女剣士と女勇者が出会うまでのお話   作:____―--

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どうして
2023/11/02:登場人物の名称を変更


2

王都クリスタリアのある夜の事だった。辺りは静まり返り、影の人間達が暗躍する時間だ。汚れた建物の中に荒くれ者達が屯し、酒を飲みながら下卑な会話で盛り上がっている。

 

「今日の稼ぎはいくらだった?」

 

男の一人が仲間に尋ねた。すると別の男が答える。

 

「大した額じゃねぇよ。そこら辺の連中を脅して奪っただけだ」

「俺は貴族のガキを攫って売ったぜ。奴隷商人からは金貨300枚で買われたらしいから、まぁ悪くない金になっただろうさ」

 

彼らは盗賊団のメンバーであり、ルクス・エテルナと繋がりのある組織でもある。暴力は勿論、敵対する貴族への揺さぶりなどを行い、時には人殺しも厭わない集団であった。この盗賊団は100人ほどで構成されており、衛兵達も手が出しにくい存在となっている。

 

「そういえば最近、黒い死神が暴れてるみたいだぞ?何でも夜、皆殺しに遭うとか……」

 

一人の男はそんな噂を口にしていたが、他の者は信じていないのか鼻で笑うだけだった。

 

「そんな奴がいるなら見てみたいな!」

「馬鹿言え!お前なんかすぐに殺されるに決まってる!」

 

男達は笑い合いながら酒を飲んでいた。ここは使われなくなった廃墟をアジトにしている為か、壁には穴やヒビが目立つ。だが彼等は気にしない。その時、静かに扉が開かれる音が響く。黒い外套に身を包んだ者が入って来たのだ。フードを被っているため顔はよく見えない。腰には剣を携えている。悪漢が一人、人物に近づいた。

 

「おいおい、顔が見えないじゃないか……見せてくれよ」

 

男はニヤつきながら声をかける。だが次の瞬間、男の身体はバラバラになって崩れ落ちた。血飛沫が上がる。黒の人物は左手に剣を握り締めていた。一瞬で斬られた事に気付く者はいない。

 

「なっ!?敵襲だ!お前ら出てこい!!」

 

仲間の叫びを聞いてようやく全員が反応を示した。武器を手に取り、戦闘態勢に入る。黒の人物は無表情のままゆっくりと歩き出した。悪漢達が一斉に襲いかかるが、一太刀のもとに斬り捨てられていく。瞬く間に死体が増えていく中、黒の人物はゆっくりと頭領が居る部屋へと近づいていった。次々に現れる部下は皆、一撃で殺されてしまう。遂に部屋の前まで辿り着くと、奴は躊躇なくドアノブに手をかけた。鍵がかけられているがお構いなしだ。力任せに押し開けると中に踏み込んでいく。数人の護衛と共に座っている男の姿があったからだ。

 

「流石だ、黒い死神。目的はなんだ?金か?」

 

頭領の質問に対し、黒の人物は何も反応はしなかった。頭領が続ける。

 

「お前は優秀な戦士だ。お前なら100万は容易く稼げるはずだろう?」

 

返事はない。頭領は側近に合図をする。側近達はスチームマスケットを持ち出してきた。この火器は一発ごとに装填が必要だが革新的な武器だった。側近達は弾を込めると黒の人物向けて構える。

 

「俺の首が目当てなら……」

 

側近達は引き金に指を掛けた。すると黒の人物は突然動き出す。同時に側近達は発射した。轟音とともに弾丸が飛び交う。しかし命中する事はなかった。黒の人物はすぐ様懐に飛び込んでくると、次々と側近達を切り伏せていった。そして最後に残ったのは頭領だけである。

 

「待て!取引をしよう!」

 

必死の形相で叫ぶ頭領だったが、彼の腹に刃が深く突き刺さった。そのまま持ち上げられると勢いよく投げ飛ばされる。窓を破って道の上に落下していく頭領の姿を眺めた後、黒の人物は側近達が使っていたスチームマスケットを拾い上げるとその場から立ち去った。彼女の腕は黒く染まっていた。

 

――

 

翌日、廃墟の周りには衛兵達が駆けつけていた。死体を運んだり、逃げ延びた盗賊達の捕縛を行っている。

 

「それにしても惨いな……。」

 

現場を見て呟いたのは衛兵隊長であった。壁には血がまるでペンキのようにこびりついており、床には肉片や臓物が散らばっていたのだ。中には人を超えた筋力で捻じ切られている者までいる始末。

 

「生き延びたやつから聞いても黒い外套を纏っていて姿形も分からなかったらしい。全くもって正体が掴めないです……」

「まさかこの大都市でこんな事件が起こるとはな……」

「指名手配はすぐにされるだろうけど……果たして見つかるかな」

 

衛兵達は口々に話している。側を少女と長い髪を後ろに結んだ男性が通り過ぎた。少女は白い髪色をしており、男性は黒い長髪である。少女は廃墟を見て口を開いた。

 

「どう思う?」

 

男性は少し考え込むと答える。

 

「悪くないと思います」

「そう」

 

