置いた。情報屋は中身を確認すると、ニヤリと笑った。やはり、人というのは金貨を見れば嬉しくなるものだ。

 

「何を聞きたいんだい?君が望むことを教えよう」

「ルクス・エテルナについて」

 

私はそう言うと、男は少し驚いた表情を見せた。

 

「そうか。ここで話すにはちょっと難しい内容だ。奥の部屋に行こう」

「分かった」

 

情報屋は本だけを持って立ち上がり、この店の主に声をかけた。

 

「リッチ、この部屋の奥を使わせてもらっても構わないかね?」

「ああ、構わんよ」

 

主は快く了承してくれた。私は彼に案内され、部屋に入った。今までの雰囲気とは打って変わって、プレシャスな感触の部屋であった。ソファーもなかなかの高級品で、座り心地が良い。

 

「さて、話を始めよう。私は情報屋のプロスペクターだ。よろしく」

「私はアイラ」

「さて、せっかくここに来たんだ。一杯どうかね?」

「蜂蜜は?ある?」

「もちろんだとも」

 

琥珀色の液体が注がれたグラスが私の前に。一口だけつけてみた。

 

「いいね」

「それは良かった。では、話に入ろう。君はルクス・エテルナの何について知りたい?」

「全て」

 

私は即答した。

 

「ふむ、そうか。ならばまず、彼らが何をしてきたか、そして、これから何をしようとしているのかを話していこうと思う。これは推測も含まれるがね……」

「お願い」

「まず、ルクス・エテルナの前身は帝国の研究者たちだ。彼らは穢れを使って、様々な魔物や改造された人間を作り出した。しかし、王国との戦いで彼らは『大暴走』で消滅したかのように思えた」

「デモニアの戦いね」

 

デモニアの戦いとは、帝国の首都デモニアにて行われた戦いである。王国軍は領内に侵攻し、帝国軍は首都デモニアで籠城戦を行った。最終的に、勇者達が塔へ潜り込み、最上階に居る皇帝を討伐したことで戦争は終結した。同時期に地下で研究者達が謎の研究を行っていた。しかし、何らかのエネルギーが暴走を引き起こし、エネルギーが超大規模爆発を誘発させ、帝国の首都デモニアは一瞬にして壊滅した。研究者達も消滅し、帝国の技術は失われた。

 

「そうだ。だが、彼らの残党は根を深くまで張っていたのだ。それがルクス・エテルナ。帝国再興を目論む組織だ。彼らの元には多くの組織が集い、今や巨大な勢力となっている。いずれクーデターを起こすのではないかと思っている」

「なるほど。この街にも奴らか居るの?」

「当然だ。もしかするとアンダーグラウンドの中に紛れ込んでいるかもな。上の世界だって、支持する貴族はいるだろう?」

「厄介ね」

「少々失礼かもしれないが、どうしてその組織について追跡しているか聞いても良いかな?」

「ある依頼を受けた時に初めて聞いて、もしかすると何か企んでいるのではないかと思って。それに……ピンク・デスを治せる人がいるかもしれないから」

「なるほど。しかし、私は手を引くことをお勧めしよう。君が掴んだのはネズミの尻尾ではない。竜の尻尾だ。下手に手を出せば火傷を負うぞ」

「どんな連中を敵に回すの?」

「まずは彼らを支持している貴族達、暗殺ギルド、盗賊ギルド、そしてカルト・オブ・アルカナム。この組織は表舞台に出てこないが、裏の世界で暗躍し続けている」

「カルト・オブ・アルカナムについて詳しく」

「どこにでもいる怪しい教団だ。ヘクサリアを教祖とした宗教で、最近になって急拡大しつつある。彼らの教義は、新たな身体でいずれ来るべき終末を乗り越えるというものらしい」

「待って、ヘクサリア!?」

「どうかしたのかい?」

「いや、何でもない」

 

私は動揺を隠せなかった。まさかここでその名前を聞くとは思ってもいなかったからだ。あの迷宮に潜っていた時は共に戦った仲間だった。今は行方知れずとなっていたが、まさかカルト集団の教祖になっていたとは。嫌な予感しかしない。次会った時は剣を向ける時かもしれない。

 

