女剣士と女勇者が出会うまでのお話   作:____―--

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ベッドとテーブル、収納家具程度しかない小さな部屋で私達は寝泊まりしていた。宿は小さなところで、一階は受付だけになっている。二階より上が宿泊客のスペースになっている。起き上がって少しすれば、アスターが帰って来た。

 

「どうだった?」

「グレースフローラ区域で殺人事件が起こりました。家一つが崩壊するほどの被害で、家の中に居た家族は全員死亡しています。巨大な触手が地下から伸びてきて家を崩壊させたそうです。そして壁に血痕でメッセージが書かれていました」

「なんて書いてあったの?」

「『黒い死神に憎しみと愛をこめて』とだけ書かれていたようです。おそらくあなたへの挑戦状でしょうね」

「ようやく上が動き出したか……」

 

触手を使う辺り、ヘクサリアだ。とうとう三人のうちの一人を殺せる時がきたのだ。

 

「夜行きましょう。恐らく崩壊した家の地下に洞窟があります。そこにいるはずでしょう」

 

――

 

夜のクリスタリアは警戒が最大限になっている。大司教の暗殺、続く組織壊滅、暗殺事件が多発し、とうとう市民に外出禁止令が出された。冒険者達も依頼がなければ外に出ることは無いだろう。私は宿を出て街を見渡した。十数人単位で衛兵達が巡回している。

 

「裏路地を通っていきましょう」

「そうね」

 

フードを被り、夜の活気が消えた街を歩く。裏路地に入りしばらくすると、グレースフローラ区域の中に入った。この区域は歴史のある大樹や、庭園などが多くある場所だ。中流階級はここに居住を構えることが多い。

暫く歩き続けると、事件が起きた廃墟が見えてきた。崩れかけた建物を蝕むように触手が伸びている。辺りには人の気配がない。

 

「地下に無理矢理こじ開けたような穴があります。恐らくこの奥ですね」

 

アスターの言葉を聞いて私は穴の奥へと進んだ。中はかなり暗く、近くにあった木材に火をつけて明かりにした。壁も床も穢れに侵食されたような色をして、腐った死体の臭いが立ち込めている。この地下自体、生き物のように脈動しており、時折大きな音が響いてきた。

 

「大きな音がする方に彼女はいる」

「なら急ぎましょう。この穢れが地上まで侵食したら元もありませんので」

 

暗い道を進むと広い空間に出た。そこにはローブを被った信者らしき男達がいた。人数は五人ほどで、瞳を見れば穢れに侵食されたかのように目が黒く染まっている。

 

「来たか、異教徒の死神!ヘクサリア様がお前を殺せと仰っている!」

 

一人の男が叫ぶと同時に全員が一気に変異し、獣の姿になった。両腕が裂けて触手が伸びる。足からは鋭い爪が伸びていた。そして体の一部が肥大化し、その部分だけが別の生物に見えるようになった者がいた。

 

「カルトオブアルカナム、信者達に穢れを注入する事で異形化させる技術を持つ集団です」

「そんな事よりもまずはこいつらを片付けないとね」

 

剣を抜いてくるりと回すと、まずは一人目の男の胴体を切断した。上半身だけとなった男は口から血を吹き出して倒れ、次に二人目に向かって駆け出してすれ違いざまに首を跳ね飛ばす。アスターは唱えると魔法の鎌を出現させた。振り下ろすと黒い魔力が発生し、三人目を切り裂く。四人目も同様にして倒した後、最後の一人を見る。穢れに飲まれた信者はもう言葉を発しないただの怪物になっていた。人間という肉体を捨て、四本足で動き回るその姿はまさに化け物だった。

 

「……ああいう怪物は初めて見ました」

「穢れの第二段階だと思っていい。適応し始めた段階はあんな感じになる」

 

人の身長より微かに大きい四本足の怪物は走りながら近づいてきた。構えて機会を待ち、相手が飛びかかってきた瞬間を狙って斬りつける。獣の牙が私を狙おうと口を開いた時に頭から縦に真っ二つにする。地面に着地した瞬間を狙い、横薙ぎにして首を切り落とした。

「終わった」

 

剣についた黒い液体を振り払い鞘に収める。

 