長い髪の男性はアスターである。ある事情でアイラは彼と行動を共にしていた。アスターの容姿は黒い服装に長身痩躯という事もあり、第一印象は闇夜に溶け込みそうな程に暗い雰囲気を放っていた。昼のクリスタリアを二人は歩いていく。陽のあたる場所は大都市という事もあり、人が多く賑わっている。二人は噂話を聞きながら目的地へと向かっている最中なのだ。

 

「やはり黒い死神の話題で持ちきりですね……」

「そうね。夜になると人が殺される事件が起きてるから、みんな不安になっているんでしょう」

「確かにそのようで」

 

二人が歩いている大通りは多くの人で溢れかえっており、誰もが黒い死神の噂話をしていた。噂話にアスターは興味なさげに耳を傾けている。

 

「夜になると人殺しが徘徊しているんですって。怖いわねぇ~」

「本当よ!私も襲われないか心配だわ」

「人らしいけど顔を見た人はいないんですって。見たらきっと殺されてしまうんだろうなぁ」

「女王様のお膝元でよくそんな事ができるものだ!」

 

二人は大通りを過ぎて路地裏に入り込んだ。薄暗く、人気もない。だが二人の歩みは止まらない。やがて一軒の家の前で止まった。

 

「ここからはわたくしだけで行きます。どうぞお気遣いなく」

「待ってる」

 

アスターはグローブを嵌め直すと家に入っていった。アイラは周りを警戒する。少しして家の方から物音が聞こえてきた。物が倒れる音に悲鳴が聞こえる。すると裏路地の方から一人の人影が歩いてきた。フードに長いコートと近代的な格好をしている。人物はアイラの前に立つと足を止めた。人物は少しの間、アイラを見ていた。アイラは不気味に思い、いつでも剣を抜けるように構える。だが次の瞬間、人物は何かを取り出した。長い金属の筒である。同時にアイラも剣を抜く。お互いに命が奪える状況へとなっていた。

それから二人は沈黙していた。鼓動が高鳴り、緊張感が走る。だが、お互いに手を出すこと無く時間が過ぎていく。

 

「やはりな……」

 

人物は声を発した。低い女性の声が響く。フードを被っていて表情は見えないが、不敵な笑みを浮かべていると感じた。

 

「あなたもそっち側の人間なの?」

 

アイラは静かに問いかけた。人物は何も答えず時間が経った後、銃を下ろして踵を返す。アイラも剣を下ろして鞘に収めた。

 

「次会う時は、必ず仕留める」

 

女性はそれだけ言うと姿を消す。後には静寂だけが残っていた。

 

「お待たせしました」

 

しばらくするとアスターが戻ってきた。手袋は血で汚れて真っ赤に染まっている。

 

「怪我は?」

「全くありません」

「ならいい」

「先程の人物は?」

「分からない。次会ったら殺すと言われただけ。あと……私の事を知っているような感じがした」

「情報を漏らされると厄介ですね……。次会った時は殺しましょう。それよりも今は……」

 

アスターは歩き出した。後ろをアイラがついてくる。

 

「次の標的が決まりました」

「分かった。いつやる?私は今すぐにでも構わない」

「まあまあ落ち着いてください。準備が必要です」

 

アスターは悪魔の笑みをこぼした。

 

「まずは下見です」

「わかった」

 

二人は裏路地を抜け出すと、再び表通りに出た。

 

――

 

街は夜へとなった頃、建物の屋上に人影が見えた。黒い外套に身を包んでおり、顔は見えないよう深く被っている。手には剣を握り締めていた。死神の視線の先には都市の水路がある。突き当たりには暗闇の穴が広がっており、水が流れ込んでいた。黒の人物は屋上から飛び降りると、水路へと飛び降りていった。落下の衝撃はなく、足音もしない。まるで水面を歩くかのように進んでいく。

やがて突き当りまで来ると、小さな扉があった。

 

――

 

「今日の稼ぎは?」

「このぐらいで」

「随分と少ないようで……」

 

地下ではバファスを仕切る組織が集会を開いていた。大きな円卓を囲むように座っており、それぞれの前には金貨や銀貨が置かれている。

 

「連絡の取れない奴が何人かいるようだ……」

「連中は全員殺された。夜襲撃にあったようらしく、死体がバラバラにされてやがった」

 

会議を仕切る男は両手を頭の後ろに組むと椅子にもたれかかった。

 

「逃げたなら落とし前をつければよろしい。しかし、殺されたのなら大きな問題です。誰が殺したのか……」

 

別の男が口を開く。

 

「恐らく黒い死神の仕業だろう。目撃者の証言によると黒い外套を着た人物が目撃されている。」

「黒い死神……?」

「ああ、最近噂になっている殺人鬼だ。」

「それならば、我々で始末すれば良いのではないですかな?招き入れ、手を下しなさい」

 

部下の一人が突然会議に割り込んできた。

 

「ボス、分からないやつが突然、俺達のところにきやがったようです。どうしますか?」

「……見た目は?」

「顔を全く見せない奴で、真っ黒な格好です」

 