「次の話題なんだけど、トロイ・ブラザーズについて何か知っている?内紛でも起こそうとしていたとか」

「よくご存知で。確かに彼らは不穏な動きをしていた。鉄の品質が急激に下がる問題があっただろう。それに乗じて、鉄を独占的に仕入れようとしていたようだ」

「へぇ」

「あとこれは噂程度に過ぎないが、ドッペルゲンガーが人に成り代わっているという噂がある。まぁ、眉唾物の噂だけどね」

「頭の隅に置いとく」

 

私は目の前にある蜂蜜酒を一気に飲み干した。喉の奥が焼けるような感覚を覚えた。

 

「さて、私はこの辺で……。あ、忘れていた。この街で困っている人は居ない?」

「ふむ……。ナタルス亭で困っている人がいるな。スパイダー・フォレストに忘れ物を取りに行きたいのだが、護衛を雇うお金が無いと言っていたよ」

「分かった。ありがとう」

「では、くれぐれも帰り道には気をつけて」

 

私は情報屋の部屋を出て、ジャンク・ハウンズという店を後にすることにした。次に、娼館を経由して平民層へ向かった。娼館はアンダーグラウンドと平民層を繋ぐ唯一の場所であり、地下でも地上でも多くの娼婦たちが客引きをしている。私はその中をすり抜けて、ナタルス亭に向かった。

ナタルス亭は地元でも人気の酒場で、いつも賑わっている。その中でどうやって困っている人を探せば良いのか。しかし、そんな心配はすぐに解決された。

 

「すみません、そこの方!」

 

カウンターに座っていた男性に声をかけられた。彼は若い男性で、私より少し年上といったところだろうか。少し破けたシャツにズボンを履いており、あまり清潔感は無かった。あと磯の香りがした。漁業の仕事でもしているのだろうか。

 

「どうしたの?」

「実は、ちょっとお願いしたいことがありまして……」

 

私は男の隣に座った。

 

「何?」

「あの、この街の近くにあるスパイダーフォレストという所で、指輪を落としてしまって……」

「探して欲しいと」

「はい!お願いできますか?」

 

男はそう言って頭を下げてきた。

 

「の前に、まずは報酬の話をしましょう。ただ働きとはいかないから」

「えっと……金貨2枚でどうですか?」

「足りない」

「じゃあ3枚……」

 

私は首を横に振った。

 

「では、祖父が使っていたブーツを……」

「待って、そのブーツは魔法がかかっている?」

「は、はい。祖父の代から伝わる由緒正しい靴です」

「それでいいよ」

「ほ、本当ですか!?」

「どこで落としたか分かる?」

「はい……。確か、洞窟の奥にある蜘蛛の巣辺りで落としました」

「どうしてそんな奥まで……?」

「その……酔って友達との度胸試しで入ったら落としちゃって」

 

私は思わず天を仰ぎそうになった。

 

「他に特徴は?」

「黒い宝石が埋め込まれています」

「それだけで十分」

「あと、嫁にこの事は伝えないでください。絶対に怒られるんで」

 

そりゃそうでしょと言いたくなったけど、それもグッと堪えることにした。

 

「分かりました。お任せ下さい」

「あと、俺がデッド・キャリアで賭けていたということも内緒にしてください!」

「それは聞いてないよ!」

 

思わず声を上げて突っ込んでしまった。

 

「……わかったから安心して待ってて」

 

私は呆れながらも、依頼を引き受けて店を出た。早く帰らなければ。もう空に暗闇が広がってきている。私は急いでウッドロック・インに向かおうとするけど、殺気のようなものを背中から感じた。その殺気はどこまでも冷たく、まるで氷柱のように鋭かった。私を狙っているに違いない。裏路地に入り、私は後ろを振り向いた。

 

「さっきからどうしたの?」

 

そう声をかけても人の姿は見えない。だけど、確かに気配を感じる。私は剣を抜いて構えた。神経を尖らせながら周囲を警戒する。

 

「……っ!」

 

殺気は上から降り注いだ。強襲を剣で防ぐ。金属同士がぶつかり合う音が響き渡った。暗殺者は身を翻しながら着地し、ナイフを構え直した。黒いフードを深く被った人物だ。顔はよく見えないけど、敵意は剥き出しだった。

 

「今は急いでいるの。さっさと終わらせる」

 

私が駆け出すと、相手もそれに合わせて走り出した。影が道を覆い尽くす中、戦いは始まった。




名称変更:20230603
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