「こういう獣には種別は無いのでしょうか?」

「無いと思う。今の本を見ても感染種、適応初期種、適応種とあるけど、これはあくまで分類上の話ね」

 

振り返って死体の方を見てみると、床から触手が生え、死体を吸収するように飲み込んでいった。終わるとまた何事もなかったかのように元に戻った。

 

「ヘクサリアはこうやって力を蓄えていくのね……」

「彼女の目的は?」

「分からない。お友達作りじゃない?」

 

地下の奥へ進むにつれて、壁や天井の色が変化していった。最初は緑だが次第に黒くなり、最後には闇のように黒くなっていた。胸のペンダントも振動の間隔が早くなっている。そして、大きな肉壁の前に来た。恐らく先にヘクサリアがいる場所だろう。

 

「アスター」

「何でしょうか?」

「終わるまでここにいて。これは私の問題だから」

「それも復讐でしょうか?」

 

私は答えずに前に進んだ。すると肉壁は扉のように開き、中に入った瞬間に閉じる。空間の中には宗教的な黒い服を身にまとった女性が立っていた。彼女は私を見ると微笑んだ。

 

「久しぶりね、アイラ。ケネブレスの地下での一件以来かしら?私達からあなたへのプレゼントは気に入ってくれたかしら?」

「プレゼントとは?」

「あら、あなた達が町を出た時に渡したでしょ?ルイン・チルドレン、適応型巨人。あなたはどれだけのものを失ってくれたかしら」

 

剣を強く握って彼女を睨んだ。本能的に怒りが込み上げてくる。

 

「ヘクサリアは私が何かを失うのを見て喜びを感じるの?」

「とても。だってそうでしょう?常に何かを失いながら生きているものよ。それなのにあなた達はいつも幸せそうな顔をしてるわ。私からエイデンを奪った癖に!」

 

彼女の声には憎悪が含まれていた。

 

「庇ったこと一つにそこまでに憎しみを込めるなんて……。やっぱりあなたの心は歪んでいる」

「あなたもよ。この教団も、力も、全てはあなたの全てを滅茶苦茶にするために用意したものだもの!さあ、無惨に死になさい!そして私の前に二度と姿を現さないようにね!!」

 

彼女の足元から数本の触手が突き刺そうとしてきた。剣で弾くと、彼女は次の攻撃に移って、今度は鞭のようにしならせた腕を振り下ろす。かわすと地面に大きな穴が出来ていた。ヘクサリアは無数の触手を操って攻撃を仕掛けてくる。恐らくカルト教団の教祖でもあるから邪教の信仰魔術が使えるのだろう。殺すなら、接近して切り刻むしかない。突き刺そうとしてきた触手一本を掴み取ると、そのまま引き寄せて彼女を蹴り飛ばした。

 

「ぐっ……!」

 

蹴られた腹部を押さえながら後退する彼女だったが、すぐに体勢を整えて再び襲い掛かってきた。しかし、突然足元から骸骨を束ねたような怪物が現れて突き上げて、咄嵯に飛び退くと触手に亡骸達が絡み付いているのを視認できた。

 

「悪趣味にもほどがある……!」

 

吐き捨てると、私は彼女に斬りかかった。だが、亡骸達は私の行く手を阻もうとするかのように立ち塞がった。そこに彼女の魔法が飛んでくる。毒の液体が私に降りかかる前に剣で弾き飛ばすと、続けて放たれた光線も同じように防いだ。そして、目の前にいる亡骸達に向かって突進すると、次々と切り裂いて行った。だが、斬っても斬っても次々に現れて邪魔してくる。ポーチから一つの爆弾を投擲した。爆発を起こすと同時に亡骸達の体をバラバラにして吹き飛ばす。繰り返しているうちにようやく本体である彼女が姿を現した。この爆弾はイグナイトパウダーを少量混ぜて作ったものだが、効果は抜群に見える。突き刺そうとしてきた触手を掴み、ヘクサリアを引き寄せると彼女の身体を剣で貫いた。腹部を突き刺し、致命傷を負わせたはずだったのだが、彼女はまだ生きている。

 

「まだよ、私には力があるわ!」

 

