女剣士と女勇者が出会うまでのお話   作:____―--

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V

オラニエ大陸の西端は高低差がある地形で、数々の丘が連なっていた。断崖は少なく、平原が広がっており、穏やかな気候。夏でも涼しい風が吹いていて、冬になれば雪が降ることもある。時々、柵で囲んだ広い土地があり、そこでは牛を飼っている農家がいた。そんなパストラーレな風景を楽しみつつ、馬車は走っていく。まずは王都から発つ馬車に乗り、次に町で乗り換えるなどして、時間をかけて到着した。ネランサングは小さな町だが、学びに行く人のために多くの宿が用意されていた。

 

「意外と小さい町だなぁ……」

「町の機能がほとんど大学の方に行っていますので」

「じゃあ、あそこの奇妙な建物群が大学というわけか」

 

大学は森に囲まれているが、木の高さよりも高い建物が少しだけ頭を覗かせていた。その建物は石造りで、窓は無く、屋根には煙突が立っている。

 

「行こう」

 

私達は大学の敷地内へと入る。様々な建物が並んでいて、学生らしき人達が多く歩いていた。私は教授らしき先生を見つけると声をかけていた。

 

「すみません!あの……!」

「何かね?話しかけた動機次第では減点……これはシンシア様でしたか。どうされました?」

 

話しかけた時は関わらないでくれと言ってるようなオーラを出していたけど、私の顔を見るなり態度を変えた。

 

「あの、ここでおじさん……リサンダスについて教えてくれそうな人はいますか?」

「リサンダス様ですか……。彼は魔術というよりインカーテーションの分野の研究をしていました。勿論、教える時は魔術を教えていましたが」

「インカーテーション?」

「簡単に言えばおまじないみたいなものですね」

「へ、へぇ……」

「さ、こちらにどうぞ」

 

案内されたのは小さな部屋だった。そこには本棚があって、たくさんの本が並べられており、机の上にも大量の書物が置かれていた。

 

「ここにあるものは全て彼の研究資料です。お好きなように見て下さい」

「ありがとうございます」

「では、失礼します」

 

そう言うと教授は出て行った。残された私達は皆顔を合わせた。

 

「多すぎて分からないよね……」

「とりあえず探してみましょうよ。何か見つかるかもしれないし」

 

私達は手分けをして調べることにした。しばらくすると突然、声が聞こえてきた。

 

「ふーん、興味深そうなことをしているじゃない」

 

驚いて振り向くとそこにいたのは一人の少女だった。金の長い髪を二つに結び、赤い瞳をしていた。身なりからして学生という感じがする。彼女は微笑むと口を開いた。

 

「リサンダス様の研究室、中々入れなかったけれどようやく入れたわ。あなた達って関係者かしら?」

「えっと、関係者です……」

「あら、それは良かった。だから入れたのかしら?まあいいわ」

 

少女は研究室にある資料を片っ端から読み漁っていた。

 

「これは見た。これも見た。あっ、これも」

 

一冊一冊を手に取るとパラパラとページをめくって元の場所に戻した。

 

「あのお嬢ちゃんは……?」

「ドア開ける音もしなかったですよね……」

「ねえ、あなたは誰なの?どうしてここに来たの?」

 

私が質問を投げかけると、その女の子は振り返りながら答えた。

 

「あたしはマーナ。授業が退屈過ぎて抜け出して来たの」

「それはダメです。学生である以上、しっかり授業に参加しなければ……」

「もうマスターしたからいいのよ。それより興味深い資料が揃っているわね。魔法の流派を学ぶより面白そうなものがたくさんありそうだし。あっ、アポロエテルに関する資料があるじゃない!」

「アポロエテル?聞いたことない名前……」

「アポロエテルは黄金の女神様が使っていたとされる魔術系統なの。かなり高度な魔術だから学校などで教わる事は殆ど無いのだけれど……。でも、この資料を見る限りだと、どうやら独自のものみたいだわ。それにしても面白い内容ね。まさかこんな魔法があったなんて知らなかったわ!もっと早く知りたかったくらいよ!!」

 

マーナは興奮気味に話していた。しかし、私には何のことかよく分からなかったので聞いてみることに。

 

「あの、どういう事ですか?」

「ああごめんなさい。どこから話した方が良い?魔法の原理から?魔法系統の話?それとも特殊な体質であるスペルドレイナーの話?どれを聞きたい?」

 

私達は皆、彼女の持つ知識にちょっと引いている様子だったが、私は勇気を出して話しかけた。

 

