女剣士と女勇者が出会うまでのお話   作:____―--

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Never for ever III

 背中の剣を抜き、ローブの男に刃先を向ける。

 

「邪魔するなら、痛い目見るよ」

 

 男に意思疎通の意思が無いことはすぐにわかった。右手の人差し指ですぐさま描き出し、空間は一瞬にして凍り付く。床は歩行困難なほど厚く氷が張っており、マーナの足の自由は奪われた。フードの影は目を覆うが、真っ白な唇が不気味に蠢いており、まだ余裕を感じられた。

 

 マーナが両手から熱を発して氷を溶かす間、表膜の上を滑り、接近をはかる。しかしそう簡単には近づかせてくれない。床の上から突如として氷柱が貫こうと伸びてくる。飛んで避ければ、壁から氷柱が。避けられないものは斬り刻んで氷のつぶてに変える。ここで氷が少しずつ水へ変化していることに気がつく。魔法使いの少女が立ち上がり、ようやく行使できるような状態に床は変わっていた。

 

「ああもう、服が濡れちゃったじゃない! これはお返しよ!」

 

 マーナは両手の間にに水や氷が球体となって集まり、それが音速で放たれた。水と氷がぶつかり、水圧がローブの男周りに抉れ跡を残す。男の顔に傷跡をつけた程度だった。恐らく瞬時に身を守るような魔法が発動している。魔法使いと戦うのは魔物よりも難しい。初等の魔法使いでも二十ほどの魔術を行使してくるし、上級の者なら二百は平然と超えてくる。何をしてくるか完全に把握するのは難しい。得物のみで戦うなら、まず接近できないと話にならない。

 

 男の次の手は手から雷を放とうとしていた。辺りは氷が溶けて水浸し、雷が流されてしまうと伝わってしまい、私もマーナも無事では済まない。

 

「妨害して!」

 

彼女の叫びに応え、咄嗟にベルトから投げナイフを二本射出。男の右腕狙ったが、磁力が働いたのか、ナイフは弾かれた。

 

「あたしが!」

 

 彼女の指先から線が一つ、男の右腕を掠めた。指先から放たれようとしていた魔力が途切れ、雷は天井へ。その時にようやく男の目を捉える事ができたが、その目は不気味なものであった。二度と目を開けることができないように、もしくはあたかも元々無かったかのように、両目部分を縫い付けるようにしていた。瞼というものが確認できない。身体を人の手で作り変えられたか、あるいは人ならざる者か。

 

 魔法が解かれた合間を潜って刃が通る距離へ届こうとしたところで、またも男の魔法が発動。衝撃波が放たれ、宙飛ぶほどに吹き飛ばれた。その時、男は指先を使って行使をしていなかった。つまり"備え"の魔法を使っていたことになる。近づかせないための策を何重に張り巡らせていたのだ。

 

 これまでの傾向を見てみる。近づけない、魔術を多く使える。力だけで戦うのは有効ではない。マーナは戦いに慣れているようには思えない。相手は低く見積もっても上級の魔法使いだ。マーナにどれだけの実力があったとしても、奴がこなしてきた数と経験には敵わない。有効策があるとすれば。

 

「マーナ、安全なところから魔法を使って。内容は私を助けるものならなんでも」

「わかったわ!」

 

 大雑把な指示だったが、それでも彼女は理解してくれた。守りの魔術を複数、身軽になる魔術を二つ。私が近づいて無力化する、その方法が最善策だ。

 

 男は水浸しの私目掛けて雷を放つも、痛みも傷も感じる事なく、まっすぐ男に近づく。そこから奴のローブの揺れが激しくなる。短い間隔で、爆発、氷柱、衝撃波、次々と魔術が放たれる。それらを弾いては、距離を詰める。やがて最後の氷壁を体当たりで砕いた時、刃が届く距離に居た。男の口は驚愕と憎悪に歪み、存在しない目は恐怖で血走る。刃は、男の身体を喰らう事なく、首をはねる事なく、右手の人差し指を微かに切るように、その指へ。彼女の約束は破る事になるも、最小限の違反で。

 

 男の指から血が一滴、床に落ちる。その瞬間、奴は魔法を行使する事はできなくなった。魔力の伝わり道が少しでも途切れれば、魔法は発動しない。神経を断つ程度に、指を斬るだけでよかった。奴は指先を必死に動かすも、魔法は一向に発動しない。やがて、男は指先を押さえながら作り出したポータルに、逃げるように入っていった。

 

「やったの……?」

 

 マーナが恐る恐る聞いてきた。頷くと彼女の表情には安堵があった。だがすぐにその表情を引き締める。親玉をこれから締めてやらなければ。

 