彼女の上半身は突然、縦に裂けた。現れたのは骨と軟体が混ざったような醜い姿で、無数の骸を従える哀れな女王の姿。その姿を見ているだけで嫌悪感が湧くほどだった。

 

「今のそんな姿をエイデンが見たらどう思うかしら?」

 

もはや獣化した彼女に意思疎通の意志は無かった。ただ私を殺すという残された意志だけが彼女を動かしている。彼女はこの鼓動する戦場を支配できるようになっており、触手から魔法を放ち、辺り一帯を毒や酸、氷などあらゆる変化で埋め尽くしていった。毒は実験の影響で耐性があったとしても、酸は別。触手を使って跳躍し、なんとか地面に触れないよう回避していくしかない。だが、女王は飛行する獣を生み出し、私の方に向けて自爆をさせてきた。空中では避けられないため、防御壁を張って直撃を防いだものの、衝撃までは吸収できない。地面に叩きつけられてしまい、さらに追い打ちをかけるように酸の攻撃まで仕掛けてくる始末だった。

 

「ぐっ……」

 

左手で酸を防いだものの受けた傷は大きく、神経が繋がっていないような感覚に陥った。痛みに耐えながら立ち上がり、右手で剣を握り締める。再び戦おうと飛び上がると、右足に触手が巻きついていたことに気づいた。そのまま引っ張られていき、勢いよく壁に激突した。

 

このままだと死ぬ。そう思った瞬間、黒くなっていた手足が私の身体を飲み込むように侵食し始める。そして視界が暗くなるけど回復するのに時間はかからなかった。

 

意識が再び覚めた時、私は彼女の前に立っていた。神経が通らなかったはずの左手も、刺されたはずの右足も正常に動いている。しかし、それは私が望んだ姿ではなかった。穢れが鎧のように全身を覆っており、その姿は私が憎む相手とよく似ているものだった。

 

「最悪な気分だけど、力はある」

 

獣化をほぼしていると言ってもいい状態なのに、理性も残っているし、自分の意思で動かせる。驚きながらも目の前にいる敵を見据えた。

 

剣を握り直し、一気に距離を詰めて斬りかかる。触手が私の身体を突き刺そうとするが、穢れが鎧となって防ぎ、壁となる亡骸も力で突き破って進むことができた。女王との距離がもうすぐそこまで来たら、私は飛び上がって剣を振り下ろす。彼女は両手を前に出して受け止めようとするが、腕ごと斬ったことで体勢が崩れてしまった。そして怪物の核となる部分に近づき、核を守るようにある肉塊を腕で強引に引きちぎり、蹴り飛ばした。

 

「地獄で会いましょう」

 

剣を構え直して振り下ろすと、核となっていた部分は完全に砕け散った。すると、ヘクサリアだったものは少しずつ崩壊していき、最後には黒い液体溜まりとなる。彼女を殺すと、身体中にあった穢れが消えていき、私の中に戻っていった。

 

「げほっ!ごほ!」

 

急に咳き込んでしまい、こみ上げてきたものを吐き出してしまう。黒い液体が口の中から出てきて地面に落ちていく。吐いたせいか頭が痛くなってきて意識を失いそうになるけど、何とか耐えることができた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

呼吸を整えながら周りを見ると、侵食された壁や床は少しずつ元の色に戻っていく。入口に戻るとアスターが待っていた。

 

「復讐はしっかり果たしましたか?」

「ええ、ちゃんと」

「では、戻りましょう」

 

地下通路を戻っていく途中、アスターが口を開いた。

 

「かつて仲間だった者を殺すというのはどういう気持ちでしたか?」

「別に。ただ殺すだけよ」

「そうですか」

 

憐れみのような声色で返事をした彼は何も言わなかった。私はそのことに少し苛立ちを覚える。だからなのか、無意識のうちに言葉が出ていた。

 

「何よ、その目は」

「機嫌を損ねたのなら、謝罪します」

 

そういう意味じゃない。苛立ちを中で消化している私に対して彼は冷静だ。それが余計に腹立たしい。結局、この男とは分かり合えないんだろうと思った。そして、そんなことを思っている自分が一番嫌になった。

 

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