すると会議に居る全員が顔を合わせ、笑みを浮かべた。

 

「招き入れなさい。ただし、皆武器を携帯する事」

 

全員が頷くと、部屋の外から複数人入ってきた。部下が囲んで見張り、その中に一人異様な雰囲気を放つ者がいた。全身を黒いローブで覆い隠し、顔も隠している。

 

「まずはお座りを。紅茶でもいかがですかな?それとも豆を使った飲み物の方が好みかな?」

 

リーダー格の男の言葉に反応して、その者はゆっくりと腰を下ろした。しかし飲み物については何も言わない。座るとリーダー格の男は話し始める。

 

「さて、君は私達に甚大な被害を与えた。私がバファスを使徒達に与え、それらを皆に分配するはずだった。しかし、君が来て全ては変わった。私達は君の事を恨んでいる」

 

その者の目の前にいる男はバファスを牛耳る組織の長であった。彼は穏やかな口調で話しているが、内心は怒り狂っていたのだ。

 

「我々は君を殺さなければならない。だが、ただ殺すだけでは意味がない。我々の恨みを晴らす為にも、徹底的に苦しめてから殺す必要がある」

 

リーダー格の男がスチームマスケットを黒の人物に向けると、この空間にいる者全てが黒に向けて武器を向け始めた。

 

「これが君の罪だ」

 

合図と共に一斉に攻撃が開始された。弾丸が飛び交い、剣が振り下ろされる。しかし黒の人物は変異させ、穢れを鎧として全身を覆った。

 

「何!?」

 

場に居た者達は驚愕した。自分達が相手にしていた存在が、異形な化け物だったからである。姿は人型ではあるが、皮膚は黒く変色しており、頭部からは角が生えていた。銃弾や剣を身体で弾いている様子から、通常の生物でない事が分かる。彼らは一瞬怯んだが、すぐに態勢を整えて戦闘を再開した。

 

「撃て!撃ち続けろ!」

 

しかし黒の人物は剣を抜いて襲い掛かった。周囲に居た人間は切り刻まれて絶命する。この部屋にいた人間はほとんど死んだ。

 

「悪魔が……地獄からこの世を滅ぼそうとやってきたというのか……」

 

残ったのはリーダー格の人間だけだった。彼の前にいる悪魔はゆっくりと歩み寄ると、変異を解除させ人間の姿に戻った。手にはスチームマスケットが握られている。

 

「お前は……誰なんだ……?」

「この世に蔓延る光を消す者よ」

 

そう言うと銃口を男の額に押し当てて引き金を引く。同時に悲鳴が上がり、血飛沫が上がった。また、組織が一つ壊滅した。空間もまた血の海へと変わっていく。すると背後に一人の人影が見えた。

 

「狂気に目覚めたな、友よ」

 

返り血を浴びた白髪の少女は咄嗟に振り返った。彼女はこの声に聞き覚えがあったからだ。

 

「グレイザー……!」

 

少女は憎悪に満ちた表情を向ける。迷宮を共に駆けた戦友であったが、今となっては少女の仇の一人となっていた。

 

「久しいな、友よ。ようやく立派な殺人鬼になったな」

 

白の少女は無言で男を睨む。髪を全て後ろにした男はナイフを回しながら歩いてくる。

 

「お前は幾多の組織を潰してきた。それで上から俺達に依頼が来たわけだ。お前を消せとな……!」

 

男はナイフを投擲するが、容易く避けると、接近して背にあった大剣で斬りかかる。しかし少女は剣を避ける。

 

「俺達は影の人間だ。人殺しでしか生きられない。それが俺達の運命であり、宿命なのだ!」

 

グレイザーは大剣を軽々扱いながら、素早い動きで翻弄していく。

 

「私は違う。私の道は自分で決める」

「いいや、お前はもう戻れない。狂気に囚われてしまった以上、人として生きる事は不可能だ」

 

男は懐からスチームマスケットを取り出すと発砲する。しかし、アイラは素早く反応して回避行動を取る。弾丸を避けた後、反撃として剣を振り下ろすが、男は後ろへ飛んで避けた。

 

「強くなったな、戦友よ。だが、まだ足りない。もっと強くなる必要がある。力が無ければお前の復讐は果たせないぞ」

「あんたに私の何がわかるというの!」

「わかるとも!俺とお前は本質が似ている!だからこそ俺はお前を放っておけないのだ」

「うっさい……!」

 

グレイザーは戯れのように戦う。しばらくすると手を緩め、距離を取った。

 

「ここまでだ。今回はお前の顔を見るだけで十分だ。……昔ともに戦った戦友達の事は忘れていないだろうな?ヘクサリア、テディ、彼らもお前を狙っている。いずれ会う事になるはずだ」

 

少女は少しずつ落ち着きを取り戻そうとするが、怒りは収まらないままだ。

 

「次は必ず殺す」

「ああ、楽しみにしている。では、さらばだ」

 

男の指先から閃光を放つと姿を消した。残されたのは黒い装いをした人物と、足元に転がっている死体だけである。

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