「あの……、全部聞きたいです!」

「ちょっとお嬢ちゃん!?」

「分かったわ、じゃあまずは魔法原理について話すわね。と言っても、これはまったく解明されて無いからあまり話せることは多くないんだけど……。魔法には二種類あって、秘術と信仰なの。信仰は分かりやすいね。信仰している神様、英雄様から力を借りるというものだから。秘術は簡単に言ってしまえば魔力を使って奇跡を起こすというものね。派手なものが多いというのが特徴かな。例えば、火の玉を出すとか、魔法の盾を出現させるとか。ではどうやって魔法というのが発動されるかというと、フロックスという物質を使うの。フロックスは世界を覆う織物のようなもので、その繊維一つ一つに魔素が含まれているの。繊維を揺らすことで魔法が発現されるというわけね。で、この星は人間という存在が生まれて数万年経っているけど、その間に何度も大変な事件が起こっているの。第二時代には魔力の大暴走でフロックスに傷がついて魔法が暴走したり使えなくなる場所などが出来たの。第三時代には色んな次元がこの世界に繋がる事件があって……。ってこれは歴史の話になってしまうわね。とにかく、魔法というのはフロックスと繋がる事で使えるようになるの。だから秘術は練習さえすれば誰でも出来るわね」

 

マーナが一呼吸置いたので周りを見てみた。エリオットが眠たそうにしてて、ドランとカルケーは近くの椅子で寝て、セリーナは資料などを見ながらメモを取っている。私は何と無く理解できそうで出来なかった。ふと疑問に思った事があったので私はマーナに話しかけた。

 

「私は魔法かどうかは分からないけど、不思議な力を使いこなすことが出来るの。剣から魔力爆発するような光線を出したり、何もしないでも動いてくれる魔法玉みたいなものを作ったりする事が出来るの。何だろうって。特に魔法学校通ったことはないんだけど……」

「それは興味深いわね。魔法は使えなくても魔力は使いこなせるということかしら?」

「うーん……、多分そうだと思う。魔力の使い方はリサンダスおじさんから教えてもらったから」

「えっ?リサンダス様に?」

「うん」

「嘘……。リサンダス様なんて滅多に弟子なんて取らないはずなのに……」

「シンシアさんは勇者の素質があったからこそ、リサンダス様は弟子にしたのでしょう」

「待って!あなた勇者だったの!?」

「うん、一応」

「わぁ、凄い……。いきなり有名人に会っちゃった。サイン貰おうかしら」

 

そう話していると、先程の教授が部屋の中に入ってきた。

 

「マーナはどこかね!?」

「では、失礼」

 

マーナは資料の山を抱えながら自身で作ったポータルの中に消えていった。

 

「全く、授業をサボりだしたと思ったら今度はリサンダス様の研究室に入り浸るとは……」

「あの、マーナって子は一体……」

「話せば長くなります。茶と共に話しましょう」

 

私達は教授に連れられて研究室を出た。案内されたのは小さな会議室のようなところで、テーブルの上にはお茶の入ったティーカップが置かれており、お菓子なども用意されていた。

 

「さ、どうぞ」

「ありがとうございます」

 

座った後、教授は話し始めた。

 

「マーナは約半年前にこの大学にやって来たのです。彼女は大変優秀で、本来なら数年かけて学ぶような事も数ヶ月でマスターしてしまいました。彼女は独自の研究を始めまして……」

「独自の研究?」

「はい。本来、秘術魔法というのは8つの流派に分かれています。しかし、彼女は流派に属しない魔法を研究し始めたのです。いつしか、その好奇心が災いとなってシャドウマジックに触れてしまうのではないか、と心配しており……」

「シャドウマジック?」

「はい。フロックスの裏側となるエネルギーを利用した魔法の流派です。有名な魔法としては別次元との境界をこじ開ける魔法、人格の分裂を行う魔法、そして、影を操る魔法です」

「その魔法は危険なのですか?」

「危険です。強い精神を持っていなければ、負の感情を持った別の人格が巨大な悪魔として具現化してしまう事もあり得ますし、フロックスを傷つける事になりかねません。また『永遠の夜の会』はシャドウの研究、使用を一切禁止しています。探知されれば直ぐに異端魔術審問会がやってきます」

 

するとまた近くにポータルが出現した。そこからマーナが現れた。

 

「シャドウは流石に触れては無いわよ」

 

そう言いながら彼女は書類の山を近くに置いた。更に分厚くなっているような気がする。

 

「整合性の確認をお願い。一応、実践できた魔法を纏めておいたわ。それと、さっき出された課題も大体出来たから、あとで見ておいて頂戴。また来るから」

 

まとまった資料の一部を置いた後、彼女はまた何処かへ行ってしまった。そんな彼女を見て教授は上を仰ぎため息をつく。

 

「あまりに優秀過ぎても困ったものですな……」

私は彼女に渡された資料を見てみる。そこにはあまりに専門的過ぎて解読できないほど難しい文章が書かれていた。

「あっ、良い事思いついた」

 

唯一私達の中で起きているセリーナが何か閃いたみたい。

 