「さて」その言葉で彼女は察してくれた。汗いっぱい、あんなところが濡れてしまっていた情けない悪の親玉に、足一歩ずつ詰めていく。

 

「契約違反は重い罰が下る。覚悟はいい?」

 

 刃を向けると先端に先ほどの赤い一滴が垂れる。

 

「ま、待て!待ってくれ!」私を殺せるであったろう頼みの綱は断たれ、盗賊のリーダーはただの小物へと成り下がる。

 

「彼女の自由を数年奪った。その代償は? 金を引き渡して彼女を自由にする、その契約を自ら破棄した。その責任はどう取る?」

「それは、その」

「今ここであんた達の生首を町横一線に並べてやってもいいし、あんたに指示した連中がいるならまとめてそいつらも」

「待て!待ってくれ!」

 

 男は額を床にこすりつけた。なんと情けない姿だろう。命乞いの瞬間、プライドなど全て吹き飛んでしまったようだ。

 

「契約は果たさなくてもいい! あいつはもう自由だし、金を払う義務もない!」

 

 頭下げた男の頭を足でさらに床に押しつける。

 

「私ではなくマーナに誓え」

 

 さらに圧をかけようとしたところで、金髪の子が左肩に手を置いた。

 

「アイラ、もういいわ」

 

 彼女の声は穏やかで優しい声だった。剣を納め、彼女に従う。しかし次の声色で、内心破顔してしまいそうな発言をした。

 

「奴らの罪の量は、あたしが決める。異論はないよね?」

 

 低く、そして怒りに満ちた声。そして頭領を魔法の鎖で縛り、そのまま引きずっていく。水浸しの空間を抜け、幾つもの部屋、上り階段を乱暴に引きずって、やがて陽の光のもとに奴は晒された。

 

 裏路地の中、彼女は魔力纏って胸ぐらを掴みあげて、尋問を始めた。

 

「さあて、どんな面白いことが聞けるのかしらね。まず、あんたはウィザードを呼んだけれど、あいつとはどういう経緯で繋がったの?」

「あ、あいつらは秘匿された魔法使いの組織だ。大金積まれて頼まれたんだ。お前を監視して、街の外に出すなって」

「へえ。で? その組織は?」

「知らねえよ! 俺はただ、お前を街から出さないようにするだけでよかったんだ!」

 

 それから、マーナの尋問は十数問に渡って続けられた。嘘つき、悪態つけば彼女の掴んだ腕から電流が流される。感情的に、今まで抑圧された怒りを晴らすように、奴を痛めつける。人としての道を若干外れているかもしれないが、今までの彼女を思えば、当然の報いだ。結局、彼が情けなく気絶するまで続けられた。

 

 マーナは怒りが収まったのか、盗賊の頭領を縛って捨てた。私のところへ戻り、ようやく穏やかな表情を見せた。

 

「終わったよ」

 

 頷き、帰ろうとしたところで、マーナが再び険しい表情をして裏路地を睨みつける。

 

「もう、しつこいのよ」

 

 マーナの視線の先、裏路地から姿を現したのは、黒ローブ五人。言うまでもなくウィザードだ。彼女を捕えるため、今度は徒党組んでやってきた。剣を抜き、先を尖らせ、構える。

 

「契約を破棄したのはならず者達の方よ、それでも私達を邪魔する気?」

「ああ、彼女は魔法の素質が素晴らしい。よって私達が保護せねば」

「彼女の自由は関係無いと」

「危険だから。その強大な力は悪用されると脅威となり、善良な市民を脅かすだろう」

 

 黒ローブは青ざめた肌から唇を呪いのように動かし、彼女を捕えることを正当化しようしていた。苛立つように一歩前へ。連中を睨みつける。

 

「彼女の自由を奪いたいなら、私の首を掲げてからにして」

 

 言葉を合図に黒ローブの者達が一斉に両手を前に出し、何かを唱え始める。

 

「アイラ!」マーナが叫んで危険を知らせるが、一歩も退くこと無く、睨みつける。剣を振う事なく、誰かを斬ろうともしなかった。だが、頭の中では必ずどうにかできるという確信があった。

 

 マーナが指を動かし、魔法を行使しようとし始めた。しかし時間を考えても彼らの後出しになってしまう。やがて、黒ローブ達の力が強まり、爆発まで刹那的時間まで迫った。ここだ。意識を一点に集中させ、瞳から一点の力を一気に押し流した。

 

 すると連中が溜めていた魔力が暴発し、小規模の爆発が起きた。黒ローブ達は後ろに吹き飛び、身体を痙攣させて悶えていた。

 

「な、何をしたの?」

 

 マーナが聞くものの、私は何も答えなかった。また一歩踏み出し、彼女を遮る邪魔者どもを見下す。

 

「彼女には触れるな。今度こそ、お前の組織ごと潰してやる」

 

 黒ローブの一人が、畏れの声色で口を開く。

 

「見た事ない特性だ。我々の魔法を未知の力で打ち破った」

「大師に報告だ。彼女よりも奴の方が使えるかもしれん」

「彼女を捕獲し、その特性を解明する方が先だ。もしや、謎が解けるかもしれん」

 

 黒ローブの連中は、私を無視して話を進める。マーナは怒りを露にし、再び魔力を行使しようとした。しかし、私はそれを手で制する。やがて連中はポータルを開き、逃げ去った。

 

「アイラごめん。あたしのせいで、あいつらに目を付けられちゃった」

「邪魔するなら、潰すだけ」マーナの心配をよそに、淡々と答えた。しかし彼女は肩を掴み、真剣な眼差しで言った。

 

「アイラ、瞳が真っ赤よ。今までは青かったのに」

 

 彼女に言われても、鏡が無ければ自分の瞳の色を知る術は無い。それにしても、身体には未知の力が眠っているようだ。危機的、極限的な状態になった途端、謎の力が発現する。狙って出そうとできるものではない。頭の中の興奮が少しずつ静寂へ。やがて、いつものように静かな思考へと戻った。ふと、忘れ物があるとベルトから重たい袋をマーナに手渡す。

 

「連中が受け取ってくれなかったから」

「ほとんどあなたが稼いだものよ。あなたが持っていいのに」

「受け取って。持って、どこか遠くへ」

 

彼女は袋の重みで、それがどれほどの額かわかったようだ。しかし、彼女の表情からは喜びは読み取れず、ただ申し訳なさそうな面持ちだった。

 

「アイラ、あたし……」

 

マーナは何か言いかけたが、私はそれを遮った。

 

「頼まれごとは、これでけりにする。いい旅を」

 

 ああそうだ。彼女は夢の中で見た、村のあの子ではない。瞳の色からも、まとう雰囲気からしても、彼女は別人だ。なのにきらめくブロンドに惹かれ、理性を超えて彼女をどうにかしたいと、そんな衝動が湧いていた。ようやく酔いから覚めたように、心は落ち着きを取り戻す。彼女とこれ以上一緒にいたら、本来の目的すら忘れてしまいそうで、私は彼女に背を向けた。足を前に出し、外へ。

 

「って、ちょっと待ちなさーい!!」

 

 と、強烈な魔力が背に迫った。そう感じた時点でもう手遅れだった。今までで強烈なビリビリをもらい、私は膝から崩れ落ちた。

 

「きゃあっ」

「あっ! ご、ごめんなさい!!」

 

 私から彼女へのささやかなお願いである。どうか私以外の他人に、電撃などで危害を与えることはやめてほしい。

 

 マーナが慌てて私を抱き起こし、薬瓶を下手な手仕草で、無理やり口に押し込もうとしてくる。

 

「あぐっ、げほっ」

「ごめんなさい! 本当にごめんね!」

 

 痺れはすぐに回復した。マーナは何度も謝りながら私を介抱してくれたが、もうすでに大丈夫と告げ、彼女の手を押し戻す。

 

「アイラ、あのね」

 

 彼女は何か言いたげだった。このまま時間が過ぎても仕方ないし、押してあげることにした。

 

「言えば楽になれる? なら、言って」

 

 彼女はまだ戸惑いつつも、言葉を紡ごうとしている。やがて、目をまっすぐに大きく口を横に開き、私に告げた。

 

「あたし、あなたと一緒に旅がしたい」

 

 私はすぐには答えなかった。マーナは私の目を見たまま、答えを待っていた。

 

「私の目的にあなたを付き合わせたくない。敵だって多いし、危険が伴う」

「う、うるさい! 拒むなら、もう一回キツいのお見舞いするわよ! とにかく、あたしの居場所を一緒に探してくれる人を、あたしはアイラ以外に考えられないの!」

 

 彼女は怒りと焦りで声を上ずらせていた。またビリビリを食らいたくなかったし、突き放す気も無かった。

 

「自己責任で」

「わかってる」

「なら」

 

 私は手を差し出した。彼女はそれを両手で包んだ。彼女の手の方が温かい。私の手は、よほど血が通っていないのだろうか。

 

「よろしくね」

 

 頷き、裏路地の出口へ。彼女は手を離さず、そのまま出口までついてきた。ふと、頭の中に疑問が。いや、答えは分かり切っているが、彼女の確認が欲しかった。振り返って彼女を見れば、金色の髪がふわりと揺れ、赤い瞳が私を見つめる。わかっている。あの子の方が、より神秘的な色合いを秘めていた。

 

「マーナ」

「なに?」

「幼い頃、あなたと出会った事はある?」

「そんなのないわよ」

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