「どうしたの?セリーナ」

「ねえ、今すぐマーナを卒業させられないかな?私達の仲間に欲しいの」

「えっ!?どういうこと!?」

「ん?最初見た時からずっと思っていたの。今まで私達はリサンダスの魔法に頼っていたけど、今は違う。魔法が使える人が仲間にいるだけで心強く感じないかなって」

「確かにそうだけど……」

 

教授の方を見てみると、彼は少し戸惑っていた。

 

「突然ですな……。確かに勇者御一行の仲間になるのは名誉な事ではありますが、決めるのはマーナ本人であって、こちらが勝手に決めるわけには……」

「学校側としてはいつでも卒業させてもいいって事?」

「それは……はい。しかし、永遠の夜の会は彼女を引き入れたいと思っているので……」

「後でもいいじゃない?とりあえずマーナがどう思っているのか聞いてみよう」

「分かりました。では、まずはマーナと話をしてみて下さい」

 

飲み残した茶や菓子を置いて私とセリーナは会議室の外に出る。今いる建物は外客を迎え入れる為の建物らしく、廊下の先には中庭があった。そこでは学生達が魔法の練習をしていたり、談笑したりしている。学んでいる流派によってはローブの色や形が違うのは何と無く分かった。

 

「魔法の流派ってそんなに大事なの?」

 

私はふと思って聞いてみることにした。生徒たちの話を聞いてみると、派閥争いが激しいらしい。

 

「大事だね。流派によっては得意な魔法が異なったり、苦手な魔法が違ったりするからね。例えば幻術が得意なら死霊術が苦手になるとか」

「ふーん……」

 

しばらく歩いていると、流派ごとに分かれた建物があった。看板を見ると、様々な文字が書かれている。

 

「そう言えば、マーナがどこの流派だったのか聞いてなかったね」

「生徒に聞いてみましょう」

 

通りかかった生徒に聞いてみると、様々な反応があった。私が勇者だという事に感激して握手を求める人や、魔法見せてとせがむ人など様々だったけど、誰一人マーナがどの流派だったか知っている人は居なかった。それに流派ごとの寮に出入りする姿も見ていないという。次に、教授に尋ねてみると、マーナはいつも研究室に入り浸っており、あまり外に出ないという。その研究室の場所を教えてもらった私達は早速そこに向かった。

 

「地下室?こんなところに研究室があるなんて……」

 

案内された場所は地下にある研究室だった。扉を開けると、そこには暗いだけの空間が広がっていた。

 

「え?誰もいない?」

 

中に入って辺りを見渡すが、やはり人の気配はない。セリーナは壁に手を触れたり、天井を見たりしている。

 

「ううん、居るよ。奥の方に」

「本当?」

「この壁に触ると、ほら」

 

彼女が壁に触れると、その部分がすり抜けていった。その先は階段になっている。

 

「隠し通路になっているみたい。行きましょう」

 

セリーナの後に続いて進んでいくと、開けた場所に出た。そこは魔法の光が部屋中を照らしていて、机に大量の書物が積まれてある。そして、部屋の真ん中にマーナがいた。彼女は椅子に座っており、テーブルの上にはティーセットが置かれていた。

 

「よく探し出せたわね」

 

少女は顔をこちらに向けず、机にずっと向き合っていた。

 

「教授さんが教えてくれたよ。ねえ、私からお願いがあるんだけど」

「何?」

「私達の仲間に加わってくれない?」

「理由を聞いても?」

「魔法が使える人が仲間になってくれたら心強いと思ったの」

「ふーん……」

 

マーナは顔を私達の方に向けてしばらく考えた後、口を開いた。

 

「いいわよ」

「えっ、いいの?」

「ええ、平和な生活にちょっと飽きてたところだし。それに……」

「それに?」

 

少女は立ち上がって、壁にかけてある一本の棒を手に取って、ずっと見つめていた。

 

「もしかすると、あの子とまた会えるかもしれないし……」

「あの子というのは?」

「ちょっと前の話になるんだけど、私は孤児院で育ったの。大人になったらすぐに町を飛び出したかったけど、悪い人たちに騙され、多額の借金を背負わされてしまって、逃げるに逃げられなかった。そんな時、私と同じくらいの歳の女の子が助けてくれて、借金を一緒に稼いでくれようとしたの。色々あったけれど、その子のおかげで私は自由になられた」

 

セリーナは企む笑みをこぼしながら、マーナに聞いた。

 

「ねえ、その子の特徴とか覚えてる?どんな子なのか知りたいな」

「はっきり覚えているわ。白い髪が肩にかかるくらいの長さで、目は青くて……」

 

聞いて私は驚いた。思い当たる人物が一人いたからだ。つい少し前まで共に旅をしていた仲間の一人で、私の大切な人。

 

「で、剣一本だけど魔物、人、どっちでも凄い強いの。それから……」

「もう大丈夫。マーナ」

 

彼女の話を遮って声をかけた。

 

「私、その人の事、多分知っていると思